忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第100話 旅立ち

 ナルトの旅立ちの日、そんな大事な日に寝坊をしてしまった俺は前日夜中まで試行錯誤し続けて漸く完成した兵糧丸を小さな袋一杯に詰め込み、急ぎ身なりを整えて里の正門目掛けて走る。

 一応昨日ナルトが家に来て暫しの別れを告げられてはいるが、その時点では完成していなかったため兵糧丸を渡せなかった。

 故に今日この機会を逃せばこの一週間の努力が露と消える。

 走り続けること数分、途中見知った後ろ姿を見つけたが急いでいるために声を掛けずそのまま通り過ぎると、そこで漸く二人の後ろ姿を発見した。

 歳を感じさせない堂々とした歩みをしている自来也と、周囲の光景をよく眼に焼き付けようとしているナルト。

 周囲を見回している内にナルトが此方に気付き、驚いた様な表情を浮かべている。

 その反応で自来也も此方を振り向き、俺を見ると苦笑した。

 俺は彼らの前で止まると、軽く息を整えて乱れた髪を直すと、まず「どうしたんだってばよ」と俺に駆け寄ってきたナルトに袋詰めされた兵糧丸を手渡す。

 突然手渡された物が何か分からないが取りあえず受け取った彼は首を傾げて此方を見る。

 

 

「コレは?」

「俺からの餞別だよ。 本当なら昨日渡せれば良かったんだけど、まだ出来ていなかったからね。

 中身は特性の兵糧丸だから旅に役立つと思うよ?」

「兵糧丸って苦いからあんまり好きじゃないってばよ……」

「そういうと思って改良を重ねた特別製だよ。 黒いのがラーメン風味で白いのが団子風味……あくまで風味だから再現度に関してはあんまり期待しないでね。

 でも苦みに関しては極力薄まったと思うからナルト君でも食べられる味だと思うよ」

 

 

 普通の兵糧丸よりも材料費が掛かる上に手間も掛かるから市販の物より美味しくなってくれないと困る。

 特にラーメンの風味を再現するのがとんでもなく大変だった……材料を焙煎し粉末状にして練り込むだけだと兵糧丸からラーメン臭が凄いので、兵糧丸自体を少し塩を練り込んだ甘みを付けない飴でコーティングすることで臭いを封じた。

 団子風味の方もそのままだと虫が寄ってきそうな甘い香りが微かにするので、同じくコーティングを施している。

 それ故に普通の兵糧丸との大きな違いが見ただけでは分からないため、ナルトが袋の口から中を覗いて訝しげに此方を見た。

 

 

「う~ん……おっちゃんが言うなら信じるけどさぁ……ホントに苦くない?」

「殆どね、まぁ非常食だと思って持って行ってくれるかい?」

「分かったってばよ、ありがとうおっちゃん」

「いやいや、ナルト君こそあまり無理はしないようにね」

「それは約束は出来ないけど、強くなって帰ってくるから楽しみに待っていてくれってばよ!」

 

 

 兵糧丸を背嚢に入れて一人で門へ向かって駆け出すナルトを苦笑しつつも見送り、未だ此方を見ながら立ち止まっている自来也に一礼すると、彼も真面目な顔で大きく頷くとナルトの後を追う様に歩き出した。

 俺はそのままナルトと自来也が門を越えて出て行くのを確認してから、来る途中見かけた少し離れた位置にある電柱の後ろに居た少女に声を掛ける。

 

 

「声を掛けなくても良かったのかい?」

「掛けたかったですけど……恥ずかしくて……」

「ヒナタちゃんはもっと自信を持って良いと思うけどな。

 ナルト君も中忍試験が終わってから偶にヒナタちゃんの話をしていたよ?」

「本当ですか!?……嬉しい」

 

 

 まぁそれ以上にサスケのことを話していたけれど、そこは言わないが花ってものだろう。

 全くナルトはこんなに自分を慕ってくれる子がいるのに、その好意に全くと言って良い程気付かないなんてどれだけ鈍感なんだ。

 ナルトはサクラという娘が好きらしいが、その子はサスケが好きだという話……居なくなった存在は美化されるから中々太刀打ちが難しいというのに、本当に難儀な道を歩む子だな。

 

 

 その後も少しだけヒナタと雑談していたが、彼女は途中で稽古があるのを思い出したらしく急ぎ足で去っていった。

 少し前まで不仲だった親戚との関係が改善されたとかで稽古も苦しいだけではなくなったらしい。

 それに彼女自身中忍試験で少し思うところがあったらしく、強くなりたいという欲求が大きくなっているようで、偶に体術の稽古を付けてくれないかと頼まれる事がある。

 昔ならばいざ知らず、今は自分の事で精一杯だから断っているが、断る度に悲しそうに顔を俯けるのは流されそうになるので止めて欲しい。

 一人で帰る途次(みちすがら)、次に頼まれた時の断り文句を考えながら歩いていると、何やら大量の荷物を抱えたシズネを見かけ、声を掛ける。

 

 

「随分な大荷物だね……少し持とうか?」

「あぁヨミトさん! すみません、前が見えなくて難儀していた所なので凄く助かります!!」

「よいしょっと、でコレは綱手のお使いかな?」

 

 

 シズネが持っていた荷物の半分程を受け持ち、両手が塞がってしまったので顎で自分の持つ荷物を指す。

 微かに青臭い香りと消毒液の様な臭いが袋から漂っている所から見ると、医療関係の何かだろう。

 もしかすると俺には話せない内容かもしれないと思い「言えなかったら別に良いんだけど」と前置きをしたが、彼女は歩みを止めないまま普通にその問いに答えてくれた。

 

 

「いえいえ、別に隠すような事ではありませんから大丈夫ですよ?

 確かにコレは綱手様から買ってくるように頼まれた物で、中身は医療に関わる教材です」

「教材って事は弟子でも取ったのかい?」

「私じゃなくて綱手様がですけど……面白い子ですよ?

 ヨミトさんも何時か会うかもしれませんね」

 

 

 そう言ってウインクを一つ寄越してきたシズネを見て、彼女の幼かった頃をふと思い出した。

 昔はアンコ程ではないにしても、それなりにお転婆だったシズネも今ではすっかり木の葉有数の医療忍者……時の流れとは本当に早いものだ。

 弟弟子ならぬ妹弟子が出来て嬉しいのか、何処か楽しそうな雰囲気を醸し出しながら横を歩くシズネ。

 そんな歳を感じさせない俺としては娘のような可愛い存在なのだが、この子ももう28歳だ……いい人とか居ないのだろうか?

 綱手は色々あったから浮ついた話題が無いのは納得できるのだが、シズネはそろそろそう言った話の一つや二つあっても良いと思う。

 俺は少し老婆心を出してその件に触れてみることにした。

 

 

「そういえばシズネちゃんは彼氏の一人でも出来たかい?」

「へっ!? か、彼氏ですか?」

「そうそう、シズネちゃんのそういう噂は聞かないからね。

 実は良い人の一人でもいるんじゃないかと思っていたのだけど……」

「そんな人……そんな人居ないですよ!! 綱手様と一緒に居る間にそんな相手が出来るわけ無いじゃないですか……私に寄ってきたのは良い人どころか借金取りばかりでしたからね!!」

 

 

 思いの外激しく否定された上に、その理由が切なくて思わず涙が溢れそうになった。

 一先ず興奮気味に綱手に対する愚痴を言い始めたシズネを宥めつつ、火影邸への道を進む。

 俺は全く途切れないシズネの話を聞き、次綱手に会ったら先日に引き続き説教の一つでもしてやろうと心に決め、周囲から向けられる好奇の視線で少しだけ身を縮ませた。

 




遂に100話か……実際は101話だけど、長かったなぁ
と言うわけで次の話は外伝一本挟みます

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