苦節三年……ついにチャクラを練れるようになったぞ!!
やっぱり先入観がある状態っていうのは良くないみたいだ。
それに俺のチャクラ量は別に多いわけじゃなく、ポンポンと忍術使ったらすぐぶっ倒れるんだけどね。
もし影分身の術使えたら原作でナルトが使ってた裏技っぽい訓練方法が出来たんだけど、影分身の印も分からなければ、チャクラも足りないという無い無い尽くし。
しかしチャクラの量は一気には増やせないものの、筋トレと同じで鍛えることで少しずつ増やすことは出来る。
故に最近は一日に一回、保有チャクラのギリギリまで忍術を使う事を日課にしている。
因みに三年も経つと日常にも変化が現れるもので、別に仲のいい友達が出来たとかではないんだけど、店に関する変化が幾つか……。
特に大きな変化は主に二つあるんだけど、一つは本屋さんが家に商談を持ってきた事。
余った本の在庫を格安で良いから引き取ってくれないかという提案を持ってきたんだけど、俺としては全部を引き取るわけじゃないし、特にデメリットも無いと思ったので引き受けた。
本屋さんも売り切れない在庫を抱えるよりも、安くてもいいからお金になった方がいいのだろう。
もう一つは……最初の常連さんが余り店に来れなくなったという悲しい変化。
それでも月一で来てくれているから、本当にありがたい。
彼女が余り来れなくなった理由は下忍から中忍になったかららしいけど、三年で中忍になるのは非常に優秀らしくて、前に言っていた通り本当に彼女は出世するのかもしれないと密かに期待している。
それと彼女に関して若干気になる情報も一つ手に入れた。
如何やら彼女はお嬢様らしく、里の人からは姫様と呼ばれているという事。
でも俺この里で姫って呼ばれるような家系はうちは一族、日向一族位しか知らないんだよね。
うちはだったら……やっぱりあの子も死んじゃうのかな?
余り考えたくない事だけど、もしそうだったとしても俺に出来ることは無い。
もしあのイベントを崩すと確実にヤバい事に巻き込まれる。
あの仮面の人とか仮面の人とか仮面の人とか……なんなんだよ、あのチート技能。
最強チートオリ主並みの反則っぷりだよ?
超関わり持ちたくない!
ごめんよ、もし君があの一族だとしたら俺は君を見捨てることになる。
俺は出来れば君がうちは一族で無い事を望むよ。
「さてと、今日も一日頑張りますか!!」
暗い考えを打ち消すかのように俺は声に出して仕事の開始を告げる。
仕事の開始と言っても相も変わらず客は中々来ないんだけどね。
小さくため息を吐きながらいつも通りカウンターに入り、読みかけの本を読み始める俺。
アカデミーの教科書も腐るほど読んだので、最近は専門書の中に術のこととか載ってないかなぁって調べるのが主になっている読書だが、流石にそう簡単に見つかるわけもなく……偶に暗号化されたそれっぽいのが載ってる事があるって位だ。
何故暗号化されてるものが読めるのかって?
アカデミーの教科書を何十回も読み返したのは伊達じゃないって事だよ。
カウンターに座ってから2時間ほどで読み終えた本を机に置き、新しい本を取るために席を立とうとした瞬間、店の戸がガラガラと開けられた。
「へぇ……意外と整理されとるじゃないか」
「いらっしゃいませ」
「おぉ、店主か? 少し見させて貰うぞ」
「えぇ、ごゆっくりどうぞ」
顎髭をこさえた男性客はそう言って店の中を歩き始めた……新しい本は後回しだな。
どうやらこのお客さんは腰に忍具を付けていることから忍者らしい。
というかこの人どっかで見たことあるような気がするんだが……誰だっけ?
俺が何とか男性を思い出そうとしている内に彼は欲しいものを見つけたらしく、既にカウンターの前に立っていた。
「これを頼もうか」
「あ、はい。 50両になります」
彼は一度頷くと、ポケットから50両を取り出しカウンターに置いた。
ポケットに直で入れると激しく動いたら落とすと思うんだが……大丈夫なんだろうか?
そんな考えが頭に浮かんだが顔には出さず、商品を手渡す。
「50両ちょうどですね、こちら商品になります」
「ふむ、品揃えも良く値段も良心的だ……あの娘が気に入るのも無理はないか」
「気に入っていただけたようでなによりです、今後ともご贔屓に」
「そうだな、偶に寄らせて貰おう。
ところで店主よ」
「はい、なんでしょう?」
受け取った50両を机にしまってからお客さんの方を向き直ると、眼を細めて腰に付けたクナイに手を置く一人の忍者が立っていた。
何故に!? 俺なんかやらかしたか?!
混乱の極みにある俺に追い打ちを掛けるがごとく、男性客は言葉を続ける。
「お前は何者だ?」
「な、何者も何もただの古本屋です」
「にしては身体が良く鍛えられているし、チャクラも少なくない……もう一度聞く。
お前は何者だ?」
いや、マジでただの本屋だから!!
転生してたり、特殊な能力持ってたり、身体鍛えてたりするけど一般人ですから!!
だからそんな怖い顔しないでください! お願いします!
とんでもない威圧感を感じながらも答えないわけにもいかないので、何とか口を開く。
「た、ただの本屋です」
「ならば何故鍛えている?」
「何かあったときのために鍛えておいた方が良いかなって思って……」
「チャクラについてはどういう事だ?」
「それは……古本の中にアカデミーの教科書があったのでそれを見ながら興味本位でちょっと……駄目でしたか?」
「ふむ……最後の質問だ。
俺の顔に見覚えは?」
「基本的に店に籠もってるもんで……すみません」
俺がそう答えると、彼はクナイに置いていた手を離して威圧するのを止めた。
正直なにがなにやらって感じだが、何とか警戒は解いてくれたようだ。
思わず長いため息を吐いた俺は悪くないと思う。
そんな俺の様子を見て少し気まずそうな雰囲気の彼がゆっくりと口を開く。
「すまない、忍界大戦から10年以上経ったとは言えまだまだ気を抜けないんだ。
ましてや俺の生徒に関わることなら余計に慎重にならざる得ない」
「生徒……ですか?」
「ここの常連に金色の髪をした女の子がいるだろう?」
「あぁ! あの子の先生さんなんですか?」
「その通りなんだが、そう言えば自己紹介がまだだったな。
木ノ葉の里三代目火影を務めさせて貰っている猿飛ヒルゼンというものだ。
てっきりこの里で俺のことを知らないやつは居ないと思っていたんだが……俺もまだまだだな」
「ほ……火影様!?」
この人が三代目火影!?
年取った三代目しか覚えてないから全然分からなかった……っていうかそれどころじゃない!!
なんで俺の店に三代目が……いやちょっと待てよ?
さっき三代目が言っていた言葉を思い出すんだ俺!
たしか「俺の生徒に関わること」「金色の髪をした女の子」と言っていたはず。
金髪で俺の店に良く来る女の子はあの子以外居ない。
あの子はあの歳で中忍になるほどの才能を持っていて、一部の里の人からは姫と呼ばれ、白髪の少年と爬虫類のような仲間がいると……あの金髪娘綱手じゃねぇか!!!
どうすんだよ俺?! いきなり……いやまぁ既に三年ほど経っているけど、早速伝説の三忍の内の一人にエンカウントしてるじゃん!!
しかも三代目火影まで出てくるとか、俺にどうしろと!?
知らず知らずの内に死亡フラグの森の中に入り込んでしまったことを理解した俺は一気に顔から血の気が引いた。
ホント……どうすりゃいんだよこの状況。
主人公も十分チートオリ主だし、一般人とは程遠いだろとかいう突っ込みはスルー