オーバーロード ~ナザリックの華達は戦っている~ 作:SUIKAN
金銭での報酬はいらないと言われてしまい、カルネ村の村長はゴウン氏を怒らせてしまったのではと、見当違いな考えをして内心で慌てていた。
そんな彼へ、アインズは声を掛ける。
「実は、私はナザリックというところで魔法の研究をした
「そ、そうですか、なるほど。それでそのような格好をされているのですね」
村長は、まだどう転ぶか分からない話に不安の濃く滲む表情をするも、最後まで諦めず確認しながら仮面を付けた人物の話を聞く。
一方、アインズは村長の答えに内心驚く。それは、エンリの時にも感じたが魔法詠唱者という、ユグドラシルでの呼び名がそのまま通じているという事だ。
魔法詠唱者という括りは広い。
「なので、この辺りの知識が少ないのです。周辺情報を一通り教えて欲しい。そして、この話を他人には喋らない事。それを報酬とさせて頂きましょう。いかがかな?」
「……分かりました。このことは決して誰にも話しません。お約束します」
「良かった。私はあなたを信じます。魔法で縛ったりはしませんので。では早速ですが、お願いします」
それからアインズは、村長よりこの村が所属するリ・エスティーゼ王国、アゼルリシア山脈を隔てた東方のバハルス帝国、そして南部にある今、最も敵対しそうなスレイン法国についての概要を語った。
また人物についても、国王や『黄金』と呼ばれる姫、王国最強の戦士長の他、バハルス帝国の若き皇帝等についても大まかに聞くことが出来た。
結果、どう考えても――新世界に来てしまったようだ。
聞き返してもみたが、全く知らない固有名詞や地名の連続であった。思わず、変な声が漏れそうになったぐらいである。
当初、ユグドラシル関連由来の世界ではと考えたが関連はなく、かといって北欧神話等の現代に伝わるネタ的なものからも隔絶していた。
全くの別世界の様子。
確かに王族、貴族と平民らなどの身分制度等、中世に類似する部分も多々あるが、それらは自然と紡がれた体系の部類に思える。
王国は山脈を挟むバハルス帝国と仲が悪く、毎年のように南の平野で戦争をしているという。
しかし先程の兵達は、鎧に入る紋章がバハルス帝国のものでありながら、スレイン法国の兵と語っていた。二国間を争わせての漁夫の利という構図だろうか。
村内で回収した騎士の鎧は、他所で売って換金するとのこと。仮面の魔法詠唱者はとりあえず、話の最中に5セットだけ譲って貰えるよう村長と話を付ける。
帝国製の様だが、敵となるかも知れない軍隊の装備は、検証しておいた方が良いだろうと。
この時アインズは、新世界へ来たのが本当に自分だけなのかと考えてしまう。
ユグドラシルの運用が終わった24時に、ログインしていた人数は結構いるはずである。ここへ飛ばされた者らは、気持ち的に集まるのではと思う。出来ればナザリックもそれに参加したいところだ。連携に際して、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』内に関係のないところでは最大限譲歩してもいい。
それを考えると、ナザリックとしては当面非人道的な行動は慎むべきかと彼は判断する。早急に上位NPCらを交えて決定し、通達しておかなければなるまいと。
それから、現地住民や国家との敵対も当分避けるべきかもしれないとも浮かぶ。
まあ今回は、村を救うために仕方がなかったと言い訳できるだろう。
とはいえナザリックが一団として動く場合、今後の行動へ大義名分が必要に思えた。どこかの国家の傘下に入るべきかも含めて考えねばならない。
現在のナザリック単独でも、Lv.100のプレイヤー30名ぐらいなら同時に殲滅出来る戦力はある。プレイヤーはアインズ一人とは言え、
ただ、世界級アイテムの最大の力は、解放する
できれば、孤立無援の戦いはしたくないところ。
一つの勢力として、色々と検討することは多そうだ。
「……なかなか難しいな」
「どうかされましたか?」
「あ、いや。もっと、他の話を聞かせて頂きたい」
アインズに催促されて、村長が「では、モンスターについて……」と新しい分野の話へ入る時であった。
部屋の扉へノックが有って開かれると、奥方と――エンリが一礼の後、入って来た。
エンリは、心なしか顔が赤い感じである。
そして彼女は、村長とアインズ達が座っている机の傍まで静々と進み、ごくりと唾を一度飲み込んでから告げてきた。
「ア、アインズ様……不束者ですが、なんとか交金貨25枚でお願いしますっ!」
強めに目を瞑り頭を下げつつ、ドキドキのエンリ。
自分は、アインズが連れている豪奢で飛び切りの美少女達にはほど遠く、育ちも田舎娘。自信が有るのは健康な身体と頑張って働く事と貞淑さぐらいで、金額を吹っかけすぎてはいないだろうかと。
ここへ向かう途中の井戸で腕や顔も洗って髪も整え、すでに気持ちの入っていたエンリの宣言するような声の後、この場にしばしの静寂が訪れた。
それは、この場のアインズらには金銭の話が、すでに過去の事項になっていたからだ。
「えっ?」
「えっ?」
「ぇっ?」
「あれ……?」
アインズが初めに呟き、次は村長。そして、奥方、最後にエンリ自身も……。
「あの、アインズ様……私を連れて行きたいとのお話では……?」
エンリが恥ずかしそうに少しモジモジと、自分でアインズに確認してきた。
奥方は村長に「あなた、先程の説得の話はどうしたの? エンリが納得して――」と詰め寄っている。
アインズとしては驚きである。骸骨の姿で異常に怖がられ、失禁までされてしまった娘なのだ。そんな化け物へ、顔を赤らめて自分を売り払うという事に何故納得出来たのだろうか。
いずれにしても済んだ話に、彼は優しくエンリに答えた。
「オホン……エンリよ、もう心配はいらない。報酬は別の形でもらう事になったのだ。君はこれからも変わらず自由だぞ」
「そ、そうなんですか」
エンリは、ほっとするはずが――その気が全くない自分に愕然とする。
この気持ちは一体何だろうと、自由は変わらないはずなのだが、とても大事で大きいものを失いそうに感じるのだ。
(感謝し尊敬するこの方へ、恩返しが何も出来なくなる――)
その思いが、彼女の心に大きく湧き上がって来ていた。それがエンリを異様に踏み込ませる。
「アインズ様……私……では役に立ちませんか? 銅貨1枚でも、いえっ、無くても構いません。どうか、どうかお傍で」
エンリも自分で何を言っているのかよく分からなかった。
ただ、この機会を逃せば恩人と深く交わることはもう無いと感じていたのだ。
エンリは目に涙を溜めていく。
その様子に、アインズが静かに立ち上がる。
(若いなぁ……これは時間を置いた方が良いだろう)
彼はエンリの傍に進む。アインズの身長は190センチ程あるように見える。
だが、エンリはもうそんな仮面の彼が怖くは無かった。
アインズは、エンリの左肩へと優しく手を置く。
「分かった。エンリよ、この件については後で話すとしよう、いいな?」
「は、はい、アインズ様」
エンリは、その言葉で僅かに笑顔を見せ少し落ち着いた。まだ縁の綱は残っていると。
そうして奥方と、エンリには退出してもらった。
エンリが居る間中、プレアデス二人から娘への視線が、何故か一段鋭かったように感じたのは、アインズの気のせいかもしれない……。
「ウチの家内がご迷惑を」
「いえ、気にしていません。それよりも続きをお願いします」
そうして村長より、モンスターとそれに関わる者達や組織の話を聞いた。
モンスターについての内容は、ユグドラシルとほぼ同じ構成に思われた。
一方、それらモンスターに対して、報酬に応じて活動する冒険者やワーカーが退治する仕組みがあるようだ。冒険者達については、都市部中心で各地に
それ以外にも傭兵など国家規模から個人規模まで、様々な各種組織が有るようだ。当然、魔法詠唱者は、各場所で多数が参加しているという。
次に、最寄りの都市の話を聞いた。
城塞都市でエ・ランテルといい、ここより南側の位置にあり、三重の城壁で囲まれ堅固に出来た大都市らしい。人口の詳細は不明だが、30万は優に超えているだろうと村長は話す。市に並ぶ物資量や質も良く、村からもよく麦などの産物を売りに行くという。また規模の大きい冒険者ギルドも有るとのこと。
ここでアインズは貨幣価値についてあえて確認した。すでに金銭での報酬は無くなったのだ。気にする必要は無くなっている。
「貨幣についてですが、金貨1枚に対して、銀貨は10枚、銅貨では100枚というレートでしょうか?」
「……いえ、金貨1に対して、銀貨20。そして、銀貨1に対して銅貨20がここ十年ほどの相場です」
という事は、銅貨3000枚は、金貨7枚銀貨10枚に相当するようだ。
為替で儲ける奴はいないのだろうか……。ナザリックの広い宝物庫は、兆を超える金貨の山で埋め尽くされている。それだけあれば変動させることは可能だろう。
それとも厳禁罰則事項なのか。或は金や銀等の流出入が本当に少ないのか。それとも他の力が? 謎は残る。
銅貨1枚で買えるものを聞いて価値を推察すると、日本円で1000円ぐらいか。
最後にアインズは、一つだけ不思議に思っていた事を尋ねる。
「言葉の壁とかはないのでしょうか?」
「はて……。どうも意思疎通の段階では存在しません。ですが、地域や文化によって文字の差は存在しています。そして、口の動きや喋るニュアンスも異なりますね。なので……恐らく意思疎通に関してだけ、世界規模で魔法でも掛かっているのではないでしょうか? ただ随分昔からそうなので、私どもにはその理由は分かりませんが」
話を聞いて、今の時点ではそう言うものだと思うしかない。しかし、アインズには考えが浮かんだ。
(――世界級アイテムの魔法か、それとも更に上位の統合システムの存在か……)
ナザリックの管理システムが動いているのだ。考えられる話である。だが、アインズは考えるのをそこで止める。キリがないと。
「情報の提供、ありがとうございました」
曖昧である点も多かったが、とりあえず大まかに周辺の情報や関係を知ることは出来た。
ここでアインズは、区切りを付けるべく立ち上がると、向かいに座る村長へとガントレットをはめたまま手を伸ばす。意図を理解したのか、村長も立ち上がり握手に応じる。
「では村長殿。この件は、内密に」
「はい、約束はお守りします」
アインズ達は、村長と共に村長宅から外へと出て来る。
雲はあるものの概ね日差しの有る天気だ。日は傾きつつある。村内は、今はまだまだ村人達が手分けをして、墓堀りと戦いの後片付けに追われている状況。
一行は中央の広場までやって来る。
アインズ達は
村人の男が一人、村長の所へとやって来る。
「村長、葬儀の準備が整ったので……」
「おお、そうか……アインズ様」
許可を求める村長へアインズが頷く。
「構いませんとも、私達の事はお気になさらずに」
村の外れにある村の共同墓地で葬儀が行われた。
墓石は丸石に名前を刻んだものが最上で、ぽつぽつとある程度。良く言えば質素だが、見すぼらしさは拭えない。
先の戦闘では、村人の3分の1を超える40名程が殺された。襲って来た兵団の騎士達の遺体は鎧等の価値ある物を剥がし、村外の離れた場所に纏められまだ仮置きしている。
なので、流石に一度で全部には手が回らず。
エンリと妹のネムも村人達と同様、墓を前に泣き崩れていた。
それを少し離れた位置から、アインズとルベド、シズ、ソリュシャンが見ていた。
すると僅かに後方の木陰下から声が掛かる。
「モモンガ様、御無事で……」
アインズが顔を向けると、そこには黒い杖である
「ん? マーレか。すまんな」
とととっと、プリーツのスカートが翻らないように、可愛く主の傍まで乙女に駆けて来る。
傍へ寄って来たマーレの頭を、アインズは優しく撫でてやる。
「悪いがナザリックに戻るまで、我々の後衛を頼むぞ」
「は、はい、分かりました。全力でお守りします。……あ、あの、潜んでいる僕らに気付かないで隠れている人間種の弱い一団を見つけたのですが……全部殺しておきますか?」
マーレはさらりと、害虫でも纏めて踏み潰すかのように、邪魔である兵団の殲滅を笑顔で確認してくる。彼女もナザリック以外の者には関心がないのだ。ただ一応と主へ確認しに来たのである。
「なに? ……魔法詠唱者は居そうか?」
「えっと、服装は皆
「そうか。では、まだそのまま泳がせておけ。頼んだぞ」
「は、はい、お任せを、では」
隠れている一団の目的は、この国の王国戦士長を暗殺するというやつだろう。
金色の髪とタレたエルフ耳を揺らした少女は可愛く背中を向け、てててっと小走りで去って行った。さり気なく、杖でお尻側のスカートを押さえながら。
(……マーレはかわいいなぁ)
アインズは暫しの間和む。
プレアデスの二人は、支配者による守護者マーレへのナデナデする寵愛がかなり羨ましく見えていた。
そんな中、ルベドは『なぜ姉妹が揃っていないのか』と不満気な横目で静かに見送っていた。
葬儀が終わり、村内へ戻った村人達が再び後片付けに精を出す。
アインズは、村の中央広場に戻ると仁王立ちしているデス・ナイト達を眺める。
(やはり、消えてないなぁ。ユグドラシルでの召喚時間はもうとっくに過ぎているんだけど)
考えられるのは、死体の依代があった事だ。どこまで存在できるのか、これも実験になりそうである。仮に存在し続ければ、永続的な戦力としても悪くはない。
それと、マーレから告げられた隠れているという一団は神官らと聞くも、階層守護者的にはすでに弱いという。
(この世界の上位者の強さは不明だけど、多くの者は――弱いのかもしれない。いや、油断は禁物か)
先程の戦いで見逃した騎士達から、『アインズ・ウール・ゴウン』の名はスレイン法国側に伝わるはず。その後どういうアプローチで来るかは分からない。でも、最初にこの周辺が探索を受ける可能性は高い。そこで、アインズを上回る強者が派遣されてくるかもしれない。
とにかく、その時まで当分、情報を集めることに注力しようと彼は考えていた。
(ナザリックの外部に、いつでも切り捨てられる、情報収集の暗躍組織を用意した方がいいかもしれないな。自室にずっと残していた調整中のNPCを使うか……)
そんな事も思いつつアインズは、ゆっくりと村長を探す。
「先ほどの隠れている一団を払うまでは、村へ残ると村長に伝えておかないとな」
プレアデスの二人は、黙って盾としてどこまでもアインズの後に付き従うのみである。
だが、ルベドはそろそろ――手持ち無沙汰を感じている。
彼女に至高の御方らへの尊敬の念は無く、された指示には従うが、基本は自由。今は姉アルベドの願いで、アインズを護衛しているに過ぎない。
「もう待つのが面倒。とっとと、その一団を消去すればどう?」
基本的に攻撃
「悪いな。確かにそうするのは簡単かもしれんが、物事には機や順序が有る。ルベドよ、面倒臭がるな」
「……分かった」
改めて指示を受けたので、ルベドはそれには従う。
アインズは広場から一つ通りに入った所にいる村長を見つける。なにやら数人の村人達と難しい表情で話をしている様子であった。
「何かありましたか?」
「これはアインズ様。……その、実はこの村へと馬に乗った戦士風の者達が近付いて来ているそうで。もしかすると先の暗殺話で出た、リ・エスティーゼ王国の戦士長、ガゼフ・ストロノーフ様の隊ではないかと」
「なるほど……」
劇の役者がそろったらしい。全て一連の問題であり、纏めて片付ける必要がある。
「任せてください。この王国の戦士長というのなら心配は無いかも知れませんが、一応村の人達は村長殿の家か安全な場所へ退避を。村長殿は私と共に広場へ」
村の男が広場の高所に吊るされた非常時用の鐘を鳴らし、部隊の接近を知らせる。アインズは、
広場には村長と、アインズ、ルベド、シズ、ソリュシャンにデス・ナイト一体で待ち受けた。
少し不安の混じる村長へアインズは話し掛ける。
「ご安心を。この件は先の戦いと一連の事象ですから、報酬はすでに頂いているという事で」
「あ、ありがとうございます」
村長は、
間もなく20余騎の騎馬兵が広場へとどんどん入って来る。まさに、自領へでもやって来たかのような形だ。ただ一団にしては、装備に多少バラつきが見えた。
(……正規軍じゃないのか?)
だが、雰囲気は似ており鎧の形状にしろ、兜の有無にしろ武器にも各自の洗練さが窺える。歴戦の戦士集団のようだ。
騎馬兵達の中から一騎、ガッシリとした屈強に見える男の乗った馬がゆるりと進み出る。
アインズは〈
「(ソリュシャンよ、どうだ?)……」
『……この戦士のレベルは27です。あ……この者だけ魔法的に近い、特殊ななにかを剣技へ乗せられるようですね。レベル的にはデス・ナイトより弱いですがそれなりの勝負にはなるかと』
「(特殊……?)……」
『ユグドラシルでは見られなかった系統で不明ですね。他の者達の大半は10台前半、3名が10台後半です』
アインズは、未知の力の存在に少し不気味さを感じた。レベルは問題ないが、特殊という剣技の威力と能力がハッキリするまで、様子を見るほうが得策だと判断する。
隊長らしき男の視線は、村長から巨躯のデス・ナイトへ、そして漆黒のローブを纏う巨躯の者らへと向かう。そこで暫く目が止まっていた。
まず、アインズを見たのち、次に後ろにいる女性達の美しさに目が囚われているように見えた。それから腕前や力量についての目測検討だろうか。そうして納得したのか貫録のある声で馬上より告げる。
「私は、リ・エスティーゼ王国所属、王国戦士長のガゼフ・ストロノーフだ。この近辺に現れた、殺戮を繰り返す帝国の騎士団を討伐する為に、王からの勅命を受けて村々を回っている者である」
村長から、王国戦士長は嘗て御前大会で優勝し、王直属の精鋭を指揮する王国最強の戦士と聞いていたが、それが――Lv.27程度――とは信じられない。
(……本物だろうか?)
アインズはまずそれを強く疑った。
この者が、小隊長とかなら理解できるのだが。一国の最強戦士ともなればLv.100が常識と考えるのは自然。信じるには依然、情報が少ないようだ。
ガゼフは、居並ぶ者5名程の者達の身形から、村長へ視線を止めて問う。
「この村の村長だな、横に居る者達は誰なのか教えてもらいたい」
勇ましい声だが、割と丁寧な言葉であった。
それに対して、アインズは軽く手を上げ、僅かに礼をすると答える。
「失礼。それには私自身が答えましょう、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村がバハルス帝国の騎士の鎧を着たスレイン法国の一団に襲われていましたので、助けに駆けつけた
「なにっ、法国だと!? 村長よ、そうなのか?」
「は、はい。このお方のおかげで村人の多くが救われました」
ガゼフは馬上からすぐさま降り立つ。そしてアインズへと心の籠った形で深々と頭を下げた。
「まずは、この村を救っていただき感謝の言葉もない」
アインズは僅かに目を凝らす。その真摯である姿に。
本当に王国戦士長なら特権階級の人物。身分も定かでない者へ敬意を示しているのだから、階級差が明確なこの世界では驚くべき行為になるだろう。
村のあの一方的に襲われた状況を考えれば、ここは安全も人権も保障などされていない荒れた力の世界。その世界にあって彼の頭を下げた行為に、この男の真っ直ぐであろう人柄が出ていると感じた。
もはや、ガゼフという人物が嘘を
彼が王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフなのだろう。
「……いえいえ。実際には報酬目当てですから、お気になされず」
「それにしても、スレイン法国とは……
「ええ、残念ながらそう名乗った5名の兵らは追い返してしまいました。ですが――安心してください。彼等は貴方を暗殺するためと言っていました。そして、その暗殺部隊はこの村の近くにまだいるみたいですよ?」
「……なんと……そういうことか。一応、村の外に数騎、監視を残しているが……」
ガゼフは、苦虫を噛み潰したような表情になった。
ここへ来るまでに見た村々の多くの犠牲者が、ただ自分を呼び寄せる囮として死んでいったのを知ってしまったから。しばらく目線を落としていた彼は、視線を上げるとアインズへ尋ねる。
「報酬とのことでしたが、ゴウン殿は冒険者なのかな?」
「……いえ、これまで長い間、遠方で魔法の研究に
「騎士の一団を無傷で退けられるとは、かなり腕の立つ方なのですな」
「私もそうですが、配下の者もそれなりなので」
「ほぉ」
ガゼフはやはりと、後ろの美女3人を見た後に
「あれも?」
「あれは、私の生み出したシモベです」
「では……その仮面は?」
戦士長の鋭い視線が仮面へと向けられる。
「これは、魔法詠唱者的理由によって被っているものです」
「……なるほど。外してはもらえないか?」
「やめておいた方がいいでしょう。あのシモベらが――暴走すると厄介ですから」
アインズの顔の向けた先にはデス・ナイトが静かに立っていた。
「えっ、アインズ様。ほかの2体もですか? そ、それは……」
1体だけでさえ、その強さを知る村長のギョッとして慌てる姿に、ガゼフは目を閉じ苦笑いすると呟く。
「どうやら取られない方が良いようですな」
「ご理解頂きありがとうございます」
「……では村長。悪いが、部隊を少しこの村で休憩させて欲しい。臨戦態勢で剣も持ったままでもあるし、もちろんこの広場で結構だ。それと、もう少し詳しい話をどこかで聞かせていただけるかな?」
攻撃を受けたばかりのこの村に、またも剣をぶら下げた者達が大勢いるのは落ち着かないだろうと、ある程度の配慮の言葉が入っていた。
「わ、わかりました。では私の家でお話を聞かれては」
「すまないな、村長。ゴウン殿もよろしいか」
「ええ、構いませんよ」
だが、村長、ガゼフ、アインズらが移動し掛けようとしたところで、騎兵が一騎、声を上げ広場へ飛び込んで来た。
「戦士長! 周囲に多数の神官風の姿をした人影を確認。すでに村を包囲した状態で、寄せて来つつあります!」
ショーの幕が今、上がる。
新世界貨幣レート
金貨1=銀貨20
銀貨1=銅貨20
銅貨1枚が日本円1000円相当として、
銀貨1枚は2万円程度
金貨1枚が40万円程度
ユグドラシル金貨はこの世界の金貨2枚分以上で80~100万円程度
原作でベリュース隊長が言った金貨500枚って全財産だろうけど2億円……。
あくどい隊長は、金持ちですねぇ。
カルネ村:生き残った慎ましい住民八十名余
感謝の代金、銅貨3000枚、金貨7銀貨10……300万円也。
やさしい笑顔と気持ちはプライスレス。
……何という貧富の差よ。
モモンガの出したユグドラシル金貨にビビる訳ですね。
カルネ村編は、エンリとかの残処理が色々あるかも……。