オーバーロード ~ナザリックの華達は戦っている~   作:SUIKAN

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STAGE24. 支配者王都へ行く/暗躍ノ衆ト薔薇ノ棘(8)

 焼け落ちた惨状の大都市、エ・アセナル近郊の廃墟の中で、アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』のリーダーであるラキュースは、物陰から上空と周辺の様子を慎重に窺う。

 

「もの凄い数の竜ね。普通は英雄譚や絵物語だと大抵単体なのに。まるで……この世の終わりみたいな光景だわ(ノートにも書かなくちゃ)。大丈夫かしら、ティアとティナは」

 

 蒼の薔薇は、エ・アセナル都市長のクロイスベル子爵より、竜軍団襲撃の可能性を知らされた王都から、ラナー王女の独断的といえる依頼でこの地の情報を持ち帰るべく潜入途中である。

 しかし彼女達は、この先暫く隠れる場所が少なくなるため全員での移動が難しい事から、まず身軽で忍術を使えるティアとティナの双子姉妹を斥候に送り出していた。

 

「俺達の中で、最も潜入に適した人選じゃねぇか。それに、二人一緒だ」

「知らせがあれば、私もすぐ動ける状態で待機している。あの二人は"蒼の薔薇"のメンバーだ。心配いらない」

「そうね」

 

 ラキュースは、上空の様子を横へ見に来ようとするガガーランと、奥に座るイビルアイの方へと振り向き、一瞬弱く微笑む。

 ここへ到着するまで、心のどこかで『まさか竜の軍団なんて』という気持ちを持っていたが、もはや目の前に広がる無情を極めた現実に嘘は存在しない。

 彼女はリーダーとしてその先も見ている。情報を得た後に指揮官級の竜を削り、王都へ帰ったとして、そのあとどうするか……どうなるのか。

 今回の竜軍団は、『蒼の薔薇』結成以来、最高に困難な戦いである事は間違いない。過去、チームで難度140近い魔獣の群れを倒しているが、今度のは質と量でブッチ切っている。

 

(アズス叔父さん達のチームや、国中の冒険者達の総力を結集しないと、殆ど一般人の農民達が主力を務める王国軍では(ドラゴン)と戦いようがない。でも、体制を整えるそんな時間があるのかしら)

 

 相手は身軽に空を飛んでくる存在。まずそれが浮かんだ。

 そして、これだけの圧倒的といえる暴力の脅威に――本当に勝てるのかと。

 一方で、出発直前に会合した、ゴウンという仮面を付けた巨躯で凄い装備の旅の魔法詠唱者(マジック・キャスター)とその一行のことを思い出す。

 

(……スレイン法国の六色聖典の精鋭を、短時間に撃退したという信じられない実力が本当であってほしい。これだけの竜の数では、どう考えても冒険者達の連合で逃げ回る風に引き付け、なんとか耐え凌いで時間を作り、後方や脇から精鋭の冒険者達で手早く狩っていくしかないわ。完全に、アダマンタイト級でも手に余る。正直、リグリットら十三英雄級の戦力が居て欲しい)

 

 彼女の考える戦術には、出来るだけ力のある強い戦力が是が非でも必要であった。

 

「おい、動きが――」

 

 ガガーランの言葉に、イビルアイも寄って来る。ラキュースもガガーランの視線の先へと向いたその時。

 

 

 

 ――都市の外周壁内と思われる上空の300メートル程の一点から斜め下へと、巨大な竜巻状の火炎が火柱の様に地上へと放たれていた。

 

 

 

 煉獄の竜王(プルガトリウム・ドラゴンロード)であるゼザリオルグ=カーマイダリスの放った戦慄の一撃、〈全力火炎砲(フルフレイムバスター)〉である。

 それは二名の人間種(ゴミ)共を見つけた直後に躊躇なく放たれていた。

 不用である。

 この時点と、この状況で生き残っている人間など、奴隷にするには都合の悪い『強い』人間だから。

 だが、味方の1体が()()()射線付近に入ってきたため僅かに狙いをずらしたものになった。

 

(!? っ……)

 

 竜王は険しい表情になる。だが、味方に怒った訳では無い。

 煉獄の竜王ゼザリオルグは、人間種には過酷だが、同種の味方へは結構気を使っていた。

 

「スみマセン、竜王サマ。不意に全身ヲしバラレタカンカクにナリマしテ」

 

 邪魔をしてしまった難度90超えの竜兵が竜王へと謝罪する。

 

「……いいぜ、大差はない。人間種《ゴミ》は燃えたはずだ。お前は、影を掴まれただけのようだな。怪我がなくて良かった」

「アりガトウゴザいマス」

 

 ゼザリオルグは、強力さ抜群の火炎で地面を数メートル抉るほど溶かし、放射状に直径150メートル程もクッキリ広がる巨大な火炎砲の跡を、悠々と上空から見下ろしていた。

 

「……ふん、結果は同じよ。小賢しいゴミどもめが」

 

 そう自然に語る竜王だが、〈全力火炎砲(フルフレイムバスター)〉を放つ瞬間、何か背後にトンデモなく凄い圧力を感じて、悪寒が全身へと走ったのを思い出す。

 

(………)

 

 だが、きっとそれは気の所為である――。

 

 

 

「蒸し暑いっ」

「危なかった……」

 

 アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』のメンバーは、普通ではない。

 双子姉妹は生きていた。

 ティアとティナは死を直感した瞬間から、条件反射的に手分けをして生き残る努力をしていた。

 ティアが妨害気味に時間稼ぎを、ティナが脱出路を探る。単独では自力で脱出出来なかったかもしれない。

 まず幸いな事に、日が殆ど落ちていた事で、膨大に影と闇が地上へあふれていた。ティアは、直ぐになるべく近くを飛ぶ竜兵1体の影を闇越しに全力で掴み、二人の潜む場所と直上付近にいる1体との軸線上に割り込ませようとした。足が地に付いている場合、縛りではその場で動かさない状態にすることしか出来ないが、空に居る者は滑空させて動かすことが出来た差は大きい。

 悪くとも、竜兵の強固に出来た身体が燃え尽きるまで盾になるし、あわよくば躊躇により火炎攻撃が大幅に遅れると踏んだ。そして、ティナは地上の影は諦め、周辺へ積もる瓦礫の隙間から僅かに覗いた、大きめの排水溝を視界の片隅に捉えていた。大都市には結構あるはずの大きい暗渠を期待して。

 時間稼ぎに集中するティアを担いで、ティナが排水溝の闇へ潜り込む。

 二人はあっという間に、右斜め後方の地下3メートルの位置を通っていた暗渠へ降り立つと全力で南方面側に走り出していた――。

 火炎砲の射線が多少逸れた上、石をも溶かす超火力と高圧ブレスでも流石に一瞬で3メートルもの地層全部を貫通することは無理というもの。だが(じき)に貫通するため、その場の周辺に留まることは出来ない。もう一つの脅威、熱風も存在し間髪容れずに襲い掛かってくるのだ。暗渠内を伝って吹き寄せてくる為、離れるのが遅れればそれだけで、大やけどを負うところであった。

 だが、熱は上へ上がっていくものである。地下へ逃げ込むことは、最良の選択であった。

 とは言え、完全には把握していない暗渠内であったため、一歩間違えば行先は袋小路で万事休すも有り得た。

 ――双子の燻製が出来上がっていてもおかしくなかったのだ。

 

「なに、今のは」

「バケモノ……。竜王?」

 

 二人は顔を見合わせる。間違いないだろう。

 先程の場所から1キロは離れた所から地上へ上がり、ティナが廃墟脇から顔を出しそっと北側上空を確認する。

 

「まだアイツ飛んでる。あ……さっきの場所の上空まで、凄い煙が上がってるんだけど。どれだけの威力あったのか……」

 

 過去の敵を考えると、効果範囲の規模と威力から優に難度200超えは間違いないだろう。

 信じられないが、あんなのが居れば、一日足らずで広大であった大都市も灰燼に帰すわけである。

 

「こっちには?」

「大丈夫、気付いてない。どうやら、捕捉範囲は1キロ無いみたい」

「……そろそろ時間だし、ティナ、一旦戻るよ?」

「そうしよう」

 

 双子の姉妹は、圧倒的すぎるあの竜からより遠ざかるように影の中へと消えていった。

 

 

 

 

「ただいま……」

「酷い目に遭った」

 

 疲れた風で近郊の廃墟へと帰還したティアとティナは、待っていたラキュース達に言葉を向けた。すでに、日が沈んで周りは真っ暗である。

 

「あの大きい火炎か?」

「そう。どうやら我々を探知出来たみたい、あの親玉」

「恐らく竜王。でも少なくとも1キロを超えては無理な感じ」

 

 イビルアイの問いへティナとティアが答えた。ラキュースはもっとも重要に考える事項を確認する。

 

「そう。それで……街中はどう?」

 

 ラキュースは、心の中の結論を実際に確認するよう緊張気味で二人を見つめた。

 姉妹は首をゆっくり横に振りながら答える。

 

「全滅……」

「見た限りで、生存者は居なかった」

 

 それから姉妹は、潜入から撤退までの簡単な状況を説明する。

 外壁内側の市街地の酷い状況に、無言でガガーランは目を瞑り、イビルアイは小さく舌打ちをした。

 ラキュースは、気持ちを抑えるもカタキを聞くかの如く少し強く尋ねる。

 

「……指揮官の竜は把握出来たの?」

「少しだけ。親玉以外は百竜長みたいなのが1体と十竜長が10数体程かな。百竜長でも相当の強さだと思う。多分、普通の竜兵でも難度で100ぐらいがごろごろいる感じだから」

「ははっ、豪勢だな。ヤり甲斐があるじゃねぇか」

 

 ガガーランはヤる気満々である。罪も無く死んでいった人々の思いを百倍にして返すつもりでいる。

 ティアとティナも無傷で、体力も十分温存しており、戦闘に問題は無い。仲間の為にどこまでも戦うつもりでいる。

 イビルアイは地上へ降りてから、魔力の回復に努めており、すでに9割9分は戻している。彼女には嘗て十三英雄達と共に人類の為に戦った自負があり、脅威の排除はライフワークになりつつある。皆の前でまだ見せた事のない、とっておきの魔法を使うつもりでいる。

 そして――英雄に憧れるラキュースも、ここが本当の英雄になれるかの試練だと感じていた。この日の為に、普段から妄想と共に自らを鍛えてきたのだから。

 

(これは、引けない戦いの始まり。私がしっかりしなくちゃ。さぁ、ラキュース。カッコよく、必殺技を敵へブチかますわよ)

 

 咄嗟にそんな思いが彼女の心の中へと広がった。

 

「で、どうするんだ、リーダー」

 

 ガガーランが、竜の指揮官を削る作戦について尋ねてきた。

 

「ティアとティナの脱出して来た地下から都市内へ潜入しましょう。竜達も戦いの後だから必ず休むはずよ。それに圧勝で大勝。油断が絶対に有るはずよ」

「そうだな。じゃあ、ヤツラの寝込みを襲うという事だな?」

 

 イビルアイの問いに、ラキュースは――首を横に振った。

 

「起きている奴を倒すわ。第一、宿営地には竜王がいるだろうから、ほとんど探知されてしまうでしょ。目標が、離れた端に寝てる場合は倒せるかもしれないけど」

「そうだったな……なるほど」

「それに、起きている竜は相当少なくなるはずだから。飛翔して、竜王から距離を取った所で狩りましょう。気付かれないようにしないと、チャンスはそう無いわよ」

 

 ここでガガーランが意気込む。

 

「で、どれから狩るんだ――竜王か?」

「――百竜長よ」

「ほぉ」

 

 ニヤついたのは、声を出したガガーランだけでは無かった。

 ラキュースはメンバーへ告げる。

 

「コイツが倒せないと、竜王は倒せないわ。逆に倒せれば、十竜長は十分倒せるということだし、竜王にも手が届くということ。いいわね、みんなっ」

「「了解、リーダー!」」

「「了解、ボス」」

 

 蒼の薔薇は一旦、ティアとティナの影による周辺調査を踏まえて、今居る都市の近郊を離れる形で遠めに迂回し、都市地下から伸びる暗渠に入った。暗渠内の先へは双子の姉妹が、竜が潜伏していないかを影と闇を通して先行する形で調べ慎重に進んで行く。

 こうして、蒼の薔薇は瓦礫と化した都市内へと潜入することに成功した。

 時間は午後9時過ぎ。彼女達は、竜の宿営地と百竜長の竜を探し始める。

 

 

 

 

 

 アインズ様はお忙しい。

 そんなことは彼女も良く分かっていた。

 でも、それでも――。

 

(もう――二日も、その愛しく偉大なるお姿と、凛々しいお顔を見ていませんっ!)

 

 第五層で強制休養のお見舞い時に主よりナデナデを受けて以来、彼女の禁断症状は激しいのである。

 何か養分が、モモンガ様分が不足しているかのような錯覚。

 時間にすれば、お預けはまだ40時間程度なのだが、白いドレスの豊かで形の良い胸の前にて両手を包む形で合わせ、腰から生えた黒い羽を時折パタパタと可愛く羽ばたかせながら、彼女は待っている。先程から、またも仕事を放って……。

 デミウルゴス達が、アインズからの依頼を当然の如く無事に終えてナザリックに帰還したのは、朝の6時15分頃。王城内より〈転移門(ゲート)〉にて戻り、地上から第一階層へと降りて来た。

 墳墓である第一階層の広い石床敷きのそこには、アルベドが静かに立っていた。彼女はすぐさま歩み寄って来る。

 デミウルゴスは、何かあったのかと訝し気味の表情になって声を掛けた。

 

「アルベド、どうかしましたか」

「デミウルゴス、アインズ様のご様子は? どうなの? お元気なの?」

 

 彼女は、ナザリック地下大墳墓を主より直々に任されている身であり、許可なく離れることは畏れ多い。第一、『妻として家を守る』という独自のプライドが、それをさせなかった。だが、飛んでも行きたいのだ。

 アルベドの目はすでにうるうるしている。

 もはや、ご様子ではなくご容態のような、とても心配に満ちた顔を彼女はしていた。

 

「もちろん、ご健在ですよ。大きい問題は起こってません。出発前に貴方へ告げた通り、竜の軍団が遠方へ急に現れただけです。ただ、アインズ様の予想を乱すように竜王もいましたけどね」

 

 その瞬間、アルベドの表情は目から赤く鋭い閃光が漏れ、般若で大口ゴリラの雰囲気へと変貌する。

 

「アインズ様のお考えを乱した……? デミウルゴーース。当然、ソレは跡形も無く排除したのでしょうね゛?」

 

 彼女の膨大に膨らんだ気勢で周囲へ風が起こり、ナザリックの第一階層の床が、ビリビリと地響きを鳴らしていく。

 すると、まだ新参の動死体(ゾンビ)ながらツインテールで可愛いフランチェスカの表情は「ヒェーッ」という驚愕に変わる。

 シャルティアとアウラ達、階層守護者にしてみれば、またかという感じでこれはアルベドの見せる愛のパフォーマンスみたいなものである。

 しかし、フランチェスカは起動して間もないため、Lv.100NPCの軽く本気を出した水準を見るのは初めてであった。つい先程見た強大な竜王のパワーを更に超えているのは間違いない。

 

(ウッハー。守護者統括様、スッゴーイっ! 対峙するだけで死体すら再度即死スルーレベルぅーっ)

 

 そんな守護者統括からの恫喝の如き質問へ、デミウルゴスは穏やかに答える。

 

「アインズ様はソノ無礼の者達も込みで、再度策を巡らされておられたよ。倒すなとのご指示もあってね。我らの至高の御方は深くお考えなのだよ」

「そ、そうよね。殺してはいけないわよね。ああ、アインズ様ぁ」

 

 デミウルゴスが温いようなら、頭突き一発で竜王の額の鱗ごと頭蓋骨を粉砕し、ソノ死体をハンマー代わりに片手で振り回して軍団をすべて肉塊にしてやろうかというアルベドの超越的パワーの考えと、怒りの雰囲気や機嫌が――一気に桃色へと変わる。

 愛しの御方の指示だと聞き、その場で悶え始めていた。

 彼女は、アインズの御意向を極力尊重したいと考えている。何でもいいのだ。たとえ自分の死ですらも、至高の御方が満足し喜んでくれるならば。その為に、存在しご意志を実行するため、傍に仕えているのである。

 なればこそ、絶対的支配者の意向を阻害する者は、全て即、排除対象に成り得る。

 唯一、ナザリック関係施設とその配下達のみが、考慮の対象にはなる。それは、アインズがとても大事にしているものであるから。御方に確認するまでは『死』の強制執行は保留するつもりでいる。

 だが、この考えは階層守護者達を初め、ナザリックに所属する者達其々の考えと大差は無い。

 ここで、シャルティアがアインズの傍では聞かなかった質問を、デミウルゴスへとぶつける。

 

「ねぇ、デミウルゴス。あの都市に転がっていた、山ほどの人間の死体をどうしてここへ運ぶかをアインズ様へ確認しなかったのでありんす?」

 

 シャルティアの声に皆が、この第一階層の広い墳墓の片隅と第三階層の一角には、支配者によって貴重なナザリックの新戦力となる上位と中位アンデッド作成用の死体が数百体保管されているのを思い出していた。

 

「……それはあたしも思ったかな。マーレが十日程前、アインズ様の命で夜中にカルネ村西方の全滅してた村から、埋葬される見込みのない人や馬の死体群を集めたあとナデナデを頂いたって嬉しそうに話してたし」

 

 アウラからも同様の声が漏れた。だが、その質問は、支配者への疑問という形ではなるべく聞かない。それは不敬なのである。これはあくまで、デミウルゴスが主様へ聞かなかった事への疑問なのだ。

 

「ふむ。確かにその答えは、君達には少し難しいかもしれないね。アインズ様の考えは深いのだよ」

「そうよ、アインズ様は不必要である事はお言いにならないわ」

 

 アルベドも正気に戻った頭の中で結論へ辿り着いたようで、デミウルゴスの考えに同調する。シャルティアも悟る。これ以上はアインズ様の考えと異なる方向の話だと。

 

「わ、わかったでありんす。私は、アインズ様のお傍について行くだけでありんすえ」

「あたしだってっ。少なくとも、男ムネの出番はないから」

「あ゛? チビにこそ金輪際、出番なんて無いでありんすよっ」

 

 フーッと、二人の階層守護者は相手の手を其々指の間で合わせる様に掴むと、互いのおでこをぶつけながら睨み合ういつもの和やかな仲良しの光景がそこにあった。

 その様子にデミウルゴスも暫し口許を緩めていたが、「二人ともアインズ様の為にする事があるのでは?」と告げる事でじゃれ合いは終わる。第一階層で解散し彼自身の執務部屋へ戻る頃に、デミウルゴスは少し考える表情に変っていた。

 

 

 

 

 一方、アインズはある事で悩んでいた。

 王都のロ・レンテ城内、宿泊用に与えられているヴァランシア宮殿の部屋で、王国戦士長が部屋を去ってから再度皆で優雅にお茶を終えたあと、ソファーに深く沈むように座って。

 時刻は午前10時半過ぎ。

 

(表面上、王都から動けなくなっちゃったなぁ。どうしようか。エ・ランテルへは、新参で新米の冒険者として何度か行かないといけないんだけど)

 

 そう、アインズは冒険者モモンとしての立場があった。ンフィーレアからの依頼の件も数日後に控えており、こういうブッキング時の為にも手を打ったつもりで考えていた。

 今、支配者から見える室内の視界の片隅に、不可視化のまま直立で静かに佇むナーベラルの姿を捉えている。彼女は忠実に不動だ。ピクリともしない。

 二重の影(ドッペルゲンガー)のナーベラルは、アインズの代役として万全を期し、種族限定アイテム併用までして外装パターンを増やし、話し方や装備類に人間体の身体をも摸して連れて来られていた。

 問題は何もないはずであった……。

 

『……ふむ。下等生物(ウジムシ)の料理にしてはまあまあ結構ですね』

 

 思い出されるのは昨夜の晩餐会での事である。ソリュシャンがそのあと咄嗟に機転を利かせてゴマかし凌いでくれたから良かったが。

 あの後も、少し話をさせてみたものの……ヒドイ。

 もはや、彼女一人では人間相手に何を言い出すか分からない。

 

 社交場で、彼女に一時でも任せるということは――『魔、課せる』と言いエル危険な臭いしか感じナイ。

 

(ウーム……どうすべきかな)

 

 まだ、アインズには秘蔵のカードが有るにはある。彼の自作したLv.100のNPC(パンドラズ・アクター)である。

 しかし……それもどうなのだろう。軍服に身を包んだ姿にあの口調にポーズ群。アインズは先日、地下深くで見たその嘗ての真っ黒の歴史を思い出すように内心で再び唸る。

 

(ウゥゥーーム)

 

 まあ、外装パターンをモモンガやモモンにすれば、そんな恥ずかしい事にはならないはず。それに()()も少し行なった。

 とは言えモモンの外装は、まだパンドラズ・アクターへ登録していないため、ナザリックに戻るかエ・ランテルにアインズ自身が行かなければならない。

 また、パンドラズ・アクターをここへ呼ぶという事は、ナーベラルへ十分に仕事を熟せなかっ(オ前ニハ失望シタ)た事(ゾ!)を突き付けることになるのだ。

 そんな事になれば、『このお役目、盾になって死ぬことに匹敵します』と喜び、随分張り切っていた彼女は……自害するかも知れない。

 支配者としては、大きめの問題があるとはいえ、未だ致命的という失態をしていない彼女に対して、それはとても可哀想に思えた。

 

(そうだな……うーん。エ・アセナルとは距離も有るし、今日明日は、王都で大きい動きも無いだろうしなんとかなるよな。竜軍団の方は、油断は出来ないけれど、戦力的に言えばルベド一人でも絶対片が付くだろうしなぁ……)

 

 先のお茶の席で、なにやら『双子最高』『正にアウラとマーレを見捨てるようなもの』とまで熱弁して某嘆願を行い、「ギリギリまで絶対に手を出すな」と主に念を押され、彼の座る近くに置かれた三人掛けのソファーで静かに監視体制へ移行し、ニヤついているルベドの事をふと考えるアインズとしては、身代わり問題の方がすでに竜軍団よりも難題の事項になりつつあった――。

 

 

 

 この日の昼食の後、アインズは戦士モモンとして漆黒の全身鎧(フルプレート)に二本のグレートソードを背負い、エ・ランテル北西の門から西側へ伸びた街道が通る近郊の森へと現れていた。

 

 結局彼は、影武者(ナーベラル)の失態で王国関係や竜問題に不都合が出る可能性よりも、仲間の娘同然のナーベラルが傷心により自害する可能性の方が高いと踏んだ。つまり、ナーベラル生存の方が当然大事だという結論である。

 今、王城の宿泊部屋のソファーには、仮面(正式名称:嫉妬する者たちのマスク)の()()()を被りアインズの疑似装備姿をしたナーベラルがどっしりと座っている。疑似装備だが、実物に近付けて非常によく出来ており、聖遺物級(レリック)アイテム水準の強度がある。ちなみに仮面は、悲しいかな、アインズのもとにユグドラシルの運用年数分あるという……。

 

 そして、アインズがナーベラルへ告げた厳命はただ一つ。

 

 

「――絶対にしゃべるな」

 

 

 それだけである。姿は完璧に近いのだ。

 傍には妹のソリュシャンを張り付けている。来訪者があった場合は、急に喉の調子が非常に悪くなったと言い張るよう伝えておいた。どうしてもという場合は、ナーベラルがアインズへ〈伝言(メッセージ)〉を繋いでくる事になっている。

 傍にはユリもいるし、なんとか凌いでくれるだろう。

 アインズの考えは悪くなかった。実際数日はうまく行くことになる。しかし、結果を見るとそう考えたのは甘かったのかも知れない……。

 

 モモンは人目の無い少し奥の木々茂る場所へ〈転移門(ゲート)〉を開いたが、すぐに純白のローブを纏い紅い杖を携える魔法詠唱者(マジック・キャスター)マーベロが現れる。

 

「お待ちしていました、モモンさん」

 

 マーベロことマーレともほぼ二日ぶりでの再会である。小柄の彼女はフードを下ろすと両頬を染めながら、とても嬉しそうに笑顔で可愛くたたたっと、周囲に茂る草木を魔法で避けさせつつ寄って来る。

 

「待たせちゃったかな? 少し拠点へ寄ってたから」

「い、いえ、全く」

 

 『拠点』とはナザリックの事。2人とも冒険者の時は、なるべくナザリックに関することはボヤかして話すように努めている。

 マーベロは、今後もこの周辺を利用する事から、有事の際の仕掛けを事前に施す為、1時間程先に単身で来ていた。

 敬愛するモモンガ様に会えるのが待ち遠しく、もちろん作業遅れでお待たせする訳にはいかず、早めに来た上で作業が前倒しに終わり、実のところ30分ほどもウロウロしてしまっていた……。

 

「……では行きましょうか」

 

 マーベロは微妙に小首を傾げたが、拠点に寄った支配者の行動の詮索はせず、そのあとは()()()()()()()し気にすることなく、先を促す形で歩き出そうとする。

 このときマーベロには、ハッキリと見えていた。モモンの右後ろに、不可視化・生命隠しをした上で足を開く形でふんぞり返る風に立ち、左手を斜め下に伸ばしつつ、顔の前へ指の間を開いた右手で覆い隙間から見つめる妙なポーズを決めたあと、こちらへ会釈する明るい土色の軍服姿に卵顔のパンドラズ・アクターの姿が……。

 今日、モモンが彼を連れてエ・ランテルを訪れるのは、モモンの周囲の状況や話し方と行動を見せる為である。外装パターンを模しただけでは『人物』を完全にまねることは出来ないのだ。

 

「マーベロ、ほら」

 

 モモンは、漆黒のガントレットの右手をマーベロへと差し出した。

 

 手を繋いだ二人は、いつもの如く仲睦まじく、大都市エ・ランテルの北西の門を通過する。顔なじみである門番達から例の如く親指を立てられるところまでは同じであったが、大通りへ入って二日前との変化に気付く。

 

「やあ、モモンさん、マーベロちゃん」

「どうも」

「ど、どうも」

「こんにちは、モモンさん、マーベロさん。組合かい?」

「ええ、まあ」

 

 街中ですれ違う人達や店の人々から、気軽に声を掛けられる風になっていたのだ。どうやらモモン達が、近郊の街道に出没していた凶悪と聞く盗賊団を倒した事を知った街の人達から敬意を持たれる事になり、急速に親しみや信用が増している様である。また、それだけの事をしたのが新参の(カッパー)級ということで余計に目立っていた。

 特に、綺麗で小柄で可愛いマーベロは、マスコット的にも見られているのか、林檎を初め甘い果物まで貰っていた……。

 通りを歩きながら周囲の明るい雰囲気にモモンは、あと一つ思う。

 

(流石に――みんな、まだ竜軍団の話は知らないみたいだな)

 

 国王も参加しての王城での緊急会議の内容も、ソリュシャンが持つマスターアサシンのスキルから盗聴によりすべて把握している。だがそれは今朝の話。

 このあと数日中に、国王の直轄地であるこの都市でも、勅命が届いて冒険者を含め総動員となるだろう。

 王都における一連の話は、マーベロへも都市へ入る前の街道を歩く時に、周囲へ気を使いつつ〈伝言(メッセージ)〉を使用して小声で改めて伝えてある。

 また、数日後にはンフィーレアの引っ越しもあるが、アインズ的にこの予定は変わらないと予想している。なぜなら、あの少年はエンリを守るため、余計にカルネ村行きを希望するはずであるからだ。優秀な薬師のため徴兵も有り得るが、王都に行くとしてもエンリへ伝えてからになるだろう。

 問題なのは、冒険者モモンチームの方だろうか。

 だが、まだ(カッパー)の新参冒険者チームという立場。(カッパー)級すらも王都まで呼ばれるかというと微妙という気がしている。地方のモンスターを完全に放っておけるかや、雑然とするのを防ぐ理由から冒険者の質で数を絞るようにするのではとの考えに至る。

 

(……そういえば、一人になっていた(アイアン)級で女戦士のブリタはどうするんだろ)

 

 仲間を失い、只一人で今後に悩んでいた彼女へは、移民絶賛大募集中のカルネ村行きも勧めておいたが。

 恐らくエ・ランテルを初め、周辺都市からの派遣は(シルバー)級以上になるだろう。

 冒険者チーム『漆黒の剣』のペテル達の顔も浮かんできた。彼らの戦闘水準を考えると、竜と戦う戦場は死地以外の何物でもない。竜軍団の低位でも成体なら死の騎士(デス・ナイト)並みの戦闘力と防御力があるのだ。

 それに、残る(カッパー)級や(アイアン)級達も国王の勅命により一部強制される状況になるのではと予想出来た。つまり冒険者モモンチームは、当面都市(ここ)から離れる形の自由行動が取れなくなり、表面上缶詰状態になる可能性が高い。

 

 あれこれ考えているうちに、広場の脇に建つ冒険者組合の建物が見えてきた。建物前の辺りには、数組の冒険者達がいて、いつもの情報交換をしている様子。

 彼等はモモン達に気付くと、手を上げてくれた。冒険者達からも二日前とは違い、もうこの都市で一人前のチームへ向けられている風に対応を感じる。モモンも新参冒険者として会釈を返しておく。マーベロも続いて会釈した。

 彼女は、モモンの行動を常によく見て判断しており、適度に合わせてくれていた。

 マーレをパートナーに選んだのは大正解といえる。なので――忠実で凛々しいナーベラルにも少し期待してしまうのは自然のことであった。

 モモン達は扉を押し開け、組合の建物へと入る。

 

「よう」

「おう、あんた達やるな」

「捕まってた女の子達も生還させたなんて、本当にすごいわね」

 

 来訪者が誰か気付くと、中にいた数組の冒険者チームの連中も、外の連中同様、多くが気さくに声を掛けてきた。

 無論、全ての冒険者達ではないが、向けてくる視線から『なんだ余所者のコイツら』感は随分無くなっている。漆黒の戦士と純白の魔法詠唱者の二人が、自分達の住み守る都市の安全へ貢献してくれたのだ。敵視する道理は段々と小さくなっていく。

 それに、盗賊団の規模は数十人という話もすでに知られており、それを背負う二本のグレートソードで豪快に二刀流で切り伏せた事も噂で伝わっていた。

 やはり冒険者達の間では、実力や実績が大きいということだろう。モモン達の付けるプレートは(カッパー)だが、(ゴールド)白金(プラチナ)級の冒険者からも挨拶声が掛かっていた。

 

「やるじゃねぇかよ」

「いや、無事に助けることが出来てホッとしてますよ。では」

 

 新参冒険者である漆黒の戦士は、そう謙虚に返しておく。

 モモンとマーベロは、まず受付嬢の所で依頼を確認する。

 

「えっと、5件来てますね」

 

 ンフィーレアみたいな人がいないかなと疑心暗鬼で聞いてみたのだが、なんとモモンチーム宛てで仕事が来ているという。それが5件もだ。どうも盗賊団の件は、相当反響が大きかった模様。

 内容を聞くと、護衛が3件、討伐が2件である。

 そして、どれも提示金額が普通の(カッパー)よりもずっと高く、中には(シルバー)級並みの金額もあった。

 いずれもモモンらの噂をすでに聞き、十分と聞く実力を買いつつ、少し安い形でという依頼内容である。

 現在、午後1時半過ぎ。

 さてどうするか。今のところ、ナーベラルから〈伝言(メッセージ)〉は来ていない。

 アインズは、新参冒険者モモンとして直ぐに答えを出す。

 

「じゃあ、5件とも受けます」

「分かりました。では、今日はまずこのあと一時間後に護衛の件からですね?」

「いえ。それまでに、とりあえず討伐の2件を先に片付けてきます」

「は?」

 

 受付嬢にポカンとされたまま、モモンはマーベロを連れて組合を後にする。

 討伐案件は、エ・ランテル郊外南の耕作農場主と南西に広がる森の傍にある大規模果樹園の農家の依頼で、近くの森から来るモンスターの排除。

 この2件は時間に縛られないのが良い。

 護衛の件は、西の森への希少キノコ採取の随伴。今日でなくても良かったが、これは時間的に夕方までに終わる日帰り案件であった。

 後の護衛案件2つは、今日の依頼では無かった。

 迅速な移動には、マーベロによる〈飛行(フライ)〉と第一位階魔法の〈浮遊板(フローティング・ボード)〉を利用した。

 モンスター討伐は、時間が無いので飛行中にマーベロが上空より森の広域を植物経由で探査し、モモンと森に降下して狩り一気にケリをつけた。二か所で小鬼(ゴブリン)豚鬼(オーク)人食い大鬼(オーガ)の計16体であった。死体は耳の一部だけカットし証拠とするのが通例。この作業をモモンがやろうとする前に、マーベロが率先してテキパキと片付けてくれた。

 マーレはナザリックの最高幹部の一角であるが、敬愛するモモンガ様の雑用に限っては全て自分がするつもりでいる。

 二人は討伐を速攻で終わらせて冒険者組合へ戻った。

 すると丁度早めにやって来た、護衛依頼主である中年男性の引く馬車にそのまま乗って一時間弱移動。次に一時間程、きのこ類採取を手伝って無事に帰って来た。

 途中で小鬼(ゴブリン)の集団に襲われ掛けたが、モモンがグレートソードで1体を真っ二つにすると集団は逃げ出したので後は追わずに終えた。

 今日は、モンスターだけで金貨2枚ほど。そして、3件の依頼分は金貨10枚銀貨10枚になった。数時間で金貨12枚以上を稼いだが、モモンとしてはそれほど金額を気にしていない。

 ナザリックでは、材料を森や山から集める予定で、都市を一つ造ろうかという計画もある。

 それに、王都にいるアインズ側の方が遥かに実入りは良いのだ。今朝、六大貴族ボウロロープ候の使いとして飛び込んで来た、黒服のゴドウではなく紺のスーツの男によれば、もう屋敷と金貨1200枚については王都内に用意しているという。その与えられた屋敷までの地図も渡されている。

 元々冒険者としての活動は、この世界の情報を広く集めつつ余興的活動といえた。

 

「お、おつかれさまでした、モモンさん、マーベロさん」

「じゃあ、失礼します」

「し、失礼します」

 

 受付嬢だけではなく、短時間にモンスター17体と依頼3件をあっという間に片付けた、(カッパー)級新参冒険者モモンチームのお手並みに周りの冒険者達も唖然として見送った。

 日が大きく傾いた午後6時前頃、冒険者組合を後にする。

 モモンとマーベロ、そして後方にずっと付いていた不可視化状態のパンドラズ・アクターは――宿屋街へと向かった。

 モモンチームは普段、門から都市郊外へ出て住所不定であるため、数日後に王都からくる勅命に関しての知らせが来ないと考えたのだ。

 なので、それを見越してモモンは、それまで大都市エ・ランテルにて宿泊することにした。

 

 

 

 

 

 王都リ・エスティーゼの南部地区の一角に、その総本部と言える洋館は建っていた。

 玄関ロビーに置かれている結構立派である大時計の針は、晩の10時を告げようとしている。

 建物の外観は普通の商人の御屋敷に過ぎない。しかし、その地下に幾部屋も広がる内装の豪華な一室で今、9人の男女が円卓を囲んでいた。

 その9人の内、8人が奴隷売買、警備、暗殺、窃盗、麻薬取引、金融、密輸、賭博の八部門の各責任者であり、最後の一人がこの館の主にして組織のまとめ役(ボス)である。

 水神の聖印を首から下げた、見た目は50代の温和そうな白髪の混ざった初老の男であった。

 彼の本当の名とボスとしての姿を知る者は、ここにいる8人と、この館でも護衛を含めたほんの一部だ。

 彼が率いるのは『八本指』という、このリ・エスティーゼ王国で最大の地下犯罪組織であった。

 とは言え、八部門は全て独立した部門組織であり、お互いに利権の食い合いから小さなゴタゴタも少なくない。だが、調整しないと大きい潰し合いにもなるので、それを互いに避ける意味でこういう場が出来、現在、組織という形を取っているのである。

 なぜ、八部門長よりもボスが上にいるのか。それは、警備部門のトップが彼に大きな借りが有り、従っているところが大きい。警備部門は、暗殺部門よりもはるかに強力な戦力を有しているのだ。総合戦力は、他の七つの部門を合わせたよりも上かもしれない。

 その警備部門の武力を背景に、他の部門を増やしてもきていた。

 今や、王国内の裏社会の半分以上を既に握っており、大貴族や大商人達の多くと繋がりがある。そしてその年間経済規模は、金貨で200万枚以上を誇っている。

 ここにいる9人だけで、年収合計は金貨30万枚程もあった。

 ボスは、8人の部門長を見回すと、会議の進行役の形で静かに話し出す。

 

「さて、本日集まってもらったのは他でもない。王国内へ竜の軍団が侵攻して来ているという件だ」

 

 ボスの話は、8人の部門長も今朝からすでにあちらこちらの噂等で耳に届いていた。

 

「竜が300体って規模は本当なんですかい?」

 

 賭博部門長の青いスーツ姿の男が、裏を取っているのかと尋ねる。

 それに対して、金融部門長の貴族風衣装で鼻の下へ威厳を示すが如く髭を持つ細めの若い男が説明する。

 

「確かですよ、今日の昼過ぎに御贔屓の子爵様より、エ・アセナルからの飛竜(ワイバーン)による知らせが早朝3時頃届いた事を教えられましたので」

 

 麻薬取引部門長の三十代風の綺麗で色気のある女、ヒルマが、溜息交じりに首を振る。

 

「はぁ、嘘であってほしかったわね」

 

 正直全員が同じ気持ちであろう。記憶というか歴史的に見ても、そんな規模の侵攻は最近の200年で聞いたことが無いものである。本当であるなら襲われた都市は、甚大な被害が出ているだろう。

 知らせからすでに一日近く過ぎている事から、エ・アセナルは攻撃され破壊された可能性が高い。

 あの大都市にも、『八本指』系列の大きい裏社会市場があったのだ。組織にとって、未曽有の大打撃と言える。

 

「うーん。連絡の冒険者達を走らせているが……」

「ウチもエ・アセナルに支部があるから一応、昼過ぎに確認の〈飛行(フライ)〉の使える魔法詠唱者部隊は出したがな」

「俺の所もだ。本当なら、えらい損失だ」

 

 組織が部門で独立している分、部門内での確認もバラバラである。

 そして皆、諦め気味だ。竜の軍団が相手では極悪集団の連中と言えどもお手上げである。

 奴隷売買部門長の、男ながら細身のオネエ系という雰囲気のコッコドールが願望を口にする。

 

「ねぇ誰か、隣国の竜種とのパイプはないのん?」

 

 隣国アーグランド評議国の亜人種達とは残念ながら、商人同士でも殆ど繋がりが無い。

 

 それは――商売にならないからである。

 

 亜人種達と人類の商人は、殆どが相手に奴隷の如き不平等な契約しか結ぼうとしなかったのだ。八欲王時代の500年から続く底深い恨みの連鎖も影響している。

 だが、それはお互い様ともいえる。

 交流が存在するものは、密かで細々としており、個人規模の水準に留まっていた。それは決して拡大することなく、少しでも大きくなれば内と外から潰されていった。

 そのため、昔から直接の組織的での商業交流や国交はほぼ存在していない。

 アーグランド評議国を初め、亜人種達は強靭である肉体とかなりの知力を持っており、生物として劣等と言える人間種に対してまず媚びることはしない。

 関係改善は、今後も絶望的と言え、生半可な事では無いだろう。

 

 そんな状況だが、ボスは手を(こまね)いている訳にはいかない。竜軍団が、他の大都市や王都を襲えば、被害が広がりどんどん闇市場を失う事になる。

 この状況は、八本指存続の危機と言って良かった。

 ボスは、静かに語り出す。

 

「竜軍団に対して、有効となる手を打とう」

 

 この言葉に、大柄で筋骨隆々とした警備部門長の男であるゼロが、確認するように尋ねる。

 

「ボス……それは竜相手に、戦うと言うんじゃないだろうな?」

「そのつもりだが?」

 

「「「「「「――っ?!」」」」」」」

 

 その言葉に、円卓に座る部門長の多くが、驚きと疑問符の付く声を一斉に漏らした。

 周囲に構わず、瞼を一度閉じ、カッと見開いたボスの少し大きい声の言葉がその場に響く。

 

 

 

「竜軍団の指揮官の竜達を――――暗殺しろ」

 

 

 

 部門長達の騒めきが止まる。

 ボスは、続けて概要の説明を始める。

 

「反王派のリットン伯爵からの依頼だ。大都市リ・ボウロロールが襲われる前に達成せよとのことだ。恐らく反王派盟主のボウロロープ侯が焦っているのだろう。六大貴族とは言え致命的な損失になるからな。こちらとしてもここで食い止めたい。我らと利害は一致している。軍団長を倒した場合の報酬は――金貨2万枚だ」

 

 全身黒服に紺のローブを纏う暗殺部門長の背の高い男が呟く。

 

「……王国中の冒険者達へは、竜1体に付き金貨300枚という触れが知られ始めているな」

「そうだ。その延長でもあるが、今回はこちらも死活問題だからな。乗っからせてもらう。警備部門長のゼロが中心で、戦力を整えてくれ」

「……仕方ねぇな」

「………」

 

 ゼロは答え、暗殺部門長は沈黙する。暗殺部門長も難度70程の使い手だが、彼の部門は基本対人戦が中心である。斥候面での働きには適しているが、モンスター相手……特に竜となれば攻撃力不足といえる。

 暗殺という事だが、今回はボスの考え通り組織で情報を集め、表の戦力に混ざって警備部門長の部隊中心で事を成すのが上策だろう。

 しかし、ボスの話のキーポイントはまだこれからであった。

 

「リットン伯爵からの依頼の中に、協力者の話があった。それらと共に事に当たれと。依頼文には、4人連れの旅の魔法詠唱者(マジック・キャスター)一行みたいだ。詳細は今後詰めることになる」

 

 乗り気になっていたゼロの表情が曇る。

 

「なんだそれは? 旅の魔法詠唱者(マジック・キャスター)と組めだぁ?」

「そうだ、ゼロ」

「仕方ねぇ……あんたが言うなら少し考えるが……俺は、弱い奴とは仕事しないぞ?」

 

 ボスは、口許を緩めながらゼロへ情報を付け足しておく。

 

「その旅の一行は、先日、スレイン法国六色聖典が一つ、陽光聖典の部隊50人程に襲われて殺され掛けた王国戦士騎馬隊と戦士長ガゼフ・ストロノーフを助け、六色聖典の連中を短時間で退けたそうだ」

 

 

「「「「「!? ―――」」」」」」

 

 

 ゼロだけでは無く、円卓に座る八本指の部門長達は驚愕する。

 スレイン法国の六色聖典の精鋭の一団、陽光聖典――円卓を囲むメンバーもその存在の詳細を知らないが、情報網から垣間見えているその実力は恐るべきものである。全員が第3位階魔法以上の使い手で揃えられているという反則の様にも感じる部隊という。

 英雄級と言われるガゼフの一団が敗れたと聞く敵を、一蹴するとは恐るべき実力なのは間違いなさそうである。

 

「ふっ、これは……面白くなってきやがったぜっ」

 

 冒険者で言えばアダマンタイト級に匹敵するという配下の『六腕』を率いる警備部門長のゼロは、指をベキベキと鳴らしながら思わず表情に楽しみの笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 廃虚と化した大都市、エ・アセナル北東側近郊の夜の闇に包まれた平原。

 北側8キロの位置には、北東へ150キロを超えて北海岸まで伸びる国境の山脈南端部が迫る。ここはその裾野の延長地にあたる。

 『蒼の薔薇』の5人はそこに見つけた竜の宿営地を、1キロ以上離れた都市北側の外周壁瓦礫内より先程から1時間程監視している。すでに日付を越え、午前0時半に近付いていた。

 ここへ来るまでに、都市内の調査は終わっていた。どれだけの死者が出たのか正確に分からないが、十万単位で命が失われた事は間違いないという結論である。『蒼の薔薇』はまだ、都市の住人達数万の捕虜が居る事を知らない。

 竜の宿営地内については、探知されれば全く闇討ち的奇襲の意味が無くなるので、ギリギリまで近付くということはしなかったのだ。今はどういう形で竜兵らが、上空への直援任務に着いているのかを知るため探っている状況であった。

 そして竜の軍団が、次の大都市を目指して動き出すのがいつかは不明であり、時間はそう多くないとラキュース達は考えている。しかし、戦力差は圧倒的であり、焦らず上手く機を見つけるしかないのが現状と言える。

 観察していると、30分ほど前から飛んでいる竜の数が随分少なくなってきた。本来、竜は夜行性で、結構活発なはずなのだが。

 どうやら昼間もずっと動いていたため、徹夜明けに近い状態の模様。加えて、ラキュースの予想していた通り、今は圧勝の状況からほとんどの竜が地上へ降りて休んでいる風に見えていた。

 

「ふふっ、これは思わぬ好機が訪れた様ね」

 

 『蒼の薔薇』のメンバー達は、観察に入る前からいつでも戦闘に入れる準備を整えていた。

 リーダーのラキュースは小声で皆に告げる。

 

「さぁ、狩りを始めるわよ」

「「「「了解」」」」

 

 

 

 煉獄の竜王(プルガトリウム・ドラゴンロード)ゼザリオルグは、平原の地に都市から燃え残っていた綺麗で柔らかい布を大量に集めて作られた寝所へ座りつつ、少し前に部下の多くから進言を受けて考え事をしていた。

 副官といえる、アーガードとドルビオラを初めとする、180体を超える配下達が、今回の圧倒的戦果を材料に、本国のアーグランド評議国と歩調を合わせるべきですと伝えてきたのだ。

 一つの選択肢としてまだ生かしている人間種の捕虜も、数万を数える状態である。今の軍団のみで戦う場合、お荷物になるだけのものだ。まあ殺すのは容易で、自身の放つ火炎砲の一撃があればいい。

 だが、自国や大陸中央の亜人達が支配する各国へ売却すれば莫大な財源となるだろう。

 前日に、評議長の意見を無視し、軍団は評議国を出奔する形で勝手に飛び出して来ており、戦いの先を考えるなら食料は何とかなるとしても、配下の進言に一考の余地があるように思えた。昨日の今日でもあるし、まだ話しづらいという事も無い。

 

(ちっ。……まぁ、ツァインドルクスの糞ジジイら評議員も、これだけの戦果を知れば蹂躙するのが容易いと気付くだろうぜ。この地に暫らく留まり、昼にでも使いを出すとするか)

 

 また一方で、エ・アセナルの死ぬ気で反撃してきた数百はあった人間種の冒険者チーム達から受けた被害を思い出す。人間共の都市群を破壊し蹂躙する序盤戦で、竜兵9体と十竜長2体の仲間を失っている。重傷の個体も、20体近くおり無傷という訳では無かった。

 竜王ゼザリオルグは、個の強さを持ちながら竜兵達へ2体一組という恐ろしい戦術を取らせていたが、それでも犠牲は出てしまったのである。

 更に驚いたのは、難度171を誇る副官の1体であるドルビオラも軽傷を負っていた事実。乱戦の中、強固に出来た鱗を突き破る攻撃を受けていたのである。

 それに、初っ端に受けた大魔法――。

 まともに受ければ、自分はともかく軍団の9割近くが重傷を負っていただろう。

 

『……余り人間を甘く見ない方がいいよ』

 

 白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)の言葉が思考の片隅に浮かぶも、「フンッ」と鼻息を吐いて、強制的に忘却した。

 冒険者達の一部は逃げ延びているという事も含めて。

 

 

 

 外周壁の廃墟内で、ラキュース達が静かに待つこと更に40分。

 竜の宿営地に動きがあった。

 

「竜王様、暫く警戒任務に就きます」

 

 『蒼の薔薇』メンバーの双子姉妹が識別していた指揮官の百竜長の竜が、星の下に広がる空へと優雅に舞い上がる。5人は素早く動き出す。

 上空へ飛び立ったのは難度177のノブナーガであった。間もなく都市上空を通過する。

 ティアとティナは満を持して瓦礫に潜んでいた。

 標的が高度を少し下げた時――同時に二人掛かりで忍術を渾身の全力で仕掛ける。

 

 「「縛鎖・影縛りの術」」

 「なにぃっ?!」

 

 この忍術により、本来は途端に体が完全に硬直する。だが、難度の圧倒的に高いノブナーガは筋力負荷が通常の数倍程度の影響に留まった。一応二人同時多重のため、10倍近くにはなっているだろうか。とは言え、百竜長の筋力はその程度では止められない。

 だが、それでも俊敏さは劇的に失われた。

 

 それで良いのである。

 

 羽ばたきが弱くなり、滑空もバランスを崩し揚力が落ちて高度が大きく下がる。宿営地からは見えにくい形となった。

 次の瞬間、イビルアイが〈次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)〉で、百竜長直上10メートル程の空中に現れた。小柄で仮面の魔法詠唱者は、左腕にガガーランの右腋を抱えて〈飛行(フライ)〉により浮いていた。ノブナーガは即気付くも、身体の負荷の大きさに反撃が大きく遅れる。

 その間隙を逃さず、『極大級魔法詠唱者』とも言われるイビルアイは、とっておきの魔法を炸裂させた。

 

「貫けっ! ――〈魔法抵抗突破最強化(ペネトレートマキシマイズマジック)龍電(ドラゴン・ライトニング)〉ーーっ!」

 

 イビルアイは、その自慢のスキルを最大限の効果で利用する。

 そして使用したのは、第5位階魔法だ。

 この世界で、第5位階魔法を使える者は、各国でもほんの数名程度と本当にごく一部しかいない。

 右手の指先から凄まじい稲妻の閃光を放っていた。更に、竜の頭部を狙い打ちで見舞ったのである。「うおぉ、すげぇ!」と初見のガガーランは間近で見て驚く。

 

「グがぁっ?!」

 

 流石の百竜長ノブナーガも、大きくダメージを受ける。グラつくほどの頭部への攻撃であった。

 だが――まだ飛んでいる。

 

「なに?! 私のとっておきだったんだが」

 

 そう呟いたイビルアイが、再び叫ぶ。

 

「では、おかわりだっ! 〈魔法抵抗突破最強化(ペネトレートマキシマイズマジック)龍電(ドラゴン・ライトニング)ーー!」

 

 再度、彼女の右手の指先から、眩く鋭い電撃の閃光が放たれていく。

 

「ゴァぁあぁぁぁーーーっ!」

 

 百竜長も第5位階魔法の連発攻撃を受け、流石に空中で悶絶し墜落し掛ける。

 そこへ、イビルアイから放られた両腕の剛筋を盛り上がらせて振りかぶるガガーランの、巨大刺突戦鎚(ウォーピック)である『鉄砕き(フェルアイアン)』による全力の超級15連攻撃が怒涛の勢いで打ち下ろされていった。

 勿論、狙うはやつの頭部の額、一点のみである。これは()()()でも起こす脳震盪を期待しての攻撃である。朦朧となって落下するノブナーガは無抵抗に、鱗と頭蓋骨から響く形の凄い連音を鳴らせてそれを受け続けた。

 そして、百竜長は廃墟の広がる地面へ一直線に激突する。ガガーランは、イビルアイにより空中で受け止められた。

 20メートル近い竜の巨体が、瓦礫を派手に周囲へと飛び散らせていく。

 だが、『蒼の薔薇』の周到な攻撃はまだ終わらない。

 百竜長の落下地点近くへ急ぎ駆けつけ、廃虚の少し小高い建屋の屋上に立ち、ラキュースは両手で静かに剣を上段へ構える。

 

 ――魔剣キリネイラムを。

 

 そして、信仰系魔法詠唱者兼神官戦士の彼女は、全身の魔力を剣に込めて派手に叫んでいた。ちなみに全く叫ぶ必要はない……彼女の魂の性がそうさせていた。

 

「超絶剣技っ! 暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)ーーーーーーーーッ!!」

 

 膨れ上がった夜の闇より黒い光が、綿飴の様に剣先から頭上より高速で振り下ろした方向へと素早く漏れてゆく。

 そして、横たわる百竜長へ命中すると地響きや轟音と共に、大爆発を起こす。

 ドズ黒い火球に数多の真っ赤な閃光を輝かせた後、衝撃波を伴って小さいきのこ雲が発生していた……。

 十分に第5位階魔法級の破壊力は有るだろう。

 

「うわー。リーダー、やっぱり魔剣らしい悪魔的威力だよな、コレ」

「ほぉ、初めて見た」

「やるな、ボス」

「すごい威力……」

 

 ガガーランだけが、以前に一度だけこの攻撃を見たことがあった。

 皆、夜の闇に薄らと湧き上がる勝利のきのこ雲を眺めつつ、口許に笑みを浮かべている。

 しかし、まだ少し肩で息をしている、ラキュースは無事に傍へ集まって来た皆へ告げた。

 

 

「みんな―――油断しないで」

 

「「「「――!?」」」」

 

 イビルアイやガガーラン達は、ラキュースの視線の先にある爆発の跡地を改めて凝視した。

 

 煙の中、良く見ると―――まだ、ソレは地面で僅かに蠢いていた。

 

 爆発により、周囲の瓦礫は広範囲へ放射状に吹き飛んでいたが、百竜長の巨体は翼や四肢、鱗も含めて、欠損してる風には見えなかった。

 イビルアイ達も動揺する。

 

「な、なんだと……」

「はぁ!? 俺達の連携攻撃が効いていないのかよ。コイツ難度幾つだよ」

「不死身?」

「……頑丈すぎ」

 

 しかし百竜長は、蹲ったまま立ち上がってくる感じの気配はなかった。

 

「どうやら、効いていないわけではないようね」

 

 ラキュースは少し安心する。

 

「イビルアイ、ついて来て。ガガーラン達はここにいて。何か有ったら……逃げてね」

 

 すでにティアとティナは、ほぼ全魔力を使い切っていた。イビルアイも魔力はもう半分以下である。

 ガガーランは、まだ十分動けるが通じない可能性が高い。リーダーは全力で逃げる場合を考えて告げていた。

 廃虚を降りて、まだ爆発の余韻で周辺が煙たく熱い中、百竜長の巨体が横たわる前までやって来る。胴体から伸びた首と頭。その大きい口は、呼吸が苦しいようで開いている。

 ラキュースは凛とした表情と瞳で、目の前のその巨大な竜の頭を見下ろす。彼女に驕りは無い。恨みもない。

 

 これは罪に対する――罰なのである。

 

 『蒼の薔薇』のリーダーは、罪も無い多くの人々や子供たちが住んでいた都市を、瓦礫の廃虚へと変えた敵に容赦しない。ラキュースは、間を置かず止めを刺しにいった。

 魔剣キリネイラムを、その口へと突っ込む。

 

「外はいくら頑丈でも、中からならっ」

「……気を付けろ。爆風が、口からも逆流して来るぞ」

「イビルアイに任せるわ」

「分かった」

 

 少し緊張するが、剣に魔力を込めてラキュースは叫ぶ。

 

「うぉぉぉーーっ、超絶剣技っ! 暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)ーーーーーーーーーーッ!!」

 

 再び、魔剣から黒い光が漏れ出したと思った瞬間に大爆発を起こした。

 〈加速(アクセル)〉を使いイビルアイは、衝撃より早くラキュースをその場から引き剥がすと、〈次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)〉により、先程の廃墟まで一瞬で移動した。

 内部からの爆発により、爆風が口からトンデモなく凄い勢いで出て来た事で、竜の巨体は一時、地べたを這いずり回る形になった。

 そのあとは、口や鼻から煙を上げて巨体は止まった。

 

 だが――まだ、動いていたのだ。

 

 どこも壊れ欠けることなく、僅かにもがく腕や足。

 

「嘘だろ? 難度で180ほどあるとは思ったが」

「くっ……頑丈過ぎるわね。これが難度で200に迫る水準の竜の体なのね。加工すれば伝説の甲冑や防具にもなる訳だわ」

 

 ラキュースの魔力残量はもう、暗黒刃超弩級衝撃波を打てない水準であった。

 隠れていたガガーラン達が再びリーダーの下へ近付いてくる。

 

「放っときゃ死にそうだが、無理か」

 

 どうやら、他の竜兵達が気付いた感じである。まあ、小さくともきのこ雲まで上がれば気付くだろう。作戦時間は10分無い程度であった。

 

「せめて、皆で倒したっていう証拠が欲しかったわね」

「ほら」

 

 イビルアイが、折れた拳大の牙先を見せる。

 

「リーダーの身体を攫う直前に、爆風で飛んで来たのを掴んでおいた。恐らく牙がかち合って折れたんだろうな」

「お手柄っ!」

 

 もはや、この場に長居は無用。

 

「出直すわよ、みんな」

「「「「了解っ!」」」」

 

 結局、アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』をもってしても、百竜長へ止めを刺し切れない現実を突き付けられた。

 ラキュース達は廃墟群を潜んで移動し、都市の地下で縦横に走る暗渠へ素早く到達すると姿を消した。

 

 『蒼の薔薇』による竜の指揮官削りは、翌日夜も行われた。

 警戒が厳しくなった中で神出鬼没に立ち回り、十竜長を4体倒し、その内3体を殺すことに成功した。しかしその後、怒りの竜王が都市内上空へ居座ったところで、『蒼の薔薇』は王都へ報告の為に引き上げることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――P.S. 国王の前で

 

 早朝から、国王直轄地の大都市エ・アセナルからの竜軍団襲来予想の急報で起こされ、緊急対策会議に出席し、その結果――彼、国王ランポッサIII世はエ・アセナルを見捨てた。

 王国の民85万余を切り捨ててしまったのだ……。

 手は無かったとはいえ、最悪に思える朝である。

 朝食を終え、重たい気分の中で僅かに眠れぬ仮眠を取り、再び起きて決裁書類へ目を通し公務を始めた午前10時すぎの事。

 ランポッサIII世の執務室の扉が開かれた。

 取り次いだ大臣補佐より、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフより進言したい事があるという。

 ストロノーフは平民出だが、騎士にも劣らぬ忠誠心と働きを見せており、国王は彼をとても信頼していた。

 そのため、直ぐに通してやる。

 

「失礼いたします、陛下」

「うむ、何か」

「進言の前に、まずはご報告を。エ・アセナルの状況と竜軍団の動向を、ラナー王女の依頼によりアダマンタイト級冒険者チームの"蒼の薔薇"が探りに向かいました」

「おおっ、そうか」

 

 ランポッサIII世の表情へ僅かに笑みが浮かんだ。

 暗い話ばかりが続いていたのだ。今見ている決裁書類も戦費捻出のための税に関する臨時徴収発令書である。近年の帝国との戦争で王国国民の余力は殆どない。それでも、今は剥がしてでも得なければならない。すべてが、手遅れになる前にだ。

 王は、早くこの竜騒動が終わる事だけを願っていた。

 そこへ、この知らせである。

 『蒼の薔薇』は、名を聞いてから失敗したという事を聞いたことが無い優れた冒険者達と認識している。その者らが情報を集めに向かってくれた。

 国王は、ほっとする。

 王国軍では、飛竜(ワイバーン)での接近は見つかると考え、軍内で第3位階魔法の〈飛行(フライ)〉を使える魔法詠唱者2名を送り出そうと準備していた。出立は、昼からになると聞く。情報は多いに越したことはない。

 王国戦士長はそれに付け加える。

 

「また"蒼の薔薇"は、可能なら指揮官級の竜を排除する手はずです」

「なんと」

 

 緊急会議の場では、王自らそう口に出たが、軍として送り出す戦力は、第3位階魔法詠唱者2名。

 無理といえる要望である。今は情報だけでよしと考えていたのだ。

 王国戦士長の話が成功すれば、素晴らしい事である。

 

「見事討った場合、働きに応じた褒賞金を与え広く称えよ! 皆の希望の魁となろう」

 

 傍に居た大臣補佐へ向かい、王は右手人差し指で差しながら厳命の如く告げていた。大臣補佐は、王の指示に「ははっ」と恭しく頭を下げる。

 王国戦士長は、あとに回していた件について進言する。

 

「では陛下」

「うむ、聞かせてくれ」

「謹んで進言いたします。竜軍団との決戦地は、平原の如き場で待ち構え、城塞都市であろうと市街地を含む場所は避けていただきますように。これは、かの魔法詠唱者(マジック・キャスター)ゴウン殿よりの話です。竜の空からの苛烈極める攻撃は、通常の兵団へ対するように城壁では防げません。更に、強靭である竜を倒す魔法となれば大魔法しかなく、周辺への余波が甚大になるとの事です」

 

 王国戦士長の語る言葉へ頷きつつ、聞いていた王は小さく呟く。

 

「そうか……そうであるな」

「では?」

 

 ランポッサIII世は頷く。

 

「数日中に会議を開き、最良の決戦の場を決めるとしよう」

「……可能ならゴウン殿も会議へ呼ばれてはどうでしょうか。優れた戦術も見せてくれるかと」

「うむ、そうだな」

「では、午前中は私も仕事もありますので、昼食後か明日にでも時間があるときに彼へ伝えておきます」

 

 王国戦士長は、国王へと頭を下げた。

 ――アインズが(もちろん単身で)会議へと呼ばれる。

 なにやらトンデモナイ予感がして来るようなしないような……。

 

 一件は済んだのだが、国王の戦士長への話はまだ終っていなかった。

 

「ところで、こんな時勢になんだが……お前は、妻は娶らないのか?」

「つ、妻でありますか……妻……(ユリ・アルファ殿……ユリ……)」

 

 いつもは、サラリと「王国と民の為に命を掛ける所存」という感じに流せるはずの事項であった。

 しかし先程まで、スキップをしていたかもしれないほど、記憶が曖昧になって妄想し浮かれていたのだ。あの眼鏡の似合う、胸の豊かな美しい女性の事を思い出さない訳が無い。

 国王も、その普段と違う反応に気が付いた。堅物の戦士が、妻、妻と連呼している風。

 なにせ国王も二人の王子と三人の王女を生ませた男である。女体の神秘と夜の営みが嫌いであったわけがない。

 ふむ、と満を持して話し出す。

 

「実はな、さる男爵家なのだが、お前に娘を嫁がせても良いという話があってだな。娘は次女と聞くが器量も中々で歳もまだ若いぞ。どうだ、妻に?」

 

 もしも、娶れば貴族の親類になり、すぐにでも騎士へ列してやることが出来る。

 だがこれは先に言う話ではない。ストロノーフも分かっている事である。

 

「良いぞ、若い娘はー。すぐに、話を進めようか?」

 

 ニコニコと配下の幸せを願って王は微笑んでいる。一歩間違えば、危ないヒヒジジイになりかねないが。

 王は思っていた。今回は、うまく行くのではないかと。

 しかし――。

 

 

 

「お断りしますっ! 俺には、ユリ殿しかいないーーーっ!」

 

 

 

 ガゼフは、気付けば大きく声を出していた。

 無意識だった。条件反射的といえる。獣の本能かもしれない。

 まるで瀕死で朦朧とする中、陽光聖典隊長のニグンへ向かって叫んだように――。

 

 国王は、驚き思わず尻餅を付いてしまっていた。慌てて、大臣補佐が王へ駆け寄る。

 そのありさまにガゼフはハッとし、片膝を付いて手を組み合わせて王へ詫びた。

 

「も、申し訳ありません、陛下っ! (あぁぁぁぁやってしまったぁぁぁぁぁぁ……)」

 

 王国戦士長は頭を抱えてしまった。命を掛けて守るべき王へ怒鳴ってしまったのだ。

 ランポッサIII世は、大臣補佐の助けですぐに立ち上がる。

 だが、国王は怒った様子は無く、そして――聞き逃さなかった。

 

「良い良い、無理に勧めてしまったようだな。そうか……ユリか……良い名だな。愛は盲目という。お前もまだまだ若い。こんな時だが、うまく行くとよいな」

「は、はい……」

 

 ランポッサIII世は、臣下思いの優しい王であった。

 

 

(うあぁぁぁぁ、陛下に名前までバレてしまったぁぁぁぁぁーーー)

 

 眼鏡を掛けていることまではバレていないが、そんなふうに王国随一の戦士は内心で身悶えしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――P.S. 拠点にて

 

 アインズは一応の備えとして、パンドラズ・アクターに冒険者モモンの外装パターンを追加すべく、ナザリックへ一度帰還することにした。

 一時、あのナーベラルへ、その存在と姿を託すというハイリスクを冒して。

 ツアレが奥の家事室へ昼食の食器類をワゴンに乗せて移動すると、アインズは自身の外装に扮したナーベラルと入れ替わるように〈転移門(ゲート)〉を通り、二日ぶりにナザリックの第一階層へと戻って来る。

 徐に、久しぶりの感覚で仮面を外した。ここでは幻術を使う必要は無く、本来の骸骨顔が露わになる。

 そして、アルベドに指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を持ってくるように〈伝言(メッセージ)〉を繋いだ瞬間の事。

 

「私だ。今、第一――」

『あぁあ、アインズさまぁ!! くふっーーー! くふっーーーーーーー!』

 

 聞いちゃいねぇ。

 

(うわぁぁ……また"発作"が起こっちゃってるのかなぁ?)

 

 『急性アインズ症候群』とでもいうのか。

 そして特効薬は、アインズ自身である。

 

「お、落ち着けアルベド。私はここに居るぞ」

『――ハッ……これはアインズ様。何か?』

 

 完全に呆けていた状態から急速に正気に戻り、アルベドは何事も無いように努め振る舞う。

 

「今、第一階層にいる。指輪を――」

「――はい。アインズ様、こちらに」

 

 気が付くと、アインズの眼前に、取り上げ易いよう中央に指輪が置かれた上質の箱を胸元に携えて最高の笑みのアルベドが一瞬で現れていた。

 ずっと待っていたのだろうか……。インターバルが『ゼロ』タイミングの行動。

 嬉しさの余り、彼女の腰から生える黒い翼を小さくパタパタとさせている。まるで子犬が無邪気に尻尾を振るかのように。

 

「すまんな、アルベド」

「いえ、いえっ」

 

 至高の御方をじっと見詰める彼女の瞳は潤み、頬もどんどんと赤く染まってゆく。

 

「それで、次は何を致しましょうか? お疲れのようでしたら、是非設備(対防音・振動)の整った執務室の奥の寝室で、ゆっくりシッポリ休まれるのがお宜しいかと」

 

 もはや、添い寝する気満々である。

 満面の笑みも忘れない。

 勿論、この場へ来るまでに〈最上位超加速〉と指輪により、かの抱き枕はベッドより回収済であるっ。

 妄想が膨らんでいるアルベドに対し、アインズは声を掛ける。

 

「いや、今来たのは最下層に用があってな」

 

 満面の笑みが一瞬陰るも、彼女は再度微笑む。

 

「では、是非、わたくしもご一緒いたしますっ」

「アルベドも忙しいのではないのか?」

 

 最も多忙だろうデミウルゴスと比しても、彼女の仕事量はそう変わらないはずである。

 ナザリックの全個体を合わせれば一万五千はいる。それらを代行的に統べている彼女に、休んでいる暇など殆どないのだ。

 

 ちなみに同時刻、第九階層で警備中のはずであるルプスレギナは、一般メイドのフォウ、フォアイル、ルゥプ、アンドゥ、ヱンドに誘われて思わず昼食を食べた後、さらに大浴場で良い湯を頂いてゆっくりと寛いでいた……。

 以前、掛かり湯をせずに湯船に飛び込み、マナー違反でライオンゴーレムに頭をかじられたルプスレギナは、懲りたようで体をキレイキレイに洗ってから入るようになっている。

 風呂のマナーは学習したが、どうも食欲には勝てないようだ……。

 

 アルベドは、苦も無いように涼し気に答える。

 

「大丈夫でございます。今の倍の仕事を頂いても、些かの支障もございません」

「……そうか。では、ついて参れ」

「はいっ」

 

 二人は、一瞬である場所へと転移する。

 宝物殿である。

 ここへの通路は存在しないため、指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)がなければ出入り出来ない。

 そこは黄金の宮殿と言える正十二角形の部屋で、天井まで数十メートルの高さにコンサートホール以上の広さがあった。

 驚くことに床一面ユグドラシル金貨で埋め尽くされた上に、天から今も降り注ぐ金貨により中央へ黄金のアイテム群も埋もれる大きい山が出来ていた。

 

「うわぁ……見事ですね」

 

 アルベドは、周囲の壁面に数多あるブロックへ飾られた宝物群も見回しながら感嘆の声を上げる。彼女の目からもかなり整理されている風に見えた。

 飾られているのは、全て伝説級(レジェンド)聖遺物級(レリック)を含む遺産級(レガシー)以上のアイテムである。

 アインズは、ここから更にパスワードを使って霊廟へも繋がる武器庫の封印門を開け通路を進む。

 通路の壁面にも大変貴重である武器群が飾られている。ここには伝説級(レジェンド)に加え、非常に希少で強力な神級(ゴッズ)アイテム群が並んでいた。

 去って行ったメンバー達が残していった物の中で、身に付けていなかった秘蔵品とも言える。

 

「アルベドは、パンドラズ・アクターを知っているか」

「はい、管理上では。まだ会ったことはありませんけど」

 

 指輪を与えてから間もない事や、至高の者と同伴でなければ宝物庫もNPCは立ち入り禁止にしているためだろう。

 アルベドはパンドラズ・アクターについて、今知っている知識の概要を主へと伝える。

 

「ここ宝物殿の領域守護者にしてナザリックの財政面の責任者。階層守護者と同レベルの強さが有り、更に私やデミウルゴスと同等の頭脳を持ち、そして――アインズ様の御手によって創造された者です」

 

 最後の言葉を述べるアルベドの声は、気の所為か怒気を含んでいる様にも感じた。

 その真意は良く分からないが、アインズは触れないでおく。

 アルベドも、パンドラズ・アクターが絶対的支配者の創造物であるため、自分の感情とは別にして、失礼の無いよう十分言葉を選んでいた。

 二人は一室へと辿り着く。

 

 部屋の奥の通路が、指輪を付けていると攻撃される霊廟と言われる区画。

 通路の左右に、引退した至高の41人を模した37体程の像が立っており、其々の像には彼等愛用の破格の装備が身に付けられている。その奥に――世界級(ワールド)アイテムが眠る。

 だが今日は、奥への用事ではない。

 

 ここは、広い休憩部屋の形の空間であった。

 そこに明るい土色の軍服を着た1体のNPCが居た。アインズは数日前、すでに一度訪れており、その際に色々躾けている。その過程において精神の強制鎮静化が10回以上起こったのは秘密だ。

 敬礼ではなく、彼は設定に抗うように些か手振りを交えつつもお辞儀で迎える。

 

「これはこれはアインズ様っ!」

「うむ」

「それに綺麗なお嬢さまもようこそ」

 

 その言葉に、アルベドはカチンとくる。

 創造には大きく溢れる愛が必要である。目の前の軍服のNPCには造形物として、アインズを満足させた愛が籠っているのだ……。

 アルベドが、気持ち的にパンドラズ・アクターを気に入らないのは当然である。

 このNPCにだけは、只の小娘と思われる訳にはいかなかった。

 彼女も、アインズに設定を『愛している』と書き換えて頂いた自負がある。そして、この栄光のナザリック全NPCの統括なのだ。

 

「私の名はアルベド。ナザリックにおける守護者及び全NPCの統括です。そのような軽々しい呼び方は慎むように」

「これはこれは失礼しました、アルベド様……はい」

 

 続けて『薔薇のように可憐なお姿につい』とパンドラズ・アクターは歯の浮く言葉を言いかけるも、向かいで彼女の横に立つアインズから漏れ出る〈絶望のオーラV〉の雰囲気を察して言葉を切った。

 その創造主が、言葉を伝える。

 

「さて、用なのだが、パンドラズ・アクターよ。お前には新しい外装パターンを記録してもらう。外で、色々と起こっているので手札を増やしておきたいのだ」

「分かりました。創造主様っ!」

 

 一瞬右手が敬礼風に上がり掛けるも、止めてパンドラズ・アクターは答えた。

 パンドラズ・アクターは、アインズが先日来た際に新世界への転移現象と、当面の予定は聞かされており状況はすでに把握している。

 早速、モモンの人間形態データと、ナザリック内で複製されたモモンの全身鎧(フルプレート)や二本のグレートソードなどの装備類を外装パターンへ登録した。

 外観はまさにモモンである。

 

「ほぉ。ちょっと喋ってみろ」

「私がモモン。覚えておけ――この世界の全てを斬り裂く者だっ!」

 

 真紅のマントを翻し、開いた手を突き出している姿。

 そしていかにもアレ的台詞だが……声もデータが揃っていれば近い雰囲気が出せる。

 

「……まあいいだろう。では――付いてこい」

「えっ。あの、アインズ様。私が宝物庫を出てよいのですか?」

「お前には少しの間、私に付き従い実際にモモンの活動と周囲の状況を見てもらう」

「分かりましたっ」

 

 アインズの言葉に、アルベドがとても悔し気に満ちた顔をする。

 そして、パンドラズ・アクターを厳しく睨んだ。

 

「――ヒィッ?!」

「な゛に゛?」

「ぃぇ……なにも……」

 

 至高の御方の傍に、どこまでも付いて行きたいのは『私』なのである。アインズの背中側で、いつの間にか赤い閃光を放つ彼女の大口ゴリラ的表情の目はそう訴えていた――。

 

 

 ハンカチで目許を押さえるアルベドに見送られ、日課に近いアンデッド作成を終えた第一階層からの去り際にアインズは、ふと思考の片隅に何か忘れているモノが浮かんだ気がした。

 

(あれっ……気の所為かな……)

 

 一瞬首を捻るも、待っているであろうマーレのもとへ〈転移門(ゲート)〉を開くとパンドラズ・アクターを従えてさっさと向かった。

 

 

 

 絶対的支配者は、確かに忘れていた。

 第二階層の密閉された薄暗い部屋のモノ達を――。

 

 ………

 

「――だからな。俺は思ったんだ。ここで、絶対這い上がってやる。あそこじゃ死ねない……とな」

「「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」」

 

 (ニグン)は、依然不自由である拘束具を付けられ、石床へ転がる自身の体に群がっている者達へ懇々と語り掛けていた……。

 彼は、まだまだ元気にしているようである。

 

 

 




捏造・考察)外装パターン
参考にアニメを見直していると、パンドラズ・アクターがタブラさんの姿からぐにょぐにょ変形しながら姿を変えています。これを見て改めて思った。
本作では、パターン登録は身体と装備を別で保持することも可能だと考えます。外装パターンはアイテムボックスみたいな機能も内包するということで。もちろん、装備姿の外形だけの記録も可ではあります。
そう考えないと可愛いナーベラルの白い服も甲冑も下着も、破けたり脱げたり着替えたり出来ませんので……。




サテ……不死王が、アインズの横に立つ日が来るのか……(ガクブル

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