今回は日常回。
では三人称視点どうぞ。
朝。
詠夢は体を起こして朝ごはんを作りに行こうとした。
そう、作りに行こうとしたのだ。だけど、
「体が……動かない……?」
そう、動かそうとしている体が全然動かないのだ。
詠夢が声を上げてみても動かない。
「詠夢ー?どうしたーーー」
それに気づいたのか霊夢が起きてきて詠夢の部屋の襖を開けると霊夢は驚愕の顔を見せた。
「詠夢?顔がすごい赤いわよ?どうしたの?」
「わからない」
もしやと思い詠夢のおでこに手を当てる。
「……ひどい熱……!とりあえず、永遠亭に行くわよ」
霊夢は焦りの表情を浮かべた。そして詠夢を抱え、永遠亭へと飛び立った。
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永遠亭。
「普通の風邪見たいね。……でも、なんでこんな高熱が出るのかしら?」
永琳は疑問の表情を霊夢に見せながらカルテをじっと見ていた。霊夢は不安になりながらも永琳を見ていた。義理の弟だとしても家族がこんなに苦しんでいるのは不安になる気持ちも分かる。
「そう……じゃあとりあえず家で安静かしら?」
霊夢は詠夢の様子を心配していた。彼の頭を優しく撫でながらも、霊夢が動揺しているのはすぐわかった。
「そうね。あと、神社の仕事を詠夢に絶対やらせないこと。いい?」
「そのくらいわかってるわよ」
とは言ったものの、詠夢が不在だと神社の仕事がうまく回らないのは霊夢が一番知っていた。
「でも、本当に可愛い寝顔なのね、詠夢って」
永琳の言葉で霊夢は何かを思いついたようだ。
「それよ永琳!ありがとう」
霊夢は大急ぎで神社へと戻っていった。
「詠夢の寝顔………なるほど、そういうことね。霊夢らしいわ」
永琳は納得した、というような顔を見せた。
「どうされました師匠?」
「なんでもないわようどんげ」
鈴仙は頭に?マークを浮かべながら仕事を始めるのであった。
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博麗神社
「これで一儲けできるわね。フフ」
そう。霊夢は寝込んでいる詠夢の寝顔で参拝客とお賽銭をがっぽり稼ごうと思っていたのである。お金には目が眩む霊夢の性格ゆえ、文には新聞の号外まで配らせる準備の良さである。
そして、予想通り
「詠夢さんは大丈夫なんですか!?」
「詠夢さん、頑張って!」
などなど、人里から詠夢を心配する人々が多く神社に集まった。
また、霊夢の元には多くの声が届いていた。
「うん、とてもかわいらしかったわ。パチェもこれなら外に出てくるんじゃないかしら。たまには羽を伸ばしてみるのもいいわね」(紅色のノクターナルデビル)
「なかなか珍しいものを見たぜ。アリスがみたら、キュンってなるかもしれないな。連れてこようかな?」(極めて普通のマジシャン)
「師匠が絶賛する理由がわかりました。キュートすぎてそこにずっと居たくなりますね。でも、風邪は早く治してくださいと言っておいてください」(地上のムーンラビット)
「とてもいい寝顔でつい長居してしまいました。博麗じゃなくて守矢の神主になってみませんか?しっかり神様もいますよ」(風と湖のテウルギスト)
「詠夢くんが高熱出したって聞いて心配で駆けつけたけど寝顔に見惚れちゃったわ。詠夢くんのああいう姿を見たことがなかったから新鮮な体験だった。お大事にって言っておいてください」(判読眼のビブロフィリア)
と、病気を心配するとともにとてもかわいいという意見も数多くあった。霊夢は心配でしょうがなかったのだが、神社の仕事から手が離せなかったため、そういう意見を聞いて安心するのみだった。
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夕方
霊夢は神社の仕事が終わり、詠夢の元へ駆けて行った。その隣には子狐のコンと詠夢の式神、緋天の姿もあった。
「詠夢!大丈夫だった!?」
霊夢は昼間ずっと会えなかった、寂しかった気持ちを詠夢にぶちまけた。
「スー………スー………」
詠夢は縁側の方を向いて心地好さそうに熟睡していた。霊夢はその様子を見て安心したように見えた。
「きっと早く良くなるわ」
霊夢が囁くように話すと詠夢がもぞもぞと動き出した。詠夢の目が覚めたようだ。
「うう……お姉ちゃん。おはよゲホッゲホッ」
霊夢は咳き込みながら何かを話そうとする詠夢を止めて安静にするように呼びかける。
「詠夢、無理しないの。私が夜ご飯作ってくるから待ってなさい」
わかった、と詠夢が反応したのを見届けてから夜ご飯を作り始める霊夢だった。
その後、数日か高熱が収まらず詠夢は苦しんでいたが、やっとのことで1週間も続いていた風邪を治したのであった。
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1週間後
「ちゃんと飛べるし問題無さそうね」
霊夢は詠夢の飛ぶ姿を見てそう言った。霊夢は詠夢が人里に行ってお詫びしてくると言ったがまだ病み上がり。心配をしていた。
「じゃあ、行ってきます」
「夕方には帰ってくるのよー」
霊夢は飛び立ちそうだった詠夢にそう言い神社へと戻っていくのであった。
「飛ぶのも久し振りで気持ちいいなー」
詠夢は久し振りに飛ぶ空をとても楽しそうにしていた。気づくともうそこは人里の入り口だった。
いつもの白の上に紅いズボンの袴を着ている。なのでとても人里の人達から注目を浴びる格好だったりする。その結果、
「詠夢さん!風邪は治ったんですか!?」
「詠夢さん!お体に気を使った方が……」
「神主さん!」
病み上がりのため少し人が集まるだけでも辛いと感じた詠夢。詠夢は人里のみなさんに謝罪をするが、無事でなによりという言葉が聞こえた時は詠夢も少し微笑んだそうだ。
しかし、やはり不運なことは起きてしまう。
凶暴妖怪が人里に侵入したという情報が詠夢の耳元に舞い込んできたのだ。
「詠夢さん?やっぱり博麗の巫女を呼んだ方が……」
「うーん……では、誰か霊夢を呼んで来てください。僕は足止めをしています」
と人里の人々に一言だけ残して妖怪のところへと飛んで行った。
人里の少し外れ。
そこには大きめの妖怪が周りを荒らしていた。
「待て!そこの妖怪」
「ん?お前は誰だ」
その妖怪はのんきに詠夢のほうを振り向いた。
「僕は博麗の神主です。人里で乱暴をしているのだったら出て行きなさい」
詠夢は威圧するようにその妖怪に言い放つが、妖怪はそれを無視して暴れまわっている。
「ふーん………それなら、あなたを退治するのみですけど?」
「はっ!できるものならやってみろ!」
その瞬間、詠夢に鋭い爪を持った拳が襲ってきた。詠夢は軽い身のこなしでそれを避けた。
(マズいな……1週間ずっと体を動かしていないせいか、体が思うように動かない……病み上がりっていうのもあるかもしれないけど、反応が少し遅くなったように感じる)
詠夢は自分の体のことについて心配はしていたけれど、それよりもこの妖怪がかなり強敵であることを詠夢自身の体で感じ取っていた。そちらの方がよほど危険である。
詠夢も刀を抜いて切ろうとした。しかし、
「なっ!?避けられた……?」
次に妖怪は無数の弾幕を一気に放った。詠夢が慎重に弾幕を避けて再び斬りかかろうとしたその時。
詠夢の目の前に鋭い爪を持った拳があった。詠夢は避けようとしたが思うように体が動かない。それもそのはず。その妖怪のもっている触手に手と足を拘束されていたのだ。
「ガハッ……!ぐっ……」
詠夢は鋭い爪で左腕に深く傷が入った。詠夢は一瞬苦しそうな顔を見せたが、一瞬で本気モードにスイッチした。目を閉じて意識を集中させた。
「やはりその程度か、人間ごときは。あーあ、ここのみんなもそうなのかな。早く食べてやりてぇよ、ってな。アハハハハハハハハッ!」
詠夢はその瞬間、目を開けた。目の色は鮮やかな青色をしていた。
「いま…なんて言った?」
「そんなのも聞こえなかったか!早く食べてやりてぇよって言ったんだよ!」
妖怪はまるで勝ち誇ったかのように拘束されている詠夢を見下した。
「お前はその時点でもう幻想郷にいてはいけないぞ、その前にーーー」
詠夢は拘束されている触手をブチ、ブチと切っていく。そして完全に解放された詠夢は妖怪にこれが最後の忠告だと言わんばかりに言い放つ。彼は物凄い殺気を放っていた。
「まあ僕に退治されるだけだけどな。人間の本気、見せてあげますよ」
すると、詠夢は刀をしまい、大量の弾幕を放つ。妖怪も応戦しようと弾幕を放ち、触手で襲い拳もぶつけようとしたが、詠夢はそれらを軽く身を傾けるだけで全てを躱した。
そのままの勢いで詠夢は刀を抜いた。そして。
刀の高い音が夕日に染まる人里に鳴り響いた。その妖怪はその場に倒れた。
人々が詠夢に対して歓声を上げて喜んだ。
そこに現れたのは2人の女性。
1人は腋が出ている紅白の巫女装束を着た少女。
もう1人は金髪に道士服っぽい服を着て、手に持っている扇子がどこか胡散臭さを醸し出している妖怪の賢者。
「遅かったみたいだね、霊夢と紫」
彼は振り返ると、優しい笑顔を2人に向けた。瞳の色は青。さっき付けられた傷は無かったかのように消えていた。
「まあ、無傷で何よりね。よく倒したわ」
「幻想郷のためによくやったわ。ここの創設者として感謝するわ」
詠夢は紫のほうを向いてぺこりとお辞儀をした。そして詠夢たちは博麗神社へと戻っていったのだった。
まあ、その後また熱が上がり霊夢に散々怒られたのは言うまでもないのだが。
今回は自分にしては少し長めになりました。
明日から定期テスト+体調絶不調で投稿が遅れるかもしれませんが気長に待ってくれると幸いです。
ではまた次回。