トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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小さき竜

 リヴィラの街から聞こえてくる喧騒。元々が破落戸の屯する街なので騒がしいのは何時もの事だが、どうも様子が違う。ザハクは街の方角を見て鼻をヒクつかせていた。

 

『……殺しだな。さっきからどうも血の匂いが強いと思ってたがよ、殺しがどうとか聞こえてきたぜ』

 

 驚くべきはその聴力であろう。街からそれなりの距離があるにも関わらず街の騒ぎの原因を聞き分けたザハクの聴力、そして先程感じた言い表し様のない威圧感にフィン達はザハクに対する警戒心を高める一方でパートナーの様な存在であるネルガルに注目する。

 

「じゃあ、ご飯にしようかザハク」

 

『だな』

 

 街の騒ぎの事を聞いても平然として食事の準備をし出すネルガル。汲んだ湖の水に干し肉や野草等を入れて火に掛ける。

 

「君は街の様子を見にいかないのかい?」

 

「殺しなら戦場で幾つも見てきたし経験もしてきたしね。今更野次馬根性を発揮する程の事じゃないしさ。今はお腹が減ったから、ご飯の方が優先優先」

 

「……そう。なら私達は街に行くね」

 

 其の儘立ち去ろうとしたアイズ達だが、ふと足を止める。乱雑に積まれたネルガルの荷物の中に魔石の山を見つけたからだ。それだけならさして珍しくもないのだが、その魔石の色は普通ではない。先日ダンジョンの奥で襲撃を食らった芋虫型の新種モンスターや怪物祭の時に現れた食人花の体内の物と同じ極彩色をしていたのだ。

 

「これってあの花や新種のと同じ魔石っ!? ねぇ、君! これを何処で手見れたのっ!?」

 

 慌てて食って掛かるティオネに押されそうになったネルガルは湖を指さした。

 

「水浴びしようと潜ったら底の方に蛇と花を合わせたみたいなモンスターが潜んでいたから倒したら体内にあったんだ。ちょっと普通じゃないからリヴィラじゃなくってギルドに見せようと思うんだけど」

 

「十八階層に潜んでいただってっ!?」

 

「……フィン、これは普通じゃないぞ。……他に何か異常な事は起きなかったか?」

 

「え~と、ザハクが言うにはモンスターと人を混ぜたような匂いの女の人が街に居たり、街の端にある崖の上の方にこの魔石のモンスターと同じのが潜んでいるって事くらいかな」

 

 顔を見合わせるフィンとリヴェリアは頷くと街の方に踵を返した。

 

「悪いが一緒に来てくれるか? ……食事代は此方が出そう」

 

「やったっ! 久しぶりにマトモな料理が食べられるや!」

 

『こ~の一週間、適当に煮込んだり焼いただけの物しか食べてねぇからな。調味料は貴重だし嵩張るからって味は薄いしよ』

 

 愚痴を言いながら乾いたローブをネルガルに渡すザハク。モゾモゾと着替える間、アイズはその背中の文字を目にした。

 

(……スキルが四つ。最後のは良く見えなかったけど、レアスキルだってのは分かった。気になる、どうやったらあんなに……)

 

「……其処までだアイズ。見てしまったものは仕方ないが、詮索も他言も無用だぞ」

 

「……分かった」

 

 好奇心を顕にしたアイズの肩を掴んで諌めるリヴェリア。一行が街まで着くとヴィーという男の経営する宿屋に人集りが出来ていた。

 

「すまないが通してくれないか」

 

「あぁんっ? げっ! ロキファミリアっ!?」

 

 人集を掻き分けて中に入っていくフィン達。流石は最大ファミリアの一角と言った所だろう、すぐに道が開けられ置くまで通される。この街に暫し滞在する身としては放置しておくわけには行かず、ティオネとティオナとアイズはザハクが察知したという人食花の捜索に行き、フィンとリヴェリアが殺しの現場に向かっている。

 

 

 

「取り敢えずサンドイッチとホットミルクね」

 

『それと骨付き肉の盛り合わせだ。早くしろよ』

 

 残ったレフィーヤは約束通りに昼食をご馳走する為にネルガル達と共に食堂に来ており、食人花の大体の場所を伝えたザハクは遠慮無しに割高のメニューを頼んでいる。同席したレフィーヤは会ったばかりの少年と食事をするという状況に戸惑いながらもメニュー表を眺めていた。

 

「あ、あの、ネルガル君、だったっけ?」

 

「そうだよ。お姉さんはレフィーヤさんだったっけ? 魔法王国の方で千の妖精(サウザンド・エルフ)って聞いた事があるよ」

 

「そ、そうですか」

 

 レフィーヤとしては指導役であるリヴェリアに目を掛けられているネルガルが少し羨ましくって妬ましい。だが相手は子供だしそのような感情を相手にぶつけるのは気が咎める。

 

「そういえば君のご両親はどんな人なの?」

 

「生活苦を理由に赤ん坊の僕を殺そうとしたヒューマンの生みの母親に、育ててくれたアマゾネスの育ての母さんに、使用人を孕ませた挙句に捨てておいて、利用出来そうだからって捨てた子を奪いに来た貴族の父親。……親だと思ってるのは育ての母さん位かな? 人付き合いが悪くって生みの母親以外に親しい人は実の妹以外にいなかったけど」

 

「……ご、ごめんなさい。嫌な事聞いちゃって」

 

「大丈夫大丈夫。気にする程の事じゃないからさ。……ザハク?」

 

 慌てふためくレフィーヤだがネルガルには対して気にした様子はない。ケラケラ笑いながら手を振った彼が横を見るとザハクが鎧を着た男をジッと眺めていた。

 

『見ぃ~つけたっ! あの()だっ!』

 

「……女、ですか? あの人、男の人ですよね?」

 

『死体の顔の皮を剥がして被ってんだよ。……し・か・も、こっちに気付いた様だぜぇ~』

 

 楽しそうにケラケラ笑うザハクの視線の先ではその男が……いや、女が殺気を出して三人を睨んで来ていた。

 

「下がってっ!」

 

 ネルガルはレベル2で自分はレベル3という事もありネルガルを庇うように立ち塞がるレフィーヤ。だがかぶった皮を剥がした女は鎧を脱ぎ捨て身軽になると剣を引き抜き、レフィーヤが反応できない速度で迫った。

 

 首筋目掛けて迷いなく振るわれる凶刃。だが、その刃は彼女の首を撥ねる事無く、反対に音を立てて折れる。

 

「貴様……っ!」

 

『ケケケケっ! なぁ、ネルガル~。たまには俺も暴れて良いよなぁ~?』

 

 刃を翼で受け止めへし折ったザハクは凶悪な瞳を輝かせながら笑っていた。

 

「……拙いっ! 皆逃げてっ!」

 

 慌てた様子でレフィーヤの手を掴むとその場から走り出すネルガル。其れを追おうとした女だが、すぐ眼前にザハクが回り込んで邪魔をした。

 

「レベル6相当って所かぁ~? 雑魚だな雑魚」

 

 女は新しい剣を抜き、振るわれる刃を翼で防いでいくザハク。刃は火花を散らして少しずつ欠けて行き、女の表情に焦りが生まれだした。

 

「貴様、レベルは何相当だ? 貴様の様なモンスター、見た事がないぞ」

 

『まっ、そうだろうなぁ。俺はモンスターじゃないからなぁ。レベルゥ~? レッドライダーの奴が言ってたなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 さ・い・て・い・でも、レベル9相当だってなぁ、ウケケケケケケ~』




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