トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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甘さがもたらす物

 空に向かって無数の光が立ち上っていく。小さいけど一点の曇りもない光の群れ、それが迷わぬように少し遅れて大きな光が天へと向かって行って……それを眺める僕は欠伸をかみ殺していた。

 

「……眠っ」

 

 何度でも蘇る連続殺人鬼ジャック・ザ・リッパーの最後は呆気ない物だった。えっと、春姫だっけ? 今は空の光に見とれているお姉さんが膝枕をした途端に甘えるように眠りだして、後はイシュタル・ファミリアの接待を受けていたファミリアを持つことさえ出来ずに地上でくすぶっていた男神の力で完全に浄化、転生を果たした。

 

「……さて、あの中の幾らが生まれたことを後悔するのやら」

 

 所詮この世は弱肉強食。元々ジャックが誕生するに到った環境は世界中に存在するし、貧困、疫病、戦乱、怪物、不幸の種は世界中に溢れかえっている。数えるのが馬鹿馬鹿しい位に。

 

「じゃあ、僕は帰るから……」

 

 兎に角この場から立ち去りたい。一時的に救われただけの子供達に如何にも善人ですって感傷を抱いている連中のいるこの場から。あと、麝香の香りが本当にキツい。僕が帰り出すと背後から声が掛けられた。

 

 

「あ、あの、また来て下さいませ。お会いできるのを心待ちにしております」

 

「いや、僕子供だよ? ……まあ、会う機会は有るんじゃない?」

 

 実際、探索を行っているなら大けがする団員は出るだろうしね。春姫さんはここがどんな場所で自分の職業が何なのか思い出した結果、僅か十歳の子供を誘ったみたいな感じになったのに気付いて真っ赤になってるよ。

 

「なんだい、春姫。アンタ、そっち系かい?」

 

「ア、アイシャさん、違います! お話しいただいたお伽噺の続きが気になっただけで……」

 

 ……あのアマゾネスのお姉さん、この前治療対象に入ってたけど自分が治ってる事に気がついているみたいだね。ペインブレイカーがあるべき姿に戻すのは肉体だけじゃなくて精神状態もだ。どうもトラウマ的なの植え付けられてる様子だったからね。

 

「……おい餓鬼。ちょっと待ちな」

 

 早くホームに帰って眠りたいのに今度はイシュタル様に呼び止められる。さっきまで僕が魅了されないのが不満な様子だったけど、今は違うみたいだ。

 

 

 

 

「あと四,五年したら客として来い。お前ならサービスしてやろうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……以上が今回の顛末だよ。ねぇ、もう寝て良い?」

 

 黄昏の館に戻った僕はロキ様や団長にイシュタル・ファミリアで見聞きした事を伝える。既に朝日が昇り掛けて皆が起き出す時間帯。ジャックの材料に同情して気になったんだろうけど、僕のことも気にして欲しいよ。

 

「おう、眠い所ゴメンな。ちゃんと飯や風呂の準備させておくさかい、ゆっくり眠りや」

 

「……おやすみなさい」

 

 流石に広範囲に婦長の魔法を展開し続けた上に徹夜だから眠気が凄い。ちょっと見えた机の上には治療の依頼書が貯まってて、どうもリヴェラの街まで出向かなきゃならないみたいだけど、黙ってるって事は暫く休ませる気かな?

 

 少し足下がふらつくのを感じながらベッドまで辿り着いた僕は仰向けに倒れ込むなり睡魔に身を任せる。……もう直ぐだ。時期からしてそろそろ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イシュタルに気に入られた……いや、目を付けられたって感じかな? ベートが言うには美神の魅了に耐えられるらしいけど……」

 

「完全に死なへん限りは直ぐに全快ってのは敵ならどんだけ怖いか分かるやろ? どうせフレイヤとの戦いの時に巻き込もうって魂胆で懐柔する気やろな。……気に入らんなあ。もうネルガルはウチの子や。くだらん争いに使われてたまるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今動けるのがママしか居ないねん。ネルガルのお守り頼んだでー』

 

『誰がママだ、誰が』

 

 この様なやり取りがあって十八階層までリヴェリアさんが同行することになった。でも、例の女の人が襲ってきた際に後衛だけじゃ不利だからって前衛ができて第一級冒険者以上の人を誘うって事になったんだけど……。

 

 

「だからお前は駄目なんだよ。胸だけでなく頭も将来性皆無なんて哀れすぎて涙を誘うね」

 

「むきー! 私だってLv.3にランクアップしましたし、その内追い抜いてあげますから見てなさい!」

 

「無理無理。お前が僕に勝てる所なんて駄目さだけだもん」

 

 ホームにはティオネさん達が不在だったから偶々ダンジョンに向かう途中だった顔見知りと潜ることになったけど、中層に入って暫くした所でその内の一人であるジャリィと喧嘩になった。此奴とは前のファミリアの頃からよく喧嘩をしていたんだ。どうも忘れた誰かを思い起こさせる顔をしているからか僕が僕じゃなくなる。……だから此奴は嫌いだ。

 

 そんな僕に違和感を感じたのかリヴェリアさんはもう一人の同行者、ジャリィのお姉さんのアルトリア・オルタさんに訊ねていた。まあ、普段の僕じゃ考えられない醜態だから仕方ないと思う。これも全部ジャリィが悪い。

 

「……一つ聞くぞ、『暴君(デストロイヤー)』。あの二人は何時もああだったのか?」

 

「そうだ。何度言ってもあの馬鹿共は改めん。……おい。止めぬなら斬るまでだ。それと愚妹の胸がどうとか言っていたが……後で殴る」

 

 ……この人はこの人で苦手なんだよ。一瞬自分の胸に目を向けたアルトリアさんは後で絶対に僕を殴るだろう。戦いの際はスキルによる異常な精神力の回復に頼って強力なエンチャントによる攻防移動の強化で戦う凄腕の魔法剣士であり、Lv.5の凄腕。多分、アイズさんと互角じゃないかな? 人間相手には非情になれるぶん、きっと……

 

「ふふふ、ざまあみろです。姉さんは胸が小さいことを気にしていますからね。それを忘れて私を馬鹿にしたのですから馬鹿は貴方の方ですよ。はい、論破」

 

「お前も殴るぞ、ジャリィ」

 

「えぇ!?」

 

 

 この後、二人揃って脳天に拳骨を落とされた。まあ、街についてモンスターの大量発生で出た大勢の怪我人やら昔下半身だけが発見されたのに生きていた男や、そいつが操る食人花で出たヘルメス・ファミリアのメンバーやアイズさん達、あと知らないエルフのお姉さんの怪我を癒やした位で特に驚く事はなかったかな?

 

 

 

 

 

「その『彼女』ってのが新しい肉体を与えたのかな? 寄生能力とか完全な人間型って思ってたけど人間をモンスターに作り替えるのか」

 

 帰り道、アイズさんと分断されて件の男と戦ったヘルメス・ファミリアに合流したベートさん達の話では胸の中に魔石があった上に足は植物だったらしい。最後は天井を崩落させて逃げたらしいけど、モンスターと同じで強化されるなら厄介かな?

 

「次会ったらぜってぇ殺す。それだけだ」

 

「まあ、人間の姿をしていようがモンスター扱いで良いと思うけど……今後は怪しい相手は同類として手足を切り落とすのが良いんじゃない? どうせ体も心も僕なら治せるんだからさ」

 

 ベートさんは物わかりがよくて助かるよ。後ろを見ればレフィーヤさん達エルフの人達は少し絶句した様子だけど、普段からモンスターを殺しておいて何を今更。やっぱり例の喋るモンスター達は毒にしかならないし見敵即殺じゃないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、本当に甘いよね、外の戦いを知らない冒険者は。反吐が出る思いをしながら僕は外を目指す。その数日後……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちにもあったぞ、ウィリディス!」

 

「こっちも見つけました!」

 

 ……何故かオラリオから少し離れた森の中でレフィーヤさん達と冒険者クエストに出掛けていた。確かフィルヴィスとかいう例のエルフのお姉さんと三人でだ。ダンジョン内で仲良くなったらしいけど、会ったばかりの相手は取り敢えず殺す可能性を考えておく位じゃないとさ、駄目だよねぇ。

 

 

 

 

 

「……それでさ。僕に何の用かな? 協力してくれたら殺さないであげる。質問するからちゃんと頷いてね」

 

 遠くで仲良く依頼の品を採取する二人の声を聞きながら僕は少し呆れ果て、取り敢えず接触してきたラキア所属の女を拘束して口を塞いでから爪を一気に剥ぎ取った。

 

 

 所でどうしてこうなったのか。それは今日の朝食の時間まで遡る……。

 




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