トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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最近、甘くなったネルガル君


ぬるま湯の生活

「……さてと。隠れていないで出て来たら? ハッキリ言ってバレバレだからさ」

 

 黒歴史的な行動が原因で豊穣の女主人から一目散に逃げ去ったネルガルだったが、クロエを撒いた彼は路地裏で立ち止まる。ネズミ一匹居ない場所に声を掛けるも当然のように反応は無い。只、静寂のみが存在した。ネルガルは軽く溜息を吐くと口を開く。

 

「後五秒以内に出てこないと敬愛する女神様を侮辱する張り紙をオラリオ中にバラまく。5,4,3……」

 

 放たれる濃密な殺気。現れたのはフレイヤ・ファミリアに所属する小人族の四つ子。異名は忘れたが、その連携によって四人の時の戦闘力は本来のランクよりも上であることは覚えていたネルガルだが、元々のLv.が上の四人を前にしても表情を崩さない。まるで恐怖が欠落しているかのようだ。

 

「僕を試してこいとでも言われたの? ああ、自分達に向けられるべき関心が別の誰かに向けられて悔しいんだ。それで怒っているんだね」

 

 声も言葉使いも年相応の子供のモノだが、四人に武器を向けられての反応ではない。その上、一切の感情が感じられない表情をしていた。

 

 

「僕さ、どうも最近鈍っていたみたい。ただいま、、やお帰りってって言ってもらえて嬉しかった。新しい仲間は優しくて暖かかった。でも、それじゃ駄目なんだ。強くなるには本来の僕に戻らなくちゃ。……お礼を言うよ。武器を持って襲い掛かって来てくれたお兄さん達」

 

 何かがおかしいと、四人は同時に気付く。今から何かをされるのではと言う防衛本能に従い、一時撤退を決め込む。先程の言葉は許し難いが、女神の命令に逆らって殺すわけにもいかない。その許可を貰うためにも退こうとしたのだが、全ては手遅れだった。

 

『我が才を見よ 万雷の喝采を聞け 座して称えるが良い 黄金の劇場を』

 

 本来、詠唱とは集中し時間をかけて行うべき物。ただ口にするだけなら数秒の物でも数倍数十倍の時間を使う。特に威力の高い長文詠唱なら尚更だ。その詠唱は速かった。集中に使う時間が殆ど無いほどに。だから四人は思ったのだ。牽制程度、避けるか防ぐか可能だと。

 

 そう、思ってしまった……

 

 

『アエストゥスドムスアウレア』

 

「!?」

 

 突如、背後に壁が出現する。いや、はいごだけではない。四人は黄金に輝く絢爛豪華な劇場の中に居た。幻覚ではないと冒険者としての勘が告げている。つまりあの短時間の詠唱で此処までの物を作り出したのだと四人は察した。

 

「これは良いご報告が……っ!?」

 

 その違和感には直ぐに気付いた。体中に重りを付けたm様な感覚。熱で体が動かないような倦怠感。本来の力が出せないという直感。ここは劇場などと言う生温い物ではない。敵を処刑するために閉じ込める牢獄だと、四人は理解した。

 

 

 

 

 

「じゃあ、正当防衛で反撃するね? 相手は格上、数も上。だからギルドからの罰則も無いだろうし……見せしめ自体はロキ様もやってるしね」

 

 この時、ネルガルは初めて四人に感情を見せる。子供が無視を殺すときに見せる残酷で無邪気さを四人は感じていた……。

 

 

 

 

 

 

 

「おーい! 生きてる? 四肢を全部焼き切ったけど、傷口は焼き潰したし大丈夫だよね。さて、此処からが肝心だ」

 

 数分後、黄金の劇場が消え失せ、路地裏には手足を失って転がる四人の姿があった。誇りか女神への敬愛故か心は未だ折れずネルガルを睨んでいるが、この状況では正にまな板の上の鯉。生殺与奪の権利が誰に握られているかは明白だ。

 

「喧嘩売られたから達磨にしたのは良いけれど、一番利益を得るにはどうすべきかな? 誰か殺して見せしめの効果を上げて、更に治療費を大幅増しで請求? いや、後で逆恨みの報復が来たら面倒だ……」

 

 いっそフレイヤに帰還して貰おうかとも思ったが口には出さない。出せば路地の向こうからやってくるオッタルと戦うしかなくなるからだ。

 

「こんばんは。ちょっと酷いんじゃない? 僕みたいな子供に四人掛かりでさ。怖くて怖くて手加減出来なかったよ」

 

「……それが嘘だと俺でも分かるぞ」

 

「でも証拠はないよね? 嘘を言えば神には分かるから防衛のためにこうしたって証拠にはなるけど、言い方一つで神様だって騙せるし」

 

 自分でも嘘くさいと思っているのかネルガルはオッタルの言葉に動じた様子はない。オッタルはそんな遣り取りが面倒だったのか溜息を吐き、四人を見下ろした。手足が無いだけじゃない。全員片目が潰されていた。

 

「此奴等は回収する。先程の言葉からして条件次第で治療するのだろう?」

 

 四人はフレイヤの命令で動いたとは言え、オッタルからすれば自己責任だ。フレイヤの期待に応えれなかったのが悪いと。だが、四人がやりすぎたり、逆にこうなった時の対応を任されていたオッタルは動くしかない。断れば戦闘すら辞さない。武人として誇りに反する行動だが、女神の僕であることが優先される彼に迷いはない。

 

「あっ、じゃあ、四人の武器と防具を全部売って代金を全額と、酔っ払って絡んできた事に対する慰謝料を主神同士で決めて、治療費十倍ね」

 

 この時点でかなりの大金である。フレイヤ・ファミリアからすれば何一つ得はない。いや、当初の目的は達成できるのでフレイヤは満足するかも知れないが。

 

「……良いだろう。後日金は渡す。話し合いの場も使者を送って決めよう。……それだけか?」

 

 この時、オッタルは子供を襲った事への負い目から聞いてしまった。このまま急いで帰れば良かったのにと後悔する事になる。

 

 

 

 

 

「じゃあ、四人に同時に誰か一人を指名させて、票数が一番だった人の残った目玉をオッタルさんが抉ってよ。その人の目だけは治さないように調節するからさ」

 

「……悪魔とは貴様の様な者を言うのだろうな」

 

 間違いなく四人の関係、そしてオッタルの心に傷を残す内容だ。見せしめとしては効果的であり、それが十才の少年の口から発せられた事に寒気さえ感じたオッタルは思わず口に出してしまう。だが、言われた本人は意外そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

「なんだ。オラリオ最強って聞いてたのに随分と生温いんだね。この程度、人間なら誰でも思い付くのに」

 

 それは本心からの言葉だと神ならぬオッタルにも理解出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イシュタル・ファミリアからの治療依頼? 梅毒の集団感染でも起きたのかな?」

 

 後日、やりすぎだとロキ達から説教されて自室謹慎を言い渡されたネルガルは納得できないが知識としての一般的な倫理観から理解して大人しくしていたのだが、ディアンケヒトとの契約上治療はしなければならない。

 

 

 

 

 

 この日の依頼主はイシュタル・ファミリア。来たことを周囲に知られない様にとの極秘依頼。場所は夜の街、娼婦が住まう歓楽街だ。

 

 

 

「口止め料は何割が僕の取り分?」

 

「んー。三割やな。フィンやとティオネがうっさいし、ベートを一緒に行かせるさかい、見られないようにしてイシュタルの所行ってきてや」

 

 そしてこの依頼でネルガルはとある出会いをする事になる。

 




感想お待ちしています

最近新作書いたのでそっちも宜しくお願いします

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