トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

35 / 41
罰とトラウマ

「新しい技を試していたら()()()()()()()()が全力を試してみろって言ってきた。僕、Lv3.だし新人だからさからえなかった。情状酌量を求めます」

 

「おい、テメッ!?」

 

 早朝からホームの中庭が崩壊するといった大事件の後、犯人であるネルガルとベートは正座させられた状態でロキと最高幹部三人の取り調べを受けたのだが、ネルガルはしれっとベートに責任を押しつけた。

 

「ん~。まあ、ベートの命令ならしゃーないかなぁ。よしっ! 中庭の整備、任せたでベート」

 

「おい、ロキっ!?」

 

 まさかの展開に口をあんぐり開けるベートの頭にはアイズやティオネ、ティオナに見られながら中庭の修繕をする情けない姿の自分が浮かぶ。やれと言ったのは確かだし逃げる気はないが、この時点でベートのダメージは計り知れなかった。

 

「……さて、次は貴様だ、ネルガル。当然お咎め無しというわけにはいかんが……」

 

 リヴェリアは表情を変えずにベートに全責任を押し付けようとしたネルガルの袖をまくる。服の下は痛ましいほどに変色していた。

 

「これ? 全力出したらからだがもたなかったみたいで、多分複雑骨折数カ所に筋断裂、アバラにも罅が入っていて結構痛い。ダンジョンでもないし、後で治せば良いかなって放置してたんだけど……あだっ!?」

 

 フィンによる容赦のない拳骨がネルガルの脳天に叩き込まれる。流石に堪えたのか頭を押さえた彼の襟首をロキが掴んだ。

 

 

「ちょいと説教せんといかんな。リヴェリア、手伝ってや。……それとフィン、今晩宴するで。ミア母ちゃんの所予約しといて」

 

「宴は良いけどお金はどうするんだい? ロキが奢ってくれるなら構わないけど」

 

 大手ファミリアだと言っても大人数での宴会、それも少し値段が高い豊穣の女主人でとあっては財政に響く。遠征も控えている以上はそれなりに節約しなくてはならないのだ。だから団長として難色を示したフィンだが、ロキはリヴェリアに引っ張られていくネルガルを指差した。

 

「全部ネルガル持ちや。治療費の取り分で儲けとるみたいやし、どうも会いたくない相手が居るみたいやからな。まっ、罰や罰」

 

 店名を聞かされて珍しく慌てているネルガルを無視してニタニタ笑うロキ。どうやらナイフのローンよりも重要な何かが有るようだ……。

 

 

 

 

 

「皆ー! 今日はネルガルの奢りやさかい、遠慮せずにドンドン飲み食いせぇー!」

 

 ロキの声と共にグラスをぶつけ合う音が響く。子供の奢りだろうが遠慮する者は極一部しかなく、只でさえ高い店の高い料理がドンドン運ばれる中、ロキは店内を見回すも見当たらない店員が居た。

 

「なんや、今日はクロエちゃんはお休みかいな」

 

「ええ、今日は彼女はお休みです」

 

「よっし!」

 

 黒髪の猫人(キャットピープル)の姿がないと聞いてネルガルが思わず拳を握りしめた時、緑の髪をしたエルフの店員、リューが彼の方をジッと見ていた。

 

「……彼がネルガルですか」

 

「ん? なんやリューちゃん、此奴みたいなのが好みなん?」

 

 当然ロキは本気ではない。既にオラリオで名が広まっているし、傭兵時代も色々やらかしたそうなのでその関係かと思ったのだが、予想外の返答が返ってきた。

 

 

 

 

 

「いえ、この子はクロエの……婚約者ですので」

 

「はぁああああああああああああああああっ!?」

 

 とんでもない爆弾が投下された……。

 

 

 

「だから来たくなかったんだよ。遠くから居るのが見えたから避けてたのにさ……」

 

 娯楽を見つけた酔っ払い達の視線を浴びながらネルガルの口から溜め息が漏れる。誰もが視線で詳細を聞けと言うが、そんな視線を感じるたびにネルガルは帽子をずらす。聞けばザハクをけしかけると無言の圧力を掛けていた。

 

 

 

 

「おい、誰か聞けや……」

 

「悪いが儂も自分から棺桶に入る気はないわ。あの目、本気で殺る気じゃぞっ!?」

 

「こういう時こそベートの出番なんだけどね。不貞寝しちゃってるからなぁ……」

 

「仕方ない、後日店で聞き出すか……」

 

 

 所詮その場凌ぎでしかなかったが、この場だけは助かったネルガル。だが、とんでもない伏兵がいた。

 

「私達も詳しくは知らなくって。ネルガル君でしたっけ? 詳しく教えてくれるかな?」

 

「シルちゃんが行ったぁああああああっ!!」

 

 料理を持ってきた銀髪の少女、シルが目を輝かせてネルガルの顔をのぞき込んでいた。

 

 

「お姉さんに教えてくれるかな?」

 

「え? お姉さ……ん?」

 

 シルの顔を見ながら疑問符を浮かべるネルガル。だが、途轍もない威圧感が彼に襲いかかる。店主のミアに視線で助けを求めるも、知らんぷりをされた。

 

 

 

 

 

 

 

「……あー、うん。仕方がないから話すよ。少し前だけど、依頼のために僕だけである人を足止めする必要が出てさあ」

 

 逃げ場無しだと判断したネルガルは渋々といった様子で話し始める。後で皿洗いを申し付けられたシルを筆頭に女性陣数名が興味深そうに耳を傾けていた。

 

「……でっ、根の深いショタコンみたいだから仲間に教えられた通りに数日使って近付いて仲良くなってさ……えっと、誰かクロエさんの代役を……」

 

「じゃあ、私がっ!」

 

「じゃあ、リヴェリアさん……はキッツイからレフィーヤさんで」

 

「おい、後で覚えていろ」

 

 面白そうだと立候補したシルを無視するネルガル。理由は詳しく語らないがリヴェリアと同じだと後に語った。

 

 

「えっと、数日掛けて警戒心を解いた後…あっ、レフィーヤさんは接触大丈夫な方?」

 

「え? 別に気にしないけど……」

 

 レフィーヤが返答するやいなやネルガルが彼女に抱きつき、普段の表情が嘘のような子供っぽい表情で見上げて来た。

 

 

「ねぇねぇお姉ちゃん。将来僕のお嫁さんになってよ。……僕、絶対いい男になるよ?」

 

「ひゃうわっ!?」

 

 一瞬で顔が真っ赤になり呂律さえ回らなくなるレフィーヤ。真顔に戻ったネルガルは彼女から離れると大きな溜め息を吐いた。

 

「っと、まあこんな感じ。任務は上手く行ったんだけど、本気にされてさあ。……ショタコン、怖い」

 

「……うん。聞き出して悪かったな。もう聞かんから……」

 

 精神的にどっと疲れた様子のネルガル。成る程、店に寄らない訳だ、と納得したロキは未だ前後不覚に陥ったレフィーヤを見なかった事にして優しく肩を叩く。

 

 

 

 

「ちょっと顔を出そうと思ったら……漸く来たニャ」

 

「……いや、前はそんな話し方は……」

 

 錆び付いた人形のようにぎこちない動きで後ろを向くネルガル。背後に現れたクロエの手が彼の尻に触れた……。

 

 

 

 

 

 

「三十六計逃げるにしかずっ!」

 

「逃がさないニャ。今夜は泊まって行きなさい!!」

 

 今まさに壮絶な鬼ごっこが開催された。ネルガルは逃げきれるのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けけけ、結婚……」

 

「……レフィーヤ、帰ってきて」

 




感想お待ちしています

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。