トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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不安と完成

 ロキから貰った恩恵や種族の特性で若く見える僕だけど、それなりの年齢だから人生経験だってそれなりに積んでいる。だからこそ、彼の目を初めて見た時に強い警戒心を抱いたんだ。

 

 殺人を平気で行う者は幾つかに分類できる。まず、殺人に快楽を見出している者。殺すこと事態が目的となっている。

 

 次に殺人を手段として認識している者。金の為等、人の命よりも目的達成を重視している者。

 

 次に殺人に意義を見出している者。本人の信念や信仰の為に殺しを行う。他にも幾つかあるが大体はこの分類だ。

 

 そして彼、ネルガルは殺人を手段として認識している者の目だった。いや、彼にとって殺人は作業の一つでしかない。殺せば面倒だからしないが、必要なら厭わない。彼にとって殺人とはその程度の認識だと悟った時、何を見て育てばあの年でそんな風になってしまうのかと思ったよ。

 

 

 

「……だったんだけどなあ」

 

 少し勘が鈍ったのかと思ってしまう。それほどまでに今のネルガルは普通の子供にしか見えなかった。

 

 

「今はチビでもそのうち大きくなりますー! って言うか年下なのですから少しは私を敬いなーさーいー!」

 

「あー、無理無理。お前は一生チビで貧乳に決まってるよ。それと敬え? 僕よりチビで僕より弱くて僕より中身ガキなお前を? はっはっはっ! 胸だけじゃなくって頭も足りないんだ。悲しいなぁ」

 

「大きくなーれーまーすー!」

 

「無理だって。やーい! 生涯絶壁ツルペタ無い乳女ー! あれれ? いつの間にか分裂……あっ、丸太と見間違えた。だって似てるからね」

 

「にーてーまーせーんー!」

 

 手をバタバタ動かして叫ぶジャリィちゃんと、彼女をあしらいながら馬鹿にするネルガル。どこからどう見ても只の子供の喧嘩だ。見ていて微笑ましいというか、彼もあんな顔が出来たんだなって驚く。アイズやリヴェリアも面食らう中、何故かティオナが落ち込んだ様子だ。

 

 

 

 

「ねぇ、フィン。アレ、あたしの事じゃ無いよね?」

 

 同年代の子に比べてやや足りない胸をペタペタ触りながら落ち込んだ声で訊いてくる。さて、そろそろ止めようか。モンスターは倒したし赤髪の女も逃げ出したから街の住民も落ち着いてくる頃だしね。そう思っていた時、先程から黙って二人の様子を見ていたクーフーリンが荒い足取りで二人に歩み寄り、脳天に拳骨を叩き落とした。

 

「いい加減黙れ、クソ餓鬼共っ!」

 

 その叫び声は周囲の空気を振動させて響き渡る。二人は……声も出ない程に悶絶しながら頭を押さえていた。手加減はしたんだろうけど、子供相手の手加減ではないね、アレ。ネルガルは元仲間でジャリィちゃんは妹なのに容赦が無いなぁ。

 

 

「ったく、くだらねぇ。おい、街がこんなんじゃ仕方ねえ。今日はさっさと帰るぞ」

 

「は、はいー! ま、待って下さいよ、兄さーん!」

 

 不機嫌そうにしながら去っていくクーフーリンを追い掛けてジャリィちゃんも去っていく。さて、僕達もギルドへの報告もあるし後始末をして帰ろうか。

 

 

 

 

 

「……さて、学ばせる事を増やさねばな。子供の喧嘩とはいえあれは見過ごせん」

 

「あたしも手伝うよ、リヴェリアー! あの子にはみっちり教えてあげないとねー!」

 

 ……ご愁傷様、ネルガル。僕はそっと手を合わせると少し彼から距離を取る。それほどまでに二人は怖かったんだ。

 

 

 

 

「モンスターかもしれない女かぁ。……やっぱ異端児(ゼノス)ちゅう奴らの一種なんかな? それかネルガルが予想したみたいに元々完全に人型なんか、寄生して体を乗っ取るんか……一旦保留な」

 

 事件から六日後、オラリオに戻った僕達は事件の顛末をギルドやロキに報告した。だけど赤髪の女に関しては混乱を避ける為として上級冒険者の間のみで情報の一部を隠しながら共有される事になった。

 

 ……ネルガルはロキと一緒にギルドの最奥で祈祷を続けているウラノスに呼び出されて何か話を聞かされたそうだけど僕達にも秘密らしい。ただ、ネルガルはウラノスをこう呼んでいた。人間を理解できていない理想主義者、と。

 

 

 その後、アイズの風を使うネルガルをアリアと間違えた事や食人花の事など気になることは多いけど僕達はサポーターを連れて再びダンジョンに潜る事にした。

 

 

 ああ、ちなみにネルガルは目を付けられた事もあって第一級冒険者と一緒じゃないとダンジョンに入る事すら禁止になった。あの回復魔法の有用性はファミリアの皆が知っているし、詳細が秘密でも特に異論は出なかったよ。

 

 

 

「魔法で作り出した風も自分の体の一部だって認識する事かな? 見えない手足がある感じ」

 

「……難しい。何で君は簡単に出来るの?」

 

「僕は魔法特化だからね。補助として体術も修めてるけど、あくまで魔法を有効に使うための手段だし、スキルで強化されているからじゃないかな」

 

 今は僕達と潜っているダンジョンの中でアイズに風をどう操っているのかを説明している。本来の使い手であるアイズが教わるというのも変な話だけど、自分や手に持っている武器だけじゃなくて、投擲した武器に纏わせたりするなどアイズ以上に風を自由に操っていたかたね。……さっきなんか球体の風で自分を包むことで短時間の飛行だって可能にしてたし、おかげでアイズが少し拗ねてしまっていた。

 

 

 

「うーん。あれが互いに良い刺激になってくれたら良いんだけどね。力の面でも、心の面でも」

 

 思い詰めやすいアイズと、同じファミリアの団員であっても一定以上から先は心に立ち入らせようとしないネルガル。話していても心の壁を感じるけど、ああやって触れ合う事で何かが変わってくれればと願う。

 

「レフィーヤも多少劣等感を感じてはいるようだが、それでも世話を焼こうとしたり追い付こうと気合いを入れているからな。悪いようにはなるまい」

 

 僕とリヴェリアが何時の間にかレフィーヤも加わって魔法談義をしているネルガル達を見守っていた時、突如ザハクがネルガルの帽子の中から顔を覗かせた。

 

 

『ケケケケケ! 来たぜ、来た来た。お前達をぶっ殺そうと雑魚共が来たぜ。どーすんよ?』

 

「……ふぅ。もう休憩も終わりだね」

 

 周囲の壁を破壊してモンスターが出現しないようにしたけど、離れた場所で産まれた群れが直ぐ前までやって来ていた。それを片付けた時、思い詰めた様子のアイズが口を開いた。

 

 

「……皆、お願いがある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイズのお願いとは一人でダンジョンに残らせて欲しいというものだった。最初は渋ったがリヴェリアを同行させる事を条件に承諾して僕達は先に帰還した。そして帰還した日の翌朝早朝、僕は轟音によって叩き起こされた。

 

 

「ッ!?」

 

 振動で本棚の中身が床に散乱する中、発生源が中庭だと判断した僕は窓を開けて中庭に目を向ける。中庭には二人の姿。ネルガルとベートだ。そして、中庭は悲惨なほどに破壊しつくされていた。整地された地面は荒れ果て所々焦げ後が見える。植えられた木々もひっくり返えっている。一体何が起きたのかと思ったとき、二人の会話が耳に入った。

 

 

 

「はん! まあ、そこそこ使えるんじゃねぇの? 及第点はくれてやる」

 

「そう? ベートさんがそうやって褒めてくれたなら合格点かな? やっぱり格上の相手が居たら良いよね。前々から構想は練ってたけどおかげで完成したよ」

 

 たぶん朝の特訓しているネルガルを見かけたベートが気紛れで相手をしてあげたって所かな? 少しは力を認めていたみたいだし。何が完成したのかは分からないけど、ベートが認める位だから期待できる物なんだろうね。さて、じゃあ早速仕事をしなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも、直ぐに僕の部屋まで来てくれ。話すべき事が有るようだ」

 

 取り敢えず二人の今日のスケジュールは中庭の修繕で決定だね、うん。

 

 




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