トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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契約と誤認

「……成る程なぁ。唯一の死人やからって同情しとったけど無駄やったか」

 

 公開調教の為に捕縛されたモンスターの脱走事件解決後、唯一の死者が出た際の目撃者であったネルガルとベートはギルドからの聞き取り後、主神であるロキからも話を聞かれていた。彼女曰く、ギルドに話していない事があるだろう、と。

 

「うんうん。剣を抜いたんだから僕に殺されても仕方なかったよね。むしろファミリア間の揉め事に発展しない分、モンスターに殺されてラッキーだったんじゃない?」

 

「……お前なぁ。まっ、始末は着いたしウチもそいつの主神……ガネーシャには何も言わんとくわ。二人も余計なことは言ったらアカンで」

 

 平然と言い切るネルガルにロキは一瞬悲しそうな表情を見せ、直ぐに表情を切り替える。先程から団長として同席していたフィンも只ならぬ様子に表情を引き締めた。

 

「でっ、わざわざ敵討ちに来るほどなんや。そのモンスター、普通の奴か?」

 

「喋るし理性もあって他のモンスターから襲われて、より人間に近い見た目な以外は普通だね。魔石砕いたら灰になったし……。ああ、”皆の所に帰りたい”って言ってたし他に同族が居るみたいだったよ」

 

 ベートとフィンは咄嗟にロキの方を向く。今まで多くのモンスターと戦ってきたがその様な個体と遭遇した事はない。だが、本当だとしたら犠牲になった彼の行動にも納得がいくからだ。ロキは返答しなかったが、額に手を当てて何かに思い当たった様な姿が真実であると語っていた。

 

「……あの祭りも急に始まったさかいに妙やと思っとったんや。ガネーシャの奴、知っとったな。いや、ギルドの考案で始まったしウラノスの奴もか」

 

「モンスターを身近に感じさせて抵抗を減らすのが目的かな? 猛獣を奴隷や家畜にする程度には出来るかもしれないけどさ……危険だよね」

 

 何が危険か、それはダンジョンに多く潜っているフィン達なら直ぐに思い当たる。相互理解が可能な個体が居ると知れば迷いが生じる者も出現し、迷いは仲間を巻き込む死に繋がる。

 

「魔石製品が今や世界に広まっているし、まさかモンスターと人が共存できると……は流石にそこまで馬鹿じゃないか。人と人の間でさえ争いが無くならないのにね。モンスターは平和のためにも共通の敵でいて貰わないと」

 

「ロキ、この事は此処にいる者達だけの秘密にしよう。危険過ぎる」

 

「そやな。……まあ、今回の件に関係してそうな奴らに探りを入れるのには使わせて貰うけど。一応誰か護衛付けとくか」

 

 眷属が襲われて怪我を負った以上は黙っていられないとばかりにロキは動き出す。今回の件は最高幹部であるリヴェリアとガレスにのみ詳細が語られる事となり、言葉を話すモンスター、レッドライダーが異端児(ゼノス)と呼んだ者達については秘密厳守との主神命令が下された。

 

 

 

 

 

「あっ、ついでにお前も一人でダンジョン十八階層以降に潜るの禁止な」

 

「……はーい」

 

 ついでとばかりにネルガルにもう一つ命令が下される。理由は自分を狙っている相手を誘い出して戦った事への罰ともう一つ……。

 

 

 

 

 

「一本五百万ヴァリスかぁ……」

 

 鍛冶系ファミリアであるゴブニュ・ファミリアは規模こそヘファイストス・ファミリアに劣るもののオーダーメイドによる高品質の武具防具の生産で人気が高い。ネルガルも自分に合わせたナイフを注文しに行ったのだが請求金額に肩を落としてしまった。

 

「アダマンタイト製のナイフにミスリル製の投げナイフだ。その位する」

 

「だよねぇ……」

 

 流石に請求金額が持ち金をオーバーしているのでダンジョンに暫く潜る必要がある。暫くは借金に頭を悩ませそうだと溜息が出るのであった。

 

「仕方ない。暫く十八階層を拠点にしようか。……ディアンケヒト・ファミリアとの契約もあるし」

 

 なお、この後に借りていた代替品の剣を壊してしまったアイズも多額の借金を背負う事となり、何も考えずに一億近い価格の特注武器を注文したティオナも当然の様に借金を背負う事となるのだが、この時のネルガルは知る由もなく、彼女達を誘うとかは考えられなかった。

 

 

 

 

 

上位回復薬(ハイ・ポーション)精神回復薬(マインド・ポーション)ですね。では……二割引きでこの通りになります」

 

 ネルガルがダンジョンにソロで潜った後の事、多額の借金返済の為にアイズはティオナ、ティオネ、レフィーヤ、リヴェリア、そしてフィンを誘ってダンジョンに潜ることにした。その為の準備として薬を買いに来たのだが、応対した店員はファミリア間の契約で決まった割引額に顔を引き攣らせていた。

 

 

「いやー得しちゃったね。でも少し悪い気がするかも」

 

「別にそうでもないわよ? 義手の代わりに多額の仲介手数料を取るんだから。手間や材料費が無いから元は取れてるはずよ」

 

 割引だからと少し多めに買い込んだ薬を見ながら罪悪感を感じる妹にティオネは気にするなと告げる。今まで莫大な価格で売っていた義手類の代わりに、欠損部位の再生が可能なネルガルが居るロキ・ファミリアへの仲介を始めたディアンケヒト・ファミリアだが、その対価としてロキ・ファミリアに売る際は全商品二割引、ドロップアイテム等の買取価格は三割増しにするとロキが契約を取り付けたのだ。

 

「どうせならあの子も誘えれば良かったのに……」

 

「リヴィラの街に常駐している人にも仲介手数料を払った人が居るらしいから……」

 

 必要な物資を買い込んだ一行はバベルの地下にあるダンジョンへの螺旋階段を下って行く。途中、最大手ファミリアという事で注目を浴びながらも気にせず進み、第一級冒険者が揃っているので上層や中層で苦戦する筈もなく進んだ一行は大した苦労もなく十八階層、リヴィラの街にまで辿り着いた。

 

 

 

「……揉め事かな?」

 

 街に入るなり喧騒がフィンの耳に届く。荒くれ者が多いこの街は平穏とは言えないが、それでも街の顔役であるボールスというLv.3の男が睨みを利かせているので下手な真似は出来ない。実際武器を持っているにも関わらず死人が出たのは最近では暫く前に酔っ払いが喧嘩して相打ちになった事くらいだ。

 

 疼く親指に何かあるとフィンが感じ取った時、よく知った風が街の中央部から立ち上る。その風を使う者は隣に居て、ネルガルだけが例外的に使える特別な風だ。

 

 

「あの子、こ、こんな街中で魔法を使ってるんですかっ!?」

 

「……喧嘩? いや、あの子はそんな馬鹿じゃないか。どこかの馬鹿狼と違って」

 

 天井まで立ち上る竜巻にレフィーヤが慌てふためきティオネも只ならぬ事態を感じ取った瞬間、鎧を着て顔に包帯を巻いた男が飛び出して来るなり自らの顔の皮を、いや、被っていた誰かの顔の皮を脱ぎ捨てた。

 

 

 

「……小僧、貴様が『アリア』か。まさか探し物の途中でもう一つを見付けるとはな」

 

 男の正体は危険な空気を纏う女。彼女は街の中央から向かってくるネルガルに向かって呟いた。




ザ! 勘違い!!

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