トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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二十五回・・・ミルドラーシュのキャスター略してミルドラースが欲しかった




恨み抱く理由

『ネルガル。村の外にはきっと綺麗な物が沢山あります。見に行きたいですよね』

 

 ネルガルは顔も名前も誰だったかさえも忘れたが、きっと大切だった筈の誰かの記憶を時々夢で見ることがあった。どんな声なのかさえ感じることの出来ない少女は自分の膝の上に乗せた幼い頃の彼に微笑んでいる時が多く、その夢を見た時は幸せな気持ちになったものだ。

 

(……あの人が見たかった綺麗な物ってこんなんじゃないよね)

 

 神々でさえも美貌だけで魅了する女神フレイヤ。その両手でベタベタと触られながらネルガルは冷めた思考をしていた。

 

「ロキ、良い子を引き込んだわね。今は隠れてしまってるけど綺麗な色の魂をしているわ」

 

 向けられている視線が何なのかはレッドライダーの眷属になってからの五年間で知っている。興味に好意、但し若干不純な物まで混じっているのだが。顔をよく見せてと言われて見せたら頬やら頭やらをベタベタ触られて辟易するもネルガルは顔に出さない。こういった手合いには狂信的な部下が居るものだからだ。

 

「……一応言っとくけど渡さへんで。おら、もうこの辺でええやろ。本題に入ろうや。……お前、何企んどる?」

 

 ネルガルを引き寄せたロキは名残惜しそうな表情を浮かべる旧知の相手に視線を送る。互いに昔から禄な事をしていないが、ここ最近妙な動きをしているので探りを入れるために呼び出したのが現状に至る理由だ。糸のような細目を開いて睨みを利かせるロキにフレイヤは笑顔で返し、ふと視線を向けた窓の外で表情を変える。

 

「……急用を思い出したから失礼するわ」

 

「おいっ!?」

 

 ロキが止めるのも聞かずにフレイヤはその場から立ち去っていく。彼女の視線を追って誰に向けられていたか、そして浮かべた表情が何を意味しているか、それを大体察したネルガルは呆れ顔を浮かべながら窓の外に視線を向ける。ホームを出た時から尾行をしていた男がまだ自分達を見ていた……。

 

 

 

 

「……あのさあ、いい加減出てくれば?」

 

 ロキ達と別れ、人目を避けるように路地裏に入ったネルガルは立ち止まって口を開く。人気のないこの場所のいるのは彼と……物陰から怒りに満ちた表情で出てきた男だった。

 

「久し振りだな、少年」

 

「三年ぶりだっけ……怪物趣味さん」

 

 男をあざ笑うかのように振り返りながら笑みを見せるネルガルに男の怒りのボルテージは上がっていく。それは冒険者の中で侮蔑されている怪物趣味、女性型のモンスターが好み、だと呼ばれたからではない。そう呼ばれた切っ掛けになった存在が関係していた。

 

「……何故彼女を殺した」

 

「前にも言ったけど危険だから。対話が可能なモンスターとか刃を鈍らせるからね。……むしろ何故殺さなかったのか僕が聞きたいよ。惚れた? ねぇ惚れちゃった? 確かあの同類貴族のコレクションの警備隊だったけど、怪物趣味が感染したの? うぇー!」

 

 明らかな挑発に男は震え鎧がカチャカチャと不愉快な音を立てる。男の脳裏に浮かぶのはオラリオに来る前に仕えていた貴族、密輸したモンスターを飼う悪趣味な男のお気に入りだった一匹のラミアの姿。同族よりも人に近く、理性があり言葉も通じるそのラミアは美しく、何より優しかった。

 

 きっと彼女に抱いた思いは恋なのだろう。何時か必ず助けてみせる。そんな思いはある日あっさりと打ち砕かれた。家の名誉のために証拠の隠滅を男の親族から依頼された旅の傭兵系ファミリアによって。そして彼が恋したラミアは目の前の少年に魔石を砕かれて死んだのだ。意を決して助けに行った彼の目の前で。

 

「お前だけは絶対に許さないっ! 今此処で俺は彼女の仇を……っ!」

 

 咄嗟に金属製の義手を構えると甲高い音が響く。眉間めがけて投擲されたナイフが弾き返されて宙を舞い、ネルガルは左右の壁に飛び移りながら上へと逃げていく。男も逃がしてなるものかと後を追った時、ネルガルの服の袖が捲れ、文字が浮き出た腕が露わになった。

 

『長らく待機させし我が可愛きピクレッドよ。今こそ宴の時間なり、客をもてなせ』

 

「させるかぁっ!」

 

『暴れ呑み貪食せよ! これより始まるは禁断なる狂宴!』

 

 男は空中で剣を振り抜きネルガルはナイフで全て捌く。その間も詠唱は止まらずに続き、やがて屋根が近付いた時、ネルガルは壁を蹴って今度は下へと向かう。罠だと気付いたのは直ぐ後。頭に血が上った男の視線の先でネルガルが笑っていた。

 

 

 

 

 

『メタボ・ピクレッツ』

 

 ボンっという音と煙と共に現れたのはご馳走を背中に乗せた巨大な豚の群。いや、違う。周囲は何時の間にか豪勢な酒宴会場へと化し、豚の群は空中で身動きの取れない男目掛けて突進してはね飛ばす。地面にたたき落とされた時、男は巨大な豚に変わっていた。

 

「ふぅ……」

 

 着地したネルガルが息を漏らして額の汗を手で拭うと周囲の景色が元に戻る。まるで無理に形を変えた物が元の形に戻ったかのように急速にだ。多少疲れた様子を見せたものの、ネルガルは歩くときに前を見る程度の特に何も思ってなさそうな目で豚になって気絶している男を見ながら近づこうとし、不意に肩を掴まれた。

 

 

「もう終わってんだろ。その程度も分からねぇのか。だからテメェは雑魚なんだよ」

 

「幹部命令として止めろって言うなら従うけどさぁ……気に入ったモンスターを殺されたからって襲ってきた奴だよ、この怪物趣味はさ」

 

 ベートは豚の姿のままで気絶している男にチラリと視線を送り不快そうに舌打ちをするとネルガルの襟首を掴んで無言で引っ張って行く。

 

(幹部命令ってことか。この人も甘いなぁ……)

 

 雑魚だのなんだのと他者を見下す発言が多いベートだが、他人の表情の僅かな変化や声色から感情を読むことを習ったネルガルはその真意に気付いていた。嫌われようとも憎まれようとも弱者が強者へと上り詰める為、もしくは心を折ってでも危険から遠ざける為、彼の発言の理由を知れば効果が薄れるのであえて口に出しはしないのだが……。

 

 

「ベートさんって不器用だね」

 

「あぁ? おい餓鬼、知ったような事を……」

 

 不意に地面が盛り上がり、地中から巨大なモンスターが姿を現す。第一印象は目のない蛇。だが、すぐにその全容が明らかになる。顔かと思われた部分が開くとそこに現れたのは鋭利な牙を持った口のみが存在する……。

 

「花? へぇ、こんなモンスターもダンジョンには居るんだね。……ありゃ? 知らない奴?」

 

 ベートの表情から未知のモンスターだと気付いた時、もう一体が地中から現れる。二体の見慣れぬモンスターの間には豚のまま気絶している男が倒れており、ベートは咄嗟に飛び出した。

 

「これだから雑魚は邪魔なんだよっ!」

 

 ファミリア随一の脚力を持つ彼の蹴りの威力は破格。だが、未知のモンスターは僅かに体を仰け反らせただけで体は破壊されず、ベートの足には硬質なものを蹴った感触が残る。

 

「硬ぇっ! っ!」

 

 モンスターは二体。一撃で倒せないとなると当然のように間に居た男に襲い掛かり、バリバリと肉と骨を咀嚼する音が響く。食べられている途中で男の体は人間へと戻り、最後に転がった頭を一体が丸呑みにした。

 

「畜生が……」

 

 僅かに浮かぶ悲痛そうな表情。二体のモンスター……食人花はベートの方を向き、何かに反応するように横を通り過ぎてネルガルへと向かって行く。咄嗟に向かおうとしたベートを地中から現れた無数の蔦が邪魔をし、食欲に誘われるまま食人花は涎塗れの牙を突き立てよう大口を開けてネルガルへと迫った。

 

「逃げろっ!」

 

 咄嗟に叫ぶベートが見詰める中、ネルガルは何時の間にか手にしていた旗を構え、食人花は旗の手前で見えない壁に阻まれて動きを止めた。歯をガチガチと動かすも先には進めない二体の頭上、そこに無数の黒い槍が出現して二体を串刺し、地面から噴き出した炎が焼き尽くした。

 

「はい、終わり。あの人なら気にしなくて良いんじゃないかな? 見てなかったみたいだけど剣向けて来たしさ」

 

「誰が雑魚の生き死になんか気にするかよ、糞餓鬼。……にしても此奴ら一体何処から……」

 

 燃え滓になった食人花に視線を向けた二人の耳に喧噪が届く。祭りの騒がしさではなく悲鳴が混じった恐怖による物。そして遠くで食人花が姿を現していた。だが、ベートが向かう前にしたから放たれた光が花の中心を吹き飛ばす。誰の魔法か二人には直ぐに理解できる。

 

「あの女か。それに、……どうも他にもモンスターが居やがるみてぇだな。……ガネーシャ・ファミリアがしくじったか?」

 

「さあ? ……もしかしたら何処かの女神が誰かに神の試練を与えたのかもね」

 

 遠目には風を纏って跳ぶアイズの姿も見え、歓声も聞こえてくる。事態は収束に向かっているようだ。ネルガルの含みを持った言葉に怪訝そうな顔をするベートだが、まだモンスターが居るかもしれないと後を追わずに進んでいった。

 

 

 

 

 

「えぇ!? ネルガル君の所にもあのモンスターがっ!?」

 

「うん。偶々通りかかったベートさんが居なかったらザハクに戦って貰ってたし助かったよ。本気出されたら十秒も保たずに精神力が枯渇するからね」

 

 結局祭り見物は中止となり、ネルガルは食人花に襲われた際に地面から現れた蔦によって足を怪我したレフィーヤの治療を行っていた。

 

「レフィーヤったら凄いんだよ。咄嗟に地面から出て来た蔦を避けながら詠唱するんだもん」

 

「ネルガル君のお陰ですよ、ティオナさん。結局二体目の攻撃を受けちゃってアイズさんに助けられちゃいましたけど……自信が少しつきました」

 

 まだまだ練習が必要だが一歩進めた事に自信をつけたレフィーヤ。治療を終えたネルガルはナイフを一本手渡した。

 

「じゃあ健闘賞って事で。杖じゃ接近された時に反撃しにくいでしょ? これなら片手で使えるからさ。……毒も仕込みやすいし」

 

 ナイフの刀身は使い込まれており、一部がザラザラになっていて毒を塗り込みやすくしてあった。

 

「えっと、ありがとう。でも、本当に貰っても……?」

 

「同じのなら何本も持ってるし別に良いよ? 元の持ち主だった馬鹿も僕よりは女の人に使ってほしいだろうしね」

 

「元々使っていた馬鹿?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、馬鹿。頭も態度も軽くて何時もヘラヘラ笑ってて……僕を庇って死んだ大馬鹿だよ。あの馬鹿みたいにならないように頑張ってね」




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アビー二枚が役に立つクエスト求む・・・・・・・

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