トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始) 作:ケツアゴ
「レフィーヤ最近頑張ってるね」
ロキファミリアのホームである黄昏の館の浴場にて湯に浸かったティオナが体を洗っていたレフィーヤにそう声を掛けた。怪我はないが、正確に言うのなら怪我は全て癒されているのだが、髪のセットは乱れ服も土埃や血のシミで汚れて帰ってくる。本人は最初は兎も角コツが掴めてきた本日は満足そうだから心配はしていない様子だが……。
「はい! 何度も行った結果、二回成功したんです。上層部だからパーフェクトを目指そうって言われましたけど」
「あの子も厳しいわねぇ。……にしてもあのレフィーヤが男と二人っきりで特訓かぁ」
「ティオネさんっ!? 男って相手はまだ十歳ですよ!?」
真っ赤になっているものの図星を指された結果ではないとはティオネも理解している。だが浮いた話が全くない友人を少しからかってみただけだ。結果、予想通りの反応で面白かった模様。
「ごめんごめん。これ以上からかって特訓中に変に意識したら駄目だし止めとくね」
「もー! ティオネさんったら」
「あっ! そういえば明日って
ガネーシャファミリアがギルドと連携して行うこのイベントは闘技場でモンスターの調教を公開するというもの。稼ぎ時だけあって屋台も軒を連ね大変盛況な賑わいを見せるのだ。
「あー。あの子誰かが誘わなかったら遊ぶこと知らなさそうだし連れてってあげなよ。あれ? これってデートのお誘い?」
「ティオネさーん!?」
またしても真っ赤になるレフィーヤであったが、普段のお礼も兼ねて結局出来ていない街の案内もついでにしてあげようと誘うことを決めたのであった。
「ああ、あのお祭り……思い出したっ!」
レフィーヤから誘われたネルガルは何か引っかかった様に顎に手を当てて考え込み、先日の男について思い当たった。レッドライダーに頼まれて行った仕事で出会し、とある存在に関して揉めた相手だと。
「あの時の偽善者だよ、あの人。自分が何をしにファミリアに入って、何で稼いだお金を仕事の費用と生活の糧にしているのかを忘れてるよね」
「偽善者? あの怒り様、一体何があって……」
「……知らない方が良いよ? 特にレフィーヤさんみたいにお人好……優しい人はさ」
今お人好しって言おうとしなかったか、と聞くことさえ出来ない雰囲気にレフィーヤは黙り込むしか出来ない。それほどに向けられた視線は真剣だった。
「えっと、それでお祭りには……」
「ちょっとロキ様に頼まれて同行する所があるけど少し興味有るし行こうかな。ザハクも美味しい物を食わせろって五月蠅いし。自分が実体化してるだけで僕の精神力を大幅に消耗させるって忘れてるんだ」
一転して年相応の拗ねたような顔で文句を言い始める姿にレフィーヤは微笑ましいものを感じる。色々と厳しい事を口にして子供らしくないと思っていたが、こんな風に普通の子供らしい部分も有ると知って安心できた。
彼女は心配だったのだ。ロキやリヴェリアは詳しいことは教えてくれないが、外でどの様な人生を送ってきたのかは分からなくても普通の幸福とは無縁だっただろうと予想は出来る。
(せめてオラリオでは子供らしく過ごして欲しいなあ)
後で合流すると約束を済ませ二人はその場で別れる。見計らった様にザハクの声がした。嘲るような心配したような怪訝そうな声だ。
『おい、少し緩んでんじゃねーの? 忘れんなよ、目的をよ』
「分かっているさ。忘れてなるものか。好きにやれる超弱小ファミリアか、経験を積むのに効率がいい大手のどっちかで迷ってロキファミリアに入ったんじゃないか。……村を焼いた奴らは許さない。侵攻を命じた主神も、どんな事をしているか知って尚、主神を崇拝する奴らもね」
『早く俺が大暴れできるくらいに強くなれ。オメーの怨みはぜーんぶ引き受けてやるからよ。ケケケケケケ!』
ザハクは心底楽しそうに嗤い、ネルガルも口元に笑みを浮かべて頷く。その時の笑みには子供らしさなど欠片も存在しない黒く暗い笑みであった。
『ペインブレイカー』
回復薬などの製造販売を手掛ける商業系ファミリアのディアンケヒトファミリアのホームの床に硬質な物が落下する音が響く。落下物の名は
「馬鹿な……有り得んだろう」
床に傷が付いたことを気にする余裕もなくディアンケヒトは口をあんぐりと開けて呆然とした様子。その隣では彼のファミリアでも屈指の治療系魔法の使い手であるアミッドも同様だ。二人の視線の先はローンが元で衰退した薬種系ファミリアの団長であり、先程まで失っていた自分の腕を狐に摘ままれた様な目で見つめているナァーザに注がれていた。
「どうや、ウチの新入りは凄いやろ? でもなぁ、お前の所の義手が売れへん様になったら可哀想やし、誰でも彼でも治してやる訳やないでー?」
ワザとらしい口振りでニヤニヤ笑っているロキを見ながらネルガルとアイズはナァーザを呼び出して連れてきた理由を理解する。要するにこれから今後の取引を有利にするための話し合いが行われるのだろう。
「ロキが朝ご飯奢ってくれるって言ってたけど長くなりそうだね」
「ガネーシャファミリア主催の宴から泣きながら帰ってきて自棄酒からの二日酔いが無かったらもう少し早く商談してたのに……」
リヴェリアは反省する良い機会だからと魔法を使わないように言われたが、この様なことなら黙って使っておけば良かったなと思ったネルガルは自分に注がれるアイズの視線に対して気付かない振りを続ける。昨日くらいからジッと見られている理由に予測はついていた。
(スキルの事だよなあ)
アイズが自分同様に力に執着する質だとは気付いているし、ロキがネルガルには成長促進スキルが二つも有ると酒の勢いで口を滑らしたのも知っている。だが、スキルとはどうやって目覚めるかに個人差があるし、会得方法を尋ねられたり観察を続けられるのも面倒だなと思うネルガルであった。
「いやー! 今後の取引が楽しみやなー。ご褒美にほっぺにチューしたろうか?」
「え? ご褒美なのに罰ゲームなの?」
「酷っ!? まあ、ええわ。それより朝飯ついでにもーちっと用事に付き合ってな。会う約束してた奴が居るねん」
ディアンケヒトとの交渉を手早く済ませたロキに連れられて入った喫茶店。入店と同時にアイズとネルガルは奇妙な雰囲気を感じ取る。客も店員も男女問わず一点を見ていたのだ。顔を赤らめ恋をしているかのように。
『チッ!』
姿を消しているザハクの不愉快そうな舌打ちが聞こえ、ネルガルも集まった視線の先を向く。そこには一人の女神が居た。
「よぉー。待たせたか?」
「いえ、こっちも今来たばかり……あら? その子達は? ふふふ。可愛い子達ね」
フードを被った女神を見た瞬間、アイズは見とれてしまう。魂さえ酔わしてしまいそうな圧倒的な魅力がその女神、フレイヤには存在した。
リメイク前との変更点
幸せな思い出の消去
生まれは普通の村
魔法
入団を七歳から五歳に変更
Lvを2から3
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