トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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少年の手記

「僕の前の仲間? 特に個性的なのは居なかったよ」

 

 朝食に少し遅れてしまい、何とか席を確保しての食事中、レフィーヤからの問いにネルガルは少し前まで行動を共にしていた仲間を思い出していた。

 

『小さき我が同胞よ!! 民衆を苦しめる圧制者を今こそ打ち倒そうではないか!! 我が拳は愛ぃ! 我が愛を受けたまえ圧制者よっ!!』

 

『主神殿、報酬の人参はまだカー? そして少年はもっと食べるのダナ。そんなんじゃ大きくなれないゾ? ナハハハハ!』

 

『てごわかった……』

 

『貴方って教えがいがあるわね。良いでしょう。私の英知全てを授けてあげる。感謝するのよ?』

 

 

 

「弱い人を虐げる権力者が嫌いな元奴隷剣闘士に料理が上手で何時も明るい猫人(キャットピープル)……いや、狐人(ルナール)か。それと……」

 

 

『かーっ! 何度言っても無茶すんな、お前は! その耳は飾りなわけ? 餓鬼は餓鬼らしく遊んでろっての』

 

「……頭も性格も軽くて何時もヘラヘラ()()()()()エルフかな? 他にも僕の装備を作ってくれた悪ぶってるけど根は善人のハイエルフや、より大勢の人間を救うのがモットーな目が死んでる団長とかが居たけど……」

 

「立派な方が多いじゃないですか。特に個性的なのは居ないって言ったのに」

 

 アレって個性的だったのか、と幼い頃から上記のメンバーに囲まれているネルガルは思う。尚、一名だけ途中から記憶の片隅に追いやっていた。

 

「所でそのハイエルフの方はどうしてファミリアに?」

 

 彼女の疑問ももっともだ。ハイエルフとは王族であり、他のエルフから崇められる存在。リヴェリアのように森の外の世界に出る方が稀なのだ。

 

「……悪い男に騙されたって聞いてる。そのせいで顔だけの男が嫌いになった上に色々と拗らせちゃって……」

 

「……そうですか。うん、朝御飯を食べて出かけましょう」

 

 聞かなかったら良かったと世間の怖さを感じつつも気持ちを切り替えるレフィーヤ。先ずはお気に入りの喫茶店にでも案内しようと思っていたのだが、予定は急に変更せざるを得なくなった。

 

 

 

 

 

 

「予定があったようだがすまんな。指導にあたって今の能力を把握しておきたかったのだ」

 

 出かけようとした二人であったが今後の指導方針にも関わるからと連れてこられてのはダンジョン内部。上層部では弱すぎて意味がないからと中層へ続く階段の側で今から開始と告げられる。

 

「い、いえ! 今後に必要な事に間違いないのでお気になさらずに!」

 

「僕も構わないよ? 街の施設なんて冒険に必要な場所だけ把握してたら十分だし、迷った時はザハクに空から周囲を見て貰えば良いもん」

 

『ケケケ、始めるなら早くしよーぜ』

 

 レフィーヤは王族であり師であるリヴェリアへの気遣いだが、ネルガルは楽しみなど無駄だとばかり。その言葉を聞いたリヴェリアの心痛を察したのかザハクが愉快そうに急かし一行は中層へと入っていった。

 

 

「ネルガル、三つ目の魔法の継続時間は分かっているか?」

 

「限界まで続けたの随分前だし分からないや。じゃあ、早速試してみるね」

 

『……』

 

 ネルガルの力への執着をわずかな期間で把握したリヴェリアは違和感と同時に嫌な予感を感じていた。実体化をせずに先程から会話に口を挟んでいたザハクも黙り込む中、ネルガルの口から詠唱が紡がれる。

 

『是こそ苦難の道を歩きし民草の希望 神の奇跡の再現なり』

 

『右腕・悪逆補食 我が右腕は悪しき者を罰っせし憤怒 神の怒りを代行せん』

 

『左腕・天恵基盤 我が左腕は衆生を救いし慈悲 神の愛を代行せん』

 

 ネルガルの足下には魔法陣が出現し、詠唱途中だというのに空気が激しくなり震えるほどの魔力が渦を巻く。だがレフィーヤをそれ以上に驚かせたのは詠唱の速度だ。本来魔法は詠唱の一節一節に時間をかけて発動する。だが、ネルガルの詠唱には節ごとのタイムラグが殆ど存在しなかった。

 

「……覚えておけ。あの様な存在をこう呼ぶのだ……天才とな。比べることすら馬鹿馬鹿しい」

 

『如何なる苦難も耐え抜こう 如何なる試練も乗り越えよう』

 

『この力を持って我は救う 友も、他人も、怨敵でさえも』

 

『等しく奇跡の名の下に衆生救済を成し遂げよう』

 

『ライトハンド・イビルイーター/レフトハンド・キサナドゥマトリクス』

 

 ネルガルの右腕を赤黒い文字が覆い、左腕を青白い文字が覆う。両腕からは神威に酷似した何かが放たれていた。

 

 

「じゃあ行こうか」

 

 ネルガルは年相応の笑顔を浮かべるとひび割れた壁や天井から現れたモンスターに視線を向ける。金属製の鎧すら焼き尽くすブレスを吐くヘルハウンドと小柄な人ほどの大きさの二足歩行の兎アルミラージの群れだ。

 

 三匹ほどのヘルハウンドの口内が赤く輝く。一斉に正面の人間達に本能からの殺意のままに炎を吐きかけようとして、中央の一匹の脳天がナイフで刺し貫かれた。丈夫な皮と頭蓋、脳を貫いたナイフの刃先は顎から突き出し、左右の二匹が思わず仲間に目を向けた刹那、新たに鞘から抜かれたナイフが首を深く切りつけ気管と血管、頸椎を切断した。

 

 

「あの魔法は自らの肉体を強化する力も持つ。……此処までとは思っていなかったがな」

 

 既に同Lv.帯のステイタスの高い前衛と遜色ない動きを見せるネルガルは一斉に飛びかかってくるアルミラージに対し、上に跳躍して回避するなり右手の平を真下に向けた。

 

『是は無知なる少女の罪の証 全ては幻想 されど少女はこの箱の中』

 

『ファントム・メイデン』

 

 虚空より出現したアイアン・メイデンはアルミラージ達を内部へ抱き込み、無数の錨で血を搾り取った。

 

「……あれがか」

 

 リヴェリアは悲痛な面持ちで呟く。あの魔法を彼女はネルガルに見せて貰った彼直筆の本で知っていた。途中から複雑な暗号に変わっていて内容は殆ど理解出来なかったのだが、他者の魔法を使うために必要な詠唱と魔法名と効果の詳細と共に魔法を知った経緯が日記形式で書かれていたのだ。

 

 ファントム・メイデンは同じファミリアの魔法以外で初めて手に入れた魔法であり、幼子の文字で書かれた内容や涙のシミから恐怖や悲しみが伝わってきていた。オリジナルの所有者は地方の貴族であり、領民を攫っては血を抜き取って血の沐浴をする異常者。それと対峙して戦った時の彼は未だ六歳になったばかりであり、どれほど怖かったかなど想像も出来ない。

 

 そして日記の内容の変化や涙や血のシミが無くなった事が何を表しているのか、想像するだけで心が痛む。

 

「……おい。その魔法だが反動はないのか?」

 

「少しはあるけど平気だよ? それに反動が怖くて立ち止まってたら何も出来ないんじゃないのかな。才能があると誉められても、頑張っているって自信があっても、必要なときに力が無くちゃ意味がないんだ。だからね、僕には迷っている余裕はないよ」

 

「……無理はするな」

 

 魔石やドロップアイテムを回収しながら平然と返された言葉に胸が締め付けられるリヴェリア。レフィーヤもまた、彼の言葉に感じる物があった。

 

「迷っている余裕……」

 

 憧憬の相手であるアイズに一向に追いつけず守って貰ってばかりだと、どうして自分は強くなれないのだと、そう迷っているのは余裕が有るからだと言われた気がしたのだ。

 

 アイズの様に鬼気迫る程の力への執着。それが自分にはないから弱いのだと……。

 

 

 

 一行はそのまま進み、やがて十七階層の嘆きの大壁に唯一出現する迷宮の孤王(モンスターレックス)ゴライアスと対峙していた。推定Lv.4であり、リヴェリアなら兎も角、レフィーヤやネルガルならば他の者と組んで挑むべき相手。だが、ネルガルはたった一人でかの巨人に挑んでいた。

 

目覚めよ(テンペスト)

 

 振り下ろされた巨人の拳が風の防壁に阻まれる。苛立ちながら何度も振り下ろされるが壁は微塵も揺るがない。ネルガルの表情もまた格上の筈の相手を前に揺らいでいなかった。

 

「……やっぱり変だよなぁ、この魔法。もしかして……いや、無いな」

 

 此処に来るまでの間、アイズの魔法であるエアリアル、異常なまでに強力な風のエンチャントの制御に苦戦して壁に激突したりしたものの、この階層に来るまでに使いこなすと言えるまでになっていた。

 

 その魔法に違和感を感じ、一つの答えにたどり着くも有り得ないと思考から追い出して風の向きを変える。正面から受けるのではなく、相手の力を利用して受け流すように。大きく振り抜いた拳に更に力を加えて体勢を崩し、支点となっている足を払うようにすれば地響きをあげて巨大が倒れ込む。それと同時に風が止んだ。

 

『我こそは雷精霊(トニトリス) またの名をゴールデン』

 

『天を断ち  地を裂き 宙を割る 黄金衝撃』

 

『ゴールデンスパーク!!』

 

 この魔法を手に入れた日の記述は急に暗号ではなくなっていた。魔法を教えてくれたのは偶然出会った精霊とのことだが、見た目と口調がチンピラで中身は善人というインパクトの強い相手だったとのことだ。この魔法を実際に目にするまでリヴェリアはフェイクであると本気で思っていた。

 

「この魔法、アイズさんの魔法と似ている?」

 

 アイズが武器や肉体に風を纏わせるのに対し、消費した精神力に応じて体内に蓄積されるエネルギーを消費して雷を放つのがゴールデンスパーク。拳から放たれた電撃はゴライアスを飲み込んで眩い雷光と耳をつんざく雷鳴を轟かせる。一見すると別物の様だが、エルフとしての何かが似ていると告げていた。

 

「……ふぅ。もう限界……」

 

 体内の魔石諸共焼き尽くされドロップアイテムを残して灰になった巨人を見て安堵の息を漏らし、ネルガルは前のめりに倒れ込んだ。

 

「ネルガル君っ!?」

 

「ちっ! 嫌な予感が的中したか」

 

 慌てて駆け寄り上位回復薬(ハイ・ポーション)を飲ませようと抱き上げようとしたレフィーヤの手にベッタリとした物が付着する。全身に裂傷ができ、精神力の枯渇か顔に覇気がない。

 

「恐らくは此処まで使った反動だろうが……馬鹿者が。こんな無茶をしたのだ」

 

「だって二人が居るし、限界まで無茶しても大丈夫かなーって。酷使した分、ステイタスにも反映されるしさ。それにあの魔法は肉体だけじゃなくってスキルも強化するし、成長促進効果も上がって……あ痛っ」

 

「……帰ったら説教だ。良いな?」

 

 ネルガルの頭に拳骨を落とすと背負おうとしたが、それより先にレフィーヤがネルガルを背負った。

 

 

「このくらいはさせて下さい。……私の弟弟子ですから」

 

「そうか……」

 

 レフィーヤに僅かに微笑みかけたリヴェリアは一旦怪我の治療を行うためにと十八階層に存在するリヴィラの街を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、まさかお前は」

 

 街に着いた三人と出くわしたのは一人の冒険者。彼はネルガルに気付くなり強い怒りのこもった視線を向けてきた……。

 

 




あらゆる魔術の操作 をエルフリングの上位互換として扱いました 肉体と特殊能力の強化を肉体とスキルの強化に換え、大きな反動をデメリットに


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