トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始) 作:ケツアゴ
「ネルガル君っ! 今から街を案内してあげますから行きましょ……ひゃっ!?」
思い立ったが吉日とばかりに勢いよくドアを開けて中に入るレフィーヤ。目があったネルガルは着替え中で上半身裸だった。
「驚いたなあ。ノックぐらいしてよ」
「す、すいませんっ!」
レフィーヤは慌ててドアを閉める。元々エルフは潔癖な性格の者が多く心を許した相手以外と肌の接触をしないとい程の者まで居るほどだ。彼女はそこ迄ではないが真面目な性格で、父親以外で異性の上半身など正面から見た事など幼い頃からない。
相手が子供と分かっていながらも顔は真っ赤でドキドキと心臓が高鳴る。やがて服を着たネルガルが呆れ顔を隠そうともせずに部屋から出てきた。
「それで街を案内してくれるの?」
「ええ。魔宝石や武具防具を取り扱っているお店以外にも服屋とか喫茶店とか案内してあげます」
「それは良いけど……遠征で手に入れた物を換金しに行くんじゃなかったの?」
「あっ」
しまったとばかりに固まるレフィーヤの耳に溜息が聞こえる。この時点で自分の評価が『なんか駄目な人』になっていると嫌でも気付かされるレフィーヤであった。
「……おや、またあんた達かい」
杖に装填して使う魔宝石には魔法の威力を底上げする力がある。消耗すると壊れるのだが、誰でも作れる訳ではない。大体の換金を終えた後、リヴェリアに連れられてレフィーヤとネルガルはその魔宝石を作り出せる老婆の店までやって来た。
鉤鼻に骨だけの様な指といった多くの者がイメージする魔女そのものの老婆はリヴェリアとレフィーヤに視線を送り、最後にネルガルの姿をジロジロと無遠慮に眺める。
「ヒッヒッヒッ。まさか
「狙われている?」
「なんだい、アンタ知らないのかい? 本来魔法のスロットは三つまでだが、アンタ達三人は例外だ。だからこそ嫉妬やら何やらで狙われてんのさ。なあ、『
老婆の忠言を聞いたレフィーヤの背筋に冷たい物が走る。国に狙われて刺客を放たれるかもしれない、老婆の言葉は本当に起こるかもしれないと思わせるのに十分だった。
「おい、あまり脅して……」
「でも、一番先に狙われるのはそこの小僧だね」
「……え?」
冒険者としてそれなりに名が売れている自分なら兎も角、ネルガルが一番先に狙われると聞いたレフィーヤは戸惑いながらも先程の言葉を思い出す。この老婆は例外を三人だと言った。詠唱追加で魔法が変化するリヴェリアに詳細を知っている同族の魔法を召喚できる自分。つまりネルガルも何らかの例外的な魔法を持っているという事だ。
「聞いてない? 僕、レフィーヤさんと同じような魔法を使えるんだ。消耗が激しいからあまり使いたくないんだけどね」
「……同じねぇ。まっ、私もあの国にいる知り合いから聞いただけだが、同じには変わりないさね」
「行くぞ、二人共」
これ以上話すのは時間の無駄とばかりにリヴェリアは店から出ていこうとし、レフィーヤは慌てて追いかける。ネルガルも後に続く中。老婆が彼に投げかけた言葉がレフィーヤの耳に届いた。
「こうして直接会うと信じられないね。アンタみたいな餓鬼が
一部隊を壊滅させた。その言葉に思わず振り返ったレフィーヤの視界にネルガルの顔が入る。それは身に覚えにないことを言われて驚く顔でもなく、怖い思いをした時の顔でも偉業を誇る顔でもない。その事に何も思っていないという顔であり、真実であると嫌でも知らされた。
「……あれ? 遠征の打ち上げに行くんじゃなかったの? 僕はあの店に知り合いと、近付きたくない相手が居るから行かないんだけど」
遠征を祝しての打ち上げはロキが気に入っている『豊穣の女主人』で行われるのだが、殆どの団員が参加する宴にネルガルは出席する気はなかった。まだ子供なのでお酒に匂いが苦手と言えば疑う者は居らず、今は自室で手書きの本を眺めていたのだが、ノックの音の後にレフィーヤが入ってきた。
「私も宴に行く気が起きなくて……」
「嘘だね。……別に神様じゃなくてもコツさえ掴めば嘘を見破れるよ?」
ネルガルの言葉通り行く気がないというのは嘘だ。アイズと一緒に宴に参加したかった。だが、それでも残らなければならない理由があった。
ネルガルのベッドの上の枕に寝転がってチラチラと此方に視線を向けるザハクの目は威圧するように怪しく光り身が竦む思いがする。だが、やらなければならないという思いが彼女をこの場に踏み留まらせた。
「ネルガル君の事を聞かせて貰いたいって思いまして。ほら、仲間になりましたし、私が面倒を見るようにと言われていますから」
「別に仲間だからって何でも話すべきってのは間違いだと思うけど……まあ、良いや」
(なんか会った当初から口調が変わっているような)
最初の無邪気な子供を思わせる言葉使いから一変して何処か冷めたような印象を与える今のネルガルにレフィーヤは戸惑いながらにもまずは手軽な質問から入る事にした。
「えっと、昼間に私と同じような魔法だって言ってたけどどんな魔法なのですか?」
『テメーの上位互換だよ、ケケケケケッ!』
完全に馬鹿にしている声に顔を向けると頭を上げたザハクが二人を見ていた。上位互換という言葉を理解できないレフィーヤに対し、ネルガルは先程まで読んでいた本を見せる。一ページ毎に魔法名と詠唱、効果の詳細が載っていた。
「えっと、これは?」
「全部僕が使える魔法。僕の三つ目の魔法スロットの魔法はレフィーヤさんの『エルフ・リング』同様に詠唱と効果を理解している魔法を使えるんだ。……更に自分を強化している上に種族問わずにね」
「はいっ!?」
告げられた内容に思わず出た大声。ネルガルは咄嗟に耳を塞いだが間近で大声を出されたから迷惑そうにしているのだが。
「ちなみに僕の二人目の主神は戦乱と死を司るレッドライダー様だよ」
「レッドライダー!?」
その名前には聞き覚えがある。悪辣非道にして最悪の神と呼ばれ、天界に送還しようとする神々の手を逃れて外に逃亡したとされている。噂では外で集めた団員を率いて傭兵を行い、各地で戦乱を煽っているとの事だ。
「安心して。既に強制的に天界に送還したし、このファミリアで下手な真似をする気はないよ。でもさ、出来れば余り関わらないで欲しいな。僕には復讐しなくちゃ駄目な相手がいるんだ。レフィーさんは善人だし、忠告してあげる……僕と関わっても良い事無いよ?」
そう言い切るとネルガルは手で退室を促し、茫然としたレフィーヤはそれに従う。ネルガルが最後に見せた目はリヴェリアさえ不気味に感じた死人の目であり、子供がその様な目をするなどレフィーヤには受け入れる事が出来なかったのだ。
『……随分と親切じゃねーか。利用できるなら利用するってのがモットーじゃなかったのか?』
「五月蠅いよ、ザハク。……彼女、何となく誰かに似ている気がしたんだ。君を召喚する代償に忘れちゃった誰かにね」
ジト目を向けてくるザハクの問いに答えたネルガルは本を閉じるとベッドに潜り込む。レフィーヤに会った時に感じた懐かしさを無駄不要と心から追い出し、そのまま静かに寝息を立てだした。
「さあ! 今日こそ街を一日使って案内してあげます」
「……えー」
翌朝、昨夜の事を忘れたかのように誘ってくるレフィーヤに面食らったネルガル。その顔にビシッと指が向けられた。
「あの程度の事で私は諦めません! 貴方が嫌って言っても世話を焼きますから。それにリヴェリア様から一緒に教わりますし、仲良くしましょう」
「……勝手にすれば?」
「はい。勝手にします。じゃあ、行きましょう。あっ、そうそう、私の事はお姉さんと思って結構ですよ」
レフィーヤはネルガルの手を掴むと街へ向かって歩き出す。掴まれた腕に鬱陶しそうな目を向けたネルガルだが、ふと過った誰かとの記憶に思わず口元が緩んだ。
「ところで朝ごはんまだだけど?」
「あっ!」
この瞬間、ネルガルの中でレフィーヤへの認識が『色々抜けてるお節介な人』に完全に定まった。
FGOのマテリアル持ってれば三つ目の魔法がわかるかも
1 ペインブレイカー 幸せだった純粋な頃に発言
2 ???
3 才能の象徴