トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始) 作:ケツアゴ
ちょいと例の神の行動が変化しています 良い方向とは言っていない
過去もちょいと変更 人間関係も魔法も
本編の続きも書きますけどね
プロローグ
世界の中心たる迷宮都市オラリオ、その名の通り地下深くまで広がる巨大なダンジョンがそこには存在する。神々から
そんなダンジョンの上層部、中層に繋がる階段がある霧の深い階層に一人の冒険者の姿。年の頃は十歳程で絵本の魔女が被るような継ぎ接ぎだらけのトンガリ帽子にロープを身に纏った少年だ。腕組みをして正面の光景を見ている。
「中層部から出るって話だったけど、何処かのファミリアがミスったか、これが話に聞くイレギュラーなのか……」
視界を狭める霧の中、自分より遥かに巨大な無数の存在を見やりながら呟く彼を本能から来る人への殺意を込めて睨む者の名はミノタウロス、牛頭人身のモンスターだ。中層でも屈指の強さを誇り、まかり間違ってもこの様な浅い階層に出現するはずがない。
本来この階層で戦う冒険者のLv.は1。Lv.を上昇させるには己の殻を破る必要があり、神が認めるほどの功績を持って初めて成す偉業。ゆえに多くの冒険者はLv.1のまま燻り、レベル一つの差は余りにも違う。
岩を切り出したような武骨な斧、
『ケケケケケ! なーんだ。ダンジョンの中のモンスターは別格だって話だが、Lv.2じゃこーんなもんかよ。俺の出番はねぇな』
「君に暴れられたら僕が大変なんだから大人しくしておいてよ」
『はいよー』
聞こえてきたのはあどけない少年の声と……その場に姿は見せない何者かの嘲笑するかのような声。自らを侮っていると、会話を理解する知性はなくても理解したのだろう。仲間が倒れた事によって動きを止めていたミノタウロス達が動き出す。怒涛の勢いで殺到する殺意の波に対して少年はその場から逃げる様子もなく、前に突き出していた腕を真上に向けた。
「消えなよ」
少年の口から出た声にはミノタウロス達への恐怖は籠っていない。いや、今から返り討ちにしようという意気込みも絶対に殺すという殺意も甚振って殺そうとする嗜虐的な感情さえ籠っていなかった。存在するのは目の前の存在が消えて当たり前という思い、それだけだ。
ミノタウロスが地を揺らすほどの勢いで殺到する中、少年の掌が淡く光った次の瞬間、雷鳴と共に雷光が立ち上った。、見慣れない眩さと聞きなれない轟音にミノタウロス達の足が止まり視線が上を向く中、天井へと向かって
少年の近くにいた個体から落雷の直撃を受け、棒立ちのまま黒焦げになって倒れ込む。離れたいた個体は逃げ出す動作が間に合いはしたが、地面に触れるより前に不自然に向きを変えた雷に背後から体を貫かれて体内を焼かれる。ミノタウロスの断末魔の叫びと落雷が地面を砕く音だけが響き雷光が階層を照らす中、下の階層から急ぎ足で向かって来る者達がいた。
「……魔法?」
中層からこの階層にやって来たのは金髪の少女、名をアイズ・ヴァレンシュタイン。神ロキに恩恵を授かった、オラリオでも、つまりは世界に数えるほどしかないLv.5の冒険者。ダンジョン深くからの遠征帰りに遭遇し、直ぐに逃げ出した大量のミノタウロスを追って来た彼女は目の前の光景に思わず足を止めてしまう。
絶え間なく降り注ぐ雷撃は意思を持つかのようにミノタウロスや跡から出現したモンスターを貫いていた。感じる魔力の高さに思わず肌にピリピリとしたものを感じる中、目的を思い出した彼女は直ぐに駆け出した。
(誰かは知らないけどこれでミノタウロスはかなり減った。でも、取り逃がしたのが上に逃げたかもしれない)
モンスターを逃がしたのは自分達のミスであり、それが他の冒険者、それもミノタウロスなどに勝てるはずのない者を襲いでもしたら確実に殺される。それを防ぐためにアイズは風を纏って突き進む。
(……子供? ッ!?)
上へと向かう階段の傍でアイズは少年と擦れ違う。帽子を深く被り顔はよく見えないが太い三つ編みにした赤い髪が見えており、小柄な彼の姿に思わず視線を向けた瞬間、それが見えてしまった。継ぎはぎだらけの帽子の中、小さい二つの赤い光を見た瞬間、全身から汗が噴き出した。感じたのは長らく忘れかけていた本能的な恐怖。
(今は確かめている時間はない……)
放置して良いのかと迷いながらもアイズは突き進む。Lv.5に昇華し非常に敏感になった聴覚が上へと突き進むミノタウロスの足音を複数捉えており、仲間も少し遅れてやって来ている。
……結局、ミノタウロスは全て退治された。助けたウサギを思わせる少年に逃げられた事にショックを受けながらホームへと帰るアイズだが帰り道で気になっていたのは少年の帽子の中にいた得体の知れない何かの事。今すぐにでも引き返して確かめたいと思ったが遠征帰りにはすべき事が多くありファミリア幹部である彼女にそこまでの自由はない。
「アイズ、どうしたの?」
「……なんでもない」
そんな彼女の様子がおかしいと心配した、同じくLv.5で仲の良いティオナが声を掛けるも感じた不安を表す言葉が見付からず誤魔化す。やがて一行はホームである黄昏の館に辿り着いた。
「お帰り、アイズたーんっ!」
屋敷に入るなり騒がしい声と共に主神であるロキが出迎える。細い眼をした貧しい胸の女神で、お気に入りにのアイズにスケベ親父丸出しの顔と仕草で飛び掛かる。この後で撃退されるのが何時もの光景だが今日はひらりと躱されて背後にいたレフィーヤが生贄となった。
「んー。レフィーヤも胸が大きゅうなった?」
「きゃぁああああっ!?」
同性への容赦のないセクハラを楽しそうに行うロキではあるが、様子のおかしいアイズにチラリと視線を送り、少し何やら考えている様子だ。
「アイズたん、なんかあった?」
「いえ、ありません」
「神に人間は嘘つけんって忘れたんか? まっ、言いたくないなら別にええけど? ……今日明日はダンジョン行くの禁止な。色々仕事あるし、晩は宴やさかい」
「……はい」
ロキの言葉に渋々返事をするアイズ。言わなければ用事が済み次第ダンジョンに行っていただろうと幼い頃から見守っていたロキは分かっていた。
「ロキ、今回の遠征だけど少し話したい事が……」
「ああ、分かった。詳しい話はウチの部屋で聞こうか」
団長であるフィンがロキに今回遭遇した新種のモンスターについて報告する中、アイズはティオナやその姉のティオネ、レフィーヤに誘われて大浴場へと向かった。
「そういえば聞いた、アイズ? 遠征中に外から来た新人が入ったんだって」
「あっ! 私も残っていた人から聞きました」
「……ベートが何かしないと良いけど。外から来たなら弱いだろうし」
この場の皆が顔を思い浮かべたのは狼人のベート。Lv.5の冒険者であり、格下を雑魚と呼んで見下した発言を絶やさない男だ。実は真意があるのだが、あまりの口の悪さに気付く者は少ない。
アイズが言ったようにオラリオと外では冒険者の質に差が出る。これはモンスターの核である魔石を削って分け与える事で子孫を残すのが外のモンスターの特徴だからだ。完全な状態で壁や地面から生まれてくるダンジョンのモンスターとは雲泥の差があり、ダンジョンでLv.3相当のモンスターでも外のならLv.1程度。故にLv.は本当に上がらない。外の最高であるとされるのはLv.3だが、本当に極稀にしかいない。
「聞いた話ではLv.3だとか。……それも子供らしいです」
レフィーヤが居残り組から聞いた話にアイズとティオナとティオネが同時に反応する。姉妹はとある亜酷な状況で育った為に外でLv.3になった為に警戒し、アイズは強さを求めるがゆえに興味を持った。子供が外でどのような経験を積めばLv.を3に出来るのかと。
(……もしかしてダンジョンで見掛けた)
考え事をしていたからか珍しくアイズは背後から忍び寄る気配に気付かない。気付いた時、それは浴室に侵入したロキが胸を鷲掴みにしてからだった。
「アイズたん、えらく育った……ぶべっ!」
当然、次の瞬間には顔面に拳を叩き込まれる。地上に降りてきている神は常人にまで力を削いでいるので手加減はしているのだろうがダメージは膨大の様子で顔面を押さえて転げまわっていた。
「セクハラは止めて下さい」
「ノリ悪いなぁ。流石ツンデレ! ……あっ、調子乗りました、スイマセン」
ゴキりと拳を鳴らすアイズにロキはペコペコと頭を下げる。とても神には見えない姿だが眷属達に戸惑った様子がない所を見ると日常茶飯事のようだ。
「……ロキ。新しく入った子だけど……」
「ん? ああ、ネルガルやな。アイズたん達が遠征に出た直ぐ後にオラリオに来たんや。どうも主神が送還されたらしくってな。レベル3が来たって事でティオナ達の時みたく騒ぎになっとったし、面白そうやからスカウトしたんやけど」
ロキはヘラヘラ笑いながら説明するが、アイズは何処か違和感を感じていた。偶に何かを誤魔化す時の主神が見せる表情を一瞬だけ感じ取ったのだ。
「……どんな子?」
「なんやアイズたん。新人に興味津々なん? レフィーヤ、仲良い後輩の座を横からとられてしまうかもしれへんで? ……そやな。此処来たばっかのアイズたんとベートとティオナ達を合わせて割ったみたいな餓鬼やな。能力は魔法寄りやけど」
ロキの言葉にアイズは例の少年を思い浮かべる。あの規模の魔法を行使できる子供、もしかしたらフィンと同じ小人族かもしれないが、どちらにしても噂さえ聞いた事が無かった。
「……にしても遅いなあ。晩までには帰って来いって言ったんやけど」
既に時刻は夕方だ。冒険者であるならダンジョンに居てもおかしくないが、ロキが先程の話の様な子供だから心配しているのだとアイズが思った時、横を影が一つ通り過ぎた。
「少し興味沸いたし、あたしが探してくるねー」
「ちょっ!? 待ちなさ……」
ティオネの制止の言葉も聞かずにティオナは駆け出していく。そんな妹の姿にティオネは呆れ顔を向けていた。
「……いや、見た目の特徴も聞いてないじゃない、あの馬鹿」
その様な中、憧れのアイズが年下で同じLv.の新人に興味を持った様子なのを気にしたのかエルフのレフィーヤの目に僅かに嫉妬の炎が宿るのを見逃さなかったロキは内心焦りながら頭を掻く。
(ええ刺激になったらと思うけど心配やなー。あの子の魔法の才は異常やし、三つ目の魔法なんか劣等感を与えるには十分や。……まっ、信じるしかないな)
取り敢えず教育係りを誰にするか思案しながら出て行くロキ。これからどうなるか、それは万能でなくなった地上の神には分からないことだった……。
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