トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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ワンパンマンのOP聞いてたらヒロアカのステインの理想のヒーロー像だと思った。つまり彼の理想はサイタマだと言うことに。まあガロウも似たようなのだしね


蹂躙

「まったく、僕も人の事は言えないけれど、命は大切な物なのに馬鹿だね」

 

『なら少しは自重しろや。テメーが死ぬと俺も死ぬんだからよ』

 

 ダンジョン、死が何時訪れるか分からない其の場所でネルガルは呑気な声で足下に転がる者達に目をやる。何か怨まれる様なことをしたのか、思い当たる節が有りすぎて誰に何で狙われたかは分からないが、死体の手に握られた剣や弓矢には毒が塗られている。数からしても確実にネルガルの命を狙っての事。

 

『まっ、出る杭は打たれる。……神ならどんな理由で人の命を狙っても不思議じゃねーや』

 

 襲撃者はネルガルに襲い掛かる際、主神の為に、等と口にしていた。つまり、彼らに祝福を与えた神が眷属を使ってネルガルを狙ったのであると推察できる。

 

「……証拠残さないようにしないとなぁ」

 

 ネルガルにはオラリオから逃げる気もないし、仲裁を誰かに頼む気もない。逃げても追われる、狙わないという約束は破られる。だからこそ自分も相手を狙おう。無論、表だって神を殺すのは《少々》厄介なので事故に見せかけ自分から疑いの目をそらしてやらなければならないし、其れが無理なら表だって見せしめにする方法を取れば良い。

 

 ネルガルはそんな異常な考えを正常な精神状態でしていた……。

 

 

「じゃあ、そろそろリヴェラに戻ろうか。ザハク臭いしお風呂入らなきゃ」

 

 ネルガルは無惨に転がる死体に目もくれず、立ち上がってグッと伸びをすると歩き出す。閉ざされた地下のダンジョンにも関わらず風が吹いて死体を持ち上げ、そのまま金属製の防具すら細切れに切り裂いて広大な階層内に散布された。

 

 

 

(ったく、詠唱短縮のスキルは持ってたけど、一番短い奴は最早詠唱すら必要ねぇってか。大した才能だが・・・・・・ネルガル自身は欲しくなかっただろうな)

 

 詠唱短縮を初めとした魔法の才能の極みと言うべきネルガルの魔法関連スキル。多くの者が羨む圧倒的才能ではあるが、その才能こそがネルガルの人生を狂わせた要因。其れさえなければ世界の汚さなど知らずに田舎で静かに暮らしていたのだから……。

 

 

 

 

戦争遊技(ウォー・ゲーム)ゥ? ヘスティア(あの馬鹿)、アポロン・ファミリアみたいな大きい所とどうしてまた……」

 

「だから堂々と主神を馬鹿って呼ぶのは止めなさい。……否定は出来ないけどね」

 

 一定のルールを決めて行われるファミリア間の抗争である戦争遊技は一度決めた勝利時の取り決めは絶対とされており、構成員がたった三人の弱小ファミリアであるヘスティア・ファミリアと対戦相手のアポロン・ファミリアでは()()()()()勝ち目がない。

 

 ダンジョンから戻って自宅で就寝後に向かったヘファイストス・ファミリアで其の話を聞かされたネルガルは寝起きも相まって少々不機嫌そうだ。話をしたヘファイストスも友神の無謀さに、若しくはレベル3でカドモス等の強力なモンスターに挑み、素材や貴重な鉱石を持ちこんだネルガルに呆れているのか、其の両方なのかは分からないが深いため息を吐いていた。

 

 

 

 

 

「ヴェルフ達と飲みに行って絡まれて喧嘩したら、其れを口実に戦争遊戯仕掛けられて、断ったら毎日のように怪物進呈を食らったと。攻城戦の攻め側で明日出発なんだね?」

 

 自宅で二十時間ほど眠った後、ネルガルはホームで何が起きたのかを確認する。どうもベル達はアポロンにまんまと嵌められたようで、自分を襲ってきたのもアポロンの手の者だと直ぐに理解できた。

 

(うん、殺そう。……いや、それよりも)

 

 アポロンが提案してきた勝利時の賞品はベルの改宗とネルガルの追放。ただし、追放に関しては何故かフレイヤが反対して何処かのファミリアへの改宗へと変わった。

 

「いや、良かったよ。アポロンの所にはレベル3が居るからね。ベル君はまだ2だし」

 

「安心している所なんだけど、もし負けたらヘスティア様は消されるよ」

 

「えぇ!? どうしてだい!?」

 

 驚いた様子のヘスティアだが、ネルガルには何処に驚く所があるのか分からない。此処までの手を取ってまでベルを手に入れようとする相手が改宗に必要な残りの期間を待つ訳がない。アポロンがどれほどの神なのか知り合いのヘスティアなら知っている筈だろうと……。

 

 

 

 

 

「……まあ、大丈夫だよ。僕が全部終わらせる。二度とこんな事がないように、徹底的に潰して壊して無残無慈悲にアポロンファミリアを壊滅してあげるよ。でも、一つお願いがあるんだ」

 

「な…なんだい? 君が僕にお願いなんて珍しいじゃないか」

 

 この時、ヘスティアは少し嬉しかった。信頼していないのか(実際にそうだが)ヘスティアに何か頼み事をするなんてせず、それ所か金だけ入れてホームに殆ど居ないネルガルからの頼みごと。神がいいヘスティアが張り切らないわけがなかった。

 

 

 

 

 

「こっちの賞品は何でも良いんだよね? 僕に決めさせてよ。非道な要求はしないからさ」

 

「嘘じゃないし、オッケーさ」

 

 神は人の嘘が分かる。だから迷いなく了承したヘスティアだが、その能力には欠点がある。曖昧な事は嘘だと言えないし、認識の違いというものがある。七歳の頃から戦場を巡って世界の汚い所を故意に見せつけられて来たネルガルとヘスティアの物事への認識が同じ訳がなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼処かぁ……」

 

 ザハクを肩に乗せたネルガルはアポロン・ファミリアが集まっている砦を眺める。最初はリリが魔法で侵入するという作戦が出されたがネルガルがそれを却下し、最初に彼の大規模な魔法を当ててから、という事になった。

 

「ネルガルくん、本当に此処からで大丈夫?」

 

 心配そうにするベルだが、それも無理はない、詠唱中に狙われないようにと矢が届かない程の距離であり、目を凝らせばなんとか、という遠さだ。

 

「うん、大丈夫さ。……っと言うより、この距離じゃないとベルさん達が危ない」

 

 どういう事かとベル達が驚く中、ネルガルが詠唱を始める。その様子はオラリオ中に映し出された画面から見る事が可能で、最初に異変に気付いたのはフレイアであった。

 

 

 

 

「……アレは拙いわね」

 

 普段から笑みを絶やさないフレイヤの顔に焦りが現れる。其れが合図であったかのように鳥が飛び立ち獣が必死で駆ける。未だ呪文が完成していないにも関わらず、アポロン・ファミリアが居る砦の周囲五kmから虫も獣も鳥も全て逃げ出した。

 

 

 

「神という神を冒涜せよ。殺戮という殺戮を行い、この世が地獄であることを全ての者に知らしめろ。この世に正義は罷り通らず、ただ悪が存在するのみ」

 

 まず、砦の真上の空に大きな穴が出現した。

 

「人の性は悪である。人の本質は悪である。人は悪そのものである」

 

 次に美しい黄金の杯が穴から現れる。ただ、それを見た誰もが絶対にそれを欲しくないと心の底から思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ! 地獄を此処に! 最悪を此処に! 人の本質を解放せよ! 『この世全ての悪(アンリマユ)』」

 

 そして、其の黄金の杯から溢れ出した泥が砦を飲み込んだ。

 

 

 

 

「あっ、聞いているかな、()()()()()()()()()達が勝った時の賞品だけど、

 

これから十日間以降の脱退と改宗の全面禁止。

 

主神の天界への帰還の厳禁。

 

主神及び眷属の直立二足歩行の禁止。

 

ダンジョン中層以降の侵入禁止。

 

ダンジョンへの武器及びポーション類の持ち込み禁止。

 

ギルドへの税金は今まで通り 支払い不可能の場合は主神が雑用で補う。

 

主神及び眷属は夜間外出の禁止。日の出から日の入りまでしかホームの外に出てはいけない。ダンジョンに入っていようと帰らなければならない。

 

主神及び眷属は雨具を使ってはいけない。雨宿りも禁止。雨が降った日はホーム以外の建物に入ってもいけない。

 

ペット用の皿以外の食器類の使用禁止。

 

以上を守っているか他の神からの確認を拒まず、違反があったら其の神に全財産を渡す。

 

まぁ、()は優しいからこの辺りで勘弁してあげよう」

 

 

 

 この時、オラリア中の神が戦慄する、だが、それは要求の内容にではない。ネルガルの口から発せられた女性の声に対してだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間違いない、あの声は……レッドライダーだ」

 

 

 

 

 




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