トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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ダンジョンの異変

 とある貴族の食事の時間、豪華絢爛な料理が並び後ろで使用人たちが控える中、子息や令嬢達の目は大きく年の離れた幼子に注がれていた。その目に宿るは侮蔑、嫌悪、そして嫉妬。

 

「……何故あの様な者に」

 

「卑しき者の分際で……」

 

 彼らの後ろには止まり木が置かれており鳩や雀、そして当主の背後に置かれた止まり木には大きな鷹が止まる中、幼子の背後に置かれた籠の中のクッションの上には紫銀に輝く鱗を持つ小さな竜が欠伸をしていた。

 

 

 

 

 

「……ふぁ~あ、嫌な夢見たなぁ……」

 

 目を覚ました時、時刻は何時も起きる時間をとっくに過ぎていてあのヘスティアとかいう神もベルとかいう新米冒険者も居ない。まぁ零細ファミリアだからヘスティアの方はバイトに行ってるらしいし、ベルの方はダンジョンに向かったんだろうね。

 

『ったく、久々に野宿じゃないっからって気を抜き過ぎだぜ』

 

「ザハク、おはよ……」

 

 寝ぼけ眼を擦りながらテーブルの上を見れば置き手紙と冷え切ったジャガ丸くん。

 

『僕はバイトに行ってくるしベル君はダンジョンに行くぜ』

 

 ……とりあえずザハクに残り食べさせてマトモな朝ご飯を買って食べよっと。旅の途中はタコっぽい奴らばっかしだったからなぁ……。

 

『おい、肉食おうぜ、肉! 久々にコッテリとした脂身が食いてぇっ!』

 

「お金あるし、昼に焼肉行っちゃう?」

 

『おぉっ!? 分かってるじゃねぇかっ!』

 

 多分、ペット(ザハク)が入店出来る店は少ないだろけど、その時は出店の安くて脂身だらけの肉を食べさせれば良いよね? 僕はモゾモゾと寝袋から這い出ると伸びをしてボロい廃教会を後にした。

 

 

 

 

「クワトロカノン!」

 

『ブッォオオオオオオオッ!?』

 

 ここはダンジョンの十階層。霧に包まれたこの階層から出現する大型モンスターであるオークの群れが悲鳴を上げて息絶える。風の刃で切り裂いたり、氷の矢で撃ち抜くのは別に良いとして……雷や火で倒した奴は良い匂いがして食欲をそそるなぁ。

 

『おっ! ドロップアイテムがあるぜ。ケケケ、これは豪華な昼飯になりそうだな』

 

 魔石を抉り取って灰になったオークのブヨブヨとした皮が落ちている。モンスターの素材は結構な金になるんだよね~♪ そろそろバックパックが魔石や素材で一杯になる頃。お昼も近いしそろそろ換金しに戻ろうかな。

 

『ギキィッ!』

 

 でも、地面から這い出るようにインプの群れが現れる。しかも僕とザハクを取囲んで威嚇していた。そろそろお腹減ったのに……。

 

「……消費魔力増加(ブースト)。クワトロカノン」

 

 僕の体から杖に通常の数倍の魔力が流れ込み魔法石が光り輝く。インプ達もそれを察したのか怖気付いているけどもう遅いよ。僕の予定を邪魔した報いを受けさせてあげるね。

 

 

 

 

 

 

 

「……何があった」

 

 最強の冒険者であるフレイア・ファミリアのオッタルはダンジョンからの帰り、十階層に足を踏み入れるなり違和感を感じ、そのまま歩を進めることで異変に気付いた。足を踏み出すたびに地面に張った薄氷が割れ、吐く息は白くなる。モンスターの武器となる木には霜が貼り中には完全に凍りついている物さえある。この日、この階層は極寒の世界へと変貌を遂げていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、参った参った」

 

『ケケケ! テメェの仕業ってバレたらギルドからペナルティ食らうだろうなぁ』

 

 ダンジョンから戻る途中、ネルガルが先程行った失敗を反省しつつ杖をコボルトの脳天に叩き付ける。そのまま体を回転させて後ろから迫ってきた他のコボルトの即頭部に杖を叩き込んだ時、突如ザハクが階段とは違う方向に向かいだした。

 

『おい! この壁を壊せっ!』

 

「……面倒臭いなぁ。はいはい、クワトロカノン」

 

 空中に展開された四つの魔法陣が緑色に輝き風の塊がダンジョンの壁を砕く。ボロボロと崩れ出す土に混じって鈍く輝く鉱石の塊が転がり出た。

 

「やった! アダマンタイトだぁ」

 

『この壁から丁度匂いがしたんだよ。儲け儲け』

 

 喜んで鉱石を集めるネルガル。その姿を物陰に隠れて見る柄の悪い男達が居た。

 

 

 

 

 

「おい、見たか? あのドラゴン喋ってるぞ」

 

「しかも鉱石の有る場所を当てやがった」

 

「あの餓鬼がティムしたんだろうが……その程度の強さなら何時でも奪えるな。餓鬼も魔法さえ使わせなきゃよ」

 

「……まあ、まてカヌゥ。今は放っておいて時期を見てだな。……餓鬼はぶっ殺して放置しとけばモンスターが死体を処理するだろうし、竜の証言なんざ誰も信じねぇ。絶対に奪うぞ」

 

 ザハクを見ながら手に入るであろう大金を想像し笑みを浮かべる男達。彼らの服にはとあるファミリアの紋章が刻まれていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、何処に行こうか」

 

『肉だっ! 美味い肉を出す店に行くぞっ!』

 

 ダンジョンで手に入れた戦利品をギルドで換金したネルガルは手に入れた大金を懐に街の中を練り歩く。目当てにしていた焼肉屋でザハクの入店を拒まれ別の店を探していた。そんな時である.二人の鼻を美味しそうな香りがくすぐり、其処に顔を向ければ『豊饒の女主人』という昼は喫茶店、夜は酒場をしている店があり、店員らしきエルフの女性が店の前を掃除していた。

 

「ねぇねぇお姉さん。この店に此奴を入れて良い?」

 

「少々お待ちください。確認を取ってきます」

 

 そう言いながらトンガリ帽子の継ぎ目から顔を出したザハクを指差すネルガルに対し店員の女性は全く表情を変えずに店の中に入り、主人らしきドワーフの女性と何度か言葉を交わすと戻ってきた。

 

「店の中で飛び回らせないのなら構わないそうです」

 

「うん、分かった! 行くよ、ザハク」

 

『肉だ、肉!』

 

 喜んで店の中に入っていくネルガルとザハク。店員の女性の視線は言葉を発するザハクに注がれていた。

 

「あの竜、もしかしてラキアの……」

 

 

 

 

 

 

 

「はいよっ! 牛の炭火炙り串五人前っ! それと餓鬼はちゃんと野菜も食いなっ!」

 

 カウンター席に座ったネルガルの前に二つの皿に分けられた肉と注文していない大盛りのサラダが置かれる。ザハクは肉を目にするなり器用に串から肉を外して貪っていた。

 

『ほぉっ! 中々うめぇじゃねぇか。気に入ったぜっ!』

 

「はっ! 偉そうにするんじゃないよチビスケ。……にしても坊主。アンタも冒険者だろ? ファミリアの仲間は居ないのかい?」

 

 店主であるミアはジロジロとネルガルの姿を眺める。髑髏をモチーフにした趣味の悪い杖に絵本に出てくる魔女の様な服装に緑の髪を後ろで括った中性的な幼さの残る顔立ち。同行者がいる様子はなく、ザハクはそれほど強くは見えない。

 

「同じファミリアに先輩は居るけどさ冒険者になって半月の新人だし、弱っちぃし僕が面倒見る事になるから同行したくないんだ。僕、こう見てもレベル2だからさ」

 

「……ふ~ん。まぁ大丈夫なら良いんだけどね。にしてもアンタってオラリオじゃ見ない顔だけど外でレベル上げたのかい?」

 

 基本的にダンジョン外のモンスターはダンジョン内よりもはるかに弱く、外ではレベル3なら凄腕だと言われている。

 

 

 

 

 

 

「うん! 前の主神や仲間と一緒に傭兵やってたから。レベル3の冒険者をレベル2一人と僕を含むレベル1が二人の三人掛りでぶっ殺したらレベルアップしたんだ」

 

 ネルガルが平然と言い、何の気なしに話に耳を傾けていた他の客が固まる中、赤い髪をした青年が入ってきた。

 

「席空いてるかい? ……って、其処に居るのはネルガル様ぁっ!? なんでオラリオにぃっ!?」

 

「あれ? ヴェルフもこの都市に来てたんだ。あっ、僕はもうあの家と関係ないから敬語使わなくても良いよ」

 

「そうか? 久しぶりだな、ネルガルにザハ助」

 

『……相変わらず切り替えの速い奴だな』




タコぽい奴、果たして一体何者なんだぁ?(笑)

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