トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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地獄のある場所

 人は実際に自分の身に降り掛かるまで悲惨な現実なんて何処か別の世界の出来事だと思っている。多くの命を奪う疫病や、木の皮草の根まで食べようとする程の飢饉、そして戦争。

 

 僕も昔はそうだった。少し貧乏だけど優し……優しい母さんが居て、たまにお土産を持って遊びに来る叔母さんが居て、友達も居たし嫌いな子も居た。母さんの手伝いをしたり、体術の訓練を受けたり、友達と遊んだり勉強したりして大人になって、今度は僕が親になって働いて家族を養う……そんな未来を信じていた。

 

 ある日奪われた日常。行き成り貴族にされた僕は、数ヵ月後には父親を毒殺した罪人にされて、気付いたら傭兵になっていた。そして知ったんだ。地獄はこの世にこそ存在して、人の根本は悪だって。

 

 

 

「ねぇ。ネルガルはどんな大人になりたいの?」

 

 そんな地獄の中でも僕の側にはあの子が居た。団長の娘で僕より少し年上の女の子。初恋のあの子が居てくれた。でも、あの子は死んだ。神の呪いで死んだ。団長はあの神様が地上に居ることで出る犠牲者と裏切る事で死ぬ家族を天秤にかけて……いや、掛けるまでもないって判断して切り捨てた。

 

 神は人を救わない。

 

 人は人を救えない。

 

 争いは決して終わらず、地獄は世界の何処かで繰り広げられる。でも、地獄に居ない人達はそんな事など知らない。知ろうともしない。だって関係ないから。自分が傷つかないなら、知らない何処で知らない誰かが地獄に落ちてても悲しまない。心が痛まない。知った事で悲しいって感じても、それは本当の悲しみじゃない。

 

 地獄は地獄を見た物にしか理解できないから……。

 

 

 

「えっと、此処ってロキ・ファミリアのホームだよね?」

 

「そうだけど、どうかした?」

 

 朝食を食べて今からダンジョンへと向かおうとしていたベルさんの首根っこを掴んで黄昏の館まで引き摺って行く。ザハクは相変わらず僕の帽子の中でスヤスヤと眠っているけれど、ダンジョンの下層では少しは働いてもらおうかな?

 

「すいませーん! 約束の人、連れてきましたー」

 

「約束っ!? そもそもこの覆面は何っ!?」

 

 最近思った事なんだけど、ベルさんって自分の能力を考えずに行動するから多分近い内に死ぬ。あのお人好しの主神はベルさんが居た方が扱いやすいし、リリルカさんもベルさんに丸投げしたほうが楽でいいから其れは困る。だから鍛えて貰うことにした。

 

「あれ? 言ってなかったっけ? ロキ様にお金払ってベルさんを特訓に参加させて貰うように頼んだって。まぁ体面があるから何処の誰か分からないようにしてるけどさ」

 

「聞いてないよっ!?」

 

「じゃあ、今言った。ダンジョンへは昼から潜るってリリルカさんには言っておくから。あと、多分一週間はダンジョンに篭るからヘスティア様には伝えておいてね」

 

 背後から何やら声が掛かるも気にしないでダンジョンへと進む。僕の目的を達成するにはもっと力が必要だから、もっと強くならないと。

 

 

 

「ネルガル君、良い事を教えてあげよう。私は眷属が手に入れるであろうスキルが大体分かるんだけど……君の復讐に役立つスキル発現の可能性が有る。精々頑張りたまえ」

 

 前の主神レッドライダー様は性格最悪の神様だったけれど、眷属に嘘は付かなかった。だから頑張ろう。どんなスキルかは知らないけれど、きっと役に立つから。

 

 

 

 殺せない神を殺して、ラキア王国の王族も殺して、兄や姉を殺して、僕は平穏に生きたい。そのためなら、僕はどんな危険だって冒してやるさ。

 

 

 

 

 

 

「…これで三つ目か。中々見付からないもんだね」

 

『まっ、だからこそ希少性が出て高値で売れるんだけどな』

 

 アレから一週間、ダンジョン十八階層を拠点に中層深部へと潜り、ザハクの鼻を頼りにレアアイテムを探してたんだけど、ヘスティア・ファミリアは莫大な借金があるからまだまだ足りない。僕が何かのために借金しようとしてもファミリアに借金が有れば信用が足らずに貸して貰えないかもしれないから(少なくても僕なら貸さない)頑張らないと。

 

「……ん? アレは……」

 

 思わず笑みを浮かべ杖を握る手に力がこもる。ダンジョンに滅多に出現しないレアモンスターは其の分ドロップアイテムの価値も高く他の冒険者と取り合いになる。だけど今周囲には誰の気配もなく、其のレアモンスターは僕に気付いていない。

 

「……神という神を冒涜せよ。殺戮という殺戮を行い、この世が地獄であることを全ての者に知らしめろ。この世に……」

 

 確実に仕留めるために三番目の魔法を詠唱し始める。数十秒後、周囲にモンスターの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「……うわっ」

 

「……」

 

 借金を全額返済するに十分な、いや、それどころかお釣りが大量に来るだけのアイテムを大量に手に入れた僕は一旦美味しいものでも食べに行こうとオラリオに帰ることにした。そして予定を変更したのが悪かったのだろう。非常に面倒臭い事態に遭遇してしまった。

 

 猛者(おうじゃ)オッタルが大剣を持ったミノタウロスと打ち合っていたんだ。其れも戦っていると言うよりは鍛えているって様子。目撃した僕もだけど、目撃された側も困った顔をしていた。

 

(……困ったな。他の者なら兎も角、彼奴はフレイヤ様が欲しがっていた相手。始末するわけには……)

 

「お疲れ様ー」

 

 まぁ放置することにデメリットが無くて、関わることにメリットが無かったら他人の事情に関わるべきじゃないよね。

 

「……何をしているか訊かないのか?」

 

「関わる必要ある? 僕、あまり他人の事情に関わる気がないんだ。フレイヤ・ファミリアを敵に回す気はないし。じゃあ、僕はお昼ご飯食べに行くから」

 

 昔、他人の事情に関わって面倒事になった事がある。毛むくじゃらのオッサンにその日の糧を得る為に抱かれていた女の子。その子が可哀想って思った当時の僕は金貨をあげて、その金貨目当てにその子は殺されたし僕も狙われた。

 

「あ〜あ。面倒なことにならなきゃ良いけど」

 

 此れから暫くしてベルさんが大剣を使うミノタウロスを撃破したらしいけど、この日の僕はヴィーヴルの涙や宝石樹やらの高額換金対象を直接持って行き……無茶しすぎと怒られた。解せぬ……。

 

 

「取り敢えずヘスティアには黙っておくのよね。給料は貴方に渡せばいいのかしら?」

 

「じゃあ、知り合いのヴェルフさんを通して僕に頂戴」

 

 勝手に返済したって聞いたら五月蝿そうだしね、あのアホ神。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、次はどチビん所の二人やな。……先に言っておくで。レッドライダーがあのガキンチョに掛けた呪いは”復讐を果たすまで恨み忘れず”や。変な二つ名付けたら……厄介やで」




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