トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始) 作:ケツアゴ
ダンジョン十七階層に階層主であるゴライアスの叫び声が響く。仰向けに横たわった其の四肢は凍り付いた上で巨大な氷柱によって地面に縫い止められ、体中には未だ降り続けている氷柱が次々と突き刺さる。分厚く頑丈な皮膚を、巨体を支える強靱な筋肉を、頑強な内臓を氷柱が容易く貫き、そして徐々に凍らせていった。
未だ死なないのは階層主に相応しい生命力故。そしてゴライアスは其れが何より恨めしかった。肉体のほぼ全てが凍り、自分の命が徐々に失われていく感覚。やがて眉間に突き刺さった氷柱から発生した冷気で脳が凍ったことでゴライアスは望んでいた死を与えられた。
「さてと……」
レベル2まで成長し、この階層まで来る事が出来る程に力を付けた冒険者の命を易々と奪ってきたゴライアス。その命を易々と奪い去ったネルガルの表情には感慨深さなど微塵もなく、まるで作業をこなした程度にしか感じた様子はない。齢十歳にしてゴライアスの単独撃破という、まさに英雄譚の一ページに刻まれる功績も彼には特に感じるものではなく、氷と共にゴライアスの肉体が塵となって消えていった後に残された巨大な魔石と鋭い犬歯を縄で縛った時、背後から拍手の音が聞こえて来た。
「……凄いね」
「別に? ……こんなんじゃロクな経験値にならないよ」
アイズから掛けられた賞賛にもネルガルは特に反応を示さず、リヴィラの街へと向かうべく十八階層へ向かっていった。時刻は朝ごろ。ソーマ・ファミリアとの戦争遊戯から半日後の事であった。
「……聞いて良い?」
「それも質問だよ、お姉さん。……何?」
ソーマ・ファミリアの構成員を圧倒した後、諸々の始末をへスティアに押し付けて直ぐ様ダンジョンに向かったネルガルを追い掛けたアイズ。彼女にはどうしても聞きたい事があった。
「どうして、あんな事をしたの?」
何故リリを痛め付けたのか、何故戦争遊戯を仕掛けたのか、何故ソーマ・ファミリアを事実上の解散に追い込んだのか、それがどうしても気になっていた。
「……ウチの団長、ベルって言うんだけど知ってるよね? お人好しで利用しやすそうだから同じファミリアに入ったんだけど、反吐が出るレベルだったんだ。ナイフを奪った上に自分をモンスターの群れに置き去りにした奴を助けてって言うくらいにね。……同じ様な立場の奴は幾らでも居る。普通に助けちゃ自分も自分もって寄ってくる」
「……だから、ああいう風にしたんだ」
「うん。後は……言って良いか。僕もベルさんもレアスキルのお陰で急成長しててね、目を付けられても変に手を出されない様に見せしめ。……言っておくけどさ、ソーマ・ファミリアの構成員は神酒から完全に遠ざけるべきなんだ。……じゃないと同じようなのが出るだけだもん」
オークションに出す完成品の神酒だが、問題を起こしたファミリアはその月は競売権を剥奪する事になっており、ソーマ・ファミリアと同じ状況になる可能性は低い。元々失敗作の神酒の販売で儲けているので酒の販売に専念すればダンジョンに行く必要はないので弱い強いは関係なくなる。
「これで誰か不幸になってる? ……オラリオだけが世界じゃないし、冒険者だけが職業じゃない。リリルカさんもオラリオから逃げ出せば良かったのに、中途半端に街中の花屋に潜伏してたから巻き添えを出したんだ」
「……優しいんだね。まるで物語の英雄みたい」
「まさか。英雄とか止して。……吐き気がするからさ」
ネルガルは心底嫌そうに呟いた。
「……昨日は凄かったわね、オッタル。貴方はどう思う?」
「レベル2の強さではないかと。……おそらくレベルが上がっているか、其れ共レアスキルか……」
バベルの上層部に存在する部屋でフレイアはネルガルの戦いを思い出し嬉しそうに笑い、オッタルは内心でネルガルの事を警戒していた。
(……あの歳であの様な。少々注意しておくべきか)
「……大丈夫よ、オッタル。まだまだ貴方には届かない。そんな事よりも、もう一人の方をどうにかしましょう。冒険者なら試練を乗り越えて貰わないと」
フレイアはオッタルの内心を見透かしたように笑い、リリと共にダンジョンへと向かっていくベルの姿を遠目で眺めていた。
「よっ! 久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「ロビン様っ!」
其の夜、イシュタル・ファミリアの経営する妓楼までやって来たロビンは贔屓にしている春姫の元に土産を持ってやって来た。初めて会った時は知り合いで犬猿の仲であった
ちなみに会うたびに襲いかかってきたアマゾネスは知り合いのネルガルの身内と判明、彼が上手い事(獣耳フェチのロリコンで、薬を使っても好み以外では役に立たないヘタれと)嘘をついてくれたので襲われないようになった。その点は彼も感謝している。
「聞いたぜ。アンタ、客の前でま〜た気絶しただって? あのガマガエルが言ってたぜ」
「い、言わないでくださいまし。……あの、フリュネさん、最近機嫌が良いのか妙に優しいのですが何かあったのですか? 私があの、しょ……経験がないって笑いながら教えて下さいました」
「まっ、生き別れの甥っ子と再会したそうだからな。……どうも色々あったみてぇだからな。其奴の母親、ああ、育ての親なんだがガマガエルの似てねぇ妹でな……彼奴を奪う為に殺されたそうなんだ。あのクソ龍も
ロビンは、やりきれねぇよな、と呟きながらタバコを灰皿に押し付け、春姫も表情を曇らせた。
「っと、話が湿っぽくなったな。あの餓鬼から市販されてる方の神酒を分けて貰って来たんだ。ツマミはこっちで注文したから一緒に飲もうぜ」
「はい! お相伴に預からせて頂きます」
ロビンは嬉しそうに笑う春姫の姿を見ながらある事を思い出す。今の主神であるヘルメスが零した言葉、そしてかつての仲間である
(……殺生石。俺の予想が正しけりゃ……俺らしくもねぇな)
盃を傾けながら春姫の胸元に視線を向けるロビンだが、その瞳は決意に満ちていた……。
緑茶モドキがアップを始めたみたいです
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