トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始) 作:ケツアゴ
リリルカ・アーデの不幸は生まれた時から決定していた。飲んだ物に至福を与える神酒を求める眷属と、酒作りにしか興味のない主神ソーマ。リリが幼い頃に両親は酒を飲む為の上納金を稼ごうとダンジョンに向かってあっけなく死んだ。そして両親が眷属であった彼女も必然的に眷属となり、冒険者として落ちこぼれてサポーターとなった。
それからは扱き使われ、ロクに対価を与えられない毎日。やがて魔法を得て盗みで生活費を稼ぐようになるも、同じファミリアの中でも特にタチが悪い冒険者に目を付けられて暴力を振るわれ稼ぎを奪い取られる。そんなある日、彼女から金を奪い取っていた奴らが仲間と共に他のファミリアの冒険者を狙って返り討ちにあい、再起不能に追い込まれたと聞いた時は歓喜したものだ。ただ、稼ぐ人数が減った事でノルマが厳しくなり、更には今までなかった不達成の罰則まで出来てしまった。
ファミリアを脱退する為のお金は二千万ヴァリス。もう自分から金を奪う奴は居なくなったと安堵するリリは何時ものように冒険者を騙し、金目の物を奪う気でいた。自分が冒険者に虐げられてきたのだから、そのお返しをするのだと思いながら。
「……ふーん。まぁ、よくある話だね。はい。これが報酬」
「おっ、景気が良いね〜」
豊穣の女主人でロビンからリリの調査書を受け取ったネルガルは特に興味なさそうに流し読むとギッシリと硬貨が詰まった袋を渡す。総額ざっと十万ヴァリス。ロビンは軽く口笛を吹くと懐に仕舞い込んだ。
「んで、どーすんだ? ソーマ・ファミリアとはお前に敵対しないって約束があったんだろ? ……此奴、一度ナイフを盗んでるぜ」
「うん。同じファミリアのメンバーを狙ったんだから契約違反だよね。でもさ、少し考えがあるんだ。今のままだと一つだけ出来る要求も内容に限度があるからね」
無邪気に笑いながら調査書を燃やすネルガル。その瞳は笑顔に反して淀みきっていた。
「ベル様。今日は十階層まで行きましょう」
リリルカはベルからヘファイストス・ファミリア製のナイフを奪い取る為に罠に掛けた。階層中が霧に包まれた十階層にモンスターを誘き寄せるアイテムをこっそりとバラ撒き、言葉巧みに目当てのナイフをバックに入れさせた。後はトントン拍子に作戦は進み、ベルがオークと戦っている間に崖の上から糸を付けた矢を使ってバックを奪い取る。ただ、今までの冒険者と違って自分を蔑んだ目で見ず、それどころか優しかったベルを騙すのは良心がいたんだが。
(……ごめんなさい、ベル様。リリは娼館に沈められるのは嫌なんです)
ベルが自分を囲むオークに苦戦する中、リリは直ぐ様逃げ去ろうとして踵を返し、そのまま浮遊感を感じる。腹に響く痛みに蹴り飛ばされたのだと悟り、自分を蹴り飛ばした相手を見る。其処に立つネルガルもベル同様に蔑んだ目は向けていない。ただ、路傍の石コロを見る様な、ゴミとすら見做していない目を向けていた。
「あぐっ!」
かなりの高所から蹴り落とされ背中から落下したリリの全身を激痛が襲い、ベルを囲んでいたオークの数匹が向かってくる。何故かベルが助けようと向かおうとするもオークに阻まれ近寄れない。そして、オークの太い腕がリリへと伸ばされた。
(ああ、リリは此処で死ぬんですね。出来れば次はマシな人生を……)
そのまま目を閉じて死の瞬間を待つが、何時まで待ってもやって来ない。その代わり、醜い叫び声と体に掛かる温かい液体と鉄臭い香り、そして凍える様な冷気だった。
「ねぇ、喜んで良いよ。君の願いは漸く叶う。……少〜し痛い目にあって貰うけど」
そっと目を開けるリリの目には笑みを浮かべた
其の日、ソーマ・ファミリアのホームは騒然となっていた。ファミリアの団員が大幅に減る事になった原因である危険人物ネルガル・ノヴァが相棒の龍と共に乗り込んで来たからだ。しかも下っ端団員であるリリルカ・アーデを縄で縛って引き摺りながら。リリの顔は青痣だらけで腫れ上がり、露出している部分は痣がない部分を探す方が難しい。
「ねぇ、ソーマ様に会いに来たんだ。……約束のお願いと此奴がやった事の落とし前についてね」
ネルガルは宝玉を咥えたドクロの杖を団員に突き付けながら笑う。彼にはその笑顔が悪魔の笑みにしか見えなかった。
「……其奴が何をしたんだ?」
「僕の所属ファミリアの(一応)団長を騙して武器を奪い、アイテムで誘い出したモンスターに囲ませたんだ。……あのさぁ、僕と敵対しないって約束だったよね? 例のお願いを聞いてくれるって約束と合わせて大きなお願いを聞いて貰うよ? ソーマ様」
『ちなみに俺達が特定の時間に戻らない場合や断った場合、ギルドに報告して酒造りを永久禁止ってのを予定してるから』
どうする? と言いながら差し出された
「じゃ、此奴は終わるまでウチのファミリアの屋根から吊るしとくから、日が沈むまでに
書類の写しを見せられた団長は愕然とする。その内容はあまりに一方的なものだった……。
「……聞いたか? ヘスティアの所の例の子供とソーマの所で
「噂ではソーマを脅したとか。……いや、マジで何モンだよ」
「流石レッドライダーの所に居ただけある。……くわばらくわばら」
暇を持て余した神々は面白半分に噂をし、何も聞かされていなかったヘスティアはバイト先でヘファイストスから聞かされて驚いていた。
「僕、何も聞かされてないぞっ!?」
「はいはい。始まるのは夜だそうからバイトが終わったら行きなさい。……多分終わっていると思うけど」
どちらの勝利で、とは断言していないヘファイストスだが、ヘスティアは彼女がどっちの意味で言っているか何となく理解出来ていた。
「所で場所は?」
「ロキ・ファミリアのホーム。莫大な使用料と損害の保証はソーマ持ちだって」
(……あの子、マジでなにやってるんだいっ!?)
そして夜、ロキ・ファミリアのホームにある広場にネルガルとソーマ・ファミリアの団員が集まり、ロキが司会をやっていた。
「おらー! 今から
①ソーマ・ファミリアの資産(酒を除く)を全て換金してネルガル個人に譲渡
②ヘスティア・ファミリアの団長であるベル・クラネルが選んだ一名を改宗し、団長を除いて眷属全員ステイタス剥奪の上でオラリオから永久追放
③今後ヘスティア・ファミリアが資金提供を行い、その範囲内でソーマは酒造を行う。儲けは商売担当の団長の給料と経費を除いてネルガル個人に譲渡。
④完成品の神酒は現存する物とこれから作る物の四割をロキ・ファミリアに経費のみで売り、残りはネルガル個人の物とする。
⑤ソーマが天界に帰るにはネルガルの許可が必要とする
「ちなみに僕が勝ったら、今有る神酒は全部会場の神様達に無償提供しまーす。……来月からは競売方式で売るけど」
「……いや、これってソーマを奴隷にする様なもんじゃね? ってか、見せしめだろ」
「パネェ。パネェっすよ!」
「神よりえげつねぇ……」
「……んじゃま、開始ー」
ロキは無気力な声で開始を告げる。それはネルガルに軽く引いてるからでもあり、どちらが勝つか分かりきっているからだ。
たった一人で階層主のゴライアスを討伐したネルガルに勝てるはずもなく、恐怖から連携もなしに襲いかかってくる彼らの攻撃をヒラリヒラリと避けながら小声で詠唱したネルガルの魔法により、全員手足を地面から生えた槍で串刺しにされて勝敗が決定した。
「おうおう、相変わらずヒデェこった……」
その頃、ソーマ・ファミリアのレベル2冒険者の動向を探っていた緑衣でタレ目の青年は映し出される映像を見ながら呟いた……。
意見 感想 誤字指摘お待ちしています
リリは狙ったのが偶々ベルで運が…良かった?
次回は此所までした説明