トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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3人

 ダンジョン中層に突如出現した無数のミノタウロス、其の数優に五十。レベル二の冒険者パーティが瞬く間に肉塊へと変えられてしまう圧倒的な暴力の化身。

 

『ブゥモォォォオオオオオ!!』

 

 この日、十七階層にミノタウロスの()()が響き渡っていた。

 

 

「言ったはずだぜ。掠るだけでも命取りだぜってよ」

 

 緑衣に身を包むハーフエルフのロビンが放った矢はどれもミノタウロスの体に刺さらず、数匹の体の表面を少しだけ傷付ける程度。鬱陶しそうに叩き落とそうとする腕の動きを予期していたかのように曲がった矢は最終的に地面に刺さり、痛みという程ではないダメージを受けたミノタウロスは天然武器を振り上げてロビンへと迫り、その途中で泡を吐き喉を掻き毟りながら倒れ込んだ。

 

「鬱陶しいですね。全く、戦いなど好きではないと言うのに……」

 

 白い髪と白い肌をした華奢な少女、ダンジョンに似つかわしくない箱入りの令嬢にしか見えない彼女の口の奥が赤く照らされ、口から吐き出された炎弾がミノタウロスの群れの中央で内包した炎を解放する。ミノタウロス達が熱いと感じた時、彼らの体は焼け焦げ骨が露出した状態で崩れ落ちた。

 

 彼女の名は清姫。見た目の通りの箱入り娘であり、惚れた男を焼き殺して勘当された身である。

 

 

「二人共相変わらずエグいや」

 

 天真爛漫な笑みを浮かべつつ賞賛の拍手を送るネルガルだが、彼の背後に有るミノタウロスの死体が一番多い。立ったままの姿で凍りついたミノタウロスはネルガルが指を鳴らすと粉々に砕け散り、魔石と幾つかのドロップアイテムだけを残して消え去った。

 

 

「テメェに言われたくねぇよ!」

 

「貴方も人の事を言えませんよ」

 

 

 見た目も性格もバラバラな三人だが、互いの実力を把握し完全に信頼のもとで戦えている。それもその筈。この三人、少し前まで同じ傭兵団に所属していたのだから……。

 

 

 

 

 

 

「……良かった。いや、本当に良かったわ。ネルガル君、君もパーティを組んでくれる人が居たのね」

 

 ネルガルの担当であるエイナは何度言い聞かせても一人でダンジョン(正確には一人と一匹)で潜り続ける彼の事を心配していた。それが別のファミリアとはいえ知り合いと組んで潜ったというのだから安心だ。

 

「うん。僕は清姫さんとロビンの性格は信用してないけど、実力と人間性は信用してるから」

 

「いや、其処は性格も信用しろよっ!?」

 

「うっさいなぁ。僕ならどうにかできるって分かっていても、辺り一面を覆う毒霧を散布するってどうなんだよ」

 

「全くですわ、ダンジョンは平野とは違うのですよ」

 

「近くに俺らが居るのに炎吐き出したテメェが言うなっ! ったく、相変わらず小生意気なチビだぜっ!」

 

 舌打ちと共に悪態をつきながらもロビンの手はネルガルの頭をクシャクシャと少々乱暴に撫でる。ネルガルもそれに特に嫌な顔を見せず、只の年相応の子供の様だった。

 

 

 

 

 

「……所で何処まで行ったの?」

 

「「「下層」」」

 

 三人のレベルは二。問題児が問題児と組んで不安が更に膨らんだエイナ。ちなみに全員担当冒険者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ったく、嘘つき焼き殺し女が居るせいで正直に言ったがよ……団長の次に怖ぇな、オイ」

 

 ロビンは正座で痛む足を摩りつつブツブツと呟く。三人に説教を行うエイナはまさに般若のごとしであった。

 

「それでこれからどういたしますの? 私はホームでお食事にさせて頂きますが」

 

「俺は豊穣の女主人で酒飲んでから帰るけど、ネルガルはどうすんだ?」

 

「僕もロビンの奢りでご飯食べていくけど、先に寄る所があるから先に注文しといて」

 

「あいよー……って! 何時奢るって言ったよっ!?」

 

 ロビンの抗議を聞こえないふりをして躱しながら去っていくネルガルが向かったのはヘファイストス・ファミリアのホーム。今回手に入れた鉱石やドロップアイテムを換金すべくやって来たのだ。

 

 

 

 

 

「……えーと、これは何のお金かしら?」

 

 ヘファイストスはある程度予測がつきながらも一応尋ねる。彼女の目の前の袋にはズッシリと重い金貨が詰まっていた。

 

「うちの主神の借金。正確にはベルさんのナイフのローン返済」

 

「あの子、貴方に話した……な訳ないか」

 

 強くなりたいと強く願うベルの為にヘスティアがローンで購入したヘファイストス謹製のナイフ。無論ローンであり、バイトで返す事になっている。本人は”ボクの借金は自分で返すから!”っと黙っているはずなのだが。

 

「ど新人のベルさんが買えるはずないし、ヘスティア様からのプレゼントっという事と怪物祭での活躍の噂を考慮したら、あのアホがローンで買ったんだろうなって。でっ、信用ないから唯一ローン組める友達のヘファイストス様が打ったナイフだと思ったんだ」

 

「今、普通にアホって言ったわね……。あの子、眷属には迷惑掛けたくないから自分で返す気だし払わなくて良いわよ」

 

 見事に隠し事を見抜かれている友人に少々の呆れを感じ始めたヘファイストス。そんな彼女の返答を聞いたネルガルはキョトンとしていた。

 

「えっと、ヘスティア様やヘファイストス様って他の神様とあまり接点無かったっけ?」

 

「どうしてそう思ったの?」

 

「だって、あまりに神が持つ悪意に疎いもん。退屈を紛らわせる為なら何でもする様な存在だよ? もし知られたら、街中に広まる前にどれだけ尾鰭背鰭が付くことか。……僕がローンで何かを買う時にも影響するじゃない。主神が借金しているって時点で迷惑なんだよ。……ってな訳で借金から引いといて。後、煩いから黙ってて」

 

「まったく、眷属の事を子供って言うけど貴方の方が親みたいね」

 

 

 

 

 

 

「いや、あんな娘は絶対に要らない」

 

 その時のネルガルの表情は心底嫌そうな物だった……。

 

 

 

 

 

 

『……ったくよ、あの女には困ったもんだぜ』

 

 その頃、ザハクは包帯で全身をグルグルにした状態で休んでいた。本来ならばレベル九相当に匹敵する彼女だが、清姫の吐く炎は耐久力・対火性能貫通を持っているのでそれなりに痛い。っと言っても既に治っているが包帯を解くのが面倒臭いだけなのだが。

 

「にしても二人共遅いなぁ。今日はバイトが早く終わったから一緒にご飯を食べようと思ってたのにさ」

 

 じゃが丸くんやら肉やらを並べたテーブルの前で腕を組んで待ち侘びるヘスティア。だが、ベルもベルガルも外でご飯を食べる気なので帰ってくるのは暫く後であった。




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