トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始) 作:ケツアゴ
「ネルガル君! 漸く帰って来たのかいっ!」
豊穣の女主人にヘスティアの声が響く。バイトに向かう途中だった彼女は、テーブルの上一杯に料理を並べているネルガルとザハクに荒い足取りで近付いていった。女神としてはどうかと思われる姿だが、無茶を叱られたばかりなのに一週間以上ダンジョンに籠もっていたのだから無理もない話なのだが。
「あっ、そうだ。バイトが終わったらステイタスを更新してよ。最初の一回以来、一度も更新してないでしょ。……所でバイトは大丈夫?」
「ああっ! 早く行かないとヘファイストスに怒られる! ……全く、ベル君といい、ネルガル君といい、僕の眷属達は」
ヘスティアはブツブツと文句を言いながら足早に出て行く。其れと入れ違いになる様にトイレから巨体のアマゾネスがやって来た。見上げるような巨体にガマガエルの様な顔付き。人一人丸呑みに出来そうな口を醜く動かして笑っていた。
「げげげげ、誰か居たのかぁい?」
「ウチのファミリアの神様だよ。……お人好しで利用しやすいね」
「そうかい。そうかい。精々利用しな。んじゃ、今晩も仕事があるから先に帰るよ。ほら、残りは小遣いにでもしな。げげげげげ」
「じゃあね、叔母さん」
この女性の名はフリュネ。大規模ファミリアであり歓楽街を取り仕切る『イシュタル・ファミリア』の団長だ。ちなみに彼女自身は自分を美しいと思っているが、ネルガルは心の中で不細工だと思っている。そして、ネルガルが心を許す数少ない相手であり、義理の叔母なのだ。
「君はまた、随分と無茶をしたみたいだね……」
その日の晩、久々にステイタスを更新したネルガルを見ながら、不機嫌そうに指の血を舐めるヘスティア、ベルもそうだが、彼のステイタスの伸びも異常であった。
ネルガル・ノヴァ
LV.2
力:H=101 →F301
耐久:I=35 →D688
器用:H=122 →C711
敏捷:I=22 →D606
魔力:G=271 →SS2000
魔導:G →E
「やった! かなり伸びてる。何度か死にかけただけあったや」
『ケケケ。肉を抉られ、骨を砕かれ、内臓を貫かれたからなぁ』
「君はどれだけ無茶をしてるんだい! ええーい! こうなったら一晩中お説教だぁー!」
直様、ネルガルを正座させてガミガミと叱り出すヘスティアだが、どうせまた直ぐにダンジョンにこもるのだろうと嫌な予感が拭いきれず、実際に其のつもりだった。
(まったく、この子は何で此所まで。……其れに、この新しいスキル……)
否英雄的行動を取る時、ステイタスに補正が掛かる
これからの事を考え、頭が痛くなるヘスティアであった……。
あの事件の後のソーマ・ファミリアについて語ろう。大勢の人員を追放処分になったソーマ・ファミリアだが、戦力的にはそれ程低下していない。というのも、今回の事件を起こしたメンバーは自分達でまともに稼げず、より弱い者から搾取してノルマ達成の報酬である酒を飲んでいた者達だからだ。
だが、一つ大きな痛手があった。ソーマ自体は酒造りしか興味がないので、酒の販売には団長が深く関わっていたのだが、ギルドの調査が入った際に団長による酒の横流しが発覚、そのまま追放処分となった。それでも商売においては重要な人物だった為、ファミリアの財政が悪化。新たな団長の方針によって一人当たりのノルマが増加。達成できなかった者には今までなかった罰則として、他所の店での出稼ぎが義務化された。
(冗談じゃない! リリから搾取していた奴らが居なくなったと思ったら、今度はファミリアの為に大金を稼いで来い? ……早く脱退金を貯めないと)
彼女の名前はリリルカ・アーデ。ソーマ・ファミリアに所属して居り、戦闘力が低いので、冒険者の補助をするサポーターだ。そして、ネルガルを狙って返り討ちになった者達に集めたお金を奪われていたのだ。その為に習得した変身魔法を駆使して他のファミリアの冒険者から盗みを繰り返し、ファミリアを脱退する為のお金を貯めていた。
その矢先に先日の事件である。厄介な奴らが居なくなって良かったと安堵したものの、今度は厳しくなったノルマをクリア出来なければ他の場所で労働なのだ。そして、リストの中にはどうやって伝手を手に入れたのか、娼館も存在する。
(……流石に其れはゴメンです)
だから一刻も早く脱退金を溜めようと、見るからにお人好しの冒険者と共にダンジョンに潜っているのだが、選ぶ相手をいきなり間違えてしまった。
(やっべぇ。よりにもよって……)
選んだ冒険者の名前はベル・クラネル。よりにもよって返り討ちにした張本人であるネルガル・ノヴァと同じヘスティア・ファミリアの冒険者だった。
「リリ、どうかしたの?」
「な、何でもありませんよ、ベル様!」
出来るならば縁を切りたいのだが、お人好しの彼は手に入れたお金を半分もリリルカに渡してくれる。ハッキリ言ってサポーターとしては破格の待遇なのだ。
(……もう少し。あと少しだけ……)
妙な居心地の良さについつい手を切るのが伸びてしまい、そのままズルズルと今に至る。そしてこの日も換金したお金を分ける時間がやってきた。
「凄いですよ、ベル様っ! 全部で二万もあります。って、今日も半分なんですね」
「当たり前でしょ?」
今まで言い掛かりを付けられて報酬を値切られ、その日の食事すらままならない日もあった。冒険者など他人を利用する事しか考えていない。その様な考えを持っていた為、ベルの行動は理解に苦しむのだ。差し出された金貨の入った袋を受け取るリリルカ。だが、考え事をしていた為に取り落としてしまい、横から掛けてきた猫が其れを咥えて走り出す。
「あっ!」
猫は通行人の足下を駆け抜けて直ぐに屋根の上へと上っていった。最早取り返せないとリリルカがヘナヘナと崩れ落ちたその時、一足飛びで屋根の上に飛び乗った青年が猫を捕まえると硬貨の入った袋を取り上げた。
「おーら、お前には用のないモンだろ。ほれ、これやるからよ」
青年は猫に餌をやると、かなり離れた場所からリリルカ達の前に飛び降りた。
「これ、嬢ちゃんのだろ? ほれ、もう落とすなよ」
「あ、有り難うございます」
リリルカに袋を渡す青年の笑顔は田舎娘なら一発で恋に落ちる程の物。荒んでいるリリルカなので何とか耐えられた。青年は今度はベルに視線を向けると何やら思い出すかのように顎に手を当てて考え込んだ。
「なぁ。お前の所にネルガルって居るか?」
「え? 居ますけど。……貴方は?」
「俺かい? 俺はロビン・フッド。あの餓鬼の元同僚だよ」
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