トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始) 作:ケツアゴ
ダンジョンからオラリオに帰った来たネルガルを待っていたのは、ギルドによる極彩色の魔石の有無を言わさぬ没収と聴取だった。
「ほんとゴメンね、ネルガル君」
メルガルの聴取を行ったのは、組織の下っ端でしかないエイナ。普通ならば他の職員が行う所(実際、ロキ・ファミリアはもっと上の職員が行った)なのだが、彼の前の主神のレッド・ライダーの事をよく知っている彼らは、ネルガルと関わる事を皆揃って拒否。仕方なく担当職員のエイナが行うことになったのだ。
「別に良いよ。ほら、普通の魔石やら鉱物やらを、リヴェラの人が大金で買い取ってくれたんだ」
「ええっ!? こんな大金でっ!? だって、あそこの街の買取価格って異様に低いよね?」
エイナが驚くのも無理はない。足元を見てくるのが基本のリヴェラで渡された請求書の取引価格は、通常ならば地上での末端価格よりも遙かに下。だが、ネルガルが見せた各ファミリアのホームで換金できる請求書は平均価格に少し色を付けた金額だった。
「うん。普通は足元見られるんだけど、お前のおかげで大儲けだぜ、って喜んで買い取ってくれたんだ」
サムズアップして良い笑顔を見せていた店主。地上よりも数割増の買取価格と通常の買取価格の差だが、ちゃんとロキ・ファミリアへ賠償金に上乗せされていた。大手ファミリアという事で、早く聴取が終わったフィン達が既に請求書を持ち帰り、先程ロキの執務室から悲鳴が上がっているのだが、此処の二人には知る由もない。
『そういや、ようやく公式の
「何か言った?」
「いーや? ザハク、今日は肉じゃなくてお魚ね」
『ファッ!? お、おい!? 俺のおかげで大金が手に入ったんだぜっ!?』
ネルガルの容赦ない宣言に口を半開きにして固まるザハク、それを見て思わず固まってしまうエイナ。だが、次の瞬間にはその笑顔が厳しいものに変わった。
「じゃあ、次は別のお話ね。無茶しないでって言ったよね?」
「あっ! 誰か来たみたいだよ!」
ネルガルからすれば、それはまさに助け舟。エイナが今にもお説教を始めようとしている部屋にノックの音が響き、エイナは慌てて誰か確認しに行く。部屋の外で何やら慌てるような声や、命令するような声が聞こえてきた。
「……僕に何の要件があるのかな?」
レベル2のネルガルの聴力は、ギルドの主神とも言えるウラノスが、ネルガルとザハクを呼んでいるという話を捉えていた。
「……お前がネルガルか。私の名はウラノスだ。しかし、酷い目をしている」
ウラノスが居るのは地下の祭壇。いつもは其所で祈祷を続けている彼だが、滅多に人を入れない其の場所にネルガルとザハクを招いていた。関係者は護衛を付けると言ったのだが、ウラノスの言葉で黙り込まされる。神以外でレベル9もの相手に勝てる者は居るのか?、と。答えは否。神の力を解放した神でなければ歯牙にも掛けない。迷宮都市最強のオッタルでさえレベル7なのだから。
そんなウラノスはネルガルの目を見るなり哀れみの籠もった声で呟く。まだ十歳でしかない彼の瞳に宿る物を彼は見抜いていた。
「其れで、僕達を呼び出した理由は何ですか?」
『俺達は飯も未だだし、眠ぃんだよ。手早く済ませろや』
ザハクはそう言いながらネルガルの帽子の中に潜り、既にいびきを立て始めている。明らかに神を舐めた行為だが、ウラノスは特に反応せずに本題を口にした。
「やはり喋っているな。……その竜はモンスターではなく……使い魔の壺が生み出した存在で間違いないか?」
「うん。ザハクは僕のために生まれてきて、僕が平穏を失う事になった原因だよ」
本来魔法という力はエルフなどの一部の種族を除き、神の恩恵や魔道書以外には発現しないのだが、ラキアに存在するある一族だけは例外だ。その一族はヒューマンでありながら魔法を発現するという特性を一族共通で持っていた。その一族の家宝こそ使い魔の壺である。
二十年に一度、その壺は使い魔と呼ばれる生命体を生み出す。通常は鳥や蝙蝠で、主となる者の資質によって使い魔の強さは変わる。歴代最強と賞賛される現当主の使い魔は鷹。猛禽類の使い魔は今まで居なかっただけに、アレスが向ける彼への信頼は強い。だが、彼の子供に竜を使い魔とする者が生まれてしまった。
「――それが僕さ。と言っても、捨てた愛人が孕んだ子で、生みの母親は生活苦を気に病んで僕と無理心中。なんとか生き残った僕を育ててくれたのが、友人だったアマゾネスの母さんなんだ。……母さんと過ごした日々は楽しかったよ。少し厳しかったけど、叔母さんも可愛がってくれたしね」
「だが、お前はあの家で育ち、傭兵になったはずだが?」
「殺されたの。住んでいた村の皆ごとね。それで、兄弟に父殺しの冤罪を着せられて処刑される所をレッドライダー様に救われたんだよ。……ねぇ、いい加減に本題に入ろうよ」
少々苛立ち始めた様子のネルガルに対し、ウラノスは溜息を吐くと本題に入った。それは彼が他の神にさえ隠しておいた事であり、彼の理想に関わることだ。
「お前は
「あ、うん。他の個体より知能があって、喋れる奴らでしょ? レッドライダー様から聞いてる。それに傭兵時代に見た事あるよ。団長がぶっ殺した金持ちのコレクションの中にも居たから」
「……そうか。彼らは人間だけでなく、同族からも敵意を向けられる存在だ」
「うん! そうだね。でも、同じ人間同士でも思想や住む所の僅かな違いで争っているんだから、人間よりも闘争本能が強いモンスターが、同じなのに違う存在を敵と感じても仕方ないんじゃない?」
「……その竜と共に居るお前になら話しても良いかと思ったのだが、どうやら無理なようだな。私は彼らが人間とモンスターの架け橋になれると思っているのだが……そうは思わない、そんな顔だな」
「え? 当たり前でしょ? モンスターと人間が何時の時代から争っていると思っているの? 神様からすれば一瞬でも、人間からすれば気が遠くなる年月敵対しているんだよ? むしろモンスターという共通の敵が居るからこそ起こっていない戦いもあるし、モンスターを殺さないと手に入らない魔石無しの暮らしなんて、もう無理でしょ? それとも、人間を食べるモンスターに囚人を差し出して、代わりに生贄を出させるの? ……大体さぁ、モンスターと人間に手を取り合わせる前に、人間同士の争いを先に無くしなよ」
それはウラノスの理想を真正面から否定する言葉。しかし、その言葉を受けてもウラノスは何も言い返せなかった。
「なんで神様って人間に夢見てるのが多いんだろう? うーん。早く帰って寝よ」
ウラノスを絶句させた後、そのままギルドを後にしたネルガルは近道である裏路地をパンと串焼き肉を持って進む。その時、背後から声が掛けられた。
「げげげげ。みぃーつけた」
意見 感想 誤字指摘お待ちしています
うん。リリとウィーネどうしよう? 簡単に見捨てる姿が浮かぶよぉ