トンガリ帽子の復讐者と小さい竜の迷宮物語 (リメイク開始)   作:ケツアゴ

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変異体

 その死体の頭部は潰されていた。恐らく身元を割り出させない為なのだろうとそれを見たフィンとリヴェルリアは推察する。取り敢えずこの街の纏め役であるボールスと話そうと宿屋を出た二人。すると先程まで宿屋を覗き込んでいた野次馬達が揃って上を見上げているではないか。

 

「一体何が……はい?」

 

 フィンはレベル6の冒険者で団長という事もあって冷静沈着だ。それは隣のリヴェリアも同じで副団長として何時も冷静に団員を纏め上げている。

 

 だが、この時ばかりは二人共口をポカンと開いて固まってしまった……。

 

 

 

『おいおい、最初の威勢はどうしたよ? それとも自分より弱い相手じゃないと怖くてブルブル震えちゃうんでちゅかぁ?』

 

 時間は数分遡って街の中での事、それは戦いではなく一方的な”狩り”だった。猫は獲物を仕留める前に甚振って遊ぶ癖があると聞くが、今まさにそれが行われていた。ザハクが不可視の速度で動くたびに真空の刃が派生して女の体を切り刻む。衝撃で周囲の店や建物が崩れ、離れた場所の店主などは青ざめていた。

 

「お姉さん、これは後で弁償しなきゃいけないよね?」

 

「う、うん! 今後利用するなら弁償したほうが良いと思うな」

 

「僕とザハクはロキ・ファミリアの副団長にモンスター搜索の手伝いをさせるためにこの街に連れて来られて、お姉さんは僕達の世話役だったよね?」

 

「う、うん。そうだけど?」

 

「じゃあ、弁償は全額お姉さん達が支払うべきだよね」

 

「う、うん。……えぇっ!?」

 

「言質取った! ザハクー! 弁償はロキ・ファミリアがしてくれるそうだから思いっきり暴れて良いよー!」

 

「えっ!? ちょっと、待って……」

 

 余談ではあるが、レフィーヤ達はアイズとティオネの武器代金稼ぎの為にダンジョンに潜りに来ている。簡単言うと金欠なのだ。そしてこの様な場合、個人責任という事でファミリアの資金からお金を払って貰えるか疑問が残る。

 

『よっしゃぁぁっ! 野郎共、ぶっ壊した建物の損害は慰謝料乗せてたっぷり請求しな! 最強ギルドが払ってくれるぜ!!』

 

 湧き上がる歓声によって既に拒否できる雰囲気では無くなる。そしてザハクと女の姿が掻き消えると共に激しい衝撃破が発生して周囲の建物は跡形もなく吹き飛んだ。鼓膜が破れそうな程の轟音に耳を塞いだレフィーヤの耳に女の悲鳴が聞こえたような気がしたが、目の前の惨状や自分達に請求するための金勘定の声によって気のせいだと自分を誤魔化す。レフィーヤは目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

「っという訳だよ、フィンさん」

 

「……さっき見たのは気のせいじゃなかったのか」

 

 受けた報告に頭が痛み出すフィンは空を見上げる、遥か彼方を音速を超えた速度で飛ぶザハクと掴まれて居る女が居るであろう方向を見る。既に視認できない速度だが、地面が衝撃でエグレ続けているので大体の場所は分かった。

 

「さて、損害額はどれほどになるのか。……頑張れよ、フィン」

 

「僕が払うのかいっ!?」

 

「……私も半分払うさ。この子を連れてきたのは私の判断だからな」

 

「そういえばお腹減ったな。食事まだだったや」

 

 自分に注がれる恨みがましげな視線などどこ吹く風、のんきに昼食の事を考えるネルガルであった。

 

 

 

 

 

「これでトドメぇ!!」

 

 もう何体の食人花を倒しただろうか。一度素手で挑んで痛い目を見たティオナは気合を入れながら武器で頭を切り落とし、アイズは黙々と風を纏った剣で片付けていく。その背後では今回殺された被害者の荷物を地上に運ぶ仕事を受けた冒険者が固まっていた。

 

 なお、彼女は盗んだ訳ではなく、荷物の中身を被害者が取りに行き、酒場で受け取った彼女が地上に運ぶ手筈になっていたのだが、自分よりレベルが上の彼が殺された事に怯えた彼女は街から逃げ出し、たまたま食人花と戦っている場面に遭遇。倒した後でアイズが荷物を受け取る事になったが、新手の登場で今に至る、という事だ。

 

 そして残り一体となったその時、上空から何かが急接近してきた。

 

「き、貴様ぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

『ケケケケケッ!! 放せって叫んだのはテメェだぜ?』

 

 先程から上空を音速で飛んでいたザハクは崖へと急接近し、掴んでいた女を速度を落とさないまま放したのだ。当然、慣性の法則によって女は真正面の崖へと頭から突っ込み、崖はガラガラと崩れていく。その時、起きた突風で冒険者が倒れこみ荷物の中身がこぼれ落ちる。それは緑の宝玉に入った赤子だった。

 

「っ!?」

 

 その姿を見るなり何故か恐怖を感じ固まるアイズ。宙を舞った赤子はそのまま最後の食人花へと向かっていき、その体内に入っていった。

 

『おっ! 寄生しやがった。……ありゃ、こっちの方が面白そうだな』

 

「ちょっと! 乗らないでよ!」

 

『良いじゃねぇか、貧乳』

 

 ティオナが気にしている事を言われて暴れだしそうになる中、崩れた崖から這い出してきた女は形勢不利とみるや逃げ出していく。最後にアイズの方を見た彼女の顔には驚愕が浮かんでいた。

 

「……何、アレ?」

 

『汚れた精霊、その分身と言った所か?』

 

 アイズの目の前では食人花が見る見る内に変貌し人間の女性型の上半身を持つモンスターへと変貌する。その姿は以前アイズ達が苦戦したイモムシ型のモンスターの親玉と似ており、変貌を終えた変異体はザハクの方をジッと見詰めていた。

 

「……怯えてる?」

 

 アイズの呟きの通り、歪な顔には恐怖の色が浮かんでおりザハクが飛び上がると後退りをして距離を開けようとしていた。

 

「うひゃー。あのデカ物が怯えてるよ。ねぇ、オチビ。あんたって強いの?」

 

『誰がチビだっ! この永久絶壁娘が。……丁度いい。昼飯がまだだったんだよな』

 

 ザハクが舌なめずりをするのと変異体が逃げ出すのはほぼ同時だった。必死の形相で階層の奥へと向かう変異体に対しザハクは上を向いて息を吸い込む。視認できるほど大量の風が彼の口に吸い込まれていき、その量はアイズが魔法で扱える量を遥かに超えるだろう。

 

『パァッ!』

 

 放たれたのはザハクの大きさに見合った小さな火球だ。それはまるで瞬間移動でもしたかに思える程の速度で変異体に着弾し、瞬間、天井のクリスタルを焼き焦がすほどの巨大な火柱が上がる。凄まじい熱風は街や崖の傍に居たアイズ達まで届き、建物がまた幾つも崩れていった。

 

『……久々だからやり過ぎたな』

 

 流石のザハクも軽く冷や汗を流しながら前方を見つめる。火柱によって十八階と上下の階層を繋げる大穴が空いてしまっていた……。

 

『まぁ責任はロキ・ファミリアが取る事になってるし別に良いか……』

 

 フィン達が責任を取るといったのは多くの冒険者に聞かれており、事を起こした張本人よりかはマシかと判断され、最終的にロキの元に損害賠償が請求されるのだが、彼女はその様な事など夢にも思っていなかった……。




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