41才、独身。
阿知賀女子監督を一年努めた後、恵比寿に入団。当時の監督が贔屓起用を繰り返しエースが次々と移籍、ボロボロになって2部リーグに転落した翌年に、監督経験を買われプロ4年目にして兼任監督に。同年にチームを立て直し1部リーグに復帰、恵比寿のレジェンドの名を奉られる。以降11年監督を続け、PO(プレーオフ)に出場しなかった年はない。3年前に選手としての限界を感じ、現役引退した。
1.赤土晴絵(恵比寿)
遅すぎた「皇帝」の復活 優勝は大宮 (2026.11.4)
プロ麻雀M1ジ・リーグ最終戦、恵比寿は先鋒に小走を当て、各チームのエースを抑えにかかった。2位以上で優勝が確定することで油断の見えた大宮を削り、エース区間を終えた神戸と松山を叩き潰して2位に12万点差、20万点台の大台に乗る記録的なワンサイドゲームを展開。かつて「皇帝」と呼ばれた恵比寿がここに復活したと言えるような勝利をおさめた。
恵比寿の赤土監督は「試合としては申し分のない内容だった」としながらも、「どうしてこの力を今まで発揮できなかったのか」と、勝ったのに優勝を逃したことに悔し涙を見せた。
一方、2位となりリーグ優勝を決めた大宮の瑞原兼任監督は「ボコボコにされてなにが優勝か」と苦い顔。「このままではPOで逆転されて日本シリーズにも出られなくなってしまう。気を引き締めてPOでは勝つ」とPOでのリベンジを誓った。(日刊スポーツ)
順位 チーム 得点 得失点差
1位 恵比寿エンジェルバズーカ 2057 +1057
2位 ハートビーツ大宮 803 -197
3位 エミネンシア神戸 617 -383
4位 松山フロティーラ 523 -477
まいったな、こりゃ。赤土晴絵は今朝のスポーツ新聞を見て頭を抱えていた。
昨夜の試合、晴絵は小走やえに先鋒を任せた。やえは情報の分析能力におそろしく長けており、晴絵が阿知賀の監督を努めた年のインハイ地方戦では、初戦で玄のドラ爆を直撃されながら収支をプラスで終える立ち回りを見せた。結局チームとしては阿知賀の完勝であったが、晴絵はやえの強さと、それを上回る不運に自分と通じるものを見た。だから、やえが大学を卒業するとき、プロ4年目にして兼任監督になった晴絵は彼女を恵比寿に誘った。当時恵比寿は成績不振で初の2部落ちを喫したばかり、今考えればよく入団テストを受けてくれたものだ。入団後、不運が祟って2軍暮らしが長かったやえを初めて1軍エースに据えたのが昨夜のこと。晴絵としては彼女に大宮の瑞原はやりを抑えてもらえれば良かったのだが…まさか野依を使って瑞原と戒能を削った挙げ句その野依に役満をぶつけるとは、やえは不運を克服でもしたのだろうかと疑うような活躍であった。
結局中盤で巻き返した大宮が12万点差があるとはいえ2位に滑り込み、優勝阻止の狙いは外れたがひとまず恵比寿のPO進出は確定した。問題はこれからである。この予想だにしなかった大爆発で、やえは全チームから警戒されるようになるだろう。というか大宮は明らかに警戒している。周りに徹底的に警戒されてしまえば、やえは持ち前の不運によって負けてしまう。かといって彼女以外を先鋒に当てても、エース区間を耐えられるとは思えない。なにしろPO対戦チームのエースは揃って化け物、並大抵の選手では勝てないのである。
「監督、インタビューの時間ですよ」
晴絵がうんうんと唸っていると、当の悩みの種が晴絵を呼びに来た。麻雀チャンネルのインタビューは11時からだったはずなのだが、うんうんやっている間に11時前になっていたらしい。
「うん、今行く」
返事をして立ち上がる。ふと、やえ本人は現状をどう思っているのか気になった。
「ところでさ、やえは昨日狙ってアレやったの?」
「ええ、そもそも瑞原さん抑えろって言ったの監督でしょう」
「いや言ったけどさ、先鋒だけで断トツAトップ取るとは思ってなかったから」
「ご冗談を。全員のクセ伝授しといてなに言ってるんですか」
はははと笑って誤魔化す。
「でもまあ、昨日の結果からやえが一番警戒されるのは明らかなんよね。あなた3人に塞がれたらろくに勝てないでしょ。大丈夫そう?」
「やりようによっては。昨日のメンバーで出てきたら諦めますけど」
「なるほど。じゃあその旨インタビューで言っとこう」
「うぇ!?」
「じゃあね~」
「あんまり他チーム煽らないでくださいよ!?こないだ瑞原さんガチギレしてましたからね!?」
狼狽えるやえを置いて記者の待つ部屋へ。晴絵はPO一戦目もやえを先鋒に当てることにした。