プロ雀士、日常の記録   作:Lounge

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4.年の瀬

 プロ雀士に年末の休みはない。オフシーズンには毎月タイトル戦が開催されるし、名前が売れるようになれば年末のバラエティ特番に呼ばれることもしばしばある。

 同期の雀士では最強と目されている宮永照の場合、来年1月に保持タイトルである索子冠の防衛戦を控えながら年末のバラエティ企画で芸能人麻雀大会にプロ選手枠で顔を出すことになっていた。

 もちろん芸能人といえども一般人なのであるから、プロが本気を出すと番組にならない。プロデューサーには「5割くらいの力で花もたせてやってください」と頭を下げられた。

 照は正々堂々としていない戦いを好まない。一時期咲と仲違いしたのも、彼女の麻雀に対する姿勢が気にくわず激しい喧嘩をしたからだ。だからプロデューサーのその申し入れは照にとって大変不快なものであった。

 けれども、照もすでに三十路半ば、信念ノットイコール儲けであることくらいわきまえている。収録のためだけに大阪へ出向き、全力のきっかり5割、鏡もギギギも使わずに自称麻雀通たちを相手に接待麻雀を行い、プロとして舐められない程度に勝ってきた。

 そんなわけで、照は年末商戦に明け暮れる繁華街をなかば苛つきながら歩いているのであった。

 

 

 

 自他共に認めるおかし好きである照だが、実は百貨店めぐりも趣味であることはあまり知られていない。

 せっかく大阪に来たのだ、ちょっと買い物でも行こうじゃないかとふらり立ち寄ったのはうめだ阪急である。

 うめだ阪急はステーションデパートのパイオニア、阪急百貨店の本丸である。近年リニューアルが完了しさらに優雅になった。

「バトンドールはどこかなーっと…あった」

 リニューアル以降、うめだ阪急は地下のお菓子売り場をかなり充実させているが、その中でも特徴的なのがバトンドールに代表される「高級スナック菓子」である。バトンドールはポッキーの高級版なのだが、ポッキーよりも太く味がしっかりしている。照は佐久のチームメイトたちにバトンドールをお土産に買っていくことにした。

 

 

 うめだ阪急から地下道を通って大阪駅へ向かう。改札を抜けてホームに出ると、外には雪がちらついていた。

 一筋の風がホームを吹き抜けて、照はコートの前をかき合わせる。客を威圧するかのようにミュージックホーンを鳴らしながら、通勤電車が滑り込んでくる。

 

 

 通勤電車に乗って新大阪へ、さらに新幹線で名古屋へ。名古屋から乗り込んだ特急しなののグリーン席にゆったりと腰を落ち着けて、照は今年の出来事を振り返る。

 今年も佐久はリーグ優勝を果たせなかった。夏の全国大会に、白糸台は出場することすら叶わなかった。今年できなかったことはたくさんあるし、後悔も残ったままだ。

 果たして来年、今年できなかったことはできるようになるだろうか。未来のことはわからない。ただ、明日を信じて今を生きていくしかない。

 




今年もいろいろなことがありました。一年間ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。

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