1.同窓会のような飲み会 その1
東京はやっぱり都会だ。もう夜更けだというのにここまで明るい街を、ゆみは地元で見たことはない。
加治木ゆみ。独身・アラサー・プロ雀士である。東京には試合のためにやってきた。
ゆみの所属するチーム、佐久フェレッターズはプロチームの頂点たるM1ナ・リーグに籍を置いているのだが、このナ・リーグ、東京を本拠地とするチームがいない。だからゆみは横浜に行くことは数あれど、東京に足を踏み入れることはあまりなかった。
今年、佐久はチーム成績が良かったためPOを勝ち抜いて日本シリーズに駒を進めた。対戦相手は恵比寿と横浜、大宮だ。最初のゲームが恵比寿ホームで行われることになり、ゆみは久々に東京へ行くことになったのだった。
では今、ゆみはなにをしているのか?道に迷っているのである。
きっかけはやはり日本シリーズだった。出場が決まった後、恵比寿の竹井久からメールが送られてきた。曰く、「同窓会をしましょう」。あの年に長野県決勝で対戦したメンバー同士は今でも仲がいい。このメンバーのうちプロに進んだ者が、今回の日本シリーズで全員集まるという奇跡が生じた。そこで、東京で集まって飲もうというのである。悪くない提案だと思ったゆみはこの提案に乗った。ひとつ不可解だったのが、「白糸台のメンバーを交えて」という一文だった。まあ照を連れて行けば済む話なので特に気にしないことにしたのだが、これが運のつき。東京に土地勘があるという照を信じたゆみは、みごとに訳のわからないところを連れまわされた挙句、「迷った」と言われたのだった。
「もしもし?久か?どうも道に迷ったみたいなんだが…え?照を信じるな?遅いよそのアドバイス…今?えーと…おに?こ?はは…鬼子母神っていうのかあれ。とにかくそこだが…は?真反対?目黒?おいおい…とにかく今から向かうから。それじゃ」
電話を切って、ゆみは照を軽く睨んだ。
「真反対に進んでると言われたぞ」
「私を信じたゆみが悪い」
いけしゃあしゃあとゆみに責任を押し付ける照。ゆみは深くため息をついた。
「ほら、行くぞ」
「おかしがなくなった」
「途中で買えばいい。急がないともう遅刻してるんだから」
「あそこにセブ○イレブンがある、あそこはいいおかしをおいてる」
「…だぁーもう、じゃあさっさと買いに行くぞ」
「やった」
15分消費。遅刻確定だ。ゆみは泣きたくなった。
「すまない、遅れた」
ゆみと照が店に着いた頃には、もう全員が席に付いていた。洒落たバーの個室。少なくとも照が持ち込んだおかしは明らかに場にそぐわないものだ。
「遅かったじゃないか照、また道に迷っていたのか」
青い長髪、楚々とした女性が呆れた顔で振り返る。横浜の弘世菫であった。
「ちがう、迷ったのはゆみ」
「大方、私がガイドをする、とか言って連れ回したんだろ」
サラリとゆみに責任を押し付けようとする照をあっさり切り捨てて、菫は立ち上がりゆみに頭を下げた。ゆみもあわてて頭を下げ返す。
「いつも照がお世話になっています。迷惑かけていませんか」
「いえいえ、こちらこそ頼ってばかりで」
などとやりとりしていると、久がパン、と手を打った。
「はーい、じゃあみんな集まったことだし、乾杯しましょうか!」
つづく。