堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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今回のネタはあの作品からです。分かる人はいるでしょうかね~。


番外 彼の目を総督が治したら その2

 もしもアザゼルが湊の目を治したら………。

これはそんなもしかしたらのお話。このお話は例え二人が幸せであろうとも、結果が必ずそうではない、そんな物語。

 

 

 まぁ、ここで一々プロローグを語る必要はないだろう。それはもう前回の話でやっている。簡略的に語るなら、レイナーレがアザゼルに頼り、アザゼルはそれを聞き入れた、それだけだ。

これから語るのはその結果だ。

 

「おじ様、湊君の目が治ったって本当ですか!?」

 

冥界の堕天使領にある『神の子を見張る者』の本拠にて、彼女……レイナーレはもの凄く慌てた様子でその扉を開けた。

そこは本来限られた者しか入れない特別な部屋。その名も『総督室』。

その名が示すとおり、堕天使の頂点を勤めるアザゼル総督が執務を行う部屋である。

堕天使は上下関係の意識が強く、そのためこの部屋に入ろうとする者は余程のトップで無ければまずいない。皆畏れ多くて近寄ることもしないのだ。

そこにただの堕天使であるレイナーレが入ったことを周りの者が見たら、きっと何事かと騒いでいたことだろう。

だが、そうはならない。何せ彼女はある意味特別だから。

総督にとって目に入れても痛くないほどに可愛がられている『娘分』、総督の寵愛を受けし者。そのように認識されているので、彼女ならこの部屋に入っても可笑しくはない。

実際の関係ではアザゼルは彼女にとって第二の親のようなものであり、親戚のおじさん扱いなのだが。

そんなわけで、彼女は普段なら真面目に慎み深く丁寧に開ける扉を乱暴に開けたわけだ。

そしてその先には、堕天使のトップが椅子でふんぞり返っていた。

 

「いきなりだな、お前さんは…………まぁ、確かに連絡を入れたのはオレだけどな」

 

そう言って苦笑するアザゼル。そんな彼にレイナーレは急いで問い詰める。

 

「そ、それで湊君はッ」

「まぁ落ち着けよ。そう慌てなくてもミナトは逃げやしねぇって」

 

彼女は最愛の恋人の目が治ったのかが早く知りたくて焦り、そんな彼女をアザゼルは落ち着けと言いながら笑った。

そう言われるが、そう簡単に落ち着ける訳が無く、愛しい彼に焦がれるレイナーレ。

そんな彼女の心情は親同然のアザゼルには丸わかりであり、だからこそ微笑ましく思う。

少しだけ落ち着き始めたレイナーレに、アザゼルはまず説明をすることにした。

 

「まずお前には説明しなくちゃいけねぇな」

 

その言葉に固唾を飲み込むレイナーレ。その顔は緊張で強ばっている。それだけ彼女は真剣なのだ。

 

「ミナトの目だが、あのままじゃ危険だったしあの眼球から破片を取り除くのは無理だと判断した。よしんば破片を除去出来ても視力が戻るとは思えなかった。だから最初に詫びておくが………アイツの目は摘出させてもらった」

「ッ!? そ、そんな…………」

 

愛しい恋人の目が抉り出されたと聞き、彼女はあまりの事実にショックを受けた。その動揺と困惑は隠せず、彼女の顔は一気に血の気が引いて青くなっていく。

そんな彼女にアザゼルは少し怖がらせ過ぎたと思ったらしく、父親らしい彼女に暖かな笑みを浮かべて微笑んだ。

 

「まだ全部言ってないのにそんな顔すんな。いいか、ここからが本題だ。アイツの目はもう使い物にならない。だから……………」

 

そこで一旦タメを作ると、アザゼルは子供が自慢するような感じにそれを発表した。

 

「オレが今まで研究してきた人工神器の技術の粋を集め、最高の義眼を作ったんだ! そいつをアイツに装着し……見事、アイツは視力を取り戻した」

「っ!?」

 

その言葉に信じられないと目を見開くレイナーレ。

そんな彼女の顔を見て、ニヤニヤとアザゼルは笑う。

 

「だから落ち着けって言っただろ。それに最初から言っただろうが、ミナトの目が見える様になったってなぁ」

 

自信満々に語るアザゼル。そんな彼を見て、それまで緊張していた彼女は安心してその場にぺたりと座り込んでしまう。

 

「良かった………良かったよ、湊君………ふぇ……えぐ、うぇ……」

 

愛しい彼の目が見える様になったことが心底嬉しくて、彼女は感動と安心のあまりに泣き出してしまう。

そんな娘分の見てアザゼルはしょうがねぇなぁと言わんばかりに笑った。

 

「おいおい、これからミナトと合うのに泣き腫らした面を見られたら、アイツが心配するぞ」

「わ、分かってるけど、でも………ふえぇ~」

 

言いたいことは分かるのだが、それでも中々涙は収まらない。

だからアザゼルは彼女が落ち着くまでの間、ずっと温かく見守っていた。

 そして落ち着き始めたのを見計らって、アザゼルは室内の子機を掴んで連絡を入れる。

 

「シェハムザ、ミナトをこっちに呼んでくれ」

 

その連絡を入れた数分後、この部屋の扉がノックされた。

その音に少し身体を震わせるレイナーレ。そしてアザゼルは部屋に入る許可を出す。

 

「入れ」

 

その言葉を受けて開かれる扉。その先に居たのは、彼女の愛おしい恋人であった。

 

「失礼します、アザゼルさん」

 

彼はそう言って室内に入る。

そして彼は見つけた………最愛の恋人を。

 

「あ、レイナーレさん……ですか?」

「湊君…………見えるの?」

 

いつもと変わらないように微笑む湊に、レイナーレは小さな声で不安に揺られながらも問いかける。ぱっと見はいつもと変わらず目を瞑っているようにしか見えないので不安になったのだ。

そんな彼女に湊は嬉しそうに笑った。

 

「はい、しっかり見えますよ。でも、驚きましたよ……レイナーレさんがこんなに綺麗で可愛いなんて知らなかったから」

「湊君…………」

 

まぁ、ここで少し恋人らしくイチャつき始める二人。湊は見える様になったことで知った恋人の姿を絶賛し、レイナーレは褒められまくって恥ずかしがる。でも、嬉しそうなその様子は親同然のアザゼルのは丸わかりあり、それ故にイチャつく二人を微笑ましく見ていた。

そして一通りイチャつき終えた二人。レイナーレは湊の目がちゃんと見えることに心底喜びながらも、それまでずっと気になっていたことを問いかけた。

 

「湊君の目が見える様になって嬉しいけど、何で今も目を瞑っているの?」

 

目が見えるようになったというのに、未だに湊は目を閉じている。そのことが気になって仕方ないレイナーレ。普通、目は開けないと見えないのではないだろうかと。

そんな可愛らしい問いに湊は苦笑しつつ答えた。

 

「一応は開けてるんですよ。薄目ですから気付き辛いだけで」

「そうなの?」

 

湊の答えを聞いて少し不思議そうに首を傾げるレイナーレ。

見えるのに何故薄目なのだろうか? 見えるなら普通に開けばいいのに。

そう思ったらしく、そう言おうとする彼女。しかし、ここでそれまで見守っていたアザゼルが口を挟んだ。

 

「そう言うなよ。あまり見開くとこいつは『見えすぎ』ちまうんだからよ」

「見えすぎるって?」

 

急にそう言われても良く分からないレイナーレ。

そんな彼女に向かって湊は笑いながら『目を開き』、アザゼルはニヤニヤと笑う。

 

「え、それって……………」

 

湊が開いた目を見て、レイナーレは驚きのあまり唖然としてしまう。

何故なら………。

 

その瞳は普通の瞳ではなかったから。

 

それは義眼とは言え異常だった。

白目も黒目もない。あるのは彼の名字にもある『蒼』だ。蒼い瞳、それが彼女が見た最初の印象だった。

そしてよくよく見れば、それはただ蒼いのではなく、まるで何かの文様のように形作られていた。

奇異な瞳に驚くレイナーレ。そんな彼女に湊は苦笑し、そして制作者であるアザゼルは満足そうに語り始めた。

 

「こいつの名は『神々の義眼』っていうんだ。コイツは凄い代物だぜ! 何せ視力を与えるだけじゃなく、視力や動体視力に極めて優れてさせるんだ。その上高度な幻影を見破り、更には他人の視覚の支配や一度目にしたものの追跡、相手が過去に目で見た記憶を引き出すなど、視覚に関して全能と言えるほどの能力を持っている。まさにオレが手がけてきた物の中でも最高傑作にふさわしい一品だ」

 

自信満々に語るアザゼルに、少し変わった瞳で苦笑する湊。

その事に驚かされたレイナーレだが、それでも湊の目が見える様になったことを喜ぶべきだと思った。余計な物が多いが、それでもアザゼルは彼の目を見える様にしてくれたのだから…………。

 

そう思ったが、次の瞬間その思いはなくなった。

 

湊はアザゼルに苦笑しつつ義眼で辺りを見回すと、あっと何かに気が付いたようでアザゼルの話しかけた。

 

「あの、アザゼルさん……あそこの壁に何で幻術なんてかけてあるんですか?」

「え?」

 

その問いにアザゼルの顔が強ばった。

何せそれは彼にとって隠さなければならないものだからだ、普通に金庫や保管庫にしまっていては他の者にばれてしまう可能性がある。だからこそ、こうしてまず有り得ない場所に厳重に封じ、更には幻術をかけて絶対に見つからないようにした。

はずなのに…………彼はすっかりと忘れていた。彼が湊に与えた物がどういう物かを。

顔が段々と強ばっていくアザゼルに対し、湊はさらにその方向を良く『見る』。

 

「壁に見せかけた幻術が三重に施されてるみたいだけど……その先にあるのは金庫? でもお金は入ってないし、入ってるのはノートだけ? えっとノートの名前は…………『封印されし最強の暗黒兵器集〈ぼくの考えた最強の神器設定集(イラスト付き)原本〉』………中身は………」

 

それを『見た』湊は何やら気まずそうな顔になった。

 

「あの…………わ、若い時はこういうもの仕方ないって思うんですよ。決して夢をみることは悪い事ではありませんし………」

 

レイナーレは湊が何を言っているのか、何を見たのか分からず首を傾げる。

対して今度はアザゼルの顔が蒼く染まり始めた。

 

「でも、その……『閃光と暗黒の龍絶剣(ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード)』っていうのは、少し名前が長いし、それに閃光と暗黒って真逆なのはどうなんでしょうか?」

 

「や、やめてくれぇええええぇえぇえええええええええええええええええええええええええええぇえええぇええええええええええ!!」

 

 

 

 

 この日、総督室にて堕天使のトップの悲惨な悲鳴が轟いた。

別に、誰も悪くはない。彼女はそれを願ったし、アザゼルはそれを叶えた。そして湊は広がった世界を見ただけなのだ。

その結果見つけてしまったものを見た結果がこれだっただけ。

運が悪かったとしか言いようが無かった。

彼はその後もアザゼルにとって忌まわしき黒歴史を『見て』しまい。その度にアザゼルは羞恥に悶え嘆き苦しんだ。

 尚、この日から数日間の間、アザゼルはレイナーレにその件でからかわれたんだとか。

 

 


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