堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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これはもしものIFです。湊の目をアザゼルが治せたらどうなるのか、そんな可能性のお話。
そしてとあるアニメのネタが使われています。さて、なんでしょうか?


番外 彼の目を堕天使総督が治したら
番外 彼の目を総督が治したら


 もしもアザゼルが湊の目を治したら………。

これはそんなもしかしたらのお話。このお話は例え二人が幸せであろうとも、結果が必ずそうではない、そんな物語。

 

 

 

 湊とレイナーレが結ばれ、幸せな時間が流れていく。

それはそれで心満たされるものであったが、彼女はそれでも思うところがあった。

 

彼の目を治してあげたい。

 

その想いは幸せであればあるほどに強まり、彼女の心により深く刻み込まれる。

だからこそ、彼女は決意した。湊の目を治してあげようと、彼に彼がいたはずの世界を取り戻してあげようと。そして………自分の全てを見て貰おうと。

そこからは早かった。彼女が知る限りの交友関係を当たり、湊の目を治す方法を探し始めたのだ。現代医療ではもう手が付けられない彼の目を治すには、神秘や秘術といった異法の技に頼るほかなかったから。

そこで見つかったのは一つ。それは冥界の悪魔達の間でも貴重とされている秘薬『フェニックスの涙』。この秘薬はどのような怪我でも治すと言われており、死んでさえいなければ瀕死の重傷でさえ治せるらしい。

しかし、それはあまりにも高額だった。とても普通に払える物ではなく、それを聞いたレイナーレは挫折しかけた。

しかし、それでも…………彼女は諦める気はない。

そう、愛おしい彼に世界を見せてあげたいと奮起し、そしてもう一つの可能性が高い所へと相談しに行ったのだ。

そこは冥界にある堕天使達が支配する土地、その総本山である『神の子を見張る者』の本拠。そこにいるレイナーレにとって第二の親と言っても差し支えない存在にして、全ての堕天使を総べる存在である『アザゼル』に相談することにした。

勿論、これで見つかれば御の字という程度であり、簡単には解決しないとは分かっていた。ただでさえ難しい箇所である。目というのは謂わば生体の精密機械。神経が入り組み、各種のパーツが絶妙なバランスで動作している。それが少しでも壊れれば、直すのは容易ではない。冥界に於いても、目を治したという話はあまり聞かないだけに望みは薄い。

でも、それでも彼女は、僅かな可能性でも賭けたかったのだ。

それが唯一、自分が出来ることだったから。

だからこそ、彼女はアザゼルにその思いを必死に伝えた。

その言葉を聞いたアザゼルは静かにゆっくりと、確かにその願いを聞く。

その様子は傍から見れば娘のお願いにちゃんと向き合う父親のように見えなくもない。その内容を吟味し、アザゼルは何かを考え始める。

可能性は低い。いくらアザゼルが彼女に甘くても無理なものは無理だ。だからこそ、レイナーレは怯えながらその答えを待つ。

そして時間にして僅かしか経っていないが、レイナーレには長く感じた時の終わりが来た。

アザゼルはレイナーレに向かってニッシッシといった感じに笑い、そして不敵な笑みを浮かべながら答える。

 

「あぁ、いいぜ。何せお前の頼みだ、全力でやってやる。ミナトの目を見える様にしてやるよ」

「おじ様ッ!!」

 

アザゼルの返事を聞いた途端に彼女はアザゼルに抱きついた。

いつもならまずやらないであろう行為。幼い頃はもっと良くしていた行為だが、年頃になってからはまずしなくなった行為を彼女は久々にアザゼルにした。それだけ嬉しかったのだ。

泣きそうなくらい感激しているレイナーレに、アザゼルはカラカラと笑う。

 

「おいおい、もう年頃だからしなかったんじゃないのか? まぁ、オレは娘にこうして頼られて嬉しいけどなぁ」

「だ、だって、もう無理かも知れないかと思ったから…」

「そうあまり期待されても困るぞ。オレは出来る限り手は尽くすが、それでも出来ないことだってあるんだからな。でもまぁ………久しぶりに全力でやるぜ。お前さんにここまで頼られたんだ、本気を見せてやるよ」

「うん、頑張って、おじ様!」

「ヨッシャァアアアアアア、行くぜ!」

 

これによりアザゼルが湊の目を診ることになり、その日の内にアザゼルは湊に会いに行った。

そしてレイナーレと一緒に彼の家に行き、

 

「お前さんの目を治してみようと思うから来てくれ」

 

そう言って湊をアザゼルは自分達の本拠地である『神の子を見張る者』の本拠へと連れて行った。

レイナーレはその後ろ姿を心配そうに見つめつつ、泣きそうな顔を我慢して笑顔を浮かべて湊に告げた。

 

「私、待ってるから………湊君の目がちゃんと治ることを祈って、ここでずっと待ってるから……だから……いってらっしゃい」

 

その言葉を聞いて湊は振り返り、彼女を安心させるかのように暖かな笑みで答えた。

 

「はい、行ってきます」

 

こうして湊はアザゼルに連れられて冥界へと向かった。

 

 

 

 そして時間が経つこと約3日後、彼女が待ちに待った連絡が入った。

 

『ミナトの目が治ったから、今すぐこっちに来てくれ』

 

その報を聞き次第、レイナーレは即座に転移魔法陣を展開し、冥界の堕天使領にある『神の子を見張る者』の本拠へと飛んだ。

 そして転移を終え次第、受付に凄い勢いで飛び込み、

 

「至急アザゼル様に取り次ぎお願いしたいのですがッ!!」

 

凄い剣幕で受付にそう告げた。

その剣幕に畏れを抱き身体を萎縮させる受付の者は顔を強ばらせながら何とかレイナーレの話を聞こうとするが、レイナーレは直ぐに通しての一点張り。

流石に急にトップである総督にアポ無しで遭わせる訳にはいかないと断ろうとしたが、他の者がレイナーレを即座に通した。それというのも、この新人は知らなかったようだが、レイナーレがアザゼルの身内扱いということを知っていたからだ。

故に問題無く通されたレイナーレは、周りのことに気をかける余裕なく通路を駈けていく。

そして遂に、彼女は目的血であるアザゼルがいる部屋へと着いた。

それまで急ぎ走っていたこともあったが、それ以上に緊張して心臓がバクンバクンと鳴り響く。その鼓動を感じながら彼女は震える手で扉をノックした。

 

「おじ様、レイナーレです、いますかッ!」

 

普段ならこんな無礼なことはまずしない彼女だが、今はそんな余裕はない。

一早く最愛の恋人の目が治ったことが知りたくて、彼女はその思いだけで突き動いていた。

そんな焦った様子のレイナーレを感じてか、扉越しにアザゼルが笑いながら声をかけた。

 

「あぁ、レイナーレか。開いてるから入んな」

 

許可が出されたことで勢いよく扉を開けて中に入るレイナーレ。それは彼女の言うはしたない姿だが、それすら気に留める余裕はなく、室内に入るなり彼女は湊の姿を探し始めた。

そんなレイナーレを『見て』、彼は嬉しそうに彼女の名を呼んだ。

 

「レイナーレさんですか?」

「え………湊君?」

 

声の方を向いて、レイナーレは驚きと喜びに打ち震えた。

彼女の視線のその先には、最愛の恋人の湊が、こちらを『見て』微笑んでいたからだ。

そう、『見て』いるのだ。目を見開き、その瞳は確かにレイナーレを映していた。

だからこそ、彼女は理解した。

 

『アザゼルは見事に湊の目を治した』

 

故に感動し涙が溢れそうになってしまうレイナーレ。

このまま彼の胸元に飛び込み、彼を抱きしめながら色々と見せてあげたいと思った。

これが彼が住む世界であり、自分が知っている世界なのだと。世界はこんなにも美しいのだと。そして、自分の姿を見て貰いたいと思った。

そんな彼女に湊は少し頬を赤らめつつも話しかける。

 

「まさかレイナーレさんがこんなに綺麗だなんて思いませんでした。あ、勿論綺麗なことは最初から知ってはいましたよ。顔の形とかで何となくは。でも、こんなに綺麗だったなんて………そんな人が恋人だなんて、僕は幸せ者ですね」

「湊君…………」

 

レイナーレは褒められて顔を真っ赤にする。大好きな人に綺麗だと言われれば嬉しくなるのは女の子として当たり前なのだ。

そして彼女は湊へと歩み寄る。少しでも早く、彼の瞳を見たかったから。

そして彼の見つめた途端に、改めて気付かされた。

その瞳は普通とは少し違う事に。

ぱっと見は普通の瞳だが、よくよく見れば度々中で何かしらが動いている。

それは詰まる所、その眼球が人工物であることを表していた。

それについては、彼女が湊に問う前にアザゼルが答えてくれた。

 

「あぁ、そいつは義眼だよ。オレが持ちうる全ての技術を注いで作った超高性能な義眼だ。まぁ、こいつに関しては神器の技術は使ってねぇから『人工神器』ってわけじゃねぇんだがな」

 

その答えを聞いて納得するレイナーレ。例え義眼であろうとも、湊の目が見える様になったのだから、これ以上の幸運はない。

そして二人で抱きしめ合って幸せに浸ろうとしたレイナーレだが…………。

 

やはりと言うべきか、ただで済まないのがアザゼルの作った物と言うべきだろう。

 

湊は顔を真っ赤にして涙目になっているレイナーレを見つめつつ、少し申し訳なさそうに話しかけた。

 

「すみません、レイナーレさん。ご心配をかけたようで………あまり寝ていないのでしょう? それに疲れも溜まっているようで」

「え?」

 

その言葉にレイナーレはあどけないながらに可愛らしい声を上げてしまう。

もしかして自分の顔はそんなに凄いことになっているのだろうかと思ったが、確かに今日は報が来る前に顔は洗ったし少しのメイクもしたはず。なのに何故湊がそのことに気付いてしまったのだろうかと、彼女は羞恥で真っ赤になりながら思う。

しかし、その後湊の口から出た答えは予想の斜め上をいくものだった。

 

「レイナーレさんの皮膚表面の劣化を確認。劣化度合いから見て、睡眠時間は約二時間、それが前日も同様であることから劣化損耗率は20パーセント前後。尚、目元のクマの濃さの度合いから肉体への休息不足を確認。及び検出されるホルモンバランスに乱れあり。これらは急激な生体変化に肉体が追いついていけないからであり、それ故に回復速度が遅くなり疲労が蓄積する。また、体温が若干ながらいつもの平均温度に比べ高めであり、生理の……………」

 

湊の口から語られるのは、彼女の詳細なこれまでのデータ。

まるで全て見通されているのかのようで、彼女は顔を真っ赤にしつつも何処か恐くなっていた。

 

「湊君、どうしたの? どうしてそんなことが………」

 

レイナーレは少し怖がりつつも湊に問いかける。何せそう語る湊の表情は先程まで浮かべていた微笑ではない。淡々と無表情で語るそれはまるで機械のようであった。

そんな様子の恋人に戸惑うレイナーレ。そんな彼女にアザゼルは何やらイタズラめいた笑みを浮かべながら湊に話しかけた。

 

「ミナト、レイナーレに心配かけたのを気にしてるのは分かるがその辺にしておけ。あまりそいつを……『アナリティカルエンジン』を使いすぎるなよ。確かにそいつは視力を戻すだけじゃなく、音紋解析、光学観測、未来予測何かを可能にするが、脳神経に直結されてるだけあって結構危ないんだぜ。普段使用していない脳細胞を活動させることで演算能力を高め、機能拡張を行うことができるが、脳に少なからず影響を受けるんだからよ」

 

それを聞いて、レイナーレはそれまであったアザゼルへの感謝よりも、湊が危ない何かを付けられたということを理解し怒りが沸き立ってきた。

故に……………。

 

「おじ様、湊君に何てことしてるんですかァアアァアァアアアァアアアアアアアッ!!!!」

 

この建物内に響き渡るくらい、彼女の怒声が鳴り響いた。

 

 

 せっかく治った湊の目。確かに彼は世界を取り戻した。

だがしかし、その目はそれ以上の世界を彼に教え、それ故に彼は『余計なことまで知ってしまう』ようになったとか。それは彼にとって幸せなのか幸せじゃないのか………それは誰にも分からない。

 

「む、ミナトに攻撃が当たらない。まるで全てを読まれているようだ」

 

「次、ヴァーリさんは右の拳でのジャブを撃つ可能性が67パーセント。威力を予測、防御不能と判断し回避を推奨、バックステップにより距離を取る」

 

「湊君が変になっちゃったよ~~~~~~!」

 

彼はこの先どう進むのだろうか?

 

 

 

 

 


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