うっす、兵藤 一誠だ。
まぁ随分と遠回りしたわけだが、やっと俺の使い魔を手に入れることが出来るようで少なからず嬉しくなるぜ。
これで立派な悪魔に一歩近づく訳なんだから、つまりはハーレムにまた一歩近づいたってことだ。俺はハーレムを目指してるんだから、ほんの少しの邁進でもやっぱり嬉しいものがある。
どうも最近はあのバカップルのせいで調子が狂いかけてるけど、それでもやっぱり男たる者ハーレムを、無限のおっぱいを夢見て邁進していかないとな。
そういうわけで、早速出発だ。
満月の夜じゃないと会えないらしく、あの決死のドッチボール大会が終わった夜に行くことなった。まぁ、悪魔の本領は夜だから気にしないんだけど、しかし、それでも思うこともあるわけだ。
そう…………。
「なぁ、何で蒼崎やレイナーレさん、それにアーシアやヴァーリがいるんだ?」
いや、別にのけ者にしようとか、そういうことじゃないぜ。
今回の件は悪魔である俺の使い魔を手に入れるための事なのだから、悪魔以外が行ってもしょうがない。しかも、蒼崎とレイナーレさんは普段部活が終わると一緒に下校。聞いた話によるとその後は一緒に夕飯の買い物をしたり、二人で静かな所でイチャついているんだとか。ナニ、この敗北感……べ、別に羨ましくなんか………羨ましくなんかねぇよ馬鹿野郎ッッッッッ!! 大切な事何で二回主張してみたけど、やっぱ虚しい。俺も女の子とそんな風にキャッキャウフフと買い物したい。この間したのは夕飯の買い出しだったけどさ、相手がヴァーリで………。
「君の身体を作るのには些かタンパク質が物足りないな。よし、あと鶏の胸肉とささみを追加しろ」
色気の欠片もない買い物でしかも相手がイケメンの男。
そんな光景を見た周りの奥様方は何やらひそひそと話し始める。やめろ、俺は受けでも攻めでもない!
あぁ、俺も女の子と買い物したい…………。
おっといけない。思い出した途端にテンションがダウンしまくって鬱になるところだった。要はさ、あの二人は堕天使と人間だから悪魔の事に関わる理由はないし、アーシアも同じように人間でないだろ。それにヴァーリも一応は堕天使陣営なんだし、俺達に付き合う理由もないだろうし………その割りに最近俺の家によく来てることが多いような……父さんも母さんも結構親しげだし、よく『イッセーのことを鍛え直してくれ』って言っていたような気も………あれ? 今更だけど俺の生活が脅かされてないか?
そう思い始めた所で蒼崎達からの返答が返ってきた。
「あぁ、それはですね。その、実は僕も気になりまして。冥界ってどんな所なんだろうって、どんな光景が広がってどんな生き物が居るのかなって」
珍しく歳相応に瞳を輝かせる蒼崎。コイツは目が見えなかったら、そういう新しいものに好奇心を刺激されやすいようだ。隣でちゃっかり腕を組んでるレイナーレさんが、『湊君、子供みたいにはしゃいで可愛い……』って頬を赤らめつつ見つめてるけど、もうナニこのバカップルは。見てて羨ま…イラッとくるよ、うん。
そんなバカップルでもちゃんと答えるらしく、レイナーレさんも蒼崎から視線を話しつつ俺に答えてくれた。
「私は勿論湊君の護衛もかねて……本当は一緒に居たいからなんだけどね。だ、だって湊君一人で冥界の使い魔の森なんて危ないもの! こ、こういうときこそ私が守らないと」
顔を真っ赤にして蒼崎をちらちら見つつ答えるレイナーレさん。あぁ、もう本音がダダ漏れですよ。そんなレイナーレさんに蒼崎が少し申し訳なさそうに笑う。
「すみません、僕が何も出来ないばかりに迷惑をかけてしまって」
「うぅん、そんなことないよ。私の方が湊君に迷惑かけてばかりだし。それに……寧ろ湊君にはもっと迷惑かけてほしいというか、頼って欲しいから。それに冥界は人間界に比べればやっぱり少し危険なの。だから……私が湊君を守る」
「レイナーレさん………ありがとうございます。その……頼りにさせてもらいます」
「はい、喜んで」
ただ冥界に行ってみたいってだけでこのイチャつきはどうにかならないのか。
最近その所為で部室内にあるインスタントコーヒーの減りが異様に早いんです。
あぁ、もうこのバカップルは相手にするだけこっちの精神が持ってかれる。次だ、次。というわけでアーシアなんだが……。
「その、私もレイナーレ様達と一緒に行ってみたいと思いまして」
こっちはレイナーレさん達の付き添いか。アーシアは今は兎も角友達と一緒に遊びたいって所なんだろうよ。俺も彼女の経緯は聞いてるから、そういう心情は分からなくもないし。本当に楽しいのだろう。
んで、何で最後に鬼畜なお師匠様まで来たんだ? いつもならそのまま帰るだろ。稀に俺ん家に来て更に過酷なトレーニングをやらせていくけどさ。
そんなわけでその前の三人に比べてジト目でヴァーリを見ると、奴は普通に答えてきた。
「俺も一応は護衛だ。ミナトやレイナーレはこちらに於いて、かなり上位の存在だ。二人に何かあれば、その時はアザゼルが本気で手を出した奴を血祭りにあげるだろうさ。それが悪魔だろうが天使だろうが関係無くな。だからそうならないようにするためにも俺も同行させて貰う。それに……案外強者に出会えるかもしれないしな」
使い魔の森にいるかもしれないであろう強者とやら………急いで逃げてくれ!
こいつ絶対に護衛とやらはオマケにしか考えてないだろ。その森にいるのかわからないけど、居るんだったら絶対に出ないで欲しい。コイツの強さは鍛えられてる俺だから分かる。正直部長よりも強いんだから、絶対に並みの上級悪魔じゃ敵わないって。下手したらその森が壊滅なんてことにもなりかねない。
でも、今更行くな…なんて俺が言えるわけもなく、実力行使なんてまず不可能。つまりもう一緒に行くしかない……とほほ……。
いや、もう気にしてもしょうがない。
こうして集まっちまったんだし、今更来るなとは言えないしな。部長達も気にしてないし。だからもうこの問題は仕方ない、無視しよう。
そんなわけで部長達と一緒にその使い魔の森とやらに転移した。
転移した先に広がったのは、何やら薄気味悪い森と、紫色の空。それだけでそれまで居た場所と違うってことを強く意識させられる。
「わぁ、ここが冥界なんですね! やっぱり僕達の所とは色々と違って目新しいです」
「やっぱりここの空は変わらない………でも、湊君が喜んでくれると、それだけで嬉しいかも」
「幻想的な感じで素敵ですぅ~」
蒼崎とアーシアが感動し、レイナーレさんはそんな二人を温かい眼差しで見つめる。
俺と違ってこの二人にはそう見えるらしい。
さて、やっと来たんだから後は使い魔を探すだけだ。
そう思って意気込んでたらいきなり『ゲットだぜぇいッッッッッッ!!』ってびっくりすんだろうが!?
出て来たのはいい歳した半ズボンのおっさん。部長曰く、使い魔マスターで使い魔のエキスパートなんだとか。この人の案内があって初めて使い魔をゲット出来るんだとさ。
専門家も来た所だし、早速使い魔を探しに出発だ。
そして森の中を歩いて行く俺達。蒼崎は周りの風景を見ては感動し、そんな蒼崎を見てレイナーレさんは可愛いと言いながら顔を赤らめてた。この二人はどこでもいつも通りだ。そしてアーシアもはしゃいでいたが……うんうんやっぱり美少女の笑顔ってのは癒されるねぇ。
そしてやってきました湖。その綺麗な光景には俺でも少しは感動したよ。あぁ、当然蒼崎やアーシアもな。
「凄く綺麗な湖ですね!」
「そうね。私もここまで綺麗な湖を見たのは初めてかも……」
湖の感想を言い合う二人。すると蒼崎はレイナーレさんの手を軽く繋ぎそれを彼女が見える様に前に持って行く。何やキザな男が女子の手の甲にキスしてるような感じに見える。それはレイナーレさんも思ったらしく、頬を桜色に染めて少し期待の籠もった眼差しで蒼崎を見つめ始めた。
「この綺麗な光景をレイナーレさんと一緒に見られて、僕は嬉しいです。また一つ、二人の初めてが増えましたね」
「ッ!? う、うん、そうだね。私も……湊君とこうして一緒に見られて……嬉しい……幸せよ…」
最近思うんだけど、蒼崎って少し勘違いしてるんじゃないだろうか? 二人の初めてって言えば、普通は〇〇〇(自主規制)の事を指すんだけどなぁ。どうも蒼崎にとって、二人で初めて経験することは全部そうなるらしい。おめでたいのか何なのか? 決して羨ましい訳じゃないんだからね(泣)
このバカップルの感動はさておき、早速使い魔を探さないとな。あの使い魔マスター『ザトゥージ』が言うには、この湖にはウンディーネってのがいるらしい。それってよくある湖の美女じゃねぇか。きっとおっぱいの大きな美しい女性に違いない。
妄想を膨らましまくって湖を注目してたら、早速ウンディーネのお出ましのようだ。
「おぉっ!!」
期待に胸を膨らませて湖から現れたのを見つめる俺。
そして…………。
「んがぁああああああああぁあああああああああああああああああ!!」
その雄叫びと雄々しい姿を見て絶望した。
おい、誰がウンディーネだって? どう見たってバーバリアンとかバーサーカーの方がお似合いじゃねぇか!!
俺が思い描いてる奴とはまったく違う奴がウンディーネなんてあんまりだぁ。誰だってガチムチのマッスルなのがウンディーネだなんて思わないだろ。
そう思ってるとウンディーネが此方に近づいて来た。
いや、お前なんてお呼びじゃねぇよ!。そう思いつつどうしようか困っていたら、ウンディーネは俺じゃなくて何故か蒼崎の方に向かって行った。
それを見た俺は流石に焦ったよ。いくら蒼崎でも言葉が通じるか分からない化け物相手じゃどうしようもない。
そう思って急いで止めようとしたんだけど………。
「あ、どうもこんにちわ」
「♪」
何やら二人で握手し合ってる!?
まるで野獣と青年って感じなのに、何故か絵になってる感じだ。
ウンディーネ(偽)は蒼崎に近づいた後、まるで此処に来たことを歓迎するかのように握手を求めてきた。蒼崎はそんなウンディーネの握手に応じると、ウンディーネは楽しそうに笑う。いや、ごつい顔が笑っても可愛く見えないけどな。
そんな蒼崎を見てレイナーレさんは何やら嬉しそうに微笑み、アーシアはウンディーネの目が澄んでいるから心もきっと綺麗なんだろうってさ。
いくら心が綺麗でもあれはねぇ………。
そんな感じにウンディーネからの歓迎?を受けた俺達は、次の使い魔を探しにいくんだけど……………。
「きゃんきゃん!」
「くーこけこけっ!」
「くぅ~んくぅ~ん」
歩く道中に遭遇する冥界の生き物達。俺が求める使い魔とは少し違うから捕まえる気はないんだけど、ザトゥージ曰くレアな魔獣の幼体らしいのが何故か蒼崎に飛びついてきた。それはまるで子犬か子猫のように、蒼崎に懐き始める。
「あははは、くすぐったいですよ」
そう言いながら蒼崎は胸に飛びついた犬?の頭を撫でると、その犬は気持ちよさそうに声を上げる。
「そいつはケルベロスの幼体だっぜ! こいつらはあまり人懐っこくないんだがなぁ」
ザトゥージがそう言うが、それ以外にも色々と蒼崎に懐いていく。奇妙な頭の鳥やらトカゲなんかが皆挙って蒼崎に頭をすりつけてきた。
それを見たレイナーレさんは蒼崎の事を分かってますと言いたげな顔で少しうっとりとしてる。
「湊君は優しいから、そのことがこの子達にも分かるんだよね」
そんな事をそんな目で言われてもなぁ。ザトゥージは何やら更に困惑してるけど。『コカトリスにバジリスクなんてレアな奴に好かれるなんて………この人間は一体何物なんだぜ?』いや、知らないよ。今分かったのは、蒼崎は動物に好かれやすいってことだけ。
俺が求めるのは、もっとこう~エロスに響くような、そんな使い魔なんだよ。
だから悪いが幾らレアだろうとこいつ等では駄目なんだ。
だから使い魔にしないわけだが……………。
「きゃ、くすぐったい。あなた、甘えん坊ね」
レイナーレさんが抱き上げたケルベロスの幼体に顔を舐められ笑いかけ、
「うわぁ、この鳥さん、お目々がくりくりして可愛いです」
アーシアがコカトリスを見て笑い、蒼崎はバジリスクのお腹を撫でていた。
本当はどれもかなりヤバイ魔獣らしいんだけど、誰が見たってこれはただの触れ合いコーナーにしかみえない。
御蔭で皆暖かな眼差しで蒼崎達を見てる。いや、悪くはないんだけど、俺の使い魔を探しに来たんだからね。
取りあえず…………俺の未だ見ぬ使い魔を探して、更に進むことにしようか。
「あははは、困りましたね。コレだと動けません」
「そうね。でも、こうしてるとあの時の子猫を思い出すわ。あの時もこうして二人の膝の上で寝られちゃって動けなかったものね」
と、思ったのにトラブル発生。ケルベロスの幼体が二人の膝の上で寝始めたらしい。
そのせいで蒼崎達は動けないようだ。するとレイナーレさんは身体を蒼崎に預けるようにくっつき始めた。
「少し歩き疲れちゃったし、こうして湊君で休ませて貰っていい? この子みたいに」
「えぇ、構いませんよ。僕も少し疲れましたから丁度良いですし、何より……レイナーレさんに甘えて貰えるのは嬉しいですから」
「うん、湊君………ん……」
結論…………急いで使い魔を探そう。
そうじゃないと、この場でテロが始まるに違いない。
っていうか、この二人が揃えば魔獣ですらただの恋のキューピットにしかならないってヤバイだろ! 一刻も早く見つけないと。
俺はそう……強く思った。