堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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今回はあまり甘くないです。
そして名探偵っぷりを発揮する主人公。


番外10 彼と彼女と部長の婚約者

 いやぁ~、最近本当に鍛えられたと思う兵藤 一誠です。

いや、マジな話だよ。何せヴァーリの野郎に毎日鬼のように鍛えられてるんだから。

アイツ曰く、

 

『君を俺と互角以上にするためには、この程度では生温いくらいだ』

 

だってさ。何、アイツは人のことを殺したいの?

だってアイツのトレーニングの内容、酷いんだぜ。木場に話してみたら、木場の奴は顔を真っ青にしながら苦笑してたよ。いつも笑顔を絶やさないアイツがそうなるってどれだけハードだよって聞いてから思ったくらいだ。最初の方なんて特に酷くて、学校に行けなかったり行けてもくたばってたり。

その所為なのか、周りからは何やら奇妙な目で見られる始末。女子から少しでも心配して貰えたのは嬉しいけどな!

今では授業を受けられる程度に慣れて、お陰様、木場と同じ位の速さで走れるようになったし、小猫ちゃんと同じくらい重い物を持てるようになった。確かに悪魔としてより強くなれたとは思う。

だけどさ………そうじゃないんだよ。

俺が目指してるのは、『最強の悪魔』でも『最強の赤龍帝』でもない。

 

ハーレムなんだよ!!

 

そう、当初の目的が薄れるくらいトレーニングは苛烈だったけど、それこそが俺の本懐なんだ。そのためにあんな地獄を味わっているのだから。

そして何より、目の前で見せつけられれば誰だって羨ましくなるだろ。

 

蒼崎とレイナーレさんのイチャつきっぷりをさ!

 

こっちは汗水血反吐を出しつつも必死になってやってる中、二人は俺の隣でイチャイチャしてる。何コレ? 格差社会って奴か? クソッ、リア充が!

落ち着け、俺………。それにヴァーリも言っていたじゃないか。

 

『君もミナトを見習うと良い。彼ほど精神が強い者を俺は見たことがない。精神の強さに於いて、彼はある意味魔王以上だぞ。特にあの目は必見だ。彼の前で隠し事は出来そうにない』

 

それがどういうことなのか、俺はまだ理解出来ていなかったんだよなぁ。

 

 

 

 前日にちょっとした所ではない出来事があった翌日の放課後、俺は木場とアーシア、それと蒼崎とレイナーレさんのバカップルコンビ(誤字にあらず)と一緒に部室に向かう。

それ自体はいつもと同じだけど、この時の俺はいつも通りとは言えなかった。

何せ昨日、部長が家に転移してきたと思ったらいきなりあんな事を言い出したのだ。いつも俺をエッチに可愛く誘惑する部長だけど、あんな風に切羽詰まったことは今までなかった。きっと何かあったのかもしれない。だから俺はそれが気になって仕方ないんだ。

そして少しでもそれを解決するためにも、俺は皆に相談することにしたんだ。

 

「部長のお悩みねぇ……たぶんグレモリー家に関わることじゃないかな」

「ってことは朱乃さんなら何か知ってるかなぁ」

「あの人は部長の懐刀だからおそらくはね」

 

木場がそう言うと、レイナーレさんが不思議そうな顔で答える。

 

「朱乃も大変よね。きっとグレモリー家ってことは、妙に格式高くて気苦労が多そうな感じだし。その点、堕天使陣営は特に家名とかないし」

 

どうやら堕天使には貴族はいないらしい。レイナーレさん曰く、上級や下級の差は純粋な能力主義らしい。因みにレイナーレさんは下級よりの中級らしい。

それを聞いた蒼崎はレイナーレさんに笑いかけるんだけど、少しして表情が変わった。

いや、いつもと笑顔なのは変わらないんだけど、その目が少し違っているように感じられた。

そして蒼崎は木場に向かってこう言ったんだ。

 

「すみません、木場君。部室に今誰が居るか分かりませんか? 何だか、部長でも姫島先輩でもない気配を感じます。それに……何だろう、何か隠れているような、そんな感じがします」

 

そう言われた木場は少し集中して、顔を真面目な物に変えた。

 

「まさか蒼崎君が気付くなんて思わなかったよ。此処に来て僕も言われるまで気付かなかったのに……」

 

それと共に、レイナーレさんも顔を強ばらせながら言う。

 

「この気配、最上級悪魔!? それも魔王に近いくらい強い!」

 

その事実に恐怖したのか、少し震えているらしく蒼崎が彼女の手を優しく握る。それを感じてレイナーレさんは蒼崎の顔を見た。

そこにあるのは見る者を安心させる暖かな微笑み。蒼崎のそれは男の俺が見てもわかるくらい安心感を覚える。

 

「大丈夫ですよ、レイナーレさん。きっと何とかなりますから。だから安心して下さい……ね」

「湊君………」

 

そのまま見つめ合う二人。顔は互いに赤身を増し、何やら二人だけの世界を作りつつあった。あれ? 何やらピンク色の空気が見える様な気が………それに空気が甘い?

 

「と、取りあえず、みんな、いくぞ!」

 

俺はその雰囲気に耐えきれず、皆にそう声をかけて部室へと急いだ。何やら敗北感があったけど、今はそれを気にしている場合じゃない。

 そして部室に入ると、そこには昨日見知った人が立っていた。

 

「ちわーすッ……って、グレイフィアさん!?」

 

そこに居たのは綺麗な銀髪をしたメイドさん。部長の家でメイドをしているらしいグレイフィアさんだった。昨日家で部長が押しかけてきた後に転移してきて、その時に軽く教えて貰った。

グレイフィアさんの登場に驚く木場達。ただし、蒼崎やアーシアは驚いたりしていない。何せグレイフィアさんのことを知らないから。

そして深刻な顔をしている部長にグレイフィアさんは自分から話しましょうかと言ったが、部長はそれを手で制して自分の口で何かを言おうとした。きっと昨日の件と絶対に何か関係があるのだろう。流石に緊張する。

しかし、部長からその案件が口から出ることはなかった。

何故なら、突如として部室の床に転移魔法陣が現れ、部室内を炎が吹き荒れたから。

 

「湊君、危ない!」

 

後ろにいるレイナーレさんが蒼崎を庇った声が聞こえたが、俺はそれに目を向ける余裕はなかった。

何せ目の前の炎から現れた男に目が向いていたからだ。

そして炎が収まると共に、真っ赤なスーツを着た如何にもチャラそうなホスト風の男が此方を向いた。

 

「ふぅ、人間界は久々だ………会いに来たぜ、リアス」

 

その発言と共にグレイフィアさんから聞かされるこの男の正体。ライザー・フェニックス……部長の婚約者。

はぁ? 巫山戯んじゃねぇよ! いきなりそんなこと言われたって困るっての。

そう思ってると、ライザーとやらは訝しんだ顔でこっちを見てきた。

 

「何故この場に汚らわしい堕天使と醜い人間がいるんだ?」

 

それは俺達じゃなくて、蒼崎達のことだった。

そう言われた途端、レイナーレさんが怒りを込めた視線でライザーを睨み付け、直ぐにでも攻撃しそうな雰囲気を出し始める。アーシアはライザーが恐いのか彼女の後ろに隠れた。

そして蒼崎は………レイナーレさんを片手で押さえていた。

 

「すみません、ライザーさん……でよろしいですか?」

「何だ、人間?」

 

蒼崎は笑顔で話しかけるが、その目は何というか……恐い。笑ってないわけじゃないんだ。ただ、その……何故か恐いと思ったんだ、その笑みが。

蒼崎はそんな恐い笑みを浮かべながらライザーに話しかける。

 

「別に僕のことを悪く言うのは構いません。元から自分が美しいなんて思っていませんから。でも……レイナーレさんのことを悪く言うのは辞めて下さい。彼女は汚らわしくなんてありません。僕の知る限り、世界で一番美しい人です」

「湊君………」

 

格好いい事を恥じらいもなく普通に言ったよ、こいつ。しかもまったく臭く感じない。本心からの答えって感じ。コレが彼女持ちとモテない俺達の差なのだろうか。

真っ正面からそう言われ、何故かライザーがたじろいだ。

しゃべり方や雰囲気から如何にも人を見下してるプライドの高い奴なんだろうけど、蒼崎のあの笑みに畏れを抱いたみたいだ。やっぱり恐いよな、あれ。

そのまま蒼崎にライザーが噛み付くかと思ったが、その前にグレイフィアさんから止めが入った。

 

「ライザー様、お控え下さい。まず、この場に堕天使であるレイナーレ様がおられるのは、親善大使としての業務故です。悪魔陣営と堕天使陣営が休戦協定を結んだことは知っておいでですよね。あの御方は堕天使陣営の代表としてこの学園に親善大使として来ているのです。下手なことをして彼女を精神的物理的苦痛を与えた場合、堕天使陣営は全戦力をもってして悪魔陣営と戦争を仕掛けると仰っています。両者の平和のためにも、あまり軽薄なことは成さないで下さい」

 

そう言われライザーの顔が青ざめる。

まさかレイナーレさんにそんな肩書きがあるなんて知らなかったから驚いたぜ。ってことは何? この人って凄い偉いの?

 

「又、そこの御方……蒼崎 湊様はレイナーレ様の婚約者であらせられます。確かに彼は人間ですが、その立場は堕天使陣営によって確保されていて、レイナーレ様と同等の立場にあります。お二人に手を出すということは即戦争だと判断してよろしいので、断じて下手なことは仰らないようお願いします、ライザー様」

 

え、蒼崎ってそんなに偉いの!

 

「あの、レイナーレさん、僕っていつの間にそんなことになってたんですか?」

 

どうやら蒼崎も知らなかったらしい。本人も知らないうちにVIP扱いなんて……ちょっと恐くないか、それ。

そう思いつつ偉い親善大使のレイナーレさんは……。

 

「そ、そんな、婚約者だなんて……で、でも、確かに湊君、あの時ずっと一緒にいようって言ってくれたし……でも、そんな、まだ速いわ…ま、まだ大人のキスとかもしてないし……でも、湊君が望むなら私は……そんなはしたないこと出来ないわよ~」

 

顔を真っ赤にして色々と思い出してはキャーキャー言っていた。

その様子はとても可愛らしく、蒼崎も自分の事よりもレイナーレさんのことを見て顔を赤くしつつも嬉しそうに笑う。

あれ? さっきまで深刻な話のハズだったよね? ライザーも二人の話に流されてどうして良いのか分からないって感じに戸惑ってるよ。

さて、そんなわけで雰囲気をぶち壊されたライザーは少し大人しくなったのか、ソファーに座る。

そして改めて話し始めた内容が『部長との結婚』について。

話の内容から察するに、純血悪魔の血統を残すために、貴族間ではこういう縁談が多いらしい。

そして部長は勿論ライザーを否定した。

家の為にそうすることは分かってるけど、それは自分が納得した相手じゃないと駄目だと。それに対し、ライザーは此方もそうは引けないと言う。純血悪魔は数が少ないからこそ、尊い。それを守るのは上級悪魔としての義務であり誇りだと。

それを聞いていたレイナーレさんは何やら馬鹿らしいと言った顔で口を開いた。

 

「さっきから聞いていれば馬鹿馬鹿しい。何、その前時代的な考え方。リアス、もっと貴女ははっきり言って良い。『私はアンタなんかと付き合う気はないって』。好きでもない相手と結婚するなんて間違ってる。もしそうして家が守られても、お互いに不幸になるのが丸わかりなのに……馬鹿みたい」

 

それを聞いた部長は軽く頷き、ライザーは額に青筋を浮かべた。

 

「親善大使殿、いくら貴女でもそれは言い過ぎではないだろうか。あまり関係ない者がしゃしゃり出るものではないぞ」

 

そう言われレイナーレさんは殺気だった視線を受けつつも、ライザーにはっきりと答える。

 

「私はリアスの友人よ。友人の恋路を応援したいのは当たり前だし、逆に望まない結婚を強いられるのを黙って見ていられるほど薄情でもないわ」

 

そして火花をちらつかせる二人。さっきから俺は恐くて仕方ないよ。

そんな雰囲気になったのをグレイフィアさんは止めに入る。そんな両者睨み合いの中、グレイフィアさんから伝えられたのが『レーティングゲーム』。

何でも上級悪魔同士が自分と配下達と共に戦い合うゲームらしい。それを行い、勝った方の言い分を聞くという話になった。

だが、ここで問題が発生した。

何でもこのゲーム、本来の人数で行う場合は十五人必要なんだとか。それに対し、部長側はその半分以下。あまりにも勝負にならない。

それを証明するかのように、ライザーは自分の眷属をこの場に召喚した。

 

「見ろ、これが俺のハーレムだ! 勿論リアス、君は正妻だ」

 

そして現れたのは、全員凄い美女美少女達。

あ、あれが俺が目指しているものなのか………くそ、羨ましくて涙が出て来る。

 

「な、なぁ、リアス。あそこで泣いている君の下僕はどうしたんだ?」

「あの子、ハーレムに憧れてるのよ」

 

部長の少し呆れた声が聞こえたけど、それでも俺は羨ましいんだよ。

そしてライザーはそれを見てニヤリと笑うと、近くに居た一番年上のお姉様の名を呼んで抱き寄せる。そして………。

 

大人のキスをしやがった!

 

いきなり何してるんだ、あの野郎! しかも胸まで揉みまくって……クソ~!

 

「お前じゃ永遠にこんな事は出来まい、下級悪魔君?」

 

滅茶苦茶馬鹿にされた。ヤバイ、今すぐにでもぶん殴りたい。

そう思って野郎を殴ろうと思ったんだけど、それをやんわりと押さえられた。

その手の持ち主は……蒼崎だった。

蒼崎は俺の前を行くと、ライザーとその女王の人に話しかける。

 

「すみません、ちょっといいですか?」

「む……」

 

流石に今回は噛み付かないライザー。今の蒼崎はさっきと同じ恐い笑みを浮かべているだけに警戒したらしい。

 

「何故、いきなりそんなことをしたんですか?」

 

何だろう、この恐い感じ。凄くぞわりとする。

 

「いや何、そこの下級悪魔君が羨ましそうだったからね。見せつけようと思ったのさ。これが純血の貴族たる上級悪魔と下級悪魔の差だとね」

 

それを聞いた蒼崎はまったくかわらない。

あの笑顔を浮かべたままだ。

 

「そうですか………そんなに肩肘張るのは良くないですよ」

「何?」

 

そう言われライザーは訝しむ。

この場でいきなりライザーに何を言ってるんだ、蒼崎は?

すると蒼崎はレイナーレさんの方に顔を向けた。

 

「レイナーレさん、お茶を淹れて貰えませんか」

「うん」

 

いきなりの事なのにレイナーレさんは普通にそれに応じる。

そして蒼崎は更に踏み込んだ。

 

「えっと……そうですね……そこの方」

「え、私ですか?」

「はい、そうです。お客様にお茶を淹れて貰うのは恥じ入る事なのですが、申し訳無いのですがライザーさんにお茶を淹れて貰えませんか」

 

そう言われ急に驚いたライザーの眷属の女の子。その子は何故か蒼崎の言うことを素直に従いレイナーレさんと一緒にお茶を淹れ始める。

そして蒼崎とライザーの元にお茶が来た所で蒼崎は改めて話し始める。

 

「先程から貴方はずっと口にされていましたね。純血悪魔のため、悪魔の未来のためだと」

「それがどうしたのか?」

 

そう問われ、蒼崎は微笑んだ。

 

「はい、凄く。そこに貴方の意思がないことに」

「ッ!? そ、そんなことはない!」

 

焦り始めるライザーを見て、蒼崎はまるで父親のような眼差しでライザーに話しかける。

 

「だからですよ。今の貴方からは妙に緊張が感じられます。それは本心では思っていないことを言わされているから。貴方の本音では、この結婚は……反対ですね」

 

そう言われ、ライザーは違うと首を横に振る。

だが、湊の目は逸れない。

 

「それだけじゃないですよ。貴方は先程、自分の配下の人達を呼び出した際、『眷属』と言わず『ハーレム』と言いました。それはつまり、その女性達は皆自分のことを愛しているんだと、また自分も彼女達を愛しているんだと、そう言うことです。相思相愛の関係にあると断言している。普通、婚約者の前でそんなことは言いませんよね。そして極めつけは先程のキス。あれは兵藤君に見せているように言ってきましたけど、本当は違う。グレモリー先輩に向けていたのではないですか?」

 

ライザーの顔がどんどん青ざめていく。

それままるで蒼崎に考えていることが全て読まれているようだ。

探偵よりも明確過ぎて、逆に恐すぎるんだけど、蒼崎。

 

「きっと貴方の中では、お家であるフェニックス家の看板を大切にしたい。でも、彼女達を愛していることもこの場ではっきりさせたい。グレモリー先輩との結婚は仕方ない事だけど、それでも自分は彼女達を愛しているのだと、そう彼女達に言いたかったんじゃないですか」

 

それを聞いて、ライザーは身体を震わせた後、深い溜息を吐いた。

 

「まさか……このように見抜かれるとは思っていなかった」

 

そして顔を上げたライザーの顔は何やら疲れた様子だった。

 

「人間である君にそこまで読まれるとは思わなかった。その力は神器か?」

「僕に特別な力なんてありませんよ。ただ僕にはそう感じられた……それだけです」

 

そう答える蒼崎にライザーは軽く笑い掛かる。

 

「参った、完敗だよ。正直に言おう、俺だって本音で言えば反対だ。確かにリアスは美人だけど、俺は俺の好きな女達がいる。彼女達を愛し、そして愛されてる。だから本当はしたくない。だけど此方にも体裁やしがらみがあってね。どうしても避けることが出来ないんだ。だからせめて、彼女達の前でこうやってでも安心させたかった。本当は俺だってリアスの意見に賛成なんだ。確かに純血は尊いのかもしれないが、だからって好きでもない女との結婚なんて誰だって嫌さ。それが互いの不幸になるって話だって良く分かる。家の為と覚悟を決めて嫌われてでも推し進めるしかないと思っていたんだ」

 

あれ? ってことは、ライザーも実は反対だったのか、この結婚?

なのに何であんな真似するかねぇ。

蒼崎はそれを聞いて軽く頷くと、グレイフィアさんの方を向いた。

 

「ご両人の意見は一致しているようですが、どうでしょうか? きっとそのゲームは避けられないのでしょう。ならばせめて、『引き分け』にしては」

「レーティングゲームは神聖なものです。それで八百長をするというのは」

 

反対するグレイフィアさんに蒼崎は微笑みかけた。

 

「『非公式』なら正式じゃないんですから神聖も何もないですよ。それにこう言っては良くないですけど……貴女も本当は知っていましたよね。両人にその気がないことを。そしてそれは貴女の上司の方も御存知だと思われます。つまり引き分けはその上司の本意……違いますか?」

 

そう言われ、グレイフィアさんは少し止まった後、軽く頷き蒼崎に返した。

 

「わかりました。そう『主』には伝えておきます」

 

そして引き下がるグレイフィアさん。その様子に部長ですら驚きが隠せないようだ。

その場にあった今までの雰囲気は霧散し、何やら穏やかな雰囲気が流れ始めるのを感じる。

ライザーは肩の荷が下りたかのようなスッキリとした顔で蒼崎に話しかけた。

 

「それにしても、よく分かったな。正直此方の考えが全てと読まれたかと思って内心では恐かったよ」

 

それに対し蒼崎は苦笑しつつ答える。

 

「別に何てことはないですよ。ただ、僕と同じだと思っただけです」

「どういうことだ?」

 

蒼崎はそう答えると、レイナーレさんを見つめた。

 

「僕は彼女の事が大好きです。その想いは誰にも負けません。そしてそんな想いを貴方からも感じたんですよ。先程のキス、あの人を思いやる気持ちを感じると共に、このような場所で見世物にするような真似をしてすまないという謝罪が感じられました。だからきっと、あぁ、そうなんだって思いまして」

「湊君………」

 

何、この惚気話。しかもあのキス見てどう考えたらそんな答えに行き着くんだよ。え、これが恋人が居る人間とそうじゃない奴の差だって? うっさいわ、ボケ。

そして蒼崎は出されたお茶に口を付ける。

 

「ん、美味しいです。やっぱりレイナーレさんの淹れてくれるお茶は美味しいですね」

「あ、ありがとう……湊君のために頑張ってるから、そう言ってくれると嬉しい……」

 

顔を赤くして恥じらいつつも喜ぶレイナーレさん。

そしてライザーもお茶を淹れたその女の子に礼を言う。

すると蒼崎は少し気持ち悪いことを言い出した。

 

「ライザーさん、そのお茶と僕のこのお茶を交換してみませんか?」

「え?」

 

流石に男同士で間接キスはないわ~。

そう思ってライザーは断ると思ったけど、素直に交換した。何、アイツそっちの気もあるの?

そして交換したお茶を二人で一口飲み、そして蒼崎は笑いかける。

 

「最初のお茶と交換したお茶、どっちが美味しいですか?」

 

その質問に対し、ライザーは自信を持って答える。

 

「愚問だな。そんなもの……」

 

そして二人同時に答えた。

 

「「最初のお茶の方が美味しい」」

 

そして互いに笑い合う二人。

 

「それは当たり前ですよね。だって大好きな人が自分のことを想って淹れてくれたんですから」

「その想いが感じられるからこそ美味いんだ。確かに茶としての味ではそこまで差はないのかもしれい。しかし、想いの差は歴然だ。何せ交換した茶には『自分への想い』など入っていないのだからな」

 

なんだ、この高次元の話し合いは? 俺は別の意味で恐くなってきたよ。

そして互いに認め合ったのか親しげに話し合うライザーと蒼崎。

どうやらこの結婚騒動も難なく終わりそうだ。

 

 

 こうしてレーティングゲームは行いこそすれど、引き分けとなり婚約は無しになった。

尚…………。

 

「君はハーレムと聞いて驚かないんだな。日本人は一夫一妻制故にそう言うことに忌避感を覚えるものだが?」

「世界的には一夫多妻の国もありますから。それにある意味では感心します。それだけ不満無く女性達を平等に愛せるんですから。僕にそんなことはできません。僕は………レイナーレさんに全部の愛を注ぎたいから」

「み、湊君……あぅあぅ、ど、どうしよう……嬉しい過ぎてどうにかなっちゃうかも……」

 

それを聞いてレイナーレさんは顔から蒸気を出して悶えていた。

何、この勝者の余裕。見てて心が痛いんだけど。

 

「あぁ、それと……眷属の一人に妹が居るんだ」

「いや、それはちょっと………」

 

ざまぁみろ………。


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