お、オッス、兵藤 一誠だ。
オカルト研究部に入って毎日を忙しなく過ごしている今日この頃。悪魔家業に精を出し、日々上級悪魔への道を着々と進んでる。
俺に与えられた駒は『兵士』、一番弱い駒だってことでへこんでたけど、敵地に入れば王以外の全部の駒の能力を使えるっていう便利な部分もあるんだ。将棋の成り金みたいなもんだな。結構あれって使えるんだぜ。敵陣に入るまでが大変何だけどさ。
蒼崎とレイナーレさんを見ていてハーレムってどうなのかって疑問を感じるけど、それでも俺は……………。
モテたいんだ!
女の子と手を繋いで一緒に登校したり、楽しくお喋りしたり、一緒にお弁当食べたり、デートしたり、そんでもって出来ればキスとかさ…………出来ればその先まで行って、そ、その……おっぱいもんだり、吸わせて貰ったりとかさ……ぐふふ。
おいそこ、気持ち悪いとか言うな!
だって男子高校生なんだぜ! そう思うのは当たり前じゃねぇか! 溢れるリビドーを押さえきれない年頃なんだよ! 男だったら分かんだろ。女体の神秘に触れたいとかさ、おっぱいを心ゆくまで弄り回したいとか。
え、下心丸出しだって? 良いんだよ、これが年頃の男なんだからなぁ。男なんて皆スケベなんです!………ってよくよく考えたら、
蒼崎はその殆どを堪能してるじゃねぇか!?
毎日レイナーレさんと一緒に手を繋いで登校してるし、いつも幸せそうに話してるし、昼飯なんてアレだぜ、はい、あ~んって食べさせ合ってることが多いし、部活で思いっきり見せつけた後は一緒に仲良く手を繋いで変えるし。
それに恋人同士なんだから一緒にデートに行ったりもするんだろ? 一緒にカフェに入ってパフェを食べさせ合ったりするわけ? 一緒にお買い物に行って新婚さんみたいな雰囲気出すの?
更に考えれば蒼崎とレイナーレさんって一緒に住んでるんだろ? 何その同棲? 何、トラブっちゃうの? お風呂で鉢合ってエッチとか言われちゃうの? 挙げ句は一緒の布団やベットで『ニャンニャン』しちゃうわけ?
クソがッ! そう思ったら殺意しか湧いてこない。
確かに蒼崎の御蔭でオカルト研究部に入れたよ。でもなぁ、それでも許せないものがあると思うんだ、俺はさ。
え? ただの僻みだって? うっさいわ! 俺だって部長や朱乃さんにそんな風にして貰いたいの! 一緒にデートしてパフェ食べさせ合いたいの!
木場だったら喜んでしてくれるって? おい、誰だよ、そんな腐女子思考な奴! 誰が野郎にして貰って嬉しいんだっての!
俺は女の子にして貰いたいんであって、野郎なんてこっちから願い下げだ!
だからこそ、思うのさ。
もっとモテて女の子とイチャイチャしたい!
蒼崎が羨ましいんだよ、マジで。
だから一早く上級悪魔になって、ハーレムを作るのがその近道なんだって、そう思って頑張ってる。
何だけどなぁ…………………。
現在、学園から離れた公園で俺は汗を掻きまくり苦しんでいた。
流れる汗は止まらず、呼吸が安定せず苦しい。顔は熱が逃れず熱くて真っ赤になり、腕に掛かる負荷はもう限界を超えつつある。
何故そのような苦しみを感じているのかと言えば、誠に嬉しくないことに俺の背中にのしかかってる重みが原因だ。
「何をへばっている、兵藤 一誠! 後10回残っているぞ!」
「う、うるせぇ………何で俺がこんな目に………」
俺の背中の上で立って俺を見下し叱咤を飛ばすのは、銀髪のイケメンだ。
そいつの名はヴァーリ。何でもレイナーレさんの知り合いで、堕天使陣営に所属する凄い強い奴らしい。
何でそんな奴に乗っかられながら腕立て伏せをしているのかと言えば、事の発端は俺の神器の正体が原因だった。
あれから少しして調べたり、俺が時々見る夢の内容を部長に報告したりした結果、俺のこの籠手は『赤龍帝の籠手』っていう凄く強力な神器だってことが判明したんだ。
何せ現在13種類しか判明していない『神滅具』っていう神すら滅ぼせるかもしれないって言う代物なんだからさ。
それを聞いた当時はかなり喜んだよ。そんな凄いのが俺の力なんだってさ。
その性質は『倍化』なんだと。それ自体は通常の神器である『龍の籠手』にもあるけど、この赤龍帝の籠手にはその制限がない。何度でも倍化出来る、倍化に倍化を重ね合わせれば、それこそ神すら殺せるほど強大な力になるんだとか。
マジで凄ぇ、俺の神器!
だけどさ、残念な事に俺自身の力が弱くて倍化してもそこまで一気には跳ね上がらない。元が弱いと倍になっても弱いってことらしい。
せっかく凄い神器を持ってるのに、その使い手が弱いってのはなんだかなぁ……世の中甘くはないらしい。
だから鍛えようって話になって、最初は部長とのワンツーマンで鍛えて貰えるってことになってたんだよ! 部長と二人っきりでくんずほぐれつしっとりと鍛えて貰う………ぐへへへ………。
そう思っていた時が俺にもありました。
それが決定した翌日、部室に行ったらそいつは居たわけさ。
ヴァーリ………今世の白龍皇がな。
何で来たのかと言えば、蒼崎とレイナーレさんに会いに来たらしい。二人とも知り合いらしくて、仲良さげに話してたよ。
初見の感想はむかつくくらい美形のイケメンだった。木場のような王子様って感じじゃなくて、孤高の男みたいな感じか。
それで不機嫌になりつつも俺も軽く挨拶することになったら、ヴァーリから別の声が聞こえたわけだ。
『む、この感じ……ドライグか。ならばこの男は今世の赤龍帝か』
最初はそれにびびったよ。何せいきなり別人の声が聞こえるんだからさ。
そしてヴァーリはその声と話し合うと、俺に不敵な笑みを浮かべながらこう言ってきた。
「君が今世の赤龍帝、俺のライバルか」
最初は分からなかったさ。何言ってんの、コイツって思った。
だけど、その後いきなり左腕が光ったと思ったらやけに渋い声が左腕から聞こえてきたんだから驚いたよ。
そいつはドライグっていう名前で、どうやら俺の籠手に封じられていたらしい。
それでそいつから聞かされたのが、赤龍帝と白龍皇の血塗られた歴史。
そう聞いたが、事の発端はドライグとヴァーリの神器にいるアルビオンの喧嘩っていうじゃないか。どう考えてもとばっちりです。
それで俺達も殺し合いをするの? 俺は絶対にそんなの御免だね。そんなことに時間費やすくらいならおっぱい求めて邁進する方が絶対に良い。
だから聞いたんだよ。
「ってことは、今すぐ俺とあんたは殺し合わなきゃいけないのか?」
その質問に部長達は強ばった顔をしたけど、レイナーレさんと蒼崎とアーシアは普通に笑ってた。物騒な話のはずなのになんでと思ったよ。
それで帰ってきた答えが、
「いいや、それはしばらく先だろう。ぱっと見ですぐ分かったが……君はあまりにも弱すぎる。それこそ蚤がドラゴンの差くらいあるくらいに、俺と君の力の差は絶望的だ」
だってさ。
非情にむかつくけど、ドライグにも言われたよ。今のままじゃ倍化を百回かけたってまず勝てないって。
メタクソに言われて黙ってられるかって思ってさ、だから言ってやったんだよ。
「そこまで言うならみてろよ! 鍛えまくってお前を絶対に超えてやる!」
うん、仕方ないと思うんだ。俺だって男の子なんだ、意地は張りたい。
だけどこれが失敗した。
ヴァーリはそれを聞いて何か考えてると思ったら、何か思いついたようでポンと手を叩いた。
「うん、それも悪くないかもしれないな。自分を倒すと言ってくれたライバルを自分で鍛え育て、やがて強くなったライバルとの師弟対決……悪くない! よし、決めた! 兵藤 一誠、君のことをこれから鍛えようと思う。俺が付きっきりで扱いてやろう」
その結果が現在のこれ。
翌日の放課後に部活に行くとヴァーリが待ち構えていて、捕まった俺はこうして扱かれることに。悪魔になって色々と鍛えることになるんだけど、まず最初は基礎である体力と筋力を鍛えるんだってさ。土台が出来れば次にいくんだと。
だからっていきなり人一人背中に乗せて腕立て百回とか、鬼か! いや、鬼より恐い白龍皇様でした。
あぁ、何でこんなむかつくイケメンとワンツーマンで鍛えられなきゃならねぇんだよ。本来なら部長と一緒にくんずほぐれつキャッキャうふふだったのによぉ。一体俺が何をしたんだ!
そう思いつつもなにくそ根性で残りの回数を熟そうと震える腕の筋肉に鞭を入れて動かす。
「くぉおおおおおおおおお、ファイト~、一発~~~~~!」
「その意気だ、ライバル。さぁ、もっと速くしろ」
くっそ~、そう思いながら腕に力を込める俺。
そんな俺の視界に入ったのは、体操服姿の蒼崎とレイナーレさんだ。
「湊君、頑張って!」
「はい!」
そうそう、蒼崎とレイナーレさんもこの鬼畜染みた特訓に付き添うことになったんだ。
その理由は蒼崎の筋トレなんだとさ。これまでずっと目が見えなかったこともあって、必要最低限しか使われていなかったから筋肉が弱いんだと。体育もずっと休んでいたから、体力も低くて、それでロクに動けないことが発覚した。
それに対しては皆仕方ないって言っていたよ。俺だってそう思う。今までそんな状態なら仕方ないだろうさ。
だけど、蒼崎はそれが嫌だったらしい。
あいつ曰く、
「せっかく動けるようになったんですから、もっとちゃんと動けるようになりたいんです」
だって。
まぁ、分からなくはないけどさ。男としての意地ってのもあるんだろうよ。
だから蒼崎も身体を鍛えるってことになったんだ。その付き添い兼コーチとしてレイナーレさんが同席してるわけ。
だから現在、蒼崎はレイナーレさんに応援されながら腕立て伏せをしてる。
その回数は俺に比べれば天と地の差がある30回。そんな甘いので良いのかよ、と思ったら、ヴァーリ曰く、
「ミナトはまだ病み上がりのようなものだからあれくらいが丁度いいだろう。それに彼は人間だし、別に戦うことを前提にしていない。身体の健康を考えるのならそれぐらいが良い」
だとさ。
何、この差。そりゃあいつは人間で俺は悪魔だけどさ。甘くない?
そしてほぼ同時に俺と蒼崎の腕立て伏せは終わった。
汗だくで地面に倒れ込む俺にかけられたのは、鬼コーチの無慈悲なお言葉だ。
「よし、100回終わり。5分休憩の後に腹筋200回だ」
あまりのお言葉に涙が出てきちまう。何、白龍皇ってのは鬼畜なの?
疲れ切ってくたばってる俺は少しでも気分を変えようと辺りを見回すと、それが俺に目に映った。
「湊君、よく頑張ったね」
「え、えぇ、頑張りました…はぁ、はぁ……」
蒼崎がやりきった様子で倒れてたんだが、その頭は俺と同じ冷たく硬い地面の上には乗っかっていなかった。
アイツの頭はレイナーレさんの膝の上に乗せられている。
そう、つまり膝枕だ!
それもただの膝枕じゃない。レイナーレさんは体操服姿なんだぜ。そしてウチの学校の女子体操着は今じゃ珍しいブルマだ。つまり…………。
太股が思いっきり出てるわけさ!
え? おっぱい好きじゃないのかだって? そりゃ確かにおっぱいが大好きだけど、太股だって嫌いじゃない。
きっと太股ってのはむっちりとしていたり柔らかかったり、おっぱいとはまた違った感触がするに違いない。
そんな俺にとっておっぱいの次に素敵な部分にアイツは今、頭を乗せてるんだ。
一体どんな心地よさがするんだ! 気になってしまう。きっと女子の太股だからいい匂いとかするんだろうなぁ……あぁ……。
短い時間で少しでも回復をしようと目だけを動かして二人を見る俺。
そんな視線に気付く余裕などないのか、二人は互いに恥ずかしそうにしていた。
「レイナーレさん、足、きつくないですか? すみません、地面に座らせてしまって。痛くないですか?」
蒼崎は膝枕されてることを恥ずかしがりつつも、申し訳なさそうにそう言う。
レイナーレさんはそんな蒼崎に温かい笑みを浮かべつつ首を軽く横に振る。
「ううん、大丈夫だよ。それにきつくなんてない。だって、湊君をこうして癒してあげられるんだから。それに……湊君の顔をこうして見つめてられるから……」
うん、相も変わらず恋する乙女は表情だ。見てるこっちがドキドキするくらい可愛い。
そう言われた蒼崎は苦笑を浮かべる。
「顔なんていつも見てるじゃないですか。良く僕の寝顔を見ていますし」
何、アイツはそんなことをして貰ってるのか。どこの幼馴染みキャラだよ。
するとレイナーレさんは顔をもっと赤くしつつ、蒼崎に囁く。
「湊君の顔ならいつでも見ていたいから。それに、こうして頑張ってる湊君の顔を間近で見るのは初めてよ。今の湊君、男の子してるね……可愛い……」
「そ、そう言われると恥ずかしいですね。でも……僕も同じですよ。レイナーレさんのこと、ずっと見ていたいですから」
レイナーレさんの囁き、ばっちり聞こえてますよ。何、その年上のお姉さんみたいな台詞。聞いていてムズ痒さを感じたよ。
しかも蒼崎も蒼崎で随分とこっぱずかしいことを言うなぁ。まぁ、似合ってるから違和感はそこまでないんだけどさ。
「湊君…………もう、嬉しい事を言うんだから……」
「本心ですから」
蒼崎って本当に天然だよな。さらっと普通にそういうことを言うんだから。
それを聞いたレイナーレさんの顔を見てみろよ。凄く赤くなってる。
「もう、湊君ったら……大好き………」
ぶふっ、何その告白! 聞いてて口から白い粉が吹き出したよ!
そしてそう言われた蒼崎も似たような事を返す。そのせいで二人の雰囲気が何やら甘くなっていくのを感じた。
どれくらい時間が経っただろうか? 5分って話だけど、もう20分くらいそうしているような気がする。あの二人を見てると時の流れが遅く感じるよ。勿論、時計はまだ2分しか経ってなかった。
そんな二人は更に行動する。
レイナーレさんは何やらタッパーを取り出し、蓋を開けた。
中に入っているのは、何やら黄色い物体。甘いこの匂いは……ハチミツかな?
「スポーツに良いてヴァーリから聞いたから作ってみたの」
「あぁ、レモンのハチミツ漬けですか。確かにそう聞きますね」
レモンのハチミツ漬けかぁ。疲れた身体に良く効きそうだ。
それを出すと、レイナーレさんは一つ摘まんで蒼崎の前に差しだした。まるでその様子は幼い子供にご飯を食べさせる母親の様に見える。
「湊君、今疲れてて動けないでしょ。だから私が……食べさせてあげる」
その顔はトマトの様に赤く、瞳は潤んでいる。何、そのドキっとする顔。
「はい、あ~~~ん♡」
教室で良く見せつけられてるけど、今回のそれはそれ以上に艶めかしい。何せ箸じゃなくて指で直だから。
そしれ蒼崎は恥ずかしそうにしつつもレイナーレさんの気遣いに甘えて口を開いた。
「あ、あ~~~ん」
そして蒼崎の口に入れられるレモンと指。
っておい、指は入れる必要無かったろ! 蒼崎もそれに驚いたのか目を少し丸くする。
「んぅ………」
きっと驚いた際にレイナーレさんの指を舐めてしまったんだろう。その感触にレイナーレさんの口から艶やかな声が漏れた。
ちょっとちょっと、そういう少しエッチな感じは辞めてくれよ。疲れてるせいで反応しちゃうだろ、男がさ!!
蒼崎はそんなレイナーレさんを見て少し慌てたのだろう。何とか口を動かしてレイナーレさんの指を外に出すと、急いでレモンを咀嚼して飲み込んだ。
「ご、ごめんなさい、レイナーレさん! その、驚いてしまって……」
顔を真っ赤にして謝る蒼崎。
そんな蒼崎にレイナーレさんは負けず劣らずに顔を赤くしつつ、どこか甘えるような声を出した。
「うぅん、大丈夫。その……せっかくだしもっと舐めてくれても……良かったんだよ」
「っ!?」
二人の間の雰囲気がさらに変わり、周りがピンク色になっていくような気がした。それにさっきから胸が痛くなってきた。この感じ……胸焼けか?
そしてレイナーレさんは未だに少し濡れている指をじっと見て…………。
「ペロ………」
舐めやがった! そして蒼崎に顔から火が出るんじゃないかってくらい真っ赤な顔で甘い言葉を囁いた。
「あまぁい……それに……湊君の味がする…………」
その言葉にボンっと顔から蒸気を噴き出す蒼崎。
レイナーレさんはそう言った後、酔いから冷めたようになり、顔を羞恥で真っ赤にしながら蒼崎に謝ってた。
何、この撃甘なやり取り? 激甘どころじゃないよ。貫いてくるんだよ、甘いのが。だから撃甘。
それを眺めていて本当に思う。
俺もあんな風に可愛い女の子に癒されたいなぁ。
しかし、現実は無情である。
「何時まで寝ている、兵藤 一誠!」
「え、もうそんな時間かよ」
「ふむ、口答えする余裕はあるようだな。よし、腹筋を追加で300回にしてやろう。さぁ、喜べ!」
何だろう、本当に。
アイツは恋人に癒され頑張ってる。
対して俺は鬼畜なライバル様に扱かれまくってる。
マジで思うよ、恋人欲しいなぁってさ。