実に仲睦まじく登校する二人。
目が見える様になってから湊は学校に通うことがもっと楽しくなった。それは偏にレイナーレと一緒の時間をより共有出来る事が嬉しいからであり、彼の目に映る学園生活は実に輝いて見える。
そんな二人を周りの人々も祝福してくれている。
二人仲良く一緒に教室に入ると、そこでクラスメイト達から声をかけられた。
「おはよう、レイナーレ、蒼崎君!」
「おはよう、朝から熱々だね~、ヒューヒュー」
「あぁ、本当に幸せそうな顔しちゃって~。羨ましいぞ、このこの~」
主に女子達からのからかいも含めた挨拶に二人は顔を赤らめつつ応じる。
今更のような気もするが、やはりこうして祝福されるのは気恥ずかしくくすぐったく感じるようだ。
「もう、みんなったら、そんなにからかわなくてもいいのに…」
皆から祝って貰えるのは嬉しいが、それでも恥ずかしいレイナーレは頬を赤らめながら俯いてしまう。そんな様子を見て湊は当人ということもあって苦笑するが、内心ではそんな風に恥ずかしがっているレイナーレが可愛いと思ってしまう。
「レイナーレさんって恥ずかしがってる時の顔、凄く可愛いですよね」
「っ!? 湊君、な、何言ってるの、もう~~~~」
湊の発言で顔から上気が噴き出すレイナーレ。彼女は恋人のふとした時に出る爆弾発言に未だに慣れない。しかし、嫌ではなく寧ろ嬉しかったりする。何せその殆どが湊がレイナーレを愛おしいという内容のものが殆どだからだ。
凄く恥ずかしい、けど嬉しい。そんな想いに揺れる乙女心は複雑であり案外単純である。
「相変わらずの蒼崎君の天然爆弾は凄まじいですな~」
「さらっと言ってるのに凄く印象に残りつつ、それでいてまったく嫌味に聞こえない!」
「あぁ、私も恋人にそんなふうに言って貰いたい! 恋人いないけど!」
湊とレイナーレのやり取りを見て更にはやし立てるクラスメイト達。元女子校だけあって女子の比率が多く、それだけに恋愛事に餓えているだけあって皆湊達のやり取りは羨ましく見えるらしい。その言葉でレイナーレは更に真っ赤になってしまう。
「そんなに顔真っ赤にして、レイナーレったら可愛いんだから~」
「蒼崎君とレイナーレさん、いつ見てもお似合いですよね」
「いいなぁ、恋人いいなぁ~!」
こんなやり取りが毎日行われており、それでも飽きないのはある意味凄い。そしてそれに全く慣れず毎度毎度恥じらっているレイナーレと身案とは本当に初心だろう。
そんな二人に元気よく声がかけられた。
「あ、レイナーレさん、ミナトさん、おはようございます!」
「おはよう、アーシア」
「おはようございます、アーシアさん」
声をかけてきたのはこの学園に編入してきた金髪をした可愛らしい少女『アーシア・アルジェント』である。
彼女は表向き、海外から日本に引っ越してきてこの学園に編入になったと言うことになっているので皆から違和感なく迎えられている。実際の背景の事について知っているのはレイナーレと湊だけである。
尚、学園外ではレイナーレのことを様付けで呼ぶアーシアだが、流石にそれは恥ずかしいということもあって学園内や学園の誰かと一緒の時はさん付けに留めて貰っている。それを必死に言い聞かせるレイナーレを見て、湊は少しお姉さんっぽいと思った。
湊からしたら恩人でもあるアーシアに感謝の念が絶えず、とても良く親しくさせてもらっている。会う度に深々と頭を下げてお礼を言う湊にアーシアはタジタジであり、レイナーレもそんな湊を見て、誠実な姿に胸をときめかせている。どっちもどっちである。
「レイナーレさん、昨日教えて貰ったお料理なんですけど上手に出来ました! とっても美味しかったです」
「そう、よかったわ。あれだけどね、隠し味に……」
「え、そうなんですか! 今度試してみますね」
アーシアはレイナーレとの会話に華を咲かせ、実に楽しそうに笑う。そんな二人の様子はまるで姉妹のようで実に微笑ましい。
その様子を見ていて湊はほっこりとした気分になるわけだが、更にそこに一人加わるとまた違った様子を見せ始めた。
「今日も夫婦仲良く登校してきたわね、レイナーレ。アーシアもおはよう」
「あ、桐生さん!」
「ふ、夫婦だなんて……な、何言ってるのよ、藍華!」
三つ編みのをして眼鏡をかけた生徒、『桐生 藍華』がニヤニヤと笑いながらレイナーレをからかうとレイナーレは顔を赤くして照れつつも何処か嬉しそうに返す。彼女はこのクラスの女子の中でも珍しく男子とのやりとりに慣れている女子だ。それ故なのか、よくからかい概があるレイナーレとアーシアは弄くられている。
湊はそんな彼女達のやり取りをニコニコと見守るのが結構好きだったりする。
「何をそんなに恥ずかしがってるのよ。既に同棲してる身でしょ? だったらすることはもうしてるんじゃないの?」
「することですか?」
いかがわしい笑みを浮かべる藍華にアーシアは不思議そうに首を傾げる。そしてレイナーレはそう言われ妙な妄想をしてしまい、顔から蒸気を出してあうあうと慌て始めた。
「な、何言ってるのよ!」
「何って……ナニのことよ」
「っ~~~~~~!?」
更に顔を真っ赤にするレイナーレ。そんなレイナーレを不思議そうに見るアーシア。藍華はそんな二人を更に弄くろうと色々と言う。
「何をそんなに恥ずかしがってるのやら。恋人同士なんだから、もうBくらい済ませてるものじゃない」
「Bって何よ?」
「Bって何ですか?」
まったく分からずに首を傾げる二人。そんな二人を見て藍華は更に笑みを深めた。
湊もその言葉に聞き覚えがないので首を傾げた。
そしてそれを分かってなのか、藍華は二人を呼び寄せ、耳元でその正解を教えた。
「Bっていうのはね……ごにょごにょ……」
「っ~~~~~~~~!?」
「あ、藍華、あなた、はしたないわよ!」
その答えを聞いて真っ赤になって慌てる二人。それを見て愉快そうに笑う藍華。湊はBの答えが分からないが、きっと恥ずかしいことなのだろうと思った。
だが、それでも見ていて楽しいと思う。初めて見る様々な光景はそれだけで湊をドキドキとさせた。
そして藍華に弄りに弄られ顔を真っ赤にしたまま疲れた様子を見せるレイナーレに湊は微笑みかける。
「お疲れ様、レイナーレさん」
「うぅ、ありがとう、湊君」
恋人に労われ、レイナーレは嬉しそうに笑いつつ湊の隣の席に座る。
湊も自分の席に座ると、彼女に話しかけた。
「レイナーレさん……Bって何なんですか?」
その問いにレイナーレの顔はトマトのように真っ赤になって彼女は慌てた。
「み、湊君、その、私達にはまだ早いと思うの! そういうのは、その、結婚してからの方が……で、でも、湊君が望むんだったら、私は……って、何はしたないこと考えてるの、私!! でもでも、大好きな人にはして貰いたいし、湊君にだったらその先でも……」
恋する乙女は暴走しがちであり、レイナーレは熱暴走しかけるくらい顔を真っ赤にしながら暴走していた。
そんな彼女の手を湊は優しく握る。
「あ…………」
その感触にそれまで暴走していたレイナーレの口から声が漏れた。
湊はそんなレイナーレの顔を見つめて微笑む。
「落ち着いて下さい。レイナーレさんがそんなに取り乱すということは、きっと大切なことなんですよね。だったら、何も今答えを出さなくても大丈夫ですよ。僕はちゃんと待ってますから」
「湊君…………」
湊の優しさを受けて胸をきゅんとさせるレイナーレ。
そんな彼女に湊は再び爆弾を落とす。
「それに………それが何なのかはわかりませんけど、それで慌てるレイナーレさんもまた可愛かったですよ。こう、頭を撫でたくなるような可愛らしさでした」
「っ!? み、湊君、恥ずかしい………」
爆弾が炸裂し、レイナーレは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
そんな彼女の頭に湊はそっと手を乗せた。
「あ…………」
驚きの声をあげるレイナーレに湊は笑みを浮かべながら彼女の頭に乗せた手をゆっくりと動かし撫でる。
「レイナーレさんの髪、気持ち良い感じですね。ずっと触っていたくなる……」
その言葉にレイナーレは瞳を潤ませつつも、真っ赤になった顔で少し嬉しそうに笑い小さく頷いた。
「そ、そう……だったら嬉しいかも……」
恥じらいつつも嬉しそうなレイナーレ。大好きな恋人に褒めて貰えることは彼女にとって最高に嬉しいことだから、幸せそうに笑った。
そして予鈴がなるまでそうしている二人。その光景にクラスの女子達は見入ってしまい、アーシアもレイナーレに尊敬の眼差しを送る。
そんな二人を見て、唯一祝福出来ない三人。
「くそ、見せつけやがって!」
「あぁ、何この激甘空間! 俺も彼女欲しい!」
「あぁ、イケメンなんて死ねばいいのに………」
変態三人組だけは血涙と口から白いナニカを吐きつつ妬みを発揮していた。
こうして朝のSHRが始まるのであった。