目が見える様になって、湊の登校もまた変わった。
今まで歩いて来た通学路。しかし、初めて見るその光景は彼にはとても輝いて見えた。
特に素晴らしく感じたのは、同じ制服を着て歩いて行く学生達。皆これから学校に行くにあたって様々な表情を浮かべる。楽しそうに笑う者、苦手な授業があるので気難しい顔をする者、昨日夜更かししたのか眠そうに目を擦る者など様々だ。
その中でも一際輝いて見えるのは、隣で嬉しそうに微笑む愛おしい恋人の笑顔だ。
それを間近で見られることは凄く幸せだと湊は思う。
しかし………。
「あの、レイナーレさん?」
「何、湊君?」
湊は自分をリードするように手を繋ぐレイナーレに話しかけると、彼女は話しかけられたことが嬉しいのか笑顔で返す。その笑顔にドキッとする湊だが、その前に言うべきことがある。
「その……もう目が見えるんですから、こんな風に手を引いて貰わなくても平気ですよ」
そう、今までは目が見えないこともあって手を繋いで貰った方が安心出来た。
しかし、今はもう見えるのだから繋いで貰う理由などないのだ。
勿論、湊も本心では嬉しいと思っている。しかし、それ以上に周りをあるく人達の注目を集めていることは少し恥ずかしいのだ。
そう言われると、レイナーレは少し悲しそうな顔を湊に向ける。
「もしかして嫌……だった?」
「っ!?」
心がズキリと痛み、顔を顰めてしまう湊。誰だって好きな人を悲しませたくなどない。
だからこそ、湊は正直に答える。
「いえ、そんなことないですよ。僕はレイナーレさんと手を繋いで歩けることが嬉しいです。こうして一緒に登校することが出来て、隣で微笑んでくれるレイナーレさんがいることが幸せですよ」
「湊君…………うん!」
湊の言葉に瞳を潤ませるレイナーレ。そしてその喜びを表すかのように湊の腕に自分の腕を絡めた。
いきなり密着されて戸惑う湊。
そんな湊にレイナーレは顔を赤らめつつ嬉しそうに言う。
「前は湊君の安全のためにも繋いでた。勿論、大好きだから繋ぎたかったしね。これからは湊君ともっと一緒にいたいから繋ぐの。だって………大好きだから」
「っ!?」
更にこの言葉が湊の心臓の鼓動に拍車をかけた。
前から好きだった。でも、今はそれ以上に彼女のことが愛おしかった。
現金と言えば聞こえは悪いだろう。そう言われても仕方ないとも思っている。それでもだ。湊はレイナーレに心奪われていた。
初めて彼女を見た時から、好きだと思う気持ちがさらに膨れ上がった。
こんな自分を好いてくれる女性がこんなにも美しく可憐な人だと思わなかった。そんんな綺麗な人が自分を好きだと慕ってくれる。これほど幸せなことはないだろう。
世間から見ても、レイナーレはかなりの美人だ。それこそ、下手なアイドルなんかよりも余程可愛い。グラビアアイドルに引けを取らない抜群のスタイルに凜々しさと可愛らしさが双方とも際立つ顔。そのような魅力的な身体に可愛い初心な心。
それらは全てに於いて男心をくすぐるののだ。
そんな美人で可愛い女性が恋人というのだから、嬉しくないわけがない。
湊はそんなレイナーレの惹かれる笑みを見て、ドキドキしながら答える。
「その………嬉しいです。僕もレイナーレさんともっと一緒にいたいって思ってますから」
「湊君………」
湊の返事を聞いて赤らめた頬を更に紅潮させつつ、幸せそうに笑うレイナーレ。
そんな彼女の顔に心臓が壊れるんじゃないかと思うくらいドキドキする湊。
二人ともドキドキと胸を高鳴らせていたが、心はとても暖かで満たされていた。
そしてレイナーレはそんな湊に更に身体を寄せ始める。まるで身体を預けるかのように。その結果、少し歩きづらくなった。
「レイナーレさん?」
「何、湊君?」
身を寄せ合うように歩く二人。
レイナーレは湊の腕を抱きしめながら腕を絡ませ、湊に密着する。
腕が服越しとは言え分かるほど大きい胸に挟まれ、視覚と感触の二つで湊の顔は真っ赤になった。思秋期の男にとってこれは刺激が強いものだ。
「その……歩きづらくないですか?」
「まぁ、少しだけね。だけどいいの。だって……湊君ともっとくっついていたいから」
そう言われてはどうしようもない湊。
実際の所、彼も又レイナーレ一緒に居られることが嬉しいのだから。
互いの体温を感じられる程に近くで、お互いの存在を確かめ合うかのように身を寄せる。
レイナーレは湊の腕にくっつきながら幸せそうに微笑む。
「湊君の腕……やっぱり男の人の腕だね。しっかりしてる感じがする」
「レイナーレさんの腕はスベスベしてて凄く柔らかくて、その……凄く女の子の腕って感じです…」
互いの感想を言い合い、そして気恥ずかしさから顔を赤くする。
互いの性を自覚すると、もっと赤くなっていく顔。そしてそれ以上に胸が温かくなる。幸せを共に感じ、もっとくっつきたくなる二人。流石に人前で抱きしめる程大胆には慣れないので、その程度に抑えていくが、それでも一緒に居られることが嬉しい。
二人は絡め合った腕を見て笑い合う。
「ねぇ、湊君」
「何ですか、レイナーレさん」
先程から続くやり取りだが、飽きはない。寧ろ大好きな人がどのようなことを聞いてくれるのか楽しみでさえある。
レイナーレは湊に話しかけると顔を赤らめ瞳を潤ませながら言う。
「私の夢、また一つ叶っちゃった。大好きな人とこうして恋人繋ぎで一緒に登校すること。えへへへへ」
その言葉に顔を赤くする湊。可愛いレイナーレからそう言われれば、誰だってそうなるだろう。
だが、それだけでは彼女に申し訳無い。彼女の想いに湊もまた答える。
「僕も叶いましたよ、夢。レイナーレさんの笑顔を見ながら一緒にこうやって手を繋ぎながら登校すること。凄く………幸せです」
「うん、私も……凄く幸せ。湊君………大好き♡」
そして二人とも互いにトキメキつつ、一緒に身を寄せ合いながら歩いて行く。
これが目が見える様になってからの登校模様。
そしてその結果が、周りの人達が急いでコンビニに駆け寄ったり自販機へと集まるというものであった。何を買ったのかは………内緒だ。