堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

86 / 119
さぁ、皆さんお待ちかねの『砂糖テロ』のお時間です。ヒャッハーーーーーーーー!!


番外2話 彼と彼女の朝模様

 目が見えるようになり、湊の生活は激変した。

昔は当たり前のように映っていたもの。しかし、時が経った今ではその時のことですら思い出せない。故に目に映るのは、真新しい世界そのものだ。

彼はその新たなる世界に胸を躍らせつつ、最愛の人と一緒に居られる幸せを謳歌している。

 

 

 朝になり湊は目を覚ます。

それは今までとは変わらないが、今は違う。新鮮で色鮮やかな世界が映り、そして大好きな恋人の実に嬉しそうな笑顔で自分を見ている。

 

「おはよう、湊君♪」

「おはようございます、レイナーレさん」

 

その事に恥ずかしさと嬉しさを感じる湊。レイナーレはそんな彼に優しく微笑みかける。

 

「今日も湊君の寝顔、可愛かったよ……無邪気な感じで……」

「あ、あはははは、あまりそう言わないで下さい。その……少し恥ずかしいですから」

 

寝顔を見られたことで恥ずかしがる湊。そんな彼にレイナーレは頬を赤らめる。

 

「でも、そんな風に恥ずかしがってる所も可愛いと思う…」

「ぐっ………」

 

そう言われ内心少しショックを受ける湊。

この年頃の男としては、やはり格好良いと言われたいのだ。可愛いというのは少し違う。

だが、そんな風に顔を赤らめている彼女の方が………。

 

「僕はレイナーレさんのそういう顔、凄く可愛いと思いますよ。見ててこう、ぎゅっとしたくなります……」

「ふえっ!? み、湊君、大胆よ、いきなりそんな………ぅ~~~~~~」

 

湊の反撃を受けてボンッと顔を真っ赤にするレイナーレ。そして可愛らしく唸るが、湊にとってはそんな姿もまた可愛い。

そして言ったからには有言実行と言わんばかりに、湊はそっとレイナーレを抱き寄せた。

 

「っ!? み、湊くん!」

 

胸の内で真っ赤になりながら慌てるレイナーレ。

そんな彼女が愛おしいと湊は笑顔を向けながら優しく抱きしめた。

 

「さっき言ったじゃないですか。ぎゅっとしたくなるって」

 

そう言われ、レイナーレは顔が更に熱くなるのを感じ、それを見られたくないと湊の胸元に顔を埋めた。

 

「湊君のイジワル………でも……嬉しい」

 

真っ赤な顔で幸せそうに笑うレイナーレ。そんな彼女に湊も笑顔を向ける。

幸せだと本当に思う。大好きな人の顔が見えて、その人の感情が見える。それが湊には嬉しくてたまらない。

そのまま抱きしめ合う二人。互いの温もりを感じ、顔が熱くなるのを感じながらも心地よさを感じる。

レイナーレは何となく気持ちよさそうに顔を緩めつつも、湊にされた『仕返し』をする。

 

「湊君、目が見える様になってから変わったよね」

「そうですか?」

 

不思議そうに首を傾げる湊に、レイナーレは自分が言おうとしてることに顔を赤らめつつも口にした。

 

「うん、だって………前より大胆になったもの。いいえ、大胆って言うよりも………感情に素直になったって言うか……とにかく隠さなくなったと思う」

 

その言葉に湊は赤くなった頬を掻きつつ、レイナーレに答える。

 

「それはその……レイナーレさんが凄く可愛いから。こんな綺麗で可愛い人が恋人だと思ったら、その……もっと好きって伝えたくなって。見える様になってからそんな風になってしまう僕って現金な奴ですよね……幻滅しましたか?」

「ううん、そんなことない。寧ろその……そんな風に言ってもらえて嬉しい。だって、それだけ湊君が私を好きってことだから………」

 

そう言うと身体を預け真っ赤な顔で微笑むレイナーレ。

そんな彼女の微笑みを見て湊は体温が上がっていくのを感じた。

愛おしいという気持ちが溢れ出し、それを伝えたくて……でも、言葉だけでは表しきれない。

だからこそ、それを少しでも彼女に伝えたくて湊はレイナーレを抱きしめる腕に力を込める。

そして自然と顔が近づいて行く。近づく湊の顔を見て、レイナーレは少し戸惑いつつも、目を瞑り湊を待ち受ける。

そのまま二人の顔が重なる………………。

 

『ピピピ、ピピピ、ピピピ、ピピピ、ピピピ!』

 

「「!?」」

 

急に鳴り出した目覚まし時計の音に二人ともビクリと身体を震わせ、急いで身体を離した。

 

「もうこんな時間! 急いで朝ご飯作らないと!」

「そ、そうですね!」

 

それまで恋の熱に取り憑かれていた二人だが急な音で正気に戻り、急いで学校に行くための準備を始めた。

 

 

 湊とレイナーレは洗面所と部屋に別れて制服に着替えると、一緒に台所へと立つ。

以前はレイナーレが朝食を作っていたのだが、目が見える様になってからは湊も手伝うと言い出した。その理由は単純で、

 

『せっかく見える様になったんですから、レイナーレさんを少しでも手伝いたいんですよ』

 

とのこと。

それを満面の笑みで聞かされれば、湊にはゆっくりして貰いたいレイナーレでも頷くしか出来なかった。それにレイナーレ自身、『恋人と一緒の共同作業』というものに憧れていたこともあって少し嬉しかったりする。勿論、18歳未満禁止の行為ではないのであしからず。

それは良いのだが、レイナーレは湊を見て内心ハラハラしっぱなしだ。

何せ湊は今まで包丁を使ったことがない。だからなのか、その手つきが危ないのである。

そのことを注意しようとは思うのだが、目が見えることで世界が新鮮に見える湊には色々な事に興味津々の様子であり、実に楽しそうなのだ。それに水を差すことは出来ない。

だからこそ、その分レイナーレが見守ることで危険を回避しようと思っている。

二人で早速調理を開始する。

主にレイナーレがスープを作ったりオムレツを作ったりし、湊はサラダなどを担当する。初心者にはそれぐらいが丁度良いだろう。

 

『♪~~~~~~』

 

レイナーレは鼻歌を口ずさみながら慣れた手つきで鍋を掻き回す。

その姿は実に様になっており、若妻と言っても遜色ない。事実、レイナーレ自身もそう思っていて心を弾ませていた。

それを見て、湊は口にする。

 

「レイナーレさん」

「どうしたの、湊君?」

 

名前を呼ばれて嬉しそうに湊に振り向くレイナーレ。そんな彼女は次に湊が口にする言葉で真っ赤に染まった。

 

「そのエプロン、凄く似合ってる。何て言うか……奥さんみたいだ。結婚したらこんな感じかなって」

「っ!? っ~~~~~~~~~~~~~~」

 

真っ赤になったレイナーレは言葉にならない呻きを上げる。しかし、内心は嬉しさで一杯であり、身悶えていた。

 

「もう、湊君ったら、いきなりそんな事言うなんて……その嬉しいけど……」

「その、可愛いからつい……」

 

そう言って互いに真っ赤になる二人。少し気まずいが、苦しさはまったくない。

寧ろこのまま二人でずっと見つめ合いたくなるが、それでは朝食は完成しないのだから、そうしている訳にはいかない。

しかし、それでも湊は見入ってしまう。

駒王学園の制服の上から付けたピンク色のエプロン姿のレイナーレ。それはどこかホッとさせる暖かみを感じさせ、それでいて可憐で可愛らしさを感じさせる。

だからなのか、それに気付いたのはやった後だった。

 

「痛ッ!?」

 

急に感じた痛みに顔を顰める湊。その痛みの発生源を見ると、指から血が垂れてきた。

どうやらレイナーレに見入っている間に指を切ったらしい。

その傷口を湊はじっと見る。久しぶりに見た自分の血の赤に何かしらの感慨を感じて見つめていた。

 

「湊君、大丈夫!?」

 

湊の声を聞いて慌ててレイナーレは湊を見る。そしてその指から流れる血を見てもの凄く焦った。

 

「その指、まさか包丁で切ったの! 痛くない、大丈夫?」

「すみません、少し切ってしまったみたいです。でも特にそこまで痛くはないですから」

 

レイナーレの表情を見て心配を掛けまいと湊は笑う。

しかし、その指の血は止まる気配を見せない。

だからこそと言うべきか、この状態に焦りすぎたレイナーレは本来とはまったく違う治療法を行い始めた。

湊の手を急いでとると、その切った指を口に咥えたのだ。

 

「んっ……………」

「れ、レイナーレさん!?」

 

流石にこれには驚く湊。

レイナーレはそのまま湊の指を、正確には傷口を舌でチロチロと舐める。

 

「ん……ちゅっ………ん、ん……」

「っ~~~~~~~~~~!?」

 

熱い舌で傷口をなぞられることに妙な快楽が走り身悶えする湊。初めての感覚に彼自身どうして良いのか分からずに困る。

レイナーレはそんな湊に気付かないのか、上気した顔で熱い吐息を漏らしつつも一生懸命湊の指を舐める。

そして傷口をある程度舐め終わったらしく、レイナーレは湊の指を口から離した。

 

「はぁ………これで少しはマシだと思うけど、大丈夫かな?」

「た、多分ですけど、平気だと思います。ただ………」

「ただ?」

 

不思議そうに首を傾げるレイナーレ。そんな動作も魅力的に見えると湊は少し思いつつ答えた。

 

「その……こんなに大胆だとは思わなかったので……気持ちは凄く伝わりましたけど……」

 

それを聞いてレイナーレはやっと理解する。

自分が如何に『エッチ』なことをしたのかということに。

それまでとはまた違った意味合いで真っ赤になり、彼女は湊に慌てながら言う。

 

「そ、その、人間界だとこういうのが初期治療だってミッテルトから聞いて、だから! け、決して湊君の指を舐めてみたいとか、そんなはしたないことは思ってなくてっ」

「だ、大丈夫だから落ち着いて!」

 

慌てて暴走しかけるレイナーレを落ち着けよう湊は頑張る。

そしてあやすように言うのだが、その指に残る彼女の柔らかくも熱い舌と濡れた皮膚が妙に生々しさを感じさせ顔の赤味はまったく引かなかった。

 そんなことをしつつも何とか朝食を作り終え、一緒に食べる。

そして湊とレイナーレは一緒に扉を開いた。

 

「それじゃ湊君」

「えぇ、レイナーレさん」

 

二人は互いの顔を見つめながら言った。

 

「「行ってきます」」

 

そして二人は登校を始める。その手を繋ぎながら。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。