堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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今回は珍しくとある人が出ますよ。
あぁ、勿論レイナーレさんは戦いませんよ。


第82話 彼女の窮地に『アレ』が来る

 部下の何とも気まずい所を聞かれてしまい、レイナーレとアーシアは赤面したまましばらく歩く。弁明しようとも、あれだけはっきりと聞かされては何も言えない。

 

「その………ごめんなさいね。部下があんな感じで……」

 

気まずさを少しでも和らげようとレイナーレはアーシアに改めて謝る。部下の失態は上司の責任というが、これは誰がどう見たって彼女の責任ではないだろう。しかし、それでもレイナーレは謝らずにはいられなかった。

そんなレイナーレの気の毒そうな雰囲気を理解しているからこそ、アーシアも苦笑しつつ返す。

 

「いえ、そんな謝らないで下さい。えっと……とても個性的な部下の人達ですね」

 

何とか言葉を返そうとしてひねり出したのがそんな台詞。それは悪意はないが、それでも充分にレイナーレの心を抉った。

レイナーレは少し泣きそうになりつつも部下の名誉?のためにアーシアに答える。

 

「べ、別にいつもあんな感じじゃないのよ! ドーナシークはいつも余裕に満ちあふれていて皆をしっかり支えてくれるし、ミッテルトは明るくて皆を引っ張るムードメーカーだから……」

 

そう答えつつも、その言葉に説得力はない。何せ答えている本人でさえそう思ってしまうのだから。誰だってあんな衝撃的な所を聞かされれば弁明しようとも素直に信じられるわけがない。正直泣きたかった。私の部下は確かに変な所が多いけど、それでもしっかりとした有能な者達なのだと何とか言いたいところだが……それは無理だろう。

そんなわけで現在追われているはずなのにへこむレイナーレ。

そんなレイナーレにアーシアは優しく微笑み、軽くレイナーレの身体を抱きしめる。

 

「大丈夫ですから。私はその……確かに変わった人達でしたけど、レイナーレ様のようなお優しい御人の部下の方々なのですから、きっとその方達も素晴らしい人達ですよ」

「…………ありがとう……」

 

励まされるレイナーレ。そんなレイナーレを優しく励ますアーシア。

そんな二人の様子はどう見たって堕天使と人間のようには見えない。

アーシアに励まされ、少しは持ち直すレイナーレ。その同情の眼差しは嬉しくもり痛くもあった。

そして二人は再び歩き出す。こんな感じだが、それでも追われている身。速くこの場から離れ、アザゼルが待つ本部へとアーシアを護送するまでが任務なのだから。

それは分かっているが、どうにも緊張感に欠ける二人。

アーシアはレイナーレの優しさから緊張が解れ、レイナーレは部下がやらかしたことでもう色々と台無しになっているので気にもならない。

会話も年相応の少女らしく弾み、この場ではもっともふさわしくない話ばかり。

 

「ねぇ、アーシア。湊君がね………」

「そうなんですか? えっと、私も男性の方とお付き合いはしたことないですけど、レイナーレ様のようなお優しい方が慕っている人なら、本当に喜んでいると思いますよ」

「そ、そうかな……えへへへへ」

 

レイナーレがアーシアに湊への何かしらの意見を聞き、アーシアはそれを自分が思った通りに答える。そしてその意見を参考に考え、レイナーレは嬉しそうに笑う。まるでその様子は小さな女子会かパジャマパーティーではしゃいでいる女の子のようだ。レイナーレとしては、自分と同い年の女子の意見として真面目に聞き、アーシアは堕天使だというのに信じられないくらい純真で可愛らしいレイナーレを応援したくて微笑みながらその相談に乗っていく。

何気ない年相応の少女らしい会話。しかし、それが二人には楽しかった。

二人ともそんな楽しいお喋りに興じつつ歩いて行くわけだが、それもそろそろ終わりを迎える。

最終目的地である場所は最初にレイナーレ達が転移した場所であり、その場所が近いのだ。目印代わりに堕天使の力でマークのようなものを付けておいたので分かる。

それが近づいて行くのを感じ、レイナーレはアーシアに微笑んだ。

 

「あともう少しだからね、アーシア。そこまで行ったら転移魔法陣を使って私達のトップがいるところまで転移するから」

「あ、はい!」

 

そう言われ喜ぶアーシア。

やっとこの危険な状況から脱することが出来ると内心喜んだ。誰だって自分の命が脅かされている状況から脱することが出来れば喜ぶだろう。

しかし、アーシアは少し喜んだ後に表情を曇らせる。

 

「あの、レイナーレ様の部下の方は大丈夫なのでしょうか? 一緒に帰った方が……」

 

それは彼女の優しさ。

助けて貰った人達への感謝と共に、その安否を心配してのことだ。

その問いにレイナーレは少し苦笑しつつも答える。

 

「あぁ、みんなね。それについては大丈夫よ。誰かが最初に転移すると、それが皆に伝わるようになってるから。あの様子ならまず大丈夫だし、問題無いわ」

 

アーシアが部下達の事を心配してくれることにレイナーレは喜んだ。

そして本当に心優しい少女だとも思う。堕天使である自分達の安否をこんなにも気遣ってくれるのだから。

 

「そうなんですか、よかったぁ」

 

レイナーレのその言葉を聞いてホッと安心するアーシア。

そんな彼女にレイナーレは微笑みつつ、先を行くように歩く。目指す場所まで後僅か。

しかし、それまで上手く行っていた通りには行かなかった。

 

「っ!? 何、この魔力! 悪魔なの?」

 

突如目の前に現れた魔法陣。その魔法陣から感じられる魔力からレイナーレは警戒し始める。悪魔とは休戦協定を結んでいるので襲われるような事はないはずなのだが、堕天使がそうであるように悪魔も一枚岩ではない。その可能性があり、レイナーレはアーシアを庇うようにしながらいつでも戦えるように構える。

アーシアは急に雰囲気を変えたレイナーレと目の前で怪しく光り輝く魔法陣に不安そうに身を縮め怯える。

二人が警戒をする中、遂にその魔法陣からそれは現れた。

それは黒い髪をした男の悪魔だ。にこやかな笑みに端正な顔立ち。傍から見れば好青年のように見える。

その身から感じられる魔力は上級悪魔にふさわしく、レイナーレはより警戒を顕わにした。

 

「あなた、何者?」

 

警戒を込めた声でそう問いかけるが、その男はレイナーレに目を向けずに彼女の後ろにいるアーシアに声をかけた。

 

「やぁ、アーシア。久しぶりだね」

 

にこやかに笑う男。しかし、アーシアは急にそう言われても男が誰なのか分からずに怯えを見せる。

そんなアーシアの様子を見て、男は何かを思い出したようにアーシアに言う。

 

「あぁ、そう言えばあの時は名乗っていなかったね。僕の名前はディオドラ・アスタロト。君にあの時助けて貰った悪魔だよ」

「え…………あ、あの時の!?」

 

アーシアは思い出して驚いた。

それはアーシアが善意で行い、結果として教会から追放された発端だからだ。

別にそのことに後悔はしていない。彼女はその男…ディオドラを助けようと思ったのだから。

だからこそ、少し警戒を緩めるアーシア。そんな彼女にディオドラはニッコリと笑いかける。

そしてどうして自分がこの場に来たのかをディオドラはアーシアに告げる。

 

「アーシア、僕がここに来たのはね……君を迎えに来たんだ。僕の……伴侶として、ね」

「は、伴侶ですか!? あ、あわわわわわ!」

 

いきなり求婚されて驚き慌てるアーシア。

しかし、そんなアーシアにレイナーレは少し真面目に話しかける。

 

「落ち着いて、アーシア。どう見たって怪しいでしょ」

「え? その、あの…」

 

レイナーレにそう言われ戸惑うアーシア。そんな彼女にレイナーレははっきりと口にする。

 

「それまでの積み重ねもなしにいきなりプロポーズなんてしてくる相手を信用出来るわけないじゃない。寧ろそんな一方的な告白なんてされたって嬉しいわけないでしょ」

「た、確かにそうですね……」

 

そう、久々に会っていきなり告白してそれが叶うわけがないのだ。

一目惚れだというのはわからなくはないが、それでも友達か恋人からだ。それをすっ飛ばして結婚など、とてもじゃないが有り得ない。そんな告白をされて嬉しいと感じる女性などいないし、寧ろ変質者だと怪しむ。

故にレイナーレの警戒心は最大に引き上げられていた。現れていきなり求婚をする奴を怪しまない者などいないのだ。

故にレイナーレはよりアーシアを守るように庇いながらディオドラに告げる。

 

「いきなり現れて求婚なんてあなた正気? そんな怪しい告白、どんな女の子だって受けないわよ?」

 

それを聞いてディオドラはそれまで無視していたレイナーレにやっと意識を向けた。薄く開かれた目から覗くのは、圧倒的なまでの軽蔑を込められた視線だ。

 

「君のような薄汚い堕天使には何も言っていないよ。僕はアーシアと話をしているんだ。さっさと消えてくれないかな。アーシアに君のような汚い存在の側には居て欲しくないんだ」

 

その言葉に怒ったのはレイナーレでなくアーシアだった。

それまで戸惑っていたアーシアだが、ディオドラの言葉に怒る。

 

「その言葉、酷いです! レイナーレ様は汚くなんてありません! 私が今まで会ってきた人達の中で一番優しくて素晴らしい御方です! 他者を見下さず、困ってる人に救いの手を差し伸べ、愛する人のために一生懸命頑張ってる凄い方です! そんな素晴らしい方に出会ったばかりの貴方がそう言う資格なんてありません! 謝って下さい!」

 

アーシアの怒っている様子に内心で驚くレイナーレ。

そんなアーシアを見て、ディオドラは困ったように苦笑する。

 

「アーシア、悪魔にとって堕天使と天使は敵なんだ。汚らわしい存在なんだよ。そんな奴等に謝る必要なんてないよ」

 

その言葉に更に顔を赤くして怒るアーシア。彼女にしては本当に珍しく、かなり怒っていた。

そんなアーシアを見てレイナーレは怒ってくれる事に感謝すると共に、ディオドラに向かって構える。

 

「悪いけどアーシアを渡すつもりなんてないわ。この子はこれまで辛い目に遭ってきた。だからこれから先は幸せにならなきゃ駄目。普通に学校に通って普通に友達とお喋りして普通に暮らすの。あなたの申し出を受けるわけないのは分かってるけど、それでも言わせて貰うわ。寧ろあなたの方が邪魔よ。振られたんだから大人しく帰りなさい。彼女は私達堕天使が丁重に保護して人間としてちゃんと生きて貰うから。だから………去りなさい、負け犬」

「ッ!? さっきから黙って聞いていれば言いたい放題言ってくれるな、堕天使。その汚らわしい言葉を聞いてるだけで頭が痛くなってくる。直ぐにでも殺してアーシアを僕の手に」

 

怒り始めるディオドラ。上がり始めた魔力の波動にレイナーレは正直冷や汗を掻き始める。

自分は下級で相手は上級悪魔。戦力的に勝てる要素はない。しかし、それでも……負ける訳にはいかないのだ。

同じ女として、力尽くで彼女を手に入れようとするその考えが許せない。

アーシアの心を全く気にしていないようなところが気に喰わない。恋することを知っているレイナーレにとって、それが無いような相手に友人となったアーシアをわたせるわけがない。

そして何よりも、湊の目を治すにはアーシアの協力が必要なのだ。絶対に渡せない。

故に彼女も力を上げていく。

そして勝てないと分かってもどうにかしようとレイナーレはディオドラに向かおうとする。

しかし、両者はぶつからなかった。

何故なら……………。

 

両者の間を白い流星が落ちてきたからだ。

 

否、それは星にあらず。

落ちてきた白は地面にクレーターを作りつつ起き上がった。

それは白い鎧姿。背にある輝かしい翼がその美しさを際立たせていた。

そして感じられる強大なドラゴンの力がそれが何なのかを二人に理解させた。

 

「ま、まさか……白龍皇だと………」

「これが、あの………」

 

いきなり現れた伝説の二天龍の片割れ、アルビオンを宿す神滅具の使い手に戦くディオドラ。レイナーレは直にあったのが初めてなので、どう言葉を掛けて良いのか分からず困る。

そんなレイナーレに白龍皇……ヴァーリは声をかけた。

 

「こうして話すのは初めてだな。既に知っているだろうが、俺はヴァーリ。お前の言うおじ様の世話になっている者だ」

「あ、その……初めまして?」

 

急に名乗られ素直に返してしまうレイナーレ。他にも聞くことは色々あるが、彼女は取りあえずそれだけしか返せなかった。

そんなレイナーレにヴァーリはディオドラを見つつ答える。

 

「アザゼルから頼まれた。俺はそこにいる奴をどうにかするから、お前はその娘を連れて速く転移しろ」

「わ、わかったわ! アーシア、行くわよ」

「は、はい!」

 

そしてレイナーレはアーシアの手を引いて走り出し、アーシアもそれに追いつくように走り出した。

二人が離れていくのを感じながらヴァーリはディオドラに話しかける。

 

「何のつもりかはしらないが、この場で手を引くのなら追わないでやる。戦うというのなら、その時は容赦しない」

「ヒィッ!?」

 

流石に白龍皇では分が悪いと感じたのか、ヴァーリが放つ殺気に恐れを成したのか、ディオドラはその場から急いで転移魔法陣を展開して去った。

その様子を見ながらヴァーリは神器を解除する。

現れたのは銀髪をした容姿端麗な青年だ。それがヴァーリの素顔。

 

「あれがあいつが言っていた俺の姉……のようなものか。まったく、アザゼルの親馬鹿には困ったものだ。それに付き合う俺も俺だがな……」

 

初めてあった姉のような立ち位置の少女を思い出しつつ、ヴァーリは呆れていた。

 

 


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