堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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やっぱりこの作品はこうじゃにといけませんね。書いていてホッとします。


第81話 彼女は部下の安否を確認する

 追われているはずなのにまったく焦った様子を見せない二人。既に打ち解け始めたこともあってそれなりにリラックスしつつ会話に華を咲かせながら歩いていた。

特に普通の生活に憧れるアーシアはレイナーレに色々な事を聞く。その中で特に興味津々だったが、

 

「あの、レイナーレ様は学校って行ったことありますか?」

 

というものだった。

年相応のアーシアにとって学校というのは憧れを持つ物のようだ。

その質問に対し、レイナーレは知っている事などを自分の体験も含めてアーシアに優しく語る。

 

「えぇ、学校には今も通ってるわ。私は今、駒王学園っていう学校に通ってるの。そこの二年生で、世間的にはドイツからの留学生っていうことになってるのよ。因みにこの学園はね、悪魔が管理してるのよ」

「な、何で悪魔の所に!? それって見つかったら大変なことになるんじゃ!」

 

学園が悪魔の管理下にあるところだと聞いて驚くアーシア。普通なら殺されたって可笑しくない状況だというのに、何故そんな楽しそうに語るのかと驚いていた。

そんなアーシアにレイナーレはクスクスと笑いながら答える。アーシアが知らない真実の一旦を。

 

「まぁ、普通ならアーシアの言う通りね。でも、そんなことはもう早々ないわよ」

「え、それってどういう………」

「たぶん教会や天界陣営の方には伝わってないと思うけど、悪魔陣営と堕天使陣営は正式に休戦協定を結んだの。だから今では両陣営でのいざこざは少ないのよ。私は堕天使側の親善大使として悪魔側の学園に通うことになったの」

 

それを聞いてアーシアは更に驚いた。

それまで自分達が敵だ敵だと教えられてきた両者は既に休戦し、互いに歩み寄ろうとしていることに。現在の状況は三竦みではなく悪魔と堕天使、それと天界側の二竦みによる対立状態なのだと。

だが、それでも簡単に対立していた仲が良くなるとは思えず、アーシアはレイナーレのことを心配する。

 

「レイナーレ様、大変ではありませんか? きっと悪魔の人達から嫌われてしまっているのでは?」

 

自分を心配してくれるアーシアを少し嬉しく思いつつ、レイナーレは少し可笑しそうに笑った。

 

「ううん、そんなことないわよ。最初は確かに互いに敵視してたけど……湊君の御蔭で仲良くなれたし。今では普通に一緒に遊ぶくらい仲良しになったわ」

「そうなんですか! 凄いですね」

 

それを聞いてアーシアは本当に感心した。

汝隣人を愛せよ、という教えがあるが実際の所これを守っている教会信者はいない。教会に所属しない者は異端とし毛嫌う気質があるので、その隣人というのは教会の中だけだ。しかし、真に隣人を愛せよと言うのなら、それはレイナーレのように敵対していた者達とも仲良くすべきだ。

そしてそれを出来るレイナーレに尊敬の眼差しを向けるアーシア。言葉で言うのは簡単だが、実際にそれをするのは難しいということが良く分かる。

しかし、その会話でも聞こえたとあるワードに彼女は気が付いた。

 

「あれ? そう言えばさっきもその方のお名前を言っていましたよね。恋人さんの、えぇっと、蒼崎 湊さんですよね。一緒の学校なんですか?」

 

その問いかけにレイナーレは顔を赤らめつつ嬉しそうに、何よりも幸せそうに答える。

 

「うん……湊君と一緒のクラスなの。おじ様と魔王ルシファーのせいだけど、その御蔭で同じクラスにさせて貰えて、しかも彼の暮らしている部屋にホームステイさせて貰えることになって。それで今では一緒に毎日学校に通ってるのよ」

 

そう言いつつ顔を更に赤らめるレイナーレ。それは恋愛を知らないアーシアでも充分に分かるくらい恋する乙女の表情であった。

そんな顔を見せられれば、当然年相応に憧れるアーシアが食い付かないはずがない。昔から女子は恋話が好きだというのはどの種族でも一緒だ。

 

「レイナーレ様、その……出来ればその恋人さんとの馴れ初めとかを聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

そんなことを言われて当然恥ずかしさから顔を赤くするレイナーレだが、アーシアの興味津々な眼差しに耐えられなくなり話すことに。実際は聞かれて話したくなったということもあった。こういった自慢話は結構人に聞いて貰いたくなる物である。

そして彼女は顔を真っ赤にし、瞳を潤ませながらも懐かしそうに語る。

 

「彼とはね、偶々人間界に遊びに来たときに出会ったの。私は良く人間界の街に出向いて遊ぶのが好きなんだけど、その時に少し休もうと思って公園の近くの自販機で飲み物を買おうとしたのよ。そうしたら運悪くお金を自販機の真下に落としちゃって。それでどうしようかって困ってた所を湊君が声をかけてくれたの。『あの、どうかしましたか?』って。それで事情を話したら湊君がお金を拾うのを手伝ってくれて……その時はただの親切な人だと思ったけど、まさか目が見えないのに手伝ってくれるなんて思わなかったわ。それからその場所で湊君と良く会うようになって、一緒にお喋りすることが日課のようになって楽しくて、彼にどんどん惹かれていった。学園が悪魔が管理している所だって知ってたけど、湊君に会いたい一心で侵入してリアスに見つかった時はかなり危険だったけど、その時も湊君が助けてくれたの。普段は物静かだけどしっかりしてて優しくて……あの時の湊君、格好良かったなぁ………」

 

当時を思い出してうっとりとするレイナーレ。

そんな彼女の話を聞いて、アーシアもまた顔を赤らめた。

幾ら恋愛未経験でも、この話が如何に甘いのかは良く分かる。それに憧れを同時に抱きもした。何せ今のレイナーレは本当に幸せそうだから。絶賛不幸中のアーシアからすれば羨ましく見える。

そして何より、アーシアははっきりと伝わって来たことをレイナーレに言った。

 

「レイナーレ様はその恋人の事が大好きなのですね」

 

それを聞いたレイナーレは如何に自分が恥ずかしい惚気話をしていたのかを気付き、恥ずかしさで顔から蒸気が噴き出す程に赤くなる。

しかし、それでも本当に幸せそうに彼女は答えた。

 

「うん……凄く好き……大好き……世界で一番……愛してる………」

 

その答えを聞いてアーシアは本当にレイナーレがその恋人が好きなのだと理解する。そして同時にこうも思った。

 

こんなにも一生懸命に人を愛する彼女なら絶対に信用出来ると。

 

 そして年頃の少女らしい会話を楽しむ二人。

本当に追われているのか不思議になるくらい落ち着いており、まるでそれまであった事が嘘のようにアーシアには思えた。

そして同時に少し心配になってレイナーレに聞く。

 

「あの、今後私はどうなるんでしょうか? レイナーレ様に保護して貰えるのは安心なのですけど……」

 

保護された先でどのように扱われるのか不安がるアーシア。

そんなアーシアにレイナーレは笑いながら答える。

 

「そんな不安がらなくても大丈夫よ。神器の研究に協力してもらうっていう条件さえ飲めば、後はちゃんと丁重に保護してくれるから。きっとアーシアのことを保護したら本部の寄宿舎で暮らせるようにしてくれるか、私みたいに人間界で学校に通わせてくれるかもしれないわ。何なら私からお願いしてみるし。おじ様は人間のことをちゃんと考えてくれるから酷い事はしないし無理強いもしないから。人が人らしくちゃんと暮らせるようにしてくれるから」

 

それを聞いて安心するアーシア。もしこれで保護された先で人体実験などをされたのでは堪った物ではないからだ。

そして同時に堕天使の組織というのは考えていた以上に人道的な所なのだと思った。正直教会などの方が余程非人道的だと思える程に。

そんなアーシアにレイナーレは少しだけ真面目な顔をする。

 

「でも、気をつけなきゃ駄目よ。堕天使も一枚岩ではないから。今貴方を追っているのは何も教会だけじゃないの。実は堕天使の中でも過去の戦争の決着を付けたいっていう戦争推進派がいるのよ。今回貴方を追いかけてるのがその一部。私はトップからの命でそいつ等から貴方を守るよう言われてきたのよ」

「そ、そうだったんですか!?」

 

まさか教会以外からも狙われると思わなかったらしく、アーシアは驚く。

そんなアーシアにレイナーレは真面目だった顔を綻ばせた。

 

「まぁ、その連中も今私の部下が押さえてるから大丈夫。彼女は優秀だから、その程度の相手に負けるわけないもの」

「信じているんですね、その部下の人」

「えぇ、勿論。私にとって最高の姉のような存在だからね」

 

そう語るレイナーレは何処か嬉しそうだった。

そんなレイナーレを見てアーシアも笑う。

目の前に居る堕天使は話で聞く堕天使なんかよりも余程優しいから。教会の人間なんかよりも余程人間らしいとさえ思う程に。

そんな風に歩いて行く二人。遠くの方で音がするのはカラワーナが頑張っている証だろう。レイナーレは安心して前へと進んでいく。

そこで思ったのは、残りの部下二人は大丈夫なのだろうかということ。

ずっと辺りを探るが敵らしい気配はないので大丈夫だとは思うが、それでも心配にはなる。

だから此方の報告も兼ねて二人に連絡しようと思った。

 

「アーシア、少し待って。今残りの部下二人と連絡を取ってみるから」

「あ、はい」

 

そう言われ歩を緩めるアーシア。そしてレイナーレは携帯でまずドーナシークに連絡を取ることにした。

早速かけてコールが鳴ること三回、繋がった。

 

「もしもし、ドーナシーク。今大丈夫?」

『はい、大丈夫です。其方は?』

「こっちはアーシアを見つけたわ。問題が無いようならそのまま撤退して」

 

既に目的を半分達成していることを伝え、後は帰るだけだと言うレイナーレ。そんなレイナーレの耳元に可笑しな声が聞こえてきた。

 

『良いか、熟女の熟は完熟の熟! 世間では青い果実は瑞々しいと言うが、実際はどうだ? 未熟なリンゴを食ったことがある奴がいるか?』

『はっ、渋くて青臭くて食えたものではないであります!』

『その通りだ。未熟なものが良いわけがない、それは人間とて同じ! 熟とはすなわち最高な状態。一番美味い時期のことだ! 故に私は熟女こそ最高だと宣言する。若い娘にはない母性溢れるその包容力、勢いだけではないねっとりとしたエロス……それすなわち最高だ!』

『『おぉおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』

 

そんな音声がでかく聞こえてきて、レイナーレはは勿論アーシアにも聞こえた。

二人とも何事だと思い、携帯に注目した。

 

「ねぇ、ドーナシーク? 一体何をしているの?」

 

その怪しい疑念にドーナシークははっきりと答えた。

 

『はい。きっとアーシア・アルジェントを探しに来た教会の者でしょう、最初は敵対しました。しかし、私は見抜いた。この者達はきっと同志となってくれると。そして胸を割って話せば分かってくれるのです。熟女の素晴らしさッ』

 

それ以上は聞いていられないと思い通話を切るレイナーレ。アーシアは不思議そうな顔で『熟女』について聞いてきたが、レイナーレは気にしないように言った。

気を取り直してもう一人、ミッテルトの方にも連絡を入れる。

ドーナシークにしたように電話をかけると、直ぐに出た。

 

「もしもし、ミッテルト。此方はアーシアを見つけて保護したから、後は帰るだけよ。そっちは大丈夫?」

『あ、大丈夫っすよ。こっちも特に……っく、異常ないっす』

 

ミッテルトの元気そうな声を聞いてホッとするレイナーレ。だが、何となくだがドーナシークとは別行動をしているようだと感じた。その証拠に先程まで聞こえてきた『熟女演説』がまったく聞こえてこない。

しかし、やはりと言うべきか………そのままではすまないようだ。

それが聞こえた途端、レイナーレとアーシアの顔は赤くなった。

粘性のある液体が擦れ合う卑猥な音が聞こえ、断続的に何かがぶつかり始める音がする。そしてよくよく聞けば周りから男の息切れした声が聞こえてきた。

その二つが連想させるものなど一つしか無い。

その予想は当たった。

 

『何顔を真っ赤にしてるんっすか? こんな幼女に虐められて硬くして、恥ずかしくないっすか。この……最低野郎」

『や、やめっ、ひぃっ!?』

『それにこっちはちゃんと洗ってるんっすか? さっきから妙に臭い匂いがしてしかたないっすよ。こんなのは……こうしてやるっす』

『や、止めてくれ! そんな、強すぎで………』

『まったくもって恥ずかしい駄目な男共っすねぇ~……まぁいいっす……さぁ、いっちゃいなっす!』

 

『『んぁあぁあぁあぁああぁああぁぁあぁああぁああぁああぁあああああ!!』』

 

それ以上聞いてられないとレイナーレは通話を切った。

そんな声を聞いて二人の顔は真っ赤になり、直ぐにでも倒れてしまいそうだ。

それぐらいその音声は卑猥だった。

 

「その………ごめんなさい……」

「いえ、その……すみません……」

 

初心な堕天使と元聖女にはあまりにも刺激が強すぎた。

その後、しばらく二人は気まずい気分で一杯だった。


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