堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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お気に入りの数が一気に増えて驚いている作者です。
皆さん、ありがとうございます。


第8話 彼は彼女の事を意識し、そして学校で出会う

 レイナーレが学園内に侵入していることに気付いていない湊。

彼はレイナーレが来る前から学園にいるわけだが、この日はいつもと少しばかり違っていた。

杖を使いつつ人や物にぶつからないように登校する湊。

いつもはそのまま教室に入り、気配で人が居る方向に挨拶をしつつ記憶している自分の席に座る。

そしてそのままノートを点字を打ち込む用の特殊なペンを用意して授業に臨むわけだが、この日に限ってはいつもと少し違っていた。

 

「なぁ、蒼崎、ちょっといいか?」

 

いつもならあまり声をかけてこないクラスメイトから声をかけられて湊は少しばかり驚く。

それは男子の声。この教室内にいる男子生徒は数少なく、その生徒の気配の近くにいる二つの気配と声も合わせて湊はそれが誰なのか判断した。

 

「あれ、兵藤君? 別にいいけど、どうかしたの?」

 

湊に声をかけてきたのは、同じクラスメイトの男子である兵藤 一誠。

茶色い髪に黙っていればそれなりにモテそうな顔をした三枚目に近い二枚目である。だが、彼はこの学園でもある意味有名人であり、まったくモテない。

というのも、彼は思春期不相応なまでに女性に興味津々なのだ。ぶっちゃけドエロなのだ。その溢れかえるスケベ根性丸出しな性欲のせいで顔がマシなのに台無しになっており、その性欲故に覗きを頻繁に繰り返すことや教室内でいかがわしい物の交換、それに伴う卑猥すぎる猥談を周りに聞こえる音量で平然と行うなど、女子が多いこの学園にとって極めて悪質な生徒である。

そんな如何にも悪な生徒の近くに居る生徒もまた、湊は知っている。

二人もまた湊と同じクラスメイトにして一誠と同じ途轍もない問題児。元浜と松田である。元浜は眼鏡を掛けた男子で、松田は丸刈り頭の男子。二人とも一誠同様に凄まじい性欲の持ち主であり、この学園では3人合わせて『変態三人組』と呼ばれている。

とは言え、湊は一誠達の姿に関してはまったく分からない。彼にとって目が見えない以上、それを認識するのは独自の感覚による気配と声だけだ。

だから一誠の事を聞いてもあまりピンとはこない。周りの女子から煙たがられていることは知っているが、湊にとってそれはクラスに活気をもたらしている明るいクラスメイトという印象であった。

言わばクラスの有名人である一誠が一体何の用だろうと思い、湊は声がした方に顔を向ける。気配を感じる限り、3人供同じ用事だろうかと思い元浜や松田にも意識を向けていた。

そして耳に意識を集中させた所で一誠が湊に話しかけてきた。

 

「なぁ蒼崎! 最近一緒にいる女の子って誰なんだ!」

 

いきなりそう聞かれ少し驚く湊。だが、よく考えれば何て不思議は無い。

放課後にあの自販機の前を通る生徒などたくさん居るだろう。見られたとて可笑しくは無い。

だから素直に話そうとする湊だが、一誠は興奮した様子で尚続ける。

 

「あんな美人、早々いないぞ! 一体何処で出会ったんだよ!」

 

盛り上がる一誠に続いて元浜や松田もその話に乗っかってきた。

 

「オレのスカウターで見る限り、88、57、87のナイスボディの持ち主だ!」

「黒髪で清楚そうな真っ白いワンピースの女の子……中々にエロい!」

「マジかよ、元浜! スタイル抜群でしかも清楚とか……くぁ~、たまんねぇ」

 

直ぐに答えようとした湊だが、3人の反応を感じて少しばかりムッとしてしまう。

彼等はこんな自分にも親しく話しかけてくれる有り難いクラスメイトだが、それでも友人の事をそんな目で見られて良い気分などしない。

この時湊は気付いていない。自分がレイナーレに好意を抱いていることに。

だが、気付いていなくてもそれは行動に出る。

湊は少しばかりむくれたような様子で一誠達につっけんどんに返事を返した。

 

「悪いけど、あの人の事は教えたくない」

 

彼なりに少しばかり棘がある言葉。

だが、普段が善人なだけにあまりそれは気付き辛い。だからこそ、もっとレイナーレのことを聞き出そうと一誠達は食い下がろうとするが……。

 

「そこまでにしときなさいよ、この変態3人組!! 」

 

その声がしてきたのは湊の後から。そこに立っていたのはクラスの女子達であった。

彼女達は湊に食い下がろうとしている一誠達をまるで汚物を見るような目で睨み付けていた。

 

「蒼崎君が困ってるじゃない! あんた達みたいな奴等は純粋な蒼崎君に近づかないで頂戴! 汚れと変態が感染しちゃうじゃないの! まったく、嫌だって言ってるのに無理矢理聞き出そうなんて……人として最低!」

「寧ろ人以下の動物以下の虫以下。百害あって一利無し。何で生きてるの? ねぇ、何で?」

「あんた達も懲りないねぇ。そんなんだから毎回追っかけ回されてシバかれるってのに。少しは蒼崎君を見習ったら」

 

言われたい放題の一誠達。

当然言い返そうとするが、多勢に無勢である上に彼女達が言っていることが正論故に言い返すことが出来ずに唸っていた。

このクラスにおいて、湊の存在はただの男子生徒というわけではない。視覚障害という障害を持ちつつも皆と同じように生活する頑張り屋。目が見えない故に余計な事を覚えてこなかった。それだけ心が同年代の男子に比べて純粋な男子。障害で苦労している故に守り助けるべき庇護する者。

彼女達はそんな湊のことを応援している。

この学園は元は女子校。そういった思いやりの精神を大切にしているのだ。

一誠達の心が性欲で歪み汚れきっているなら、湊の心は真っ白で汚れ一つ無い。それは彼女達にとってこのクラスの癒しでもある。

だからこそ、その癒しを困らせる一誠達を彼女達は許さない。徹底的に叩くのだ。

そしてその数の暴力とでも言うべき罵詈雑言の嵐に一誠達は押し負け、悔しそうにしつつも退いていく。

その様子を見て女子達は怒りを顕わにしつつも湊に大丈夫だったか声をかける。

 

「大丈夫だった、蒼崎君? 変なことされてない?」

「いや、大丈夫だよ。ただ、最近出来た友人のことに関して少し聞かれたんだ。その人のことを紹介してくれって言われたんだけど、そのね……あまり友人にそんな感情を向けて欲しくなくて」

 

湊の言葉を聞いて周りの女子は皆頷く。

 

「うんうん、そうだよね。好きな人ならともかく、そうでない人から嫌らしい目で見られるのなんて絶対に嫌だよ、女の子なら。そんなこと、誰だってわかることなのにあの変態共ときたら!」

「蒼崎君はしっかりしてるよ! あの変態達も少しでも蒼崎君のことを見習えば多少はマシになるのになぁ。兵藤はまだ顔だけならマシなんだから、少しでもその性根が治ればマシなのに」

「え、アンタって兵藤が範囲に入るの! 私はちょっとないかなぁ」

 

周りの女子から一誠達への文句が飛び交う中、湊は思う。

確かに友人を、それも女性の友人が卑猥な欲情を込めた目で見られるのは快くない。だが、言い替えればそれはそれだけレイナーレが女性として魅力に溢れているということだ。

あまり言いたくないが、エッチなことが大好きな一誠達がそこまではしゃいでそういうのなら、レイナーレはとても美人なのだろう。

そう思うと、逆に少し嬉しくもなってくる。

 

(そっか……レイナーレさん、そんなに美人さんなんだ。そう思うと……少し嬉しいかな。そんな綺麗な人と一緒にお喋り出来るなんて……でも、改めて意識すると、恥ずかしくなってくるなぁ)

 

そう思いながら始業のチャイムを聞き、湊は席で授業の準備をし始めた。

 

 

 

 朝にそんなやり取りがあったためか、よりレイナーレのことを意識し始める湊。

勿論、まだそれが恋愛感情かどうかまでの判断は付いていない。だが、そんな綺麗な美女と仲良く出来るのは、男として嬉しくもあった。

確かに目が見えないせいで無駄な情報がはいらないこともあって純粋に育ってきた湊ではあるが、彼とて男ではある。それぐらいの感情は持っている。

ただし、色恋沙汰の感情で言えば少女漫画にあるような知識しか持っていないので、年頃の高校生としては随分と遅れているわけだが。

そんなわけで、よりレイナーレに会いたい気持ちが膨らんでいく湊は放課後が待ち遠しく思う。

その気持ちを心地良く胸の内で転がしながら過ごしていたわけだが、たまたま外に出る用事があったために玄関で靴に履き替えて外に出た。

そして目的地に向かって歩いている最中、それは唐突に訪れた。

 

「え? キャァッ!?」

 

女性の短い悲鳴と身体に走る衝撃。

それは以外と強く、湊は杖から手を放して地面へと後に倒れ込んでしまう。

その際、胸の内に居る女性を軽く抱いて地面にぶつからないようにしたのは無意識にやっていた。

この少年の優しさは自分より他人を優先する。それ故の行動だった。

だが、ここで湊にとって思いがけない事が起こった。

 

「っ!?………大丈夫ですか?」

 

ぶつかった事への怒りよりもぶつかった相手の心配をするのは実に彼らしい。

その言葉にぶつかった者は慌てて答えるが、その声は彼が知るものだった。

 

「え、蒼崎君ッ!?」

「この声、それにこの感じ……もしかしてレイナーレさんッ!?」

 

まさか学校でレイナーレに会うとは思っていなかった湊。それはレイナーレも同じであり、直接会おうとは思っていなかった。

だが彼女はとある理由で逃げ回っていたせいで湊から目を外してしまっていた。それ故に湊が近くにいることに気付けなかったのだ。それは湊も同じで、気配を感じるのにレイナーレが速すぎるせいで気付けなかった。だから反応が遅れたというわけだ。

そして偶然とは言え、言わば抱き合うような形になってしまった湊とレイナーレは互いにその事を意識してしまい、顔が急に赤く染まり始める。

 

「ご、ごめんなさい……怪我……してない?」

「い、いえ、大丈夫です。それにレイナーレさん、凄く軽いから特に強く打ち付けなかったですし……」

 

互いに言葉を掛け合い、それが更に二人の羞恥を加速させていく。

湊は正直、レイナーレの身体の感触を感じてドキドキしてしまい、レイナーレは湊の胸に抱かれていることに心臓の鼓動が聞こえないか心配になりつつも少し抱け安心していた。

抱きついてわかる男の広さ。それを感じてレイナーレは真っ赤な顔で少しだけ微笑む。

そのまま直ぐに起き上がれば良いのだが、湊は目が見えないので動きが遅く、レイナーレは少し体力を消耗していて身体が疲れていたので動きが鈍い。結果的に二人は中々起き上がれずに居た。

そんな二人を、第三者である紅い髪の少女は少し恥ずかしそうな顔で話しかける。

 

「あ、あの……そろそろいいかしら……」

 

「あ……」

 

自分がどのような状態になっているのか、それを見られている事を自覚したレイナーレは実に気まずそうな声を上げた。

 

 


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