堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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どうも不快にさせてしまったようで申し訳無いです。
なので修正加筆して書き直させていただきました。
戦闘無しというのは存外に難しいものです。
此処での戦闘無しはあくまでも『レイナーレが戦闘しない』ということで。
だからといってカラワーナや他二人などの戦闘描写を書く気はないです。


第79話 彼女は少女を見つけた。

 現在、その少女は深い森の中を彷徨っていた。

美しい金髪を伸ばし、翡翠色の瞳は穢れを知らぬかのように純粋であり、誰が見ても分かる美少女であった。その服装は黒い修道服であり、この森の中を歩くには不向きであり不自然だ。彼女のような美少女がその場で来ていれば尚更その違和感は膨れ上がる。

彼女の名はアーシア・アルジェント。少し前までの天界陣営である教会から『聖女』として崇められていた少女であり、今は教会から『魔女』として忌み嫌われる存在だ。

彼女が何故、今このような場所を彷徨っているのか? それは彼女が教会から追放されたことが原因である。

この少女はとても心優しい者だ。相手を気遣い、相手の痛みを共に分かち合い、慈愛に満ちている。その心根はまさに正真正銘聖女と言って差し支えないだろう。

彼女が持つ神器もまた、そんな彼女にふさわしい能力を持っている。『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』は負傷した傷を癒す力を持っている。それはどのような種族であれ癒せるという神の御技のような能力だ。

そんな神器の使い手たるアーシアは聖女として祭られたが、あるとき彼女は一人の悪魔を救った。偶々倒れていた人を見かけ近寄ったらそれが悪魔だった。天界陣営としては悪魔は滅ぼすべき敵。それはアーシアにも分かってはいた。

しかし、それでも彼女には出来なかった。目の前で大怪我をしている者を、苦しんでいる者を助けないなど心優しい彼女には無理なのだ。

だからこそ、彼女は助けたのだ。悪魔であろうと、傷付き苦しんでいるのなら助けるべきだと。したことは教会に所属する人間としては最悪だろう。だが、人としては寧ろ善行だ。彼女は褒められることをしたと胸を張っても良い。

しかし、それでも……教会は彼女を許さなかった。

悪魔を癒したとして魔女の刻印を押され、異端だとし追放したのだ。それまであった信仰と敬意を侮蔑と嫌悪に変えて皆が彼女を蔑んだ。

そのような視線の中、彼女は追放されたわけである。

そしてそれは同時に命を狙われることにもなる。教会からすれば異端者を放置する理由などないのだから、当然追っ手も放たれる。

信仰的な意味でもそうだが、それ以上にアーシアの神器が厄介だ。アレはどのような種族でも回復させることが出来るもの。そのような便利な物が他勢力に渡るのは避けねばならない。異端故に許されず、そして他の勢力に渡ることも良しとしない。ならば…………。

 

殺すしかない。

 

故に彼女は逃げるのだ。異端だとされ神から見放されたことは酷く悲しかった。でも、それでも彼女は神への信仰を忘れることはない。だからこそ、これも神が自分に課せた試練だと思い頑張ることにした。

それに彼女はまだ16歳の少女なのだ。幾ら信仰深いとはいえ死ねと言われて素直に従うほど精神は安定していない。彼女は神への信仰者であって盲信者ではないのだから。

そんな彼女が現在森を彷徨っているのは、追っ手から逃れるためである。

それまでも度々追っ手は来たが、彼女自身が神器がなければただ小娘ということで甘く見られていることもあってか逃げられていた。

だが、それでもそう長くは続かない。次第に数を増していく追っ手に追い詰められていく彼女。それを少しでも撒こうと、こうして森を複雑に歩き回っているのだ。

それが既に二日ほど続いた。餓えや乾きを感じるが、それでも彼女は足を止めない。まだ動けるからこそ、彼女は今も逃げている。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

疲労は常に身体を苛み、消耗した身体はまるで鉛のように重い。それでも彼女は進み続ける。

教会から追放され希望を失った彼女。だが、そんな彼女でも夢はある。

せめて年並みの少女のように普通に過ごしたい。それが今まで聖女として崇められていた少女の願い。叶わないであろうことは分かっている。それでも、彼女はそれを望んだ。友人が彼女の望みであった。

そのことを考えつつも逃げるアーシア。そんな彼女に忍び寄る別の影を彼女はまだ気付かなかった。

 

 

 

 転移した途端に広がったのは大きな樹海。

辺り一面が木々で覆われ、日が差すところが少ないせいか薄暗く感じさせる。

そんな森の中、レイナーレ、カラワーナ、ドーナシーク、ミッテルトの4人は早速話し合う。

 

「ここがアーシア・アルジェントがいる森らしいわ。取りあえず二組に分かれて彼女を探しましょう」

 

レイナーレの言葉に部下3人が頷く。

4人いるのだから各自で探した方が捜索範囲は広げられるのだが、その分危険度も上がるためだ。人間の悪魔払い程度なら問題無いが、相手が同じ堕天使であった場合一人で遭遇した時に此方が不利になるからである。故に彼女が取ったのは二人一組。これにより捜索範囲は狭まるが、その分敵と遭遇した際には対応出来る。

 

「また、見つけた場合は携帯で連絡して。通信魔法とかだと傍受される可能性があるから」

 

そして見つけた際の報告は人間界に復旧する携帯で行う。

悪魔払いはどうだか知らないが、堕天使がこのような道具を使っていることは稀だろう。何せ見下している種族の道具を使うなんて恥じ知らずだと思うような者達だから。下手な術よりも此方の方が余程安全だ。尚、レイナーレ達の携帯はアザゼルによって特殊な改造が施されており、電波塔がない場所でも通話が可能という便利な代物である。買ってもらった当初はそんなことも知らなかったので喜んだレイナーレだが、そんな事実を教えられた後はどうにも喜べなかった。まさか普通だと思っていたものが総督によって魔改造されていようと誰が思うだろうか? 故に何とも言えない感じがするレイナーレ。

しかし、便利なことは確かでありその性能もあってレイナーレの部下達の携帯にも同じ改造が施されることとなったわけだ。

だからこそ、この場に於いて最も確かな連絡手段となっている。

それを聞き、部下3人は自分達の携帯を取り出しレイナーレのアドレスを確認する。その際に色々とプライベートな部分が見えたがレイナーレは見なかったことにした。

それを終えてレイナーレは3人を見渡し声を出す。

 

「この任務は危険はそこまで高くない。だけど、それでも危険なのは変わりないわ。だから皆………危険だと思ったら逃げなさい。命より大切なものなんてないのだから、ちゃんと生き残って、そして任務を達成しましょう」

 

「「「はっ!」」」

 

レイナーレの激励を受けて胸に手を当てて傅く3人。普段巫山戯ているミッテルトもこの時ばかりは真面目だ。

そんな部下達を誇らしく見ながらレイナーレは発した。

 

「では………任務開始!」

 

そして動き出す4人。

ミッテルトはドーナシークと、カラワーナはレイナーレと共に行動する。

二手に分かれ、レイナーレ達は森の中を走り始めた。

本当なら飛べば早いのだが、この入り組んだ森の中は飛ぶのに不向き。そして上空でもこの森では探すのが困難だと判断したからだ。

故に森の中を走るレイナーレとカラワーナ。人間よりも筋力が優れている2人なら、森の中でも人間以上に速く動ける。

そのように走っている中、カラワーナはレイナーレに話しかけてきた。

 

「レイナーレ様、今回の件はやはり彼のために……」

 

その問いにレイナーレは真面目な表情のまま返す。内心では顔を赤らめていたが……。

 

「えぇ、アーシア・アルジェントの神器なら湊君の目を治せるかも知れないから。私は湊君にもっと色々なものを見せて上げたいのだから……」

 

それを聞いて少し優しげに微笑むカラワーナ。

彼女は上司のそういう気持ちが嬉しかった。堕天使で上司だが、それでも妹のように思っている可愛らしいレイナーレのそういった姿勢は好ましいものだから。堕天使としてはどうかと思うくらい純粋だが。

だからこそ、彼女の願いを叶えて上げたいと思う。

だからこそ、カラワーナはレイナーレに力強く言った。

 

「わかりました。では、早く見つけて彼の目を治しましょう。私としても彼にはレイナーレ様の美しい姿を見て貰いたいですから」

「も、もう、カラワーナったら……」

 

真面目な場面だが、流石に恥ずかしくなって頬を赤らめてしまうレイナーレ。

確かに湊には自分の姿を見て貰いたいが、こうして言われるとやはり恥ずかしいようだ。

だが、この御蔭で少し緊張して固まっていた精神が解れた。

今回の件、レイナーレの意気込みは強くそれ故に少し肩に力が入っていたのだ。それは仕方ない事とはいえ、時に物事をし損じることがある。だからこそ、緊張は適度が丁度良いのだ。

勿論最初からそれが狙いだったわけでカラワーナは話を振ったわけだが、それでも少し微笑んでしまう。やはりこの上司は可愛い女の子だと彼女は思った。

 そんな風に緊張を解しつつ、先を急ぎ探す2人。適度に進んではミッテルト達と連絡を取り合うが、未だに発見は無し。

そういったやり取りを数回して時間が過ぎ、約四時間が経過した。

 

「中々見つからないわね」

「えぇ、私達はあまり気配探知に優れていませんからね。それに悪魔や堕天使なら兎も角、人間となると探すのは難しいです」

 

そう言いつつ焦り始めるレイナーレ。

出来れば直ぐにでも保護すべきだが、その対象が見つからないことに焦っていた。

焦ってどうにかなるものでないことは分かっている。だが、それでも心ばかりはどうしようもない。だからこそ、レイナーレは軽く深呼吸して精神を落ち着けようとし、カラワーナに話しかけた。

 

「そう言えば、捜し物って探してるときに限って見つからないものよね」

「まぁ、そうですね。それで探してもいないときに限ってひょっこり出てきたりしますから」

 

緊張を解し焦りを押さえるため軽い会話をする二人。仮にも任務なのだからもう少し緊張を持つべきなのだが、こうも見つからないと緊張しても直ぐにバテるだけだと割り切った。

そんな緩い二人は駆け足もそこそこに森を捜していく。

そして疲れが少し溜まってきたとき、ふとレイナーレの視界に金色が入った。

 

「え……?」

 

それに少し驚き足を止めるレイナーレ。

 

「どうかしたのですか、レイナーレ様?」

「カラワーナ、ちょっと待って」

 

不意に止まったレイナーレにカラワーナが声をかけると、レイナーレはその場で止まるように言う。そしてレイナーレの目を更に凝らして見ると、その先には確かに金色が動いてるのが見えた。

そこまで速くなく、左右に揺れる金色。遠目で見てもそれが髪であることは直ぐに気付いた。

つまり………。

 

「あ、みつけた………」

 

レイナーレは彼女を見つけたのだ。

そしてそれと同じに、カラワーナも気付いたことがあった。

彼女達から見てその先にいる金髪。その更に奥から、何やら力を感じ取ったのだ。それも自分達と同じ光の力を。

 

「レイナーレ様、どうやら『向こう』も彼女に気付いたようです」

 

彼女を狙っている者達と言えば、教会の追っ手かもしくは……コカビエル率いる戦争派。つまりその戦争派の者達が近づいている。

このまま行けばアーシアを巡って戦闘になるだろう。そうなれば色々と問題になる。勝てないわけではないが、下手な戦闘は任務の成功率を下げる。

故にどうするかレイナーレとカラワーナは考える。

そして先に案を出したのはカラワーナであった。

 

「レイナーレ様はアーシア・アルジェントの保護を。私は彼女に接触させないよう奥から近づいてくる時代遅れ共の相手をします」

「でも、それじゃカラワーナが危ないわよ。ここは二人で行った方が……」

 

力の感じからしてそこまで強くはない下級堕天使。その人数も二人組と考えれば、確かにレイナーレが共に戦った方が良いだろう。彼女はカラワーナを心配してそう言うと、カラワーナは軽く首を横に振った。

 

「いいえ、この場では私の作戦の方が良いと思います。今回の作戦は彼女の保護が最優先。だからこそ、レイナーレ様には彼女を先に確保して貰いたいのです。私が先に飛んで連中に仕掛けます。それで時間を稼いでいる間にレイナーレ様は彼女を。何、力の感じからして負ける気はしませんよ。寧ろ直ぐにかたづけて合流しますから」

 

カラワーナの不敵な笑みを見て、レイナーレは頷いた。

確かにそれなら真っ先に任務を達成出来る。それに何より、レイナーレにとって姉のような存在でもあるカラワーナが簡単には負けないと信じているからこそ、彼女は答えた。

 

「えぇ、分かったわ。少しきついと思うけど無茶しないでね、カラワーナ。命は一つしかないのだから」

「はい、では行ってきます!」

 

そしてカラワーナは翼を広げると、一気に飛び出して行った。

アーシアにバレないようにしつつ、最短距離で『敵』に向かって飛んでいく。

 

「レイナーレ様の一番大切な人を治すためにも、貴様等如きに負ける気は毛頭無い!」

 

 

 

 カラワーナを見送ったレイナーレは此方も急ぎ足でアーシア・アルジェントに向かって飛びだした。

翼を広げ、彼女がいるであろう所へ木々を避けながら飛行する。そして疲れた様子を見せるアーシアの前に降り立った。

その様子を見たアーシアは言葉を失う。それは神の敵である堕天使が現れたからでも自分の命が窮地に立たされたからでもない。

木々の合間から差す込む光と、それを反射する漆黒の翼を広げるレイナーレを見てその美しさに息を飲んだからだ。

驚きを隠せないアーシアにレイナーレは微笑みかけた。まるで全てを包み込む母のように、同じ年齢の少女がこんな目にあって心細いということがわかるからこそ、それを少しでも和らげてあげられるように。何よりも、アーシアの事を聞いて周りの人間達に怒りを感じ、アーシアが何を望んでいるのかを察してあげるように。確かに湊のこともある。しかし、それとは別に、確かにレイナーレは思ったのだ。彼女の願いを叶える助けをしたいと心から思ったからこそ、レイナーレははっきりと彼女に伝えた。

 

「あなたを助けに来たわ、アーシア・アルジェント。もう安心して、この場から離れて貴方を普通の生活が送れるようにしてあげる。聖女と崇められることもなく、魔女と蔑まれることもない。普通の女の子として生きられるように……ね」

 

その微笑みを見たアーシアは、堕天使だというのにレイナーレのことが女神のように見えた。


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