堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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前半はただの甘い二人。
後半はまるで駄目な大人の話です。


第75話 彼女はおじ様に会いに行く

 結局そこまで大した情報を得ることがなかったリアスへの相談。

それでも多少は希望が見えただけでもマシだが、その希望も絶望に近いもの。

故に喜びはなく、寧ろ悲観しか生まれない。

だが、それでも彼女にとって朗報的な物があるというのなら、それはきっと………愛しい湊が自分のことを気遣って抱きしめてくれたことだろう。

それだけでレイナーレの心は癒されるのだから。

そしてそれ以上に、彼のタメに頑張ろうと心に決めたのだった。

 と、これが前回の話。

そして今回、レイナーレは後回しにしていた所とやっと連絡が取れたので其方に向かうこととなった。

 

 

 

 湊に堕天使としての仕事があると言って夜に部屋を出るレイナーレ。

勿論彼と少しでも離れ離れになるのは名残惜しい。しかし、それでも彼のためを思えばこそ、彼女はその思いを胸に抱きながら行動に移す……のだが………。

 

「そ、その、湊君……その……き、キ……」

 

玄関の前で見送りに来た湊にレイナーレは顔を赤らめながら話しかける。

その顔はトマトのように赤く、これから彼に言おうとしていることが更に羞恥心を増して拍車を掛けていく。

そんな彼女に湊はただ待ってあげるのみ。ゆっくりでも良いから言ってみてといった感じに優しい雰囲気を出していた。

そんな空気にさらされてか、それまで言おうとしていたレイナーレの羞恥心は限界を超え、顔から蒸気が噴き出し始める。

そして精神的に折れるレイナーレ。別に恋人なら良くあることだが、それでも今の彼女にはハードルが高かったらしい。

だからその次の代替案を彼女は湊にお願いした。

 

「その……ぎゅっとしてもらっても…いい?」

 

恥ずかしさから瞳を潤ませつつ、上気した顔の熱を感じながらレイナーレは湊にそうお願いした。

正直傍から見れば、その前に言おうとしたこととどっこいどっこいだとは思うが、それでも彼女にとっては其方の方が上らしい。だが、恥ずかしいことに変わりはない。

そんな恋人の恥じらう気配を感じ、自分も恥ずかしさを感じて頬を赤らめるも、湊は優しく微笑んだ。

 

「えぇ、いいですよ」

 

そしてレイナーレの身体を壊れ物を扱うかのように丁寧に優しく抱きしめる。

 

「ん…………」

 

抱きしめられたレイナーレはその温もりを満喫するかのように目を瞑り、幸せを噛み締める。

抱きしめている湊もまた、レイナーレの温もりと柔らかさを感じ、顔が熱いと感じていた。その分、幸せだとも。

そしてレイナーレが満足するまで抱きしめると、湊は離れた。

 

「それじゃ……行ってきます」

 

恥じらい頬を赤く染めながらも嬉しそうに笑うレイナーレ。

そんな彼女に湊も又、笑顔で返す。

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

その言葉を聞いて、レイナーレは外へと出る。

その胸に湊への愛を大事に抱えながら、彼の夢を叶えるために。

 

 

 

 と、実に見せつけてくれる程のイチャつきっぷりを披露したレイナーレだが、今回の目的地は少しばかり毛色が違う。

転移した先にあるのは、紫色をした空と広大な大地。そして目の前にある巨大な建物。

ここは冥界……悪魔や堕天使、それ以外の様々な異形が住まう世界。

そして彼女が来たのは、その中でも堕天使が支配している地域。目の前にあるのは、その総本山と言えよう。要は彼女の職場でもある。

そのまま気にせずに中に入り、エントランスで係員に用件を伝えればそのまま素通しされる。これがまだ、ただの下級堕天使なら止められていただろう。

だが、レイナーレはアザゼルにとって娘同然の存在。それはこの組織、『神の子を見張る者』にとって皆知っていることであり、それ故に顔パスで上級堕天使に会うことが出来る。だからなのか、親の七光りだと蔑まれることもあるが、彼女は特に気にしていない、ちゃんと仕事はするし、成果も出しているのだから。

そんなわけで今回、レイナーレは上級堕天使に会いに来たのだ。

勿論誰かなど決まっている。彼女のことを実の親以上に可愛がっている『おじ様』にだ。

前回連絡を入れた際はシェハムザから無理だと言われたのだが、どうやらそれを機にシェハムザがアザゼルを煽ったらしい。その結果、本来なら一週間かけて終わらせることが出来る仕事が二日で終わったとか。そのため、こうしてレイナーレはアザゼルに会いに来たと言う訳だ。

レイナーレはそのままエントランスを通りエレベーターに乗ると、最上階へのスイッチを押した。

そして動き始めるエレベーター。この施設はかなりアザゼルの趣味が反映されているのか、かなり人間界のビルに近い。

そして待つこと数分。エレベーターはアザゼルがいる最上階へと止まった。

エレベーターから降りると、彼女は迷うことなくアザゼルがいる総督室へと歩き始める。実の所、かなり行っているので迷うことなど一切無い。

そのまま少し歩けば、外から見ても分かる少し豪華な扉が見え始める。そこが総督室……アザゼルが普段仕事をしている部屋だ。

扉の前まで来たレイナーレは軽くノックをして声をかける。

 

「下級堕天使、レイナーレ、只今参上しました」

「入りなさい」

 

扉の奥から声が聞こえ、レイナーレは素直にそれに従い礼儀正しく扉を開ける。

その扉の先に居たのは礼儀正しそうな男と、そして作業用デスクの上で息絶え絶えになっている中年の男だった。

そんな二人を見ても、彼女は表情を崩すことなく二人に話しかける。

 

「この度、この矮小なる身の願いに応じていただき、感謝の念が絶えません。本当にありがとうございます」

 

静かにゆっくりと、それでもはっきりと話すレイナーレ。

そんな彼女を見て、それまで威厳を保っていた二人の顔は崩れた。

 

「毎回言ってるだろ、そんな礼儀正しくする必要なんてないって。あまり他人行儀にされちまうと、オレは泣きそうになっちまうよ」

「毎回ご苦労様です。お疲れでしょう、お茶を用意しますよ」

 

それまで威厳などまったく感じられない堕天使のトップ二人。

そんな二人にレイナーレは親しみを込めた笑みを向けながら答える。

 

「そんな、申し訳ないですよシェハムザ様。寧ろ私が用意しますから、休んで下さい。おじ様の相手は大変だったでしょうに」

「おいおい、オレへの労いはないのよ。お前さんが相談したいことがあるって聞いたから、おじさん必死に頑張ったのによぉ」

「それはあなたが毎回仕事を溜め込むからでしょうに。それよりも遠いところをわざわざ呼び出してしまい申し訳ありません、レイナーレさん」

 

レイナーレはシェハムザにアザゼルのことで迷惑を掛けていることを謝りつつアザゼルにジト目を向け、向けられたアザゼルはがっくしと項垂れる。そんなアザゼルにシェハムザは無慈悲とも言える視線を向け、そして慈しむかのような目をレイナーレに向けて優しく言葉を掛けていた。

既に分かりきっているが……この反応の通り、レイナーレとシェハムザは当然面識がある。主にアザゼル経由で。だからなのか、特に気負った様子もなく3人は話していた。

そしてレイナーレがお茶を3人分用意して配ると、アザゼルは改めてレイナーレに話しかける。

 

「それで? オレに何の相談だ? ミナトとの生活に何か問題でもあったのか? 『あっち』の事とか?」

「あ、あっちッ!? ……………ぅぁ……」

 

少しイヤらしい笑みを浮かべながら問いかけるアザゼル。そんなアザゼルの言葉を聞いて考えてしまい、一気に顔が真っ赤になるレイナーレ。恥ずかしさのあまり俯いてしまう。

 

「あまり若い娘をからかうのは感心しませんよ。ただでさえレイナーレさんは堕天使なのに可笑しいくらい初心なんですから」

 

意地悪な問いかけをしたアザゼルを咎めるシェハムザ。そう言う彼もあまりこの手の話は好みではない。

それでもレイナーレの反応が見れたアザゼルは満足したのか、笑いながらレイナーレに謝った。

 

「悪い悪い、ちょっと色を知った娘の反応ってのを見てみたかったんでな。息子同然の奴はあまりこういうのに興味を持たないからつまらなくてからかい概がねぇんだよ」

「うぅ~、おじ様の意地悪……」

「そうですよ、まったく……」

 

ジト目でアザゼルを睨む二人。

その視線を受けてもあまり反省した様子を見せず、アザゼルはちゃんとレイナーレに問いかける。

 

「それで、相談ってのは何なんだ?」

 

その優しさを感じさせる声にレイナーレは少しだけ緊張しつつ、アザゼルの目を見据えてはっきりと口にした。

 

「その……湊君のことで話があるの……」

 

 

 こうして今度は堕天使のトップに湊のことを相談するレイナーレ。

これで新しいなにかが手に入るのかは……まだ分からない。

 

 

 


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