堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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うん、リア充滅ぶべし!

おっとイケナイ本音が漏れてしまった。



第74話 彼女はへこまされる

 湊の目を治すためという理由を明かしたレイナーレ。

その思いは純粋な思いであり、同じ女としてリアス達には痛い程分かった。

だからこそ、協力して上げたいと思う。これがまだ、悪魔の重要な秘密を教えろだとか悪魔側に不利益を被るようなことならお断りだが、この堕天使の少女が言うことは大体湊絡みなのでまずそんなことはない。

だから安心して話せるというものであり、オカルト研究部の部室は穏やかな空気に満たされていた。

それは良いのだが、その前にリアスは彼女に聞きたい事があって口を開く。

 

「ねぇ、レイナーレ? 私達を頼ってくれるのは嬉しいのだけれど、その前に聞きたい事があるの。聞いて良い?」

「えぇ、いいわよ。何?」

 

相談に乗って貰えることが嬉しいのか笑顔で答えるレイナーレ。

そんな彼女にリアスは問う。

 

「確かに悪魔の技術や魔法に詳しくないから私達に相談を持ちかけたのは分かるわ。でも、あなたの所でもそれ相応の技術や術だって在るはずよね。ならまず、あなたの『おじ様』である堕天使総督のアザゼル様に話を持ちかけるべきよね。したの?」

 

その疑問にレイナーレは困ったような、身内の恥を恥ずかしがるような顔をした。

 

「うん、確かにリアスの言う通りよ。アザゼルおじ様にまず相談した方が良いってのはわかるわ。でも………でなかったのよ、電話」

 

そしてレイナーレの口から語られる堕天使の内情、もとい身内の恥。

 

「おじ様、ここの所仕事をサボりがちだったみたいで今凄く忙しいみたいなの。シェハムザ様が凄く疲れた声で電話に答えてくれたのよ。だからおじ様に聞いたりするのは今は無理だと思うの。上級堕天使ならもっと色々と知ってると思ったんだけど、コレばかりは仕方ないから。そもそもおじ様が仕事をサボるのが原因なのだし」

「あぁ~、うん、その……ごめんなさいね。そんなことを言わせてしまって」

 

リアスはその答えに申し訳無い気持ちになった。

何せ自分達の種族の長のそんな情けない姿を言わせてしまったのだから。これがもしリアス達なら、実は魔王は皆変人ばかりだと周りに言うようなものであり、とてもじゃないがリアスには耐えられそうにない。

しかし、レイナーレは気にした様子はない。事実は事実であり、寧ろ彼女からすればアザゼルがサボったせいで周りに迷惑を掛けてしまっていることに申し訳無い気持ちで一杯になるくらいだ。

種族のトップの醜態より、その結果で周りに迷惑を掛けている方が余程始末に負えない。何よりも悪いのは自分なのだから、寧ろ周りに知られて反省して貰いたいくらいだとレイナーレは思う。

だが、忙しいだけが理由ではない。実はもう一つ理由があったりするのだ。

そのことをリアスに言おうとするレイナーレ。その顔は恥ずかしさから赤くなり始めている。

 

「それにね……実はもう一つあるのよ」

「もう一つ?」

「うん。リアスはおじ様が神器の研究に熱心なのは知ってるわよね」

「それはまぁ……よく聞く話だから」

 

リアスの言葉に皆が賛同する。

堕天使の総督であるアザゼルがある意味有名なのは、彼の趣味が原因だ。

アザゼルの趣味、それは人間だけに宿る聖書の神が作りし奇跡の力『神器』の研究。

それは人間界において、過去に偉業を成した者には必ず何かしらの関係があると言われている。力の性質や大小はあれど、物によっては神すら殺しかねないものから神滅具と呼ばれている物も存在する。

そのような物を研究しているというのだから、ある意味危険視されるだろう。

ものによっては悪魔も欲しがり、人間から抜き取ったり悪魔に転生させたりしている。しかし、それでも悪魔はそこまで調べたりしない。彼等はそれが使える物だから手に入れたいだけなのだから。

要は便利な道具、それをアザゼルは研究している。それも事細かに、様々なことを。あまり知られていないが、実は人工的に神器を作り出していることは堕天使内の上層部なら知っていることである。彼が如何に研究熱心なのかが窺えるだろう。

今回のレイナーレが親善大使として出向いた際に結ばれた休戦協定。それには悪魔側への神器の研究成果の共用というものもある。

だからこそ、リアス達も知っているのだ。レイナーレはアザゼルから直々に、リアスはサーゼクスに教えて貰って。

と、そんな小難しい話はおいといて、レイナーレが何を言いたいのかと言えば………。

 

「その……もし湊君の目を治したいって相談したときにおじ様が調子に乗って人工神器とかで直そうとしたりしたら、きっと湊君が弄られてオモチャにされちゃうと思うのよ。だからそれだけは絶対に嫌だから……だから先にリアス達に相談したのよ」

「成る程ね。確かにそう言われれば納得するわ」

 

自分の恋人の怪我や病気を治すために実験材料にされるなど、とてもじゃないがたまったものではない。しかも研究者というのはドハマりすると何をしでかすのか分からないのだ。とてもじゃないが、湊のことを任せることは出来ないと判断したのだろう。

だからこそ先に自分達に話が来たのかと、リアス達は納得した。

そして懇願するような目でレイナーレはリアスに話しかける。

 

「だからお願い! 何でも良いから教えて。湊君の目が少しでも良くなるようなことなら何でも……」

「分かってるわよ。だからそんな泣きそうな顔をしないで」

「う、うん……」

 

言われて恥ずかしそうに顔を赤らめるレイナーレ。

それを見て微笑むリアスだが内心は感心し、そして驚いていた。

ここまで恋に邁進する堕天使がいるということに。

そう思うと、本当に目の前の堕天使が今までの自分の常識を打ち破ってくれる。

それが彼女には面白く、そして羨ましかった。

 

 

 

 こうして始まった湊の目を治すための話し合い。

リアス達は早速自分達が持っている知識をレイナーレに教えることにする。

 

「まず、私達は魔力を用いて術を行使するわ。それは攻撃は勿論、治癒もね。魔力事態はエネルギーの塊のような物だから、様々なものに干渉するのよ」

 

何故か伊達眼鏡をかけて教師のように説明し始めるリアス。そしてレイナーレはそれを聞いて勉強する学生のようにメモ帳に一生懸命書いていた。その様子に微笑ましい様子で見守るリアスの眷属達。

そしてリアスの言葉を補佐するように、朱乃が掌で魔力を用いて現象を引き起こす。

 

「このように魔力を使い、火を出したり水を出したりなど様々ですわ」

「朱乃が出したように、魔力によって物理的、精神的に現実に左右するのが私達の術よ。それには当然治療も含まれるんだけど……私はあまり詳しくないから朱乃、お願い」

「はい部長」

 

リアスの魔力は攻撃に向いているため、あまり回復には向いていない。なのでそういった方面にも向いている朱乃にバトンを渡すリアス。朱乃は笑顔でそれを引き継ぎ、レイナーレに話し始める。

 

「私達の魔力による治療、それは負傷した部位に魔力を関与させ、その者の肉体の回復力を高めることで回復させますわ要点だけ言えば、人間とそこまでは変わりません。細胞分裂による修復ですわ。ただし、悪魔の肉体のポテンシャルその物が人間とは比べものにならないくらい高いので、直ぐに細胞が劣化するといったこともないです」

 

それを聞いてレイナーレは少しがっかりする。

人間と同じ要領で回復しているとなると、今の湊には使えないのではないかと思ったからだ。

それを見破られてなのか、朱乃はレイナーレに微笑みかけた。

 

「そう悲観するものでもありませんわ。悪魔には回復の秘薬『フェニックスの涙』がありますもの」

 

それを聞いた途端に顔を明るくするレイナーレ。

堕天使である彼女でも、その名は聞いたことがある。

 

「フェニックスについては知っていますか?」

「えぇ、一応は。勿論、悪魔の方でしょ?」

「そうですわね。似たような特性を持っていますけど、今回は悪魔の方で」

 

そして朱乃は語り出した。

 

「リアスと同じ『元72柱』のフェニックス家。その特性は炎と再生。特にその再生力からほぼ不死身と呼ばれています」

「うん、それは知ってるわ。何でも、頭を吹き飛ばそうが身体を真っ二つにされようが死なずに再生するって噂、聞いたことある」

 

レイナーレの言うことに朱乃は軽く頷く。

勿論誇張でも何でなく事実でからだ。フェニックスは精神力が続く限りどんな損傷でも忽ち再生させる。それ故に不死身の称号を得ているのだ。まぁ……肉体が塵一つ残らず消し飛んだ場合は別だろうが……。

フェニックスについての前知識は充分だと判断した朱乃はレイナーレに笑いながら本題を話した。

 

「そのフェニックス家のみが持つ秘伝によって作られた秘薬がフェニックスの涙ですわ。これは使えば、死にかけている者でも忽ち生き返ります。手足がもがれようが、身体が半分になっていようが、生きてさえいれば」

「つまり、その薬なら湊君も!」

「えぇ、回復する可能性はありますわ。ただし……」

 

やっと見つかった手がかりに喜ぶレイナーレだが、朱乃の声によって現実に戻された。

 

「ただし?」

「凄く高いのですわ」

「具体的には?」

 

不思議そうな顔をするレイナーレに朱乃は耳元でそっとその値段を囁くと、その途端にレイナーレの顔が真っ青になった。

その金額は薬などという範疇を超えている。はっきり言って一下級堕天使の手に入る金では一生かけたって手に入らないほどの高額だった。

だからなのか、せっかく喜んでいた彼女は一気にしおれてしまう。

 

「そ、そんなぁ……せっかく湊君の目を治せると思ったのに……」

「可哀想ですけど、流石にコレばかりは。いくら親善大使でもフェニックスの涙を無料では無理だと思いますわ」

 

苦笑する朱乃にがっくしとするレイナーレ。そんなレイナーレを可哀想だとリアスは頭を撫でて上げる。

 

「正直フェニックスの涙はあまり現実的ではないわね。何せ高すぎるものだから、私でも手が出せないのよ」

「魔王の身内なのに?」

「まぁ、それはそれね。決してお金に不自由はしてないんだけど、アレは高すぎて。アレに使うくらいなら、まだ人間界に病院を建てた方が安く済むくらいだし」

 

そう言われては何も言えないレイナーレ。

そんな彼女にリアスは少し非常識な提案をする。

 

「そうねぇ、後は………悪魔に転生してみるとか」

「え?」

 

その言葉にリアスの目を見るレイナーレ。その言葉の真意を探るかのように、少しばかり険しい目になっていた。

 

「そんな恐い目で睨まないで。人間では無理でも悪魔なら可能ということも視野に入れてよ。生憎私はまだ駒が余ってるからそう考えただけ」

 

冗談まじりにそう言うリアスだが、レイナーレはそれは冗談では済まさないと怒った目で睨む。

 

「いくらリアスでもそれは許さない。湊君は人間のままでいて欲しいから」

「だから、分かってるって。私だって慈善で転生させるほど甘くないわよ。あまり恐い目で睨まないでって」

 

レイナーレの目が恐かったのか冷や汗を掻いてそう答えるリアス。

正直恋する乙女の前に性質の悪い嘘は危険だと思い知らされた。

それでもレイナーレとしては言って貰いたくないことだった。

だが、相談して貰ってる身としては好ましくないことも分かっているので、軽く咳払いしてレイナーレはリアスに湊の情報を更に言う。

それは湊の現在の状態。

極小のガラス片が眼球に突き刺さり、それが抜けずにそのままになっていることを。

それを伝えた途端、一気にリアス達の顔が曇った。

無理もない。何せ未だにその状態のままという危険な状態なのだから。

そしてそれを聞いたリアスはレイナーレに済まなさそうに言う。

 

「ごめんなさい、流石にその状態では本当に悪魔に転生しても難しいわ。何せあれはそのまま肉体を悪魔に変貌させるものだから、眼球に食い込んだガラス片もそのままね。だとすると本当に難しいわ」

「悪魔にさせる気はないけど、それでもそう言われると流石にきついわね……」

 

やはり悪魔でも難しいかとレイナーレは気落ちする。

今の所唯一の可能性はフェニックスの涙だが、アレはあまりにも高すぎてまず手に入らない。だから今の彼女の気分は実に落ち込んでいた。

そんなレイナーレをリアスは優しく抱き留める。

 

「あまり力になって上げられなくてごめんなさい。此方でも調べて見るから、何か分かったら連絡するわ」

「……うん、ありがとう……」

 

レイナーレは小さくそう答える。

そんな彼女にリアスは優しくあやすように話しかけた。

 

「今日はもう帰りなさい。きっと蒼崎君も心配してると思うから」

「うん……」

 

 そしてレイナーレはオカルト研究部の部室から転移した。

 

 

 

 相談に乗って貰えたことは嬉しかったし、少しの希望は見えはした。

それでも、やはり彼女の気分は晴れそうにない。

そのまま湊の部屋の前の扉まで転移するレイナーレ。流石に室内に転移しては湊を驚かせてしまうと判断してだ。

そして気落ちしたまま扉を開ける。

 

「ただいま~」

 

その声に湊が反応し返す。

 

「あ、お帰りなさい、レイナーレさん」

 

そしてレイナーレの近くに歩み寄る湊。

ただいまと言ってもらえただけなのに、それだけでレイナーレの心は軽く綻んだ。落ち込んでいた気がそれだけで明るく華やかになる。

そして湊に気落ちしたところなど見せられない(見えないが)と思い、レイナーレは少し声に力を込めて湊に話しかける。

 

「ごめんなさい、遅くなっちゃって」

 

少しでも滅入った気を悟られないように、空元気でもいいから明るくしようと……湊に心配を掛けないように。

そんな思いを込めた声を聞いて、湊は優しく微笑むと………。

 

「え……?」

 

彼女の身体はぎゅっと抱きしめられた。

その優しい温もりは精神的に参っている彼女の心を包み込む。

そしてレイナーレは湊の胸の中で抱きしめられていた。

 

そのことに戸惑うレイナーレ。

しかし、湊の言葉に聞き入ってしまう。

 

「何だかレイナーレさんが悲しそうだったから……」

 

きっと恥ずかしいのであろう。彼女の目から見てもわかるくらい湊の顔は赤くなっていた。それでも、彼はレイナーレの様子を察して抱きしめてくれたのだ。

それが嬉しくて嬉しくて、レイナーレは少し涙が目から零れた。

そしてそれを悟られないよう、湊の胸に顔を埋める。

 

「ごめんなさい、湊君……しばらくこうしていてもいい?」

 

その言葉に湊は笑顔で答えた。

 

「えぇ、勿論。だって僕は……レイナーレさんの恋人なんですから」

 

その言葉にレイナーレは心底嬉しくなり、しばらく湊の胸に甘えた。

 


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