そして作者はクルシミマス! あぁ、恋人ほちぃ………。
通常、恋人が出来て少しすればある程度は落ち着きと言うものが出てくる。
要は慣れが出て来るということであり、相手をより知るからこそある程度の免疫のようなものがついてくるという。
だというのに………。
「湊君、もう少し首を傾けて」
「で、でも、これ以上すると更にレイナーレさんに」
「いいの。その……こういうことも一度やってみたかったから。それに……湊君だからしてあげたいの」
「レイナーレさん……」
現在、湊の胸はずっとドキドキと高鳴りっぱなしだ。
それというもの、今彼の頭はもの凄く感触が気持ち良い物の上に乗せられているから。その答え、それは…………。
レイナーレの太股である。
彼の頭は女の子座りをしているレイナーレの太股に乗せられており、その顔をトマトのように赤くしている。
そんな彼をレイナーレは恥ずかしいが慈愛に満ちた笑顔で見つめ、その手に持った物で湊の耳を弄っていた。
要は所謂膝枕に耳かきである。
何故こんな事になっているのかと言えば、単純な話。湊が耳かきが苦手だということを軽く洩らしたのが原因だ。
それを聞いたレイナーレは勿論この提案を湊にしたのだが、流石に悪いというのに加え、恥ずかしいということもあって湊は断った。
だが、それで直ぐ引き下がる彼女ではなく、既に湊のその断りが本当に嫌がっていることではないと見抜いており、だからこそ彼の両手を優しく握りながらあ再度聞いたのだ。
「湊君が大変そうだから、だからしてあげたいの……駄目?」
「うっ………」
最愛の人からの甘えるようなこの『駄目?』と言う言葉に湊は弱い。
元から意思が強い訳ではないので、ただ恥ずかしいし申し訳無いという自分の気持ちだけでは断れないのだ。
それに内心では、寧ろそう甘える彼女が可愛くて仕方ないというのもある。
だからこそ、湊は顔を真っ赤にしながら彼女にこう答えるのである。
「お、お願いします……」
「うん、一生懸命頑張るから」
こんな感じで今に至る。
だからといって、湊の精神は覚悟が決まった訳も無く、今の彼は自分の鼓動を頭の中に響かせつつ。頬から伝わる乙女の柔肌に落ち着かなかった。
これが目の見える者ならそれこそ、気が気では無い所ではない。何せ目の前に映るのがもの凄い美少女の太股なのだから。その太股は柔らかくも張りがあり、スベスベとしつつも吸い付くかのような感触がする。まさに男なら誰しも魅了されるであろう至上の感触であった。
それを今、湊は感じているのだ。愛おしい恋人のそんな魅惑的な感触を感じてドキドキしない男などいない。
「やぁ、くすぐったい」
「す、すみません!」
くすぐったそうに身じろぐレイナーレに湊は慌てて謝る。
どうやら湊の吐息が彼女の太股を撫でたようだ。
そんな湊を見て、レイナーレはクスッと笑うと彼の頭を優しく撫でた。
「別にいいの。その……確かにくすぐったかったけど、その分湊君が近くにいるって感じられるから」
「そ、そうですか…」
「そうなの……うふふふ」
そして湊の首に手を添えてレイナーレは彼の首を優しく傾け、上に向いた耳に優しく耳かきを入れた。
「んッ……」
そのこそばゆい感触に湊の口から艶がかった声が漏れてしまう。
男のそんな声など誰も得しないが、それは彼女にとっては別だ。
愛しい彼のそんな声に、彼女もまた少し顔を赤らめてしまう。その胸はドキドキとし始め、吐息に少し熱が籠もる。
「ごめんなさい。大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です。その、少しくすぐったかっただけですから」
「そう、それならよかった。もっと丁寧にするから」
そして互いにドキドキしつつも始まる耳かき。
レイナーレは丁寧に細心の注意を払いながら湊の耳に耳かきを入れて動かす。
彼の耳に白魚のような白い指が愛撫するかのように触れ、耳かきが耳の穴を優しく掻き回す。
っそのムズ痒くもどこか気持ちい感触に湊の口から度々声が漏れる。
それを聞いてドキドキしつつもどこかレイナーレは楽しんでいた。愛しい人から漏れる声。それにドキドキすると共にちょっとして興奮を覚える。
(なんだろう、この感じ……湊君を気持ち良くして上げたいけど、この声を聞くともっと聞きたくなってついつい耳かきを動かしちゃう……少しエッチな感じだけど、嫌いじゃないかも……)
そんな風にドキドキしながら耳かきを行っていくレイナーレ。
湊は両方の耳を掃除され、気恥ずかしさとムズ痒くも気持ちの良い快楽に包まれ、少しばかり眠そうに目を細めた。
その様子をレイナーレは微笑む。
「湊君、気持ち良い?」
「えぇ、とても……んっ…」
まるで小猫のようだとレイナーレは思う。それが可愛くて愛おしい。
湊も湊で最初こそ恥ずかしがっていたが、今ではその快楽に身を委ね気持ちよさそうにしている。
そんな風に互いにドキドキしつつも幸せそうに過ごす二人。
慣れれば多少は免疫が付きドキドキしなくなるのが普通だが、この二人に関してはまったく別のようだ。
互いのことを知れば知るほど更にドキドキと胸を高鳴らせ、更に愛おしさを募らせそれを行動と言葉で表す。
要は………。
相も変わらず『バカップル』なのだ、この二人は。
そして耳かきを終えて、すっかりリラックスしている湊。
レイナーレはそんな自分の膝で気持ちよさそうにしている湊を愛おしそうに見つめながら頭を撫でる。
今日という休日に穏やかな時間が二人に流れる。
そんな時、ふと彼女はあることを思いついた。
それは人間なら誰しもがあるもの。当然異形である彼女もある。
そして好きになったのなら、真っ先に知りたいことでもあった。
「そう言えば湊君」
「はい?」
少し緊張した声で聞くレイナーレに、湊は少し緩んだ声で答える。内心でレイナーレはそんな湊が可愛いと思った。
「その……湊君の誕生日っていつ……なの? 湊君のこと、もっと知りたいから……」
頬を染めながらそう問うレイナーレ。
そのいじらしさに湊は頬を緩めつつ自身の誕生日を答えた。
それは彼からしたら何てことないこと。しかし、それを聞いてレイナーレは驚愕してしまう。
何故なら………。
「後一週間ちょっとしかないじゃない!」
そう、湊の誕生日はもうそろそろだということを知ったからだ。
それに関し、勿論何で教えてくれなかったのかを彼女は湊に聞くが、その答えは単純で彼が自分の誕生日というものを重視していないからだった。
当然そのことに怒りを感じなくもないレイナーレだが、それを直ぐに押さえた。
きっと今までは誕生日を祝うということが少なかったのだろう。ならば、これからは自分が……彼の恋人である私が彼の誕生日を祝うのだと心に決めて。
そして彼女は暖かな笑みで湊に問いかける。
「ねぇ、湊君。少し聞いてもいい?」
「えぇ、いいですよ」
「あのね……湊君、誕生日になったら、何か欲しいものはない。もしくはその、して貰いたいこととか」
顔を赤くしてモジモジと聞くレイナーレ。
そんな彼女に湊は微笑む。
「その……特にないです」
「そ、そうなんだ……」
はっきりと言われてショックを受けたレイナーレ。しかし、その後湊が言った言葉でその表情は一気に明るくなった。
「レイナーレさんが居てくれれば、それだけで幸せですから。だから、それ以上は望めませんよ。だって、こんなにも幸せなんですから」
「湊君………」
あまりの感激に泣きそうになるレイナーレ。さらっと恥ずかしい台詞を難なく口にする湊も、ある意味少し変わり者だ。
だが、その返答では彼女は納得しないだろう。そう思ったからこそ、湊は自身の夢物語を彼女に話した。
「そうですね。もし………もし、目が一回でもいいから見えるようになったのなら………僕はレイナーレさんの顔をちゃんと見たいです」
「え?」
「だって大好きな女の子の顔をちゃんと見たいじゃないですか。いったいどんな顔をして、どんな笑顔をするんだろうって。こう言うと悪いですけど、僕は美人っていうのがどんな人のことなのか良く分かりませんから。だから……もし目が見えたのなら、僕はレイナーレさんを見たいです。まぁ、敵わないから夢物語なんですけどね」
少し自虐気味にそう答える湊。
しかし、それは彼女の心に火を付けた。
確かに湊の目は現代医療では治せないと言われている。だが、それ……あくまでも『人間界の医療』でだ。冥界の悪魔や堕天使、天界の天使に魔女や仙人と、異形や人外の術はそれに含まれていない。
つまり、そういった方法なら湊の目も治せるのではないだろうか。
そう考え、彼女は決めた。
彼のために、その目を治す方法を見つけようと。
だからこそ、レイナーレは湊にこう答えた。
「うん、私も湊君に見て貰いたいな。きっと湊君、見たら驚くと思うから(待ってってね、湊君! 絶対に直す方法を見つけてみせるから!)」
こうして彼女は湊の誕生日のプレゼントを決めた。