堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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所で今更ですが、この作品の主人公である湊は常にまぶたを閉じています。
表情を表すときは口元や雰囲気などで表すときが多いです。


第68話 彼の彼女は弄くられる

 突如としてやってきたアザゼルに戸惑い、恥ずかしいことを言われたために顔を真っ赤にして俯くレイナーレ。

そんな彼女を見て豪快に笑うアザゼルと、アザゼルのことを詳しく知らない湊は首を傾げる。そんな妙な雰囲気が室内を漂い始める。

その中で先に動いたのは、一番被害にあったと言うべきレイナーレだ。

彼女はまるで食らい付くかのようにアザゼルに詰め寄った。

 

「おじ様、何でこんな所に来たんですか! それに今、とても聞き逃せないことを言っていませんでしたか!」

 

驚きと怒りと羞恥が入り交じった表情で問い詰めるレイナーレに、アザゼルはニヤりと笑いながらもう一回先程言ったことを言った。

 

「おいおい、さっきのをちゃんと聞いてなかったのか? お前さんが意中の相手と恋仲になったことのお祝いをしに来たんだよ」

 

堂々と胸を張ってそう言うアザゼルにレイナーレの顔は更に意識させられて真っ赤になる。リアス達にバレた時も恥ずかしくはあった。だが、この男にバレるのはそれとはまったく別の意味で恥ずかしい。

故に彼女はそれこそ耳まで見事に真っ赤になっていた。

そんな彼女を見て実に楽しそうに笑うアザゼル。そんな彼に湊はそれまで置いていかれていたこともあって、少し意欲的にアザゼルに話しかけた。

 

「あの、先生、レイナーレさんとお知り合いなんですか? おじ様て言っていましたし、親族の方とか?」

「ん、あぁ、まぁそんなもんだ」

 

湊の問いに普通に答えるアザゼルは、そのまま自分とレイナーレとの間柄について説明しようとしたが、その前にレイナーレが大きな声でそれを遮った。

 

「湊君、私から説明するわ!!」

「ど、どうしたんですか、レイナーレさん!? 急に大きな声だったんで驚いてしまいました」

「ご、ごめんなさい!」

 

湊を驚かせてしまったということで彼に謝るレイナーレ。

湊はそんなレイナーレから落ち着いていないということを感じ取り、彼女の気配がする方に手を伸ばした。そしてその手はレイナーレの手を捕らえ、彼女の手を優しく包み込む。

 

「あ………」

 

その感触に声が漏れるレイナーレ。そんな彼女の顔は羞恥とは別に赤くなっていく。

湊はそのまま手を握りながらレイナーレを安心させるような笑みで話しかけた。

 

「レイナーレさん、まずは落ち着いて。ゆっくりでいいですから……ね。誰も咎めないし、僕はどんなに時間が掛かっても待ってますから」

「湊君………」

 

そんな湊に頬を染めるレイナーレ。彼女は湊のその言葉に感謝すると共に、自分だけにその言葉を掛けて貰えることが嬉しくてたまらなかった。いつもは甘えて貰いたい彼女だが、彼女だって年相応の少女であり恋人に甘えたい時だってある。それがまさに今であり、湊もその流れを読んだからこそレイナーレに頼って貰えるように声をかけたのだ。そのことが声と共に伝わる想いでわかり、彼女は嬉しくてしょうがない。

頬を赤く染めながらいじらしく湊の手を握り返すレイナーレ。そんな彼女を優しく包み込むかのような笑顔でま待つ湊。そんな二人の間には確かにピンク色の空気が流れ始めていた。

そんな二人をアザゼルはニヤニヤと笑いながら見ていると、レイナーレは湊にアザゼルのことを話し始めた。

 

「この方はね、私が所属してる堕天使の組織で一番偉い人なの。『神の子を見張る者(グリゴリ)』の総督をしている御方よ」

 

それはアザゼルの本来の立場。

謂わば堕天使の長とでもいうべき立場であり、このように早々表を出歩けるような立場ではないはずなのだ。それが何故かはしらないが、こうして湊の部屋に来ているというのは、他の陣営が知れば驚かれるかも知れない。

レイナーレは湊にそうアザゼルを説明することで内心ホッとしていた。これで少しは『漏れない』だろうと。

だが、その考えは浅はかとしか言いようが無かった。

アザゼルはそんなレイナーレ見透かしてか、実に良い笑顔で湊に更に告げた。

 

「そして、そこにいるレイナーレとはそいつが生まれる前から付き合いがある間柄だ。そいつの親とはダチでな、アイツ等が結婚したときも幹事をしたし、そいつが生まれる時も立ち会った。そいつのおむつを替えてやったことだってあるんだぜ」

「っ~~~~~~~~~~~~~~!? おじ様!!」

 

その言葉にレイナーレはもう顔から火が出るんじゃないかというくらい真っ赤になった。

彼女からしたら、湊に実に恥ずかしいことを暴露しているようにしか見えないのだから。誰だって幼少の頃は恥ずかしいものである。

それを聞いた湊はどことなく理解し始めた。

つまりこのアザゼルという大人はレイナーレにとって頭が上がらない、まさに第二の親のような存在だと。

 

「そう恥ずかしがるなよ、レイナーレ。本当のことを言っているだけなんだからよ」

「そういう問題じゃありません! よ、よりにもよって湊君にそんな恥ずかしいこと言わなくても!」

 

恥ずかしい過去を暴露され顔を真っ赤にして怒るレイナーレにアザゼルはあっはっは、と愉快そうに笑う。

そんなアザゼルに湊は話しかけた。

 

「もしかして家族ぐるみで付き合いがあったんですか。だからレイナーレさんも『おじ様』と呼んで…」

「おう、正解だ。コイツが生まれてからずっと面倒見てきたからな。謂わば第二の親って奴で、オレからしても娘同然なんだよ」

 

そう語るアザゼルは何処か楽しそうだ。どうやら久々の娘分との触れ合いを楽しんでいるらしい。

そんな様子を湊はどことなく羨ましいと感じる。自分はもう、そんなことが出来る相手はいないのだから。祖父祖母相手にはそういう風には出来そうにない。

そんな事を考えている湊にアザゼルはさらに笑いかける。

 

「んで、そんな娘に恋人が出来たんだ。親のように見てきた身としては、気になるじゃねぇか」

「だから、どうして知ってるんですか! それにそのお赤飯も何で用意してるんですか!」

 

湊にこれ以上吹き込ませないとレイナーレはアザゼルに喰ってかかる。先程自分で一番偉い人物だと言っていたのに、そんな扱いは吹き飛んでただの親戚のおじさんのような扱いになっている。

そんなレイナーレにアザゼルはニヤニヤ笑いながら答えた。

 

「おいおい、いくらお前を親善大使に命じたからって、お前だけこっちに寄越すわけないだろ。お前に気付かれない様に、ちゃんと幾人の部下を護衛に回してるんだよ。だからだ」

「絶対に嘘ですね!」

 

笑うアザゼルの言葉にはっきりとレイナーレはそう言った。

普通に考えればアザゼルの言葉はとても現実的だ。いくら親善大使でも危険はあるのだから、護衛はいた方が良い。しかし、レイナーレはそれを嘘だと断じた。

それには彼女なりの根拠があるから。

 

「どうして嘘だろ思うんだ?」

「だって、おじ様が凄く面白そうに笑っているからです! そういう時のおじ様は決まって嘘を付きます」

「ありゃ、バレてら」

 

嘘だと言い当てられおどけるアザゼル。そんなアザゼルにレイナーレはジト目で睨んでいた。

 

「それで、本当はどうやって知ったんですか」

「ああ、そいつはな……お前さんの部下から聞いた。この間そこの少年が高熱で倒れた際、色々とあったってなぁ。それで吐かせ……問いかけたんだよ。今の仲はどうなんだってな。そしたらビンゴってわけだ」

「カラワーナ、何でバラしちゃうのよ~!」

 

部下の裏切り、もとい上司の圧力に従わざるえなかった部下に怨み言を洩らすレイナーレ。

しかし、アザゼルの笑いは止まらない。

 

「あぁ、それで勿論アイツ等にも報告しにいったぜ。そりゃ当たり前だろ、娘に恋人が出来たんだからなぁ。親としては気になるじゃねぇか。そうしたらアイツ等、それはもう喜びまくって、少年のことを聞いてきまくったよ。だからオレが知ってる限り全部教えたら、実に良い子じゃないかってはしゃいでなぁ。それでこの赤飯を渡されたんだよ。日本じゃめでたい時にコイツを作るって何処で聞いたかは知らねぇが、凄くハシャぎながら満面の笑みで作ってた。あぁ、確かコイツは他にも女の初潮を祝うってのもあるんだったか?」

「っ~~~~~~~~~~~~~!?」

 

更にからかうアザゼルに、レイナーレは涙目になりつつアザゼルの胸をポカポカと叩き始めた。もう恥ずかしさのあまり少し精神が退行し始めていた。

それも無理は無い話。レイナーレからすれば、もう彼女にとってつながりがある者達全員に湊とのことを知られてしまったのだから。

 

「それでアイツ等が言ってたぞ。今度少年を連れて家に返ってきたらどうだってな。一回直にあって挨拶してみたいんだと。まぁ、アイツ等の様子じゃ反対ってのはまずありえねぇだろ。きっと『レイナーレちゃんのことをよろしくお願いします』って頼まれて、挙げ句は結婚式の予定とかを話し合うはめに合いそうって所だな」

「ぅ~~~~~~、お父様もお母様もおじ様も~~~~~~」

 

そして更にポカポカと叩くレイナーレ。

そんなレイナーレを実に面白そうに笑うアザゼルは湊に改めて顔を向けた。

 

「まぁ、アイツ等がそんな感じだし、オレもお前さんならコイツを任せても良いと思ってる。だからまぁ……こいつのこと、これからも頼んだぜ」

 

その言葉に湊は笑みを浮かべながら答える。

何せそれはこの場にいない彼女の両親、そして同じ我が子のように見守ってきた人の総意なのだから。

 

「はい。レイナーレさんのこと、絶対に幸せにします」

「おぉ、まさか本気でそこまで言うとはなぁ。肝が据わってやがる。上等だよ、『ミナト』」

「はい、アザゼルさん」

 

男同士で通じるものがあったのか頷き合う湊とアザゼル。

そしてレイナーレは湊の言葉を聞き、それまで退行していた精神が元に戻されると共に、頬を紅く染め、潤んだ瞳で湊を見つめた。

 

「湊君………」

 

湊のはっきりとした意思を聞いて、彼女の胸はときめき鼓動が早まっていく。

まさに両親への『娘さんを僕に下さい』並みの言葉に、彼女は嬉しくて泣きそうになってしまった。

それだけ、湊の言ってくれた言葉が嬉しかったのだ。

 尚、この後は3人でしばらく世間話をしたり、湊が幼い頃のレイナーレについてアザゼルから面白可笑しく聞かされたりなどしてレイナーレが恥ずかしがったりなどして時間が過ぎていった。

そして少しした後にアザゼルは帰り、レイナーレは再び夕食の準備を始めた。

 夕飯の際にアザゼルが持ってきた、レイナーレの母親が作ったらしい赤飯を食べた湊とレイナーレだが、その美味しさに驚いていた。

 

本当に、何でそんなことを知っていたんだろうという疑問は、彼女の中で消えずに残っていたが。

 

 

 


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