風邪の事を考えて翌日も一応休むことにした湊。
そんな彼にレイナーレは着きっきりで世話をする。勿論、湊は最初は断った。
いくら何でも、看病で学校を休むのは良くないと。
しかし、レイナーレはその言葉をやんわりと否定した。
「大好きな人が苦しんでるときに側に居てあげられないのは、凄く辛いから。だから、私は湊君と一緒にいる」
その言葉に胸がじんと来る湊。彼だってその言葉は嬉しいのだ。
それにレイナーレは少しイタズラをするような笑顔で湊にこうも告げた。
「それに……もう学校には連絡入れちゃったもの。『湊君の体調が悪いので看病のために今日は休みます』って。介護のために留学してきたんだから、こういうときになにもしないないんて、それこそ留学生としてあるまじき行為だから。そう言ったら先生、凄く賛同してくれて湊君のことよろしくって」
「そ、そうですか……」
学園に自分の事がそう伝わり、湊は恥ずかしさから顔を赤らめた。
きっと学園の教師陣にはもうバレてる可能性があるのではないだろうか? そう思うと顔が更に熱くなっていく。
そんな湊のことをレイナーレは頬を染めつつも優しげな眼差しで見つめていた。
そして翌日。
湊はいつのものように目を覚ました。
彼にとって慣れ親しんだ目覚め。しかし、この日に限ってはいつもと少し違っていた。
目が覚めると、湊は自分のすぐ側に温もりを感じた。
それはとても柔らかく、それでいて心から安らぎを感じさせる温もり。
それが何なのか? 湊は不思議に思い手を伸ばそうとする。
すると、湊にとってとても聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おはよう、湊君」
「レイナーレさん!?」
そう、湊の直ぐ隣に居たのはレイナーレであった。
彼女は湊に添い寝をするかのように、彼の直ぐ側で寄り添っていたのだ。
「な、何で僕の布団に……」
いつもならとっくに起きて朝食を作っているはずなのに、何故……。
そう言いたげな湊に、レイナーレは頬を赤く染めて恥じらいつつも答える。
「その……湊君の寝顔をもっと近くで見たいなって思って……。そうしたら、お布団が温かそうだったから、つい……。それに、一番最初に湊君におはようって言いたかったの」
自分のしていることがはしたない真似だと言うことは分かっている。
それでも好きな人を見ていたい。好きな彼の安らかで可愛い寝顔を独り占めしたい。彼が目覚めて一番最初に自分の声を聞いて貰いたい。
分かってはいても、それでもそうしたくて仕方ないのだ。
そんな彼女の思いに湊は朝一番にドキドキしてしまう。
誰だってそうだろう。朝に起きたら好きな人が間近で自分のことを見ているのだから。
だからなのか、レイナーレは湊に微笑みながら話しかける。
「湊君の寝顔……ぎゅってしたくなるくらい可愛かったよ」
「そ、そう言われても……その、どう返して良いのやら」
困った顔をする湊にレイナーレはクスりと笑う。
それが更に湊の羞恥を呷るが、それでも嫌な感じはまったくしない。
それは相手がレイナーレだからだろう。
そしてレイナーレは微笑みながら布団から出ると、湊に改めて話を切り出した。
「もう朝ご飯は出来てるから、一緒に行こう」
「あ、ありがとうございます」
手を引かれながら起き上がり、湊はお礼を言いレイナーレと共に朝食が置かれている部屋へと向かった。
そしていつもと同じように作ってもらった朝食を一緒に食べ始めた。
「どう、湊君?」
レイナーレは朝食を食べる湊にそう問いかける。
それは勿論、味の感想。いつも湊に聞いてはいたが、今回は少しばかり様子が違っていた。
彼女は朝食を食べている湊っを実に暖かな眼差しで見つめている。そこに不安は感じられない。
そんな眼差しを向けられている湊は彼女に笑顔を向けながら感想を返した。
「えぇ、勿論美味しいですよ」
「うん、よかった……そう言ってもらえて嬉しい! だって……湊君のことを想って作ったから。湊君に美味しいって想ってもらえるように、その……愛情一杯こめてみたの………」
自分で言っておきながら恥ずかしくなって顔を真っ赤にするレイナーレ。
そんな彼女に湊もまた、顔を赤くしながら彼女に答える。
「その……凄く美味しいですよ。レイナーレさんの愛情が籠もっていて……食べる度に幸せな感じがします」
「っ!? うぅ~~~~~、湊君のイジワル。そんなこと言われちゃうと、その……嬉しくて仕方ないじゃない……」
そして互いに真っ赤になる二人。
二人の間に流れるのは、妙にピンク色をした雰囲気だ。もしこの場に他の人物が居たのなら、それがきっと目に見えただろう。それぐらいその雰囲気は濃かった。
「湊君、前より少しイジワルになったんじゃない?」
妙にやられてしまっているレイナーレは、それが少し面白くないと湊にそう聞く。彼女としては、もっと湊に頼って貰いたい。そのためには、もう少し彼が甘えられるような上にならなければと思っているのだ。詰まるところ、年上のように主導権を握りたい。
しかし、そうは思っても、何度も湊に主導権を握られてしまっているのが現状であり、彼女自身もそれが嬉しかったりするのだから手に負えない。
「そうでしょうか? でも……素直な気持ちですから。レイナーレさんのことを好きな気持ちは出来る限りレイナーレさんに伝えたいですからね」
「ぁぅ……そういうのが、その……イジワルなんじゃない。私のこと、こんなにドキドキさせちゃうんだから……でも、そんなところも……好き……」
湊にそう答えられ、レイナーレは真っ赤になってあうあうと慌てふためく。
その様子が湊に伝わったのか、湊も顔を赤くしつつも微笑んだ。これは彼なりの意趣返しだが、その言葉はそのまま本心なだけに始末に負えない。こうしてレイナーレは彼に主導権を握られたままというわけである。それでも幸せそうなのだから、大して意味はなさそうだ。
因みに、昨日何で告白したときにああも反応したのかと言うことをレイナーレに問い詰められ、湊は素直に白状することになった。
そしてそれを聞いた彼女は、馬鹿じゃないと困った顔でそう言い、湊を抱き寄せながら彼に怒ったり泣いたり笑ったりと、色々としたわけだ。
結果、怒られはしたが湊は許された。それと同時に、そんなことは抱え込まずに言うよう強くレイナーレに言われた。
曰く、
『恋人同士に隠し事なんて無し! もっと私に頼ってほしいから、だから湊君は素直になりなさい』
との事。
そして結果が今のコレ。
素直になった結果……否、素直になりすぎた結果、物の見事にレイナーレに爆弾を落としまくる様になってしまったのである。
そのため、レイナーレは度々湊の発言にドキドキさせられっぱなしだ。傍から見ればどっちもどっちなのだが。
そんな感じに二人は食事を済ませると、いそいそと登校準備を始める。
出来ればもっとこんな風に二人で一緒にいたいが、それでは遅刻してしまうから。二人は互いに洗面所を使い制服に着替えると、共に玄関へと向かう。
そして先に扉を開けて外に出たレイナーレは湊の手を優しく握りながら笑いかける。
「それじゃ湊君。一緒に学校に行こ」
「えぇ、行きましょうか」
そしてレイナーレに優しく手を引かれながら湊は歩き出した。
尚、登校中の話。
「レイナーレさん、その……腕にくっつきすぎといいますか、その、柔らかいのが…ごにょごにょ…」
繋ぐ所か湊の腕を抱きしめるようにくっつくレイナーレに、湊は顔を赤くしながら困った顔でそう彼女に言う。
それに対し、レイナーレは頬を桜色に染めつつも湊の腕に力を込めて抱きしめる。
「別にいいと思うわ。だって……私達は恋人同士なんだから……それに、湊君にもっとくっついていたいから……駄目かな…」
そう言って腕に抱きつくレイナーレ。
恥ずかしさから顔は真っ赤だが、どこか幸せそうな彼女。
そんな彼女の気配に湊はこう答えるしかなかった。
「そんなことないですよ。僕もその……レイナーレさんとこうしていたいですから……」
困った顔をしつつも、湊もまたレイナーレとこうして居られることが嬉しいようだ。
本当、どうしようもないカップルである。