堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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ここでやっとある事が明かされます。
気になった人は探してみましょう。


第63話 彼は彼女に膝枕をされる

 突然後頭部に感じた柔らかい温もりに湊は驚いてしまう。

 

「れ、レイナーレさん!?」

「湊君、大丈夫だから落ち着いて……ね」

 

そんな湊にレイナーレは優しい笑みを浮かべながら湊の身体を押さえる。

別に強い力などではない。ただ、優しく押さえられただけだ。だというのに、湊の身体はまったくといって良い程動かなかった。

そして伝わってくるレイナーレの温もりが湊の心臓の鼓動に拍車を掛けていく。

今までだって似たようなことはいくらでもあった。

だが、恋人として改めて感じた彼女の温もりは湊の心をよりときめかせていく。

そんな赤面している湊の顔を見て、レイナーレは軽く笑いながらも湊に負けないくらい顔を赤くしながら湊に話しかけていく。

 

「その…ね。私、実はこういうのに憧れてたの。す、素敵な人と一緒になれたら、その時はこうしてあげたいって……」

 

その告白は彼女の夢の一つ。

所謂、お嫁さんになったら~みたいなものだ。恋愛漫画で色々と学んでいる彼女にとって、好きな人に色々としてあげたいというのは一種の憧れなのである。

そんな可愛らしい少女の夢の告白を聞いて、湊は嬉しくて笑ってしまう。

彼女からの告白で既にはっきりとしているが、それでもこうして言ってもらえるのは嬉しいものである。自分がその『素敵な人』に……彼女の素敵な人だと言ってもらえていることが尚更その感情を高めていく。

だからこそ、湊はそんなレイナーレに素直な感想を伝えた。

 

「ふふふ、レイナーレさんは可愛いですね」

「っ!?」

 

湊の言葉に真っ赤になるレイナーレ。

それまでの恥じらっていた様子もさながら、大好きな湊に可愛いと直に真正面から言われて彼女はトマトの様に顔を赤くした。勿論、嬉しいからである。

 

「み、湊君、その……いきなり言うのは…卑怯よ。そんなことこんな間近で言われたら……嬉しくて仕方ないじゃない……」

 

顔を赤らめながらも嬉しくて仕方ないレイナーレ。ついにやけてしまいそうになり、湊が見えないというのに両手で顔を覆ってしまう。

 

(う~~~~~、湊君に可愛いって……可愛いって言われちゃった! どうしよう、嬉しすぎて顔がにやけちゃうよ~~~)

 

実に嬉しさに内心悶えるレイナーレ。今までも湊にドキドキとさせられる事は言われてきたが、こうして直々に言われたのは初めてなのだ。それも想いが通じ合って恋人同士となった愛おしい彼に褒められた。

それはもう、恋する乙女にとって天に昇るくらい嬉しいことである。まぁ、彼女の場合は堕天使だから、天ではなく冥界というところだが。

そんな茶々はさておき、嬉しさを噛み締めるレイナーレだが、このままだとやられっぱなしな様な気がするのも確かであり、少しばかりいけない気がする。

彼女は湊と恋人同士だが、同時に彼を助けられるような存在にもなりたいと思っている。つまり、彼を引っ張れるような存在になりたいのである。ぶっちゃけやられっぱなしで主導権を握られてしまうのは悪くはないが、それでも自分も握りたいと言う訳だ。今更湊にデレデレなくせに何なんだ、とは言ってはいけない。少しでもお姉さんぶりたい年頃なのだ、ただでさえ湊は母性本能をくすぐる様な男なのだから。

だからこそ、今度はレイナーレが湊に仕掛ける。

彼女は未だに赤身の引かない顔をしつつも、湊に優しい笑みを向けながら彼の頭にそっと手を置いて撫で始めた。

 

「そ、そういう湊君も、その……可愛いと思う……」

 

優しく湊の頭を撫でながらそう呟くレイナーレに、湊は撫でられていることに恥じらいを覚えつつも気持ちよさそうにしながら苦笑を浮かべた。

 

「男が可愛いと言われても、喜んでいいのか分かり辛いですね」

「いいの。だって………大好きな人にはそう言いたくもなるんだから。湊君って何だか放っておけなくて、その……可愛いってずっと思ってたから……」

 

そう言われ、湊は更に顔を赤くしていく。

 

「そ、その……そうだったんですか。何かそう思われてただなんて思いませんでしたから、少し恥ずかしいような気もしますけど、その……レイナーレさんになら、そう思われてもいいかもしれません」

 

それは彼なりの甘えだ。その言葉にレイナーレはさらにキュンとしてしまう。

だからなのか、彼女はもっと湊の頭を優しく撫でていく。

レイナーレのスベスベとした手が少し硬い髪を撫でていく感触が湊にはこそばゆく感じてしまい、少しばかりくすぐったそうだ。

しかし、それでも気持ちよさそうに頬を緩める湊。

 

「何かこうして撫でて貰ってると、昔を思い出しますね」

「昔?」

「えぇ、朧気ですけど、小さい頃に母さんに撫でて貰ってた覚えがあります…」

「そうなんだ……」

 

幼い頃を思い出す湊は、少しばかり苦笑する。

この歳でそんな事を思い出すのが彼には少し恥ずかしかった。マザコンというわけではないが、やはり異性を前に思い出すことではないと。でも、何故かそのことが彼の口から漏れてしまう。それは偏に、彼が完全に安心しきっているからだろう。

レイナーレはそんな湊に心がときめき、そっと湊の頭を抱きしめる。

いきなり感じた柔らかな感触に更に驚きを見せる湊だが、その前にレイナーレが優しく声をかける。

 

「なら……もっと甘えてほしいな。だって、私は……湊君が大好きだから。もっと、その……湊君のお母様より、頼って欲しいから…」

 

彼女は赤い顔で湊の耳元に囁く。

その言葉は聞いてる側は勿論、言っている側でもドキドキとしてしまうものだ。双方とも心臓の鼓動は早くなり、互いにその鼓動が聞こえないかと心配になってしまう。

でも、それでもどこか心地良かった。

そんなふわふわとした充足感に二人は満たされていく。

そして湊は安心しきったのか、眠気に来て意識が薄らいでいくのを感じ始めた。

だからこそ、眠気に完全に意識が持って行かれる前に、レイナーレに伝えたいことを言う。

 

「なら……僕も……。もっとレイナーレさんに頼って貰えるような、そんな男になりたいですね。だって……好きな子には頼って貰いたいのが男ですから…」

「うん……」

 

湊の言葉に頬を桜色に染めるレイナーレ。

妙にピンクな雰囲気を醸し出し始める二人。どうにもバカップルになりそうな気が窺える。

そんな如何にもな雰囲気の中、段々と眠りに落ちていく湊。

風邪で低下していた体力は回復を求めている。その様子をレイナーレは慈愛に満ちた表情で見つめている。

 

「あ、そういえば……」

「ん?」

 

後少しで眠りそうになった手前、湊はあることを思い出した。

それは気が付けばいつの間にかなっていたこと。でもまったく違和感がなく、寧ろ嬉しかったことである。

そうだからこそ、湊はレイナーレに問いかけた。

 

「そう言えばレイナーレさん」

「どうしたの、湊君?」

「いつの間に、『湊』って名前で呼び始めたんですか? 前は『蒼崎君』だったのに?」

 

そう、湊が今更気付いたのはそれであった。

その言葉にレイナーレは少し恥ずかしがりつつも湊に聞き返す。

 

「その……嫌だった?」

 

少し不安が混じっているその言葉に、湊は嬉しそうに笑いながら答えた。

 

「いいえ、そんなことないです。その……寧ろ嬉しかったかな。大好きな人にそんな風に下の名前で呼んで貰えるってことが、こんなに嬉しい事だとは思わなかったから」

「そ、そうなんだ」

 

湊にそう言われレイナーレも嬉しそうに微笑む。頬は嬉しさのあまり紅潮していたが。

そんな彼女は湊にその件についての告白をした。

 

「そのね……実はずっと前からそう呼びたかったの。私はずっとレイナーレって呼ばれてたのに、湊君には『蒼崎君』って呼んでたから。その……よそよそしいかなって。でも、馴れ馴れしいって嫌われたくなかったから…」

「そんなことないですよ。僕はその……ずっとレイナーレさんのこと……好きでしたから……」

「湊君……」

 

湊の言葉に瞳を濡らすレイナーレ。

そんな彼女に湊は恥ずかしさから顔を赤くしつつも笑う。

そしてやっと聞けたこともあって、今度こそ眠りに落ちた。

レイナーレの膝の上で安らかな寝息を立てる湊。そんな彼をレイナーレは愛おしいと優しく頭を撫でる。

そして顔を段々と近づけて、眠っている彼に囁いた。

 

「私も……ずっと前から大好きだったよ、湊君……だ~い好き……ちゅ…」

 

そして湊の唇にそっとキスをした。

 

 

 

 翌日、湊の風邪はすっかりと治ったが、互いに実に恥ずかしいことをしたと思い、湊とレイナーレはずっと赤面していた。

 




改めて言わせて貰おう。
作者は何処ぞの格闘者のようなマジ切れ顔で二人に言いたい。

「このバカップルがっ!!!!!!」

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