堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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皆さん、これからも二人の甘い感じをご堪能下さい。


第62話 彼は彼女に拭いてもらう

 どこか静かな室内にカチャリと食器が小さくぶつかり合う音が響いた。

 

「ご、ごちそうさまでした」

「うん……お粗末様……」

 

あれから実に二人とも赤面しつつも何とかお粥を食べ終えたわけだが、未だにその顔は熱を放ち真っ赤なままである。

レイナーレは自分の顔がどうにもふやけて仕方ない。

湊と晴れて恋人同士となり、そして彼のことを想って作ったお粥を美味しいと褒めて貰えた。それが凄く嬉しくて幸せで、彼女はもう顔が崩れかけている。美少女の顔が幸せでにやけて崩れるというのは如何な物だが、それでも美少女がやれば形になるというのだから世の中は不平等なのかも知れない。

そんな幸せ全開なレイナーレは、一先ず食器を洗うべく台所へと移動する。

彼女の少し浮かれた足音を聞きつつ、湊もまた心が温かであった。

今までも同じように食べさせて貰ってはいた。

だが、想いが通じ合い恋人同士になったことで、今まで以上に湊は幸せを感じている。彼女の喜ぶ声を、その幸せそうで、でも何処か恥じらっている可愛らしい様子がまた溜まらなく嬉しくて、湊もまたレイナーレのことが好きで堪らなくなっていた。

そう思うと、先程まであれだけ悩んでいた自分は何だったのだと突っ込みたくなる。そして同時に如何に自分が現金な人間なのだとも自覚させられるが、この幸せの前には小さい事のように感じられてしまう。

まだ二人ともなったばっかしだが、その心は互いに幸せであった。

そんな二人の訳なのだが、まだ忘れてはならないのが湊の状態。

 

「あ、そういえば少し汗を掻いたかな……」

 

湊はお粥を食べた事と、それまで感情を高ぶらせていたことで身体が汗まみれになっていることに今更気付いた。

これが一人だったのなら、そこまで気にはならない。

しかし、今はレイナーレという大切な女性がいるのだ。流石に病床の身とは言え臭いと思われたくない。

だからこそ、此方に戻って来たレイナーレに湊は話しかけた。

 

「あの、レイナーレさん」

「どうしたの、湊君?」

 

湊に話しかけられ、顔がにやけているのを悟られないように気を付けながらレイナーレは返事を返す。

 

「少し汗を掻いたようなのでシャワーを浴びて来ます」

 

別に何ら可笑しなことはない。

ただ汗を掻いたから洗い流してくる。ただそれだけのこと。

しかし、それを『今の湊』が行うのは流石によろしい事ではない。

それに気付かない彼女ではなかった。

 

「湊君、ちょっと待って!」

「え?」

 

呼び止められ、湊はその場で動きを止める。

不思議そうな顔をする湊に、レイナーレはこれから彼に言おうとしていることを考えて顔を赤くする。これから彼女が告げるのは、病人なら良くある普通のこと。しかし、それを年頃の男の子に言うのは流石に恥ずかしい事でもある。それが大好きな人なら尚のこと。

しかし、こんな機会が今度在るのかと言われればいつ在るのかなんて分からない。

『今』なのだ。今しかこの時はない。

故に彼女は湊に告げた。

 

「まだ熱があるのにシャワーなんて浴びたら身体に悪いわ。今お湯とタオルを用意するから少し待ってて」

「えっと……わかりました」

 

最初はその言葉の意味を理解出来なかった湊だが、少しして分かったようで笑みを彼女に返した。

要は彼女がお湯とタオルを用意してくれるので、それで身体を拭けということだと。

しかし、これはそんな単純なことでないことに彼はまだ気付かない。

レイナーレは少し早足で湊に言った通りお湯とタオルを用意すると、それを湊には渡さずに彼の隣に置いた。

そして彼女は恥じらい顔を赤らめながらも言う。

 

「み、湊君、その……服を脱いで……」

「え……?」

「わ、私が、その……拭いて上げるから……」

 

そう口にするも、レイナーレの顔はどんどん赤くなっていく。それはまるで火にかけたヤカンの如く、彼女の顔からシュウシュウと湯気が立ち上っていた。

 

「そ、そのね……湊君は風邪引いてるんだから、こういうときは甘えてほしいから、だから、その……自分で拭くのも大変だしね。わ、私が拭いた方が良いと思うの……」

 

言い終えると共にプシュー、と効果音が聞こえそうなくらいレイナーレの顔は真っ赤になる。前回風呂場で背中を流しただろ、と突っ込んではいけない。

その申し出に湊は当然恥ずかしがる。

 

「いや、別に大丈夫……」

「だ、駄目……?」

 

湊には見えないが、潤んだ瞳でお願いするレイナーレ。

見えはしないが、その想いは言葉から充分に伝わってくる。彼女はこんな時だからこそ、もっと頼って……もとい甘えて欲しいのだと。

恥ずかしいが、その思いに湊もまた答えたいと思うわけで………。

 

「そ、その……お願いします」

 

自身の恥よりも彼女の想いを尊重した。

その言葉にレイナーレも恥じらうも嬉しそうに微笑む。

 

「うん、わかった。それでさっそくなんだけど……」

 

彼女が言わんとしていることは分かっている。

湊は彼女に頷くと、来ていたワイシャツを脱いだ。

 

「っ~~~~~~!?」

 

目の前で晒された湊の肌。それにレイナーレは見入ってしまう。

別に上半身だけ脱いだだけなのだから、何も恥ずかしいわけではない。だが、彼女にとってその姿は、妙に女を刺激させられドキドキしてしまう。

それでも言ったからにはやらねばと、彼女は行動に移す。

 

「そ、それじゃ…拭くね」

「は、はい…」

 

両者とも緊張に声が固くなる。

そしてレイナーレはお湯を用意した桶にタオルを入れ、それを優しく絞ると湊の背中に触れさせた。

 

「っ……」

 

その感触に湊から少し反応が返ってくる。その僅かな吐息にレイナーレは顔が熱くなっていくのを感じた。

そして彼女は背中を優しく拭いていく。

その手つきはゆっくりと優しく、タオルは緩やかな速度で湊の背中を撫でていく。

それは少しばかりくすぐったいが、それでも湊の身体をリラックスさせるのには充分だったようだ。

 

「ど、どう? もうちょっと強くやった方がいいかな」

「いえ、このぐらいが丁度良いです……」

「そうなんだ…よかった……」

 

湊の気持ちよさそうな表情を見てレイナーレも少しホッとする。

しかし、彼女の鼓動は落ち着きを見せない。

目の前に広がるのは、大好きな男の子の背中。それは同年代の男子に比べれば少し小さいのかも知れないが、それでも彼女からすれば充分に大きい。そしてその背中は確かに『男』のものである。

その背中を拭くレイナーレは、湊の男らしさを感じ取り、ドキドキしてしまう。

 

(やっぱり湊君、男の子なんだなぁ。背中を拭いてるだけなのに、何かドキドキしちゃう……。それによく見れば熱が高いこともあって肌が桜色に紅潮してる。それが妙な色気を………って、何私考えてるの!? も、幾ら恋人同士になったからってこんなふしだらな事を考えちゃうなんて………私のバカ……)

 

自重しろと自身に命じるも、それでもドキドキは止まらない。

拭く度に感じられる湊の筋肉。それが彼女には刺激的であった。

ドキドキしているレイナーレに対し、湊も胸を高鳴らせていた。

大好きな恋人に背中を晒して拭いて貰うというのは、何とも言いがたく恥ずかしいのだが、同時に彼女になら任せられるという安心感に包まれていた。

だからなのか、湊はレイナーレが喜んでしまうようなことを無意識に洩らす。

 

「レイナーレさんの手……ひんやりしてますね」

「え、そう…かな?」

「えぇ、それが気持ち良くて……もっと撫でて貰いたいかも……」

「そ、そうなんだ!?」

 

湊にそう言われ、レイナーレは恥ずかしいが喜んでしまう。

そして彼の要望に応えるべく、レイナーレは湊の背中にそっと手を乗せて撫で始めた。

 

「ど、どう?」

「良い感じです。レイナーレさんの手、スベスベしてて冷たくて気持ち良いです………」

 

その言葉にレイナーレの顔はカァっと赤くなっていく。

褒められた事と湊が自分のことを感じてくれることが、恥ずかしいけど好きな人の役に立てたことが嬉しい。

そんな暖かな感情がレイナーレを満たしていく。

撫でることでレイナーレもより湊の男を感じて火照りを感じていく。

 

「湊君の背中……やっぱり大きいね。男の人の背中なのね……」

 

また、レイナーレも湊の背中について感想を洩らすと、湊は恥ずかしいと思いつつも苦笑する。

 

「僕は男ですよ」

「そうなんだけど……こうやって男の人の背中を拭くのは初めてだから、そう思って…………」

 

そこで一端言葉が切れる。そしてレイナーレは潤んだ瞳で湊を見つめながら告げた。

 

「湊君が初めて……なんだよ……」

 

「っ!? そ、そうですか! それはその…感激です……」

 

女性から初めてと言われて顔を真っ赤にする湊。それが性的なことでなくても、好きな人の初をいただけたことは誇らしく感じてしまう。だからなのか、湊は恥ずかしいが嬉しかった。

そして二人とも会話をしつつも互いに顔を赤らめつつ背中を拭き終える。

 

「じゃ、じゃぁ、その……前はどうしようか……」

 

その言葉に顔を真っ赤にするレイナーレ。

背中を拭くのと前を拭くのでは全く違う。当然湊も恥ずかしい。

だが、それでも湊はレイナーレの心遣いが嬉しくて、彼女にお願いした。

 

「そ、それじゃあ……お願いします……」

「う、うん………」

 

そしてレイナーレの手は今度は湊の胸板に触れた。

それは鍛えていなくても確かに分かる男の肉体。その感触にレイナーレはドキドキが止まらなかった。

そしてゆっくりと湊の身体を滑っていくタオル。その感触はちょっとした愛撫のようで、湊は時折声を漏らしてしまう。

それがレイナーレの耳に入り、聞いた側も聞かれた側も双方とも耳まで真っ赤になった。

 それから少しして、やっと身体を拭き終えた湊とレイナーレ。

流石に下半身はレイナーレには拭かせるわけにはいかないので、湊がレイナーレに後ろを向いて貰いながら拭いた。

 

「その……ありがとうございました。御蔭で身体がスッキリしましたよ」

 

改めてスッキリした身体で感謝をする湊。

そんな湊にレイナーレは嬉しそうに笑いながら返事を返す。

 

「湊君の役に立ててよかったわ」

 

そして互いに笑い合うと、少しばかり湊の身体がふらつき始めた。

どうやら眠くなり始めたようだ。

故に湊はレイナーレに眠ることを言おうするのだが、その前に彼女からとんでもないプレゼントを渡されることとなった。

湊の様子は当然レイナーレにも分かる。

だからこそ、彼女は顔を赤らめつつも湊の後ろに回り込んで正座に近い、所謂女の子座りをした。

そして湊が言う前に彼の身体をそっと自分の方に倒し、その後頭部を彼女の膝の上に乗せる。

 

「眠いんでしょ。だったら、私が、その……膝枕してあげる……」

 

その言葉に湊の眠気は飛びかけた。

 

 




最近はっきりとし始めてきた事が一つ。
レイナーレの潤んだ瞳と上目使いによる『駄目?』の前に湊は抵抗出来ないようですよ。

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