堕天使な彼女の恋物語   作:nasigorenn

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短いですが、その分甘く悶えるような文にしてみました。


第60話 彼と彼女は結ばれる

 湊はレイナーレからされた告白に困ってしまっていた。

別に迷惑なんかではない。では何に困っているのかと言えば……。

 

どう返事を返せば良いのか分からないのだ。

 

嬉しすぎて、幸せすぎて、どうしようもなく溢れてきて。

それまで堪えてきた想いが湊は押さえられなくなってしまっていた。

彼女のことが好きだという想いが溢れてどうしようもなく、それまで頑なに考えていた彼女の今後のためという堤防は決壊されてしまう。

もう、その堤防を再建することは無理だった。

だからこそ、もう歯止めの効かなくなった感情に従って湊はレイナーレにその『答え』を返そうとする。

だが、その前に少しばかり意地悪したくなり彼女に湊は問いかける。

 

だって……こんなにもやられっぱなしなのは何だか面白くないから。

 

「僕はこんなどうしようもない人間ですよ? 目も見えないしロクに働けもしない最低男ですよ。そんな僕でも、いいんですか?」

 

湊のその言葉に、レイナーレは湊を真っ直ぐ見つめつつも柔らかく微笑みながら応える。

 

「良いも何も……私は全部を含めて湊君が大好きなの。だからそんなこと言わないで」

 

レイナーレはそう答えると、湊の顔に手をそっと添える。

普段の彼女なら恥ずかしがっている所だが、彼女もまた自分の感情が溢れ出し歯止めが効かなくなってきているのだろう。

湊は頬に触れた彼女の手の感触にドキドキしてしまう。

 

「目が見えないのは仕方ないけど、それすら克服するほど湊君が頑張ってることを私は知ってる。働けもしないって言ってるけど、湊君ならきっと出来るよ。だって凄い努力家だもの。それこそ、私が見てきた人の中でも一番のね」

 

そこで一端言葉を切ると、レイナーレは湊の言葉への意趣返しを含めた笑みを浮かべた。

 

「それに……私はこう見えて一応は働いてる身なのよ。人間界のお金なら中級サラリーマンの年俸くらい稼いでるから、問題ありません。湊君を養っても余裕で暮らしていけます」

「そ、それは男としてどうかと思うのですが………」

 

見事意趣返しをくらい、湊はタジタジになりながら返す。

それすらレイナーレは嬉しいのか、湊に笑いながら話しかけた。

 

「湊君ならいいの。寧ろ今まで頼って貰えなくて寂しかったんだから、その分頼って貰いたいもの。世間じゃヒモなんて言われて蔑まれるけど、『視覚障害者』なら仕方ないの。寧ろ保護を受けて当たり前なんだから……もっと甘えて貰いたいんだけど……駄目?」

「うっ……(ヒモっていうのが如何に駄目人間なのかは知ってるけど、こうやってレイナーレさんに言われると寧ろヒモになりたくなる……それにレイナーレさんの甘えた感じがまた可愛く感じて……)」

 

自分で否定しつつ駄目人間に堕ちかける湊。

自分の立場上レイナーレの言っていることは間違いではないが、だからといって許容して良いのかと言えば疑問が残る。

そして少し困った顔をする湊にレイナーレは決め手をかけた。

 

「だから……そういった部分も含めて、私は湊君のことが好きで愛してるの」

「っ~~~~~!?」

 

その言葉に胸がとくんと高鳴り暖かくなる湊。

だからこそ、もう観念した。

 

「もう、レイナーレさんは……。そんなに言われたらこっちはもう観念するしかないじゃないですか」

 

湊はそう言うと、レイナーレに顔を向けて笑う。

その笑みはレイナーレが見てきた彼の笑みの中でも、一番綺麗なものだった。

 

「先程の答え、ちゃんと返させて貰います……いや、先に言われてしまったのは少し悔しいので仕返させて貰いますね」

 

そこで一端言葉を切る湊。彼の顔は次第に朱が入り始めていく。

そして意を決して彼は彼女に告げた。

 

「僕も……レイナーレさんのことが好きです。異性として、一人の女の子として。生涯を共にしたい人として、あなたのことが大好きです」

「っ!?」

 

その言葉を聞いた途端、レイナーレの瞳が潤んだ。視界は曇っていくのに、湊の姿だけははっきりと捉えている。そして彼女の胸の鼓動は急に高鳴り、彼女自身でもどうしようもなく喜びに溢れてしまう。

 

「まだ学生の身で言うのは重いと思いますけど……愛してます。心の底から、生涯たった一人、僕の中で唯一決まった『一番大切な人』。だから……こんな僕でも、受け入れてくれますか」

 

その言葉と共に湊がレイナーレに手を差し出す。

その手と言葉を聞いて、レイナーレは顔が赤くなると共に目から涙がこぼれ落ちてきた。

それは勿論悲しみの涙ではない。嬉しいからこその涙だ。

彼女はその幸せを湊に伝えるべく、彼の手を取り答えた。

 

「はい、勿論喜んで。こんなに嬉しいことなんて、きっと一生無いかもしれない……」

 

この言葉のやり取りにより、二人の想いが確かに成就した。

そして泣き出すレイナーレ。

嬉しくて幸せで、どう感情に表して良いのか分からなくて、彼女は涙を流しながら幸せそうに笑顔を浮かべる。

それは湊も同じであり、彼もまた自分で決め込んでいた事を打ち砕かれて自分が如何に不甲斐ないのかを思い知らされつつも、どうしようもなく嬉しくて胸の高鳴りが収まらない。

そんな二人だが、先にレイナーレが動く。

 

「ねぇ、湊君……こっち……向いてくれる?」

 

何やら甘い声に想いが繋がった湊は誘われるようにレイナーレの方を向いた。

その途端、その感触が唇から伝わって来た。

 

「ちゅ………」

 

湊の唇から伝わって来たのは、今までに感じたことのない極上の感触。

瑞々しくて張りがあり、それでいながらマシュマロのように柔らかくて、味覚としては感じ取れないが何故かとても甘い。

そんな魅惑的で蠱惑的な感触に湊は驚いてしまう。

そして顔が真っ赤になり熱で焼かれていく。

そんな感触がほんの僅か……湊には凄く長く感じられたが、やっと離れる。

その後すぐに、レイナーレから何やら恥じらいが入った声がかけられた。

 

「ど、どう? そ、その………私の…ファーストキス………」

 

湊にそう告げたレイナーレの顔は、それこそ夕陽よりも真っ赤であった。

 

「せっかく恋人同士になれたから、その……ずっと湊君にして上げたくて、だから……」

 

恥じらいながらもその想いを伝えるレイナーレ。

そんな彼女に湊も同じように真っ赤になりながら答えた。

 

「その……ありがとうございました。その……僕も初めてで………」

 

そして互いに真っ赤になる二人。

 

 こうして改めて、湊とレイナーレは想いを成就させ恋人同士となった。

 


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