だからこそ、今回は何と!
『甘酸っぱい告白』をさせてみました!
深夜のテンションで書いたのでぶっ飛んでるかも知れませんが……。
熱い。
湊がまず感じたのは身体中から湧き上がる熱であった。その熱は自分という存在を許さないかのように湊の身体を焼いていく。
次に感じ取ったのは寒気だった。
熱いのに、身体の奥底から冷え切っているかのように寒気に身体を襲われていた。
熱いのに寒い。その矛盾が湊の肉体と精神を同時に責め立てていく。
そして喉の渇きに目眩に吐き気などもそれらに加算され、まさに気持ち悪いという気持ちの極致であった。
苦しくてしんどくて、もうどうしようもなくきつかった。
だが、そんな最悪の気分でも、ほんの少しだけ心が安らげるものがあった。
自分の隣、すぐ間近に暖かなものがあったから。その柔らかい暖かさは湊の身体を優しく包み込む。
身体は熱いのに熱くなく、寒気に震える身体はその温もりの御蔭で暖かく気持ち良い。
そのため、彼は顔を苦悶に歪めることなく、安らいでいた。
そして目を覚ます。
「あ、あれ、ここは………………」
目が覚めた彼が最初に感じたのは、室内特有の空気。
しかし、それは本来有り得ない。
何故なら、それまで彼は『学校の屋上』にいたのだから。
急に記憶が飛んでいることに彼は戸惑いを隠せなかった。いつの間に帰ったのかと。
午後の授業を受けた記憶も、レイナーレと一緒に下校した記憶も無い。
一体何があったのかと首を捻ると、隣から声がかけられた。
「湊君、気が付いたのっ!?」
「え?」
その声は彼にとって聞き覚えのある馴染み深い声。彼が『好き』な人の声。別にそれに驚いたわけではない。
湊が驚いたのは、その声がした場所である。
それは自分のすぐ隣。つまり先程からずっと湊の心の拠り所である温もりを感じていた所。
それらの結果、湊は顔が一気に熱くなるのを感じた。
「え、何でレイナーレさんが隣に!? そ、それにここはいったっ…」
湊は驚き困惑しながらレイナーレに現状について聞こうとしたが、その言葉は途中で止まった。
「よかった!! 湊君が死んじゃうかと思ったから……本当によかった……ひく、ぐす……」
胸に走る衝撃、そして自分の身体をぎゅっと抱きしめられる感触と胸が濡れていくのを感じて、湊は言葉を止めた。
幾ら目が見えない湊でも、今自分がどうなっているのかは分かる。
レイナーレが自分の胸に顔を埋めて抱きしめているということに。そして、自分に何があったのかまでは分からないが、彼女が自分を心底心配して涙を流しているということに。
だからこそ、湊はレイナーレの肩に手を回し彼女を優しく抱きしめ返した。
自分のことをこんなにも心配して涙を流してくれる彼女の気持ちに答えたいから。心優しい彼女を愛おしいから。
「すみません、何かは分かりませんけど凄く心配させてしまったようで……」
湊は胸の内で未だに泣いているレイナーレにそう言いながら、そっと彼女の頭に手を置き撫でる。それはまさに、幼子をあやすかのような撫で方であった。
優しく、それでいてゆっくりとその手は彼女の艶やかな黒髪を撫でていく。
その感触に湊は気持ちよさを感じつつ撫でる。
その感触にレイナーレは顔を赤らめつつも涙が止められず、為すがままにされていた。
「本当に……よかった。湊君、凄く苦しそうだったから、だから本当に無事で………」
そしてしばらく湊は自分に何が起こったのかを聞く前に、彼女のことを愛おしく撫で続けていた。
あれから少しして、レイナーレは落ち着き始めたようで湊の身体から離れる。その様子は少しばかり離れたくないといった感じだ。湊には見えないが、その顔は涙で泣き腫らし真っ赤になっていた。
しかし、その赤さ以上に湊に恥ずかしい姿を見られたということが気になって恥ずかしさで赤くなっている。
「ご、ごめんなさい、取り乱してしまって…」
レイナーレは湊に恥じらいながらそう言うと、湊はそんなことはないと申し訳なさそうな顔で答えた。
「いや、そんなことないですよ。寧ろ僕がどれだけレイナーレさんにご迷惑を掛けたのやら」
湊の言葉を聞いてレイナーレは首を横に振る。
「そんなことない! 湊君が迷惑だなんて、そんなこと絶対にないわ!」
その反応に驚きつつ、湊は改めて彼女に問いかける。
「それで……あの後一体何があったんですか? それにここはどこですか?」
その言葉にレイナーレは先程感情を高ぶらせたことを恥じらいつつも、落ち着きながら湊に答える。
「お昼の時、湊君は屋上で倒れちゃったの。それでリアス達に来てもらって調べたら風邪だって言われて。それからは一緒に早退ということにして貰ってタクシーで家まで運んで貰ったの。後は湊君のことをずっと看病してたのよ」
レイナーレは未だに心配そうな声で湊にそう言うと、湊はレイナーレの方に頭を下げ始めた。
「それは……すみませんでした。まさか倒れるなんて……飛んだご迷惑をおかけしました」
「そんなこと言わないで。私は別に迷惑だなんて思ってないからね。寧ろ、湊君はもっと私に頼ってくれても良いと思うの。だって……私は……」
後半の部分は聞き取れないが、それでもレイナーレははっきりと主張する。
もっと私に頼ってくれと。
湊はその言葉にどうしようもなく心が辛くなる。
彼女の心遣いが嬉しくて、どうしようもなく幸せを感じてしまう。だが、それはいけないことだ。彼女は優しいから、だから……それに甘えてはならない。
自分の気持ちは彼女を頼りたい、もっと一緒にいたいと叫ぶがそれを理性が許す訳にはいかない。
彼女は自分のような足手まといが邪魔して良い人ではない。
だからこそ、湊は未だに熱に魘されている頭を堪えながら苦笑を浮かべた。
「僕はとても頼ってばかりだと思いますよ? だって、いつも食事を作って貰ってますし、いつも一緒に歩いて貰ってるし、何より助けて貰ってばかりですし。こう言ってると如何に自分が駄目人間か良く分かりますね」
湊は笑いながらそうレイナーレに言う。言葉だけでとればその通り駄目人間だろう。レイナーレに頼ってばかりで自分は何も出来ないのだから。
だが、そんな笑い話にレイナーレは目を見開いて怒った。
「そんなことない! 湊君はいつも一生懸命に頑張ってる。勉強だって普通の人に負けないくらい頑張ってるし、日常生活だって私がいなくたって出来るんだから。それに!」
そこで一端言葉を止めるレイナーレ。
そして彼女は次の瞬間、湊の心が凍り付くことを言った。
「何より、湊君は自分のことを良く分かってる! 自分の状態を知ってるからこそ………何をそんなに苦しんでいるの?」
「っ!?」
その言葉に湊は息を飲んだ。
そう、彼女は言い当てたのだ。『自分が苦しんでいる』ことに。
「最近の湊君、様子がおかしかった。何か思い悩んでいるみたいで、それでいつも苦しそうだった。湊君のプライベートなことだから私は何もいえないけど、それでも……私は悔しかった!」
レイナーレの激情の籠もった声に湊は圧倒される。
彼女の言葉の端から感じられる想い。それは……。
「もっと私を頼って欲しかった! 身体の事だけじゃなくて心の方でも。私は湊君と結構一緒にいるんだよ。毎日一緒に学校に行ってお昼ご飯を食べて、部活でリアス達とお喋りして。こんなに一緒に居るんだから、もっと信頼して欲しい!だって私は…」
「レイナーレさん!」
そこで湊は待ったを掛ける。
これ以上彼女に言わせてはいけない。
そこから先にあるのは、湊がもっとも『望んでいる答え』。しかし、それを聞いたら湊の心は瓦解する。彼女のことを思いやる気持ちより、自分の心を優先してしまう。
それは彼にとって避けなければならないことだ。
『レイナーレの今後のことを考えれば、その答えはよろしくないのだから』
だからこそ、湊はレイナーレにこう言葉を掛ける。
「僕はいつもレイナーレさんのことを頼ってますよ。ただ、悩んでたのは、その……お、男の子特有の問題っていうか、エッチなことっていうか……」
誤魔化すために普段は言わないような言い訳を口にする湊。彼の頭に過ぎったのは、学校でもある意味有名な兵藤 一誠だったりする。
その言葉を聞いた彼女はどんな反応をするか……きっと恥ずかしがってこんな話題など消し飛ばしてくれる。そう……願いたい。
だが………その願いが叶わない。
「嘘言わないで! 湊君、知ってる? 湊君が嘘ついたり誤魔化したりするとき、良く苦笑しながららしくないことを言うの。全然隠し切れてないよ。ねぇ……今回風邪で倒れたのも、その悩み事が理由なんでしょ。私、知ってるよ……夜遅くまでずっと悩んでたの。だから教えて! その苦しんでる訳を」
すっかり看破されてしまった湊は、それこそどんな顔をして良いのか分からない。
自分の事をこんなにも見てくれている彼女のことを嬉しく思うと共に、それを諫めるべきだとも思う。
そろそろここいらが観念すべきだろうか? いや、そんなことはない。何度でも言うべきだ。
『自分のような役立たずが彼女の足枷になって良い訳が無い』
でも………彼女からヒシヒシと伝わってくる想いがどうしようもなく嬉しくて、
『自分も同じだと答えたい』
その二つがぐるぐると頭を回る。
熱で心細くなっている精神は更に追い詰められていく。
だからこそ、いつもは言わないようなことを更に言った。
「何で……レイナーレさんは僕のことをそんなに気に掛けるの? 僕はただの目が見えない駄目人間で、周りに迷惑しか掛けられないのに。僕のことをそこまで気に掛けるのは嬉しいけど、度が過ぎるとは思わないの! いつもいつもお子様みたいに扱って! 僕だってもう高校生の男だ、それぐらい出来る! ほっといてくれ!」
自分で言っておきながら、後悔しかない。
きっとこの言葉に彼女は心を痛めただろう。そんな思いをさせてしまう自分が許せない。でも、こうでも言わないと彼女は自分から離れてくれない。
だから、ここは心を鬼にして出るべきだ。
なのに……何で………。
湊は見えないのに、分かってしまった。
レイナーレが湊の目を真っ直ぐ見ながら、微笑んでいることが。
「ほっとけないよ。だって湊君が悩んでいるのなら一緒に考えて力になってあげたいもの。それに……私はね……いつでも湊君のこと、考えてる。だって……」
その先はもっとも湊が望み拒んでいたこと言葉。
「私は……あなたのことが好きだから。勿論、友人の好きじゃない。異性として、一人の男の子として、私はあなたのことが……大好きなの。私は恋愛なんてしたことがないから上手に伝える言葉が見つからないけど、それでもこれだけははっきりと言えるわ」
そこで一端言葉を切ったレイナーレは、頬を染めながら人間界に来た中で一番幸せそうな笑みを浮かべて彼に告げた。
「私は……蒼崎 湊君のことが大好きです。異性として、これからもずっと一緒にいたい人として、愛してます。湊君、もう一回言うね……私は湊君のことが……『好きです』」
その言葉を聞いて湊の心は崩れてしまった。
とても聞きたくて一番聞きたく無かったその言葉に、それでも湊は思ってしまうのだ
(嬉しい過ぎて、どうしようもなく幸せで、どうしよう? 彼女から一番聞きたかった言葉を聞いて、心が舞い上がってる。もう無理かもしれないな。だって……僕だって彼女のことが『一番好き』なんだから。今まで生きてきた中で初めて決めた『一番』なんだから)
彼の悩みは見事に打ち砕かれてしまった。