すみません、甘くしようとしたら……
何故かエッチくなってしまいました(笑)
風邪で倒れた湊を優しく運びながら湊と共にクラス部屋に帰ったレイナーレ。
彼女は部屋に戻るなら、湊を急いで布団に寝かせた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「湊君、苦しそう……」
未だに苦しんでいる湊の様子を見て、レイナーレは悲痛そうな顔で悲しむ。
彼女にとって人の病とは未知の物。だからこそ、湊がどれだけ苦しんでいるのか分からない。ただ、見ていて辛くなる。彼の苦しみを少しでも肩代わりできればと、節に願うくらい、彼女にとってこの光景は苦しく辛かった。
だからこそ、少しでもその苦しみを和らげてあげたくて、彼女は行動を起こす。
「と、取りあえず、楽な恰好にして上げないと……」
そう思って湊の姿を改めて見回す。
彼が今着ているのは学園の制服だ。駒王学園の制服は他の学校より少し変わったデザインではあるが、学園としての基本は変わらない。男子はブレザーであり、ネクタイの代わりに黒いリボン、それにワイシャツとスラックスといった構成だ。
レイナーレはまず、聞こえているかは分からないが湊に声をかけた。
「湊君、制服を脱がすからね」
聞く人によっては色々と危うい発言だが、この状況でそんな邪推なことを考える者などいない。
レイナーレは湊の顔を心配そうに見つめながら四苦八苦しつつ、上のブレザーを脱がす。彼女にとって初めての事だった。他人の服を脱がせることなんて、そうそう無いのだから。それも男の服を脱がすなんて、まずないだろう。
脱がせた服を軽く畳んで脇に避けると、今度はワイシャツを脱がそうとした。
しかし、ここで彼女は少しばかり失敗した。
いや、別に湊の病状が悪化するといった真似をしたのではない。
では何をしでかしたのか? それは……湊の姿に見入ってしまったこと。
苦しそうに喘ぐ吐息は熱く、火照った肌が男だというのに妙に艶めかしい。
身体が熱いために掻いた汗がワイシャツに染み、少しばかり透けて肌が見えていた。
そんな湊の姿を見て、レイナーレは自分の身体が熱くなるのを感じ、鼓動が早まっていく。湊の姿から目が離せなくなり、無意識に近い状態で彼のワイシャツに手を触れさせる。その瞳は潤んでおり、彼女の呼吸も少し上がって艶が含まれてきていた。
正直、湊の姿に欲情してしまっていた。
こんな非常事態に何しているんだと突っ込まれるが、決して彼女が悪いとも言い切れない。それというのも、堕天使は魔性の気が強い。要は女なら性的に欲情しやすい。そういう種族としか言いようが無いが、これは異形なら別段特殊なわけではない。サキュバスやラミア、女郎蜘蛛など、異形の女性種はこの手合いが多いのだ。
だからなのか、レイナーレの顔は艶やかな色を見せながら赤くなる。
自分の鼓動が耳に大きく聞こえる中、彼女は湊のワイシャツを脱がそうと動く。
「今、楽にしてあげるからね」
そう言ってボタンに手を掛け外し始めるレイナーレ。
今湊に必要なのは楽な恰好にして上げて少しでも苦しみを和らげてあげることだ。そう頭ではわかっているのに、彼女はまったく違うことを考えてしまう。
(湊君の身体、やっぱり男の子なんだなぁ。細いけど、ちゃんと筋肉が付いてる。何か触ってみたくなる……)
ドキドキとしながら湊の身体に指を合わせるレイナーレ。
その指から伝わる感触は彼女の何かを刺激し、もっと知りたいと感じて更に触っていく。
「くっ………」
湊の口からそんな声が漏れた。どうやらレイナーレの指の感触がムズ痒かったようだ。
普段の彼女ならそれで気付いて慌てて飛び退いただろう。だが、今の彼女はそうではなかった。
湊の声が彼女にはより甘い喘ぎのように聞こえたのだ。だからといってもっと聞きたくなると言うわけでは無いが、彼女はそれを気にせずに湊の身体に更に近づいて行く。
気が付けば湊の胸に自分の胸を押しつけていた。
肌が露出した湊の胸に、制服越しでも充分に大きさが分かるレイナーレの胸がむにゅりと押し潰される。
制服越しとは言え、湊の鼓動がレイナーレの胸に伝わってきた。
湊の首筋に鼻を寄せ、彼の香りをすんすんと嗅いでしまう。そして何かに魅了されたかのように顔をとろけさせていた。
(湊君の鼓動が伝わってくる……それに湊君の香りがして、何だか意識がふやけちゃいそう……ずっとこうしていたい……)
そのまま湊の首筋に顔を埋めてしまうレイナーレ。
普段彼女ならはしたないと恥じらっているところだが、今の彼女は少しばかり暴走していた。
それでも本来の目的は忘れていないらしく、ゆっくりと身体を起こすと湊に妖しげ艶の籠もった声で話しかけた。
「ベルト、苦しいよね……今、緩めてあげる………」
レイナーレはその言葉を言い終わると共に、湊のベルトの方に身体ごと移動する。
そしてベルトの顔を近づけると、そのままベルトを弄り始めた。
これを見ていれば誰でも分かることだが、現在の状況は色んな意味で不味い。レイナーレの顔は湊の股間間近にあり、そんな状態でベルトを緩める…もとい外そうとしているのだから、どう見たってこれから情事に入ろうと脱がしているようにしか見えないのだ。
そんな如何にも『はしたない』ことをしているのに彼女は恥ずかしくないのか? その答えは彼女の頭の中に示されていた。
(どうしよう、私…今、凄くエッチなことしてる。で、でも、これは湊君を少しでも楽な状態にしてあげるためだから、決していかがわしいことじゃない……はず……)
どうにもドピンクに暴走が加速しているようで、今の彼女はいかがわしいことも湊のためならば、と肯定されるらしい。
そのままベルトを緩めていくレイナーレ。室内にはベルトの金具のカチャカチャとした音が妙に響き、レイナーレの耳に染み入っていく。
そして彼女はそのままスラックスに手をかけた。
まぁ、普通はズボンを穿いているよりも下着だけの方が圧迫感は少ない。つまりそういうことだ。彼女はその思考を正当化して、湊のスラックスを下に下げようとした。
しかし、その時……幸いと言うべきか残念と言うべきか、この部屋のインターホンが鳴り響いた。
「っ!?」
いきなり鳴った電子音にそれまで何に魅入られていたかのようだったレイナーレも流石に驚き急いで湊から離れた。
それと共に、それまで自分がやっていたことが正常化した頭で再認識され、あまりのはしたなさに顔が爆発する。
「わ、私、何やってたの!? そんな、こんなはしたないことを……いやぁ…」
羞恥心で己が身を焦がすレイナーレ。
正直今すぐ自殺したい気分に駆られたが、そんなことはするだけ無駄なので急いで来客に応じることにした。
「は、はい!」
『レイナーレ、どうかしたの? 何だか随分と慌てていたようだけど。もしかして蒼崎君に何かあったの?』
インターホンのモニター越しに見えたのは、リアスに朱乃、それに小猫と祐斗であった。祐斗と小猫の手には湊とレイナーレの荷物があり、朱乃の手には此処に向かう最中に薬局に寄ったであろう袋がぶら下がっていた。
それを見たレイナーレはホッとすると同時に、自分の恥ずかしい所を見られないように慌てて佇まいを直し始めた。それまで気付かなかったが、レイナーレの服も少し着崩れていた。
だからなのか、彼女は慌てた様子で扉を開ける。
「ううん、何でも無い。それよりも上がって」
リアスにそう声をかけるレイナーレだが、リアスはその言葉に首を横に振った。
「あまり大人数で来ると蒼崎君が休めないでしょ。だから荷物と…」
「風邪に効くお薬などを買って来ましたわ」
リアスの言葉に同意すると共に朱乃が手に持っていた袋をレイナーレに見せる。
それを見て、レイナーレは目が潤むのを感じた。
あれだけ悪魔だ何だと堕天使は毛嫌ってきたというのに、彼女達はこんなにも助けてくれる。こんなに優しい彼女達をどうして嫌うことが出来ようか。
彼女はリアス達に心底感謝し、再び泣きそうになる。
その様子を見たリアスは優しい笑みを浮かべながらレイナーレを抱きしめた。
「もう、こんなことで一々泣くんじゃないの。まだ蒼崎君の看病があるんだから、それは彼が治ってからにしなさい」
「ご、ごめん……」
優しく抱き留められ、レイナーレは恥ずかしがりながら謝る。
それもそうだと思ったし、何より今は湊の方が重要だ。
だからこそ、彼女はリアス達から荷物と薬を受け取り感謝の言葉を言った。
「ありがとう、みんな……本当にありがとう」
その言葉にリアスは優しく微笑むも苦笑してしまう。
「本来なら堕天使なんて、て言うべき何だろうけど……アナタみたいな一生懸命な女の子なら、寧ろ助けてあげたいもの。だからこれからの蒼崎君の看病、頑張って」
「うん、頑張るわ!」
その言葉を聞いて、リアス達は満足そうに笑うと帰って行った。
そしてレイナーレは荷物を下ろすと、受け取った袋の中に入っていた冷却シートを取り出し、説明書きを慎重に読んで指示書の通りに湊の額に貼り付けた。
そしてレイナーレは部屋の周りを注意深く探り、誰もいないことを確認し終えると共に、湊の顔に顔を近づけていく。
顔はこれからするであろうことに真っ赤になり、心臓が早鐘を打つ。
しかし、今の彼女は出来ると思い行動に移した。
「湊君………ちゅ……」
レイナーレの瑞々しい唇が湊の額に触れていた。
彼女は湊の額の熱と汗の塩分を唇から感じ取り、湊以上に身体が熱くなっていく。
そしてほんの少しの時間そうしていたレイナーレは、真っ赤になった顔を離すと共に熱の籠もった声で湊に優しく語りかけた。
「早く良くなってね、湊君……」
そして彼女はこの後朱乃から受け取った薬の注意書きを読むのだが、さっき自分がした『額にチュー』を思い出してまったく内容が頭に入らなかった。